声劇台本 based on 落語 「つる」
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
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<登場人物> <配役>
【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
八五郎:ご隠居さん、こんちはァ。 ご隠居:おお、誰かと思ったら 八五郎:え? ご隠居:まぁまぁ お上がりよ。 八五郎:あ、こりゃどうも、ごちそうさまです。 ご隠居:なんだい、その 「ごちそうさまです」ってのは。 八五郎:だって ご隠居さん 今、
ご隠居:「まんま お上がり」じゃないよ。
八五郎:ああ、「まあまあ お上がり」スか。
ご隠居:出ないよ。 八五郎:あ、そうスか……。
ご隠居:ちょちょちょ、お待ちよ!
八五郎:そうスねえ、まぁ、
ご隠居:うむ。
八五郎:ああ、こりゃどうも。
ご隠居:お茶の 八五郎:
(あまり嬉しそうでもない)
ご隠居:なんだい八っつぁん、 八五郎:いやもう、あれ 3本も食ったら 胸が悪くなっちまうからねェ。 ご隠居:誰が そんなに食べさせるんだよ。
ご隠居:お待たせ。さ、お上がり。 八五郎:あ、こりゃどうも。
ご隠居:包丁だよ。 八五郎:包丁で!?
ご隠居:うるさいねぇ。
八五郎:イヤイヤ いただきますよ。
ご隠居:わかったよ!悪かったよ、薄く切り過ぎて!
八五郎:ああ、そうそう。
ご隠居:ほう、 八五郎:そうなんスよ。
ご隠居:ほう、私の 八五郎:ええ、そうッス。 ご隠居:そうッスじゃないよ。
八五郎:いや~……、これ言ったら、
ご隠居:別に 怒りゃしないよ。
八五郎:そうスか?
ご隠居:悪口にしては ずいぶん 丁寧だねぇ。 八五郎:いやホントは もう少し 口は悪かったんスけどね、
ご隠居:別に気なんぞ 八五郎:そうスか?
ご隠居:ずいぶん ひどい 言い方だね。
八五郎:「この ご隠居:何だい、その 「知れねえ知れねえ」ってのは。 八五郎:え?ですからね――、
ご隠居:おいおい。誰が 泥棒だよ。
八五郎:冗談言っちゃ いけませんや。
ご隠居:おいおいおいおい!
八五郎:え?まだ 現役だったんスか? ご隠居:そうじゃないよ!
八五郎:あ!でもね、中にゃ ご隠居さんのこと
ご隠居:ほぉ……?
八五郎:「あの人はな、この町内には なくては ならねぇ人だ。
ご隠居:何 言ってんだい。
八五郎:え?「 ご隠居: 八五郎:はぁ~なるほどねぇ。
ご隠居:ほう、なんだい? 八五郎:さっき行った ご隠居:おお、いかにも。
八五郎:へぇ。
ご隠居:うむ。いい質問だな。
八五郎:はァ~なるほどねぇ……。
ご隠居:いいところに気が付いたな。
八五郎:へぇ、首が ご隠居:え? 八五郎:いや、首が ご隠居:(そんなこと よく知らない)
八五郎:どんなワケなんスか? ご隠居:それは……、
八五郎:いやいや、今 教えてくださいよ。 ご隠居:今は……、
八五郎:いや忙しくないでしょ。
ご隠居:し、知ってるよ! 八五郎:じゃ 教えてくれたって いいじゃねえスか。 ご隠居:わ、わかったよ……。
八五郎:難しくても いいスよ、がんばって 聞きますから。
ご隠居:その……
八五郎:ええ。 ご隠居:昔のことだ。 八五郎:ええ。 ご隠居:昔、ひとりの老人が、浜辺に立って、
八五郎:ええ。 ご隠居:――と、 八五郎:ええ、 ご隠居: 八五郎:なんすか?その「もろこし」ってのは。 ご隠居: 八五郎:あ、そうすか。
ご隠居:(それも よく知らない)
八五郎:はァ~ なるほどねぇ。 ご隠居:ま、とにかく、 八五郎:ええ。 ご隠居:まず最初に、くびながどりの オスが 1羽、
八五郎:ええ。 ご隠居:あとから メスが
八五郎:…………え? ご隠居:いや 分からないかい?
八五郎:ええ。 ご隠居:あとから メスが
八五郎:…………はい? ご隠居:おまえさん 聞いてないのかい?
八五郎:いやいや 老人は もう いいんスよ。
ご隠居:なんだい もう……。
八五郎:ええ。 ご隠居:まず最初に くびながどりの オスが1羽、
八五郎:……あァ~~~なるほど!
ご隠居:オイオイ ちょいと 待ちなよ。
八五郎:決まってんじゃねえスか!
ご隠居:オイ、ちょいと待ちな! オーイ!
八五郎:(町を歩きながら)
タケ:ん?
八五郎:うるせぇよ。
タケ:え?
八五郎:そうだよ。 タケ:んなもん おめぇ、子供でも 知ってんだろ。 八五郎:いや 鶴は 誰でも知ってるよ。
タケ:ああ、首が 八五郎:そうそう。
タケ:別に 聞きたか ねえよ。 八五郎:え? タケ:別に 聞きたかねえよ。 八五郎:いや、「くびながどり」が
タケ:知らねえよ。 八五郎:いや、だから、聞きてえだろ? タケ:別に 聞きたくねえってんだよ。
八五郎:ぐ……!
タケ:面倒なヤツだな オイ……。
八五郎:ヨーシ、じゃ 教えてやらぁ。
タケ:そりゃ さっき 聞いたよ。 八五郎:それが どういうワケで
タケ:ほぉん。 八五郎:と、もろこしの 方角から――
タケ:ふぅん。 八五郎:あとから メスが――――
タケ:何しに来たんだ アイツ……。 八五郎:(町を歩きながら)
ご隠居:もう どこかで 八五郎:お茶も ご隠居:(ため息)もう1回だけだよ……?
八五郎:イヤ そこは わかってんスよ。
ご隠居:注文が うるさいねぇ……。
八五郎:ええ。 ご隠居:まず最初に くびながどりの オスが1羽――、 八五郎:ふむふむ、オスが1羽? ご隠居:「つ~~~~~」
八五郎:ふむふむ。 ご隠居:あとから メスが、
八五郎:それだ……!それだよ!
ご隠居:オイ もう やめときなってのに!
八五郎:オーウ、タケぇ!
タケ:また来たよ オイ……。
八五郎:あれ 昔は 「くびながどり」っ つってたんだ。 タケ:だから そりゃ さっき 聞いたよ。 八五郎:それが どういうワケで
タケ:ほぉ。 八五郎:あとからメスが――――
タケ:戻っちゃったよ。 八五郎:ちょ、ちょっと 待ってくれ。
タケ:泣いてるよオイ。
八五郎:ちょ、ちょっと待ってくれ。
タケ:おい、メスは一体 どうしたってんだよ! 八五郎:黙って 飛んで来た……。 おわり
・
町内の間抜け男。通称「はっつぁん」
・ご隠居(セリフ数:62)
町内の物知り隠居。知ったかぶりをすることも。
・タケ(セリフ数:19)
八五郎の友人。
・八五郎:♂
・ご隠居/タケ:♂
唐土(もろこし)
むかし、中国を指して読んだ語。
まぁまぁ お上がり。
「まんま お上がり」って。
「まあまあ お上がり」と言ったんだよ。
するってぇと 何スか、
おまんまは 出ねえんスか?
さいなら。
おまんまが出ないからって、帰ることは ないだろ?
せっかく来たんだ、上がって お行きよ。
お茶でも
ご隠居さんとこの お茶は
じゃ遠慮なく お邪魔しやす。
じゃあ お茶 持って来るから、まぁお座り。
ほら、遠慮なく
ところで、お茶の
「お茶うけ」と言うんだよ。
そうだねぇ、
ああ……、
相変わらず おもしろい人だねぇ。
ま、ちょっと待っといで。
(羊羹を見て)
うわァ~、
こりゃまた、ずいぶん 薄く切ったもんスねぇ!
向こうが 透けて 見えてるじゃねえスか!
ご隠居さん、これ、
包丁で?
カンナで 削ったんじゃなくて!?
あなた 名人だね。
いらないなら 私が食べるよ。
ただ あんまり薄く 切ってあるもんだから、すごいなぁと思ってね。
じゃ、いただきやす。
(羊羹をひときれ口に放り込む)
おお!口に入れたら トロ~っと とろけるね!
(2、3回咀嚼)
あ、もう なくなっちゃった。
まだ
ところで、今日はどうしたんだい?
いやね、あっし 今、
それじゃ何かい、若いもんが 集まって
ワイワイ
色んな話が出た
まぁ「
あんまり
お前さんたちの事だ、どうせ 私の悪口でも 言ってたんじゃないのかい?
私は
いったい 何て言ってたんだい?
ご隠居さん 怒るから……。
言ってごらんよ。
じゃ言いますけどね?
え~
「この
あの ご隠居さんという お方は」……。
本人の前なんで 気ぃ
お前さんが 聞いてきたとおりに 言ってごらんよ。
じゃ言いますけどね。
え~、
「この
あの いけ好かねえ スケベじじいは」……。
それで?あの いけ好かねえ スケベじじいは?
毎日 仕事もしねぇで ブラブラしてやがるくせに、
いい着物 着て うまいもん食って 暮らしてやがるところを見ると、
こりゃあ――――、知れねえぞ」
と 1人が言ったらね、みんなも、
「あぁ、知れねえ、知れねえ」っつってね。
「泥棒かも知れねえ」
お前さん ウチに
そんな ひどい事、お前さん 黙って 聞いてたのかい?
あっしだって おもしろくねえよ、
ご隠居さんのこと そんなふうに言われて。
だから 言ってやったんスよ。
「オウ おめえら 何てこと 言うんだ!
あのご隠居が 泥棒だぁ?
ふざけたこと 言ってんじゃねえ!
ご隠居はな――――、
もう 足 洗ったんだ」
そんなこと言ったのかい?
冗談じゃないよ。
私ゃ泥棒なんて したことないよ。
まったく ひどい
いや
どう言ってたんだい?
日頃はともかく、いざ何か 起こった時、
俺たちには あの人が頼りなんだ。
あの人は、この町内の 生き地獄だ!」
ご隠居さんて、生き地獄だったんスか?
そりゃお前さん、「
世の中の ありとあらゆる事が 書いてある。
まぁ私が 色んなことを 知っているというので、
たしかに ご隠居さん、色んな事 よく知ってるもんねぇ。
あ、そうだ!
その物知りの ご隠居さんにね、
で、そこに、鶴の絵が
そしたら トメの野郎が それ見て、
「いいかオメエら、鶴ってぇのはな、
ってな事を 言いやがって。
ご隠居さん、鶴ってのは
鶴は
でね、トメに
「どういうワケで、鶴は
って
あの野郎、どういうワケで
だから あっしは、それを ご隠居さんに
どういうワケで、鶴は
いいかい?
鶴という鳥は、全身が 真っ白で、
尾は 黒いツヤツヤとした毛で おおわれ、
頭には 「
また スラっと 背が高い。
いったん メス オスの
他の者には 見向きも しないという、
まことに
ま、そのあたりをもって、
けど ご隠居さん、アイツら ちょいと、
首が 長すぎねえスか?
たしかに鶴は 首が長い。
だから昔は、あれを 「くびながどり」と呼んでたんだな。
分かりやすいじゃねえスか。
それで 分かりやすいのに、
どういうワケで
「つる」なんて 妙な名前に なったんスか?
それで いいじゃねえスか。わかりやすいんだから。
どうして 「つる」なんて 妙な名前に なったんスか?
ああ……。
えーと……、
それにはねぇ……、
まあ……、ワケがある。
えーと……
また今度 教えてあげよう。
忙しい。
だいたい ご隠居さんが
「上がって 茶ァ飲んでけ」って言ったんじゃねえスか。
あ!
さては ご隠居さん、知らねえんだな?
教えてやっても いいけどね……。
これ、ちょいと お前さんには 難しいと思うよ……?
どういうワケで 「くびながどり」が 「つる」に 変わったんスか?
「くびながどり」が どうして「つる」に 変わったのかと言うとな――、
はるかな
なんで「もろこし」って 言ったんスか?
それは……、
(適当に出まかせを言う)
もろもろの物を、
「つ~~~~~」
っと 飛んできて、
浜辺の松に ヒョイと とまった。
「る~~~~~」
っと 飛んできたから、
「つる」だな。
昔 ひとりの老人が 浜辺に立って
はるかな
と、
まず最初に くびながどりの オスが1羽
「つ~~~~~」
っと 飛んできて、
浜辺の松に ヒョイと とまった。
「る~~~~~」
っと 飛んできたから、
「つる」だな。
昔 ひとりの老人が 浜辺に 立って――
その、なんで「つる」になったか、
そっから やってくだせえ。
だから、
「つ~~~~~!」
っと 飛んできて、
浜辺の松に ヒョイととまった。
あとから メスが、
「る~~~~~!」
っと 飛んできたから、
「つ」・「る」!
だろ?
それで、「つ」・「る」!
いや~ こりゃあ 知らなかったなぁ。
なるほど なるほど。
イヤ さすがは ご隠居さんだ、
物を よく知ってらぁ。
じゃ、あっしは これで。
どこ 行くんだい?
これから 町内 まわって、
皆に 鶴の
さいならー!
(八五郎は行ってしまう)
…………
あんな いい加減な話 信じて行っちゃったよ……。
(ウキウキ)
イヤ~ いいこと 聞いたなぁ。
さぁ~て、これ どこ行って
あ、そうだ タケ!
タケんとこ 行ってやろ!
あの野郎、いつも 俺のこと 馬鹿にしてやがるからなぁ、
こっちが 鶴の
ビックリすんじゃねえか?こりゃいいや。
(タケの家に着く)
ああ、ここだ ここだ。
オーウ、タケぇ! いるかい?
おう、誰かと思ったら
どうだい この頃。
頭の調子は。
そうやって俺のこと バカにしてられんのも 今のうちだからな。
おう、オメエ、鶴 知ってるか?鶴。
鶴って……、鳥の 鶴か?
けどな、あれ 昔は「つる」とは 言わなかったんだぜ。
「くびながどり」っつったんだよ。
それが どういうワケで「つる」になったか、
オメエ 聞きてえだろ?
どういうワケで 「つる」になったか、
オメエ 知ってんの?
今日は 仕事が
オメエの相手してるヒマなんざ ねぇんだよ。
オメエが 聞きたくねえと言ってもなぁ、
オレぁ 無理矢理 聞かせるぜ?
(ため息)わかったよ、聞いてやるから、
あのな、あれは 昔、「くびながどり」と 言ってたんだ。
「つる」に変わったかと いうとな――
(咳払い)
昔、ひとりの老人が、浜辺に立って、
はるかな
「と、もろこし」ったってオメェ、
海の向こうの、
まず最初に くびながどりの オスが 1羽、
「
っと飛んできて、
浜辺の松に ヒョイと とまった。
(続きが出なくて絶句)
………………
さいなら。
あれぇ?おっかしいなぁ……。
途中までは 上手い具合に いってたんだけど……。
どこで 間違えたんだ……?
(ご隠居さんの家に着く)
ご隠居さーん!
あれ、どういうワケで 「つる」になったんでしたっけー?
あのねえ、そんなことは もう いいじゃないか。
また お茶
どういうワケで 「つる」になったのか、もう1回だけ!
昔 ひとりの 老人が――
なんで「つる」って言うようになったか、その
だから、
っと 飛んできて、
浜辺の松に ヒョイと とまった。
「る~~~~~」
っと 飛んで来たから、
「つる」だよ。
どうも ありがと ご隠居!さいならー!
(八五郎は行ってしまう)
(ため息)行っちゃったよ……。
あの鳥、昔は 「つる」とは 言わなかったんだ!
今日は 仕事ン ならねぇな……。
「つる」に変わったかと 言うとだよ?
(咳払い)
昔、ひとりの老人が、浜辺に立って、
はるかな
と、
まず最初に くびながどりの オスが 1羽……、
タケ、ここ、大事なとこだから、
ちょいと 仕事の手 止めて 聞いてくれ。いいかい?
まず最初に くびながどりの オスが 1羽、
「つ~~~~~」
(得意げに)
どうだい?
さっきのと ちょっと 違うだろォ?
「つ~~~~~」
っと 飛んできて、
浜辺の松に 「
あれ?
えーと……
む、昔は 「つる」とは 言わなかったんだ……。
あれぇ?おかしいなぁ、
こんなはずじゃねぇんだけど……。
(ひとりで確認するように)
えーと、昔 ひとりの老人が 浜辺に立って はるかな
と、
うん、ここは これで 間違いねえんだよ。
「つ~~~~~」っと飛んできて、浜辺の松に 「る」っと とまったんだよ。
あとから メスが…………。
…………
(涙声で)
昔は 「つる」とは 言わなかったんだ……。
なにも 泣くこたぁ ねえだろ。
こんなハズじゃ ねえんだよ……。
まず最初に くびながどりの オスが 1羽
「つ~~~~~」っと 飛んできて
浜辺の松に 「る」っと とまって、
あとから メスが……、
あとから メスが……
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
桂吉朝
三遊亭王楽
桃月庵白酒(3代目)
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp