声劇台本 based on 落語

「つる」


 原 作:古典落語『つる』
 台本化:くらしあんしん


  上演時間:約20分


【書き起こし人 註】

古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。

アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。



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<登場人物>

八五郎はちごろう(セリフ数:81)
 町内の間抜け男。通称「はっつぁん」


・ご隠居(セリフ数:62)
 町内の物知り隠居。知ったかぶりをすることも。


・タケ(セリフ数:19)
 八五郎の友人。




<配役>

・八五郎:♂

ご隠居タケ:♂




【ちょっと難しい言葉】

唐土(もろこし)
むかし、中国を指して読んだ語。




ここから本編




八五郎:ご隠居さん、こんちはァ。

ご隠居:おお、誰かと思ったら っつぁんじゃないか。
    まぁまぁ お上がり。

八五郎:え?

ご隠居:まぁまぁ お上がりよ。

八五郎:あ、こりゃどうも、ごちそうさまです。

ご隠居:なんだい、その 「ごちそうさまです」ってのは。

八五郎:だって ご隠居さん 今、
    「まんま お上がり」って。

ご隠居:「まんま お上がり」じゃないよ。
    「まあまあ お上がり」と言ったんだよ。

八五郎:ああ、「まあまあ お上がり」スか。
    
    するってぇと 何スか、
    おまんまは 出ねえんスか?

ご隠居:出ないよ。

八五郎:あ、そうスか……。
    
    
    さいなら。

ご隠居:ちょちょちょ、お待ちよ!
    おまんまが出ないからって、帰ることは ないだろ?
    
    せっかく来たんだ、上がって お行きよ。
    お茶でも れてやるから。

八五郎:そうスねえ、まぁ、
    ご隠居さんとこの お茶は 美味うまいスからねぇ。
    
    じゃ遠慮なく お邪魔しやす。

ご隠居:うむ。
    
    じゃあ お茶 持って来るから、まぁお座り。
    ほら、遠慮なく 座布ざぶとんも 当てて。

八五郎:ああ、こりゃどうも。
    
    ところで、お茶の さかなは 何スかね?

ご隠居:お茶の さかなてぇヤツがあるかい。
    「お茶うけ」と言うんだよ。
    
    そうだねぇ、羊羹ようかんでも切ろうか。

八五郎: (あまり嬉しそうでもない)
    ああ……、羊羹ようかんねえ……。

ご隠居:なんだい八っつぁん、羊羹ようかん 嫌いかい?

八五郎:いやもう、あれ 3本も食ったら 胸が悪くなっちまうからねェ。

ご隠居:誰が そんなに食べさせるんだよ。
    相変わらず おもしろい人だねぇ。
    
    ま、ちょっと待っといで。

 


 

ご隠居:お待たせ。さ、お上がり。

八五郎:あ、こりゃどうも。
    
    (羊羹を見て)
    うわァ~、
    
    こりゃまた、ずいぶん 薄く切ったもんスねぇ!
    向こうが 透けて 見えてるじゃねえスか!
    
    ご隠居さん、これ、なにで切ったんスか?
    包丁で?

ご隠居:包丁だよ。

八五郎:包丁で!?
    カンナで 削ったんじゃなくて!?
    
    あなた 名人だね。

ご隠居:うるさいねぇ。
    いらないなら 私が食べるよ。

八五郎:イヤイヤ いただきますよ。
    ただ あんまり薄く 切ってあるもんだから、すごいなぁと思ってね。
    
    じゃ、いただきやす。
    
    (羊羹をひときれ口に放り込む)
    おお!口に入れたら トロ~っと とろけるね!
    
    (2、3回咀嚼)
    あ、もう なくなっちゃった。

ご隠居:わかったよ!悪かったよ、薄く切り過ぎて!
    まだ なんれも あるんだから、たくさん 食べれば いいだろ?
    
    ところで、今日はどうしたんだい?

八五郎:ああ、そうそう。
    
    いやね、あっし 今、とこに 行って来たんスよ。

ご隠居:ほう、とこひとしょだな。
    
    それじゃ何かい、若いもんが 集まって
    ワイワイ 駄弁だべって来たのかい?

八五郎:そうなんスよ。
    
    仲間内なかまうちで くだらねえ話を してたんスけどね、
    色んな話が出たすえに、ご隠居さんのうわさも出ましたよ。

ご隠居:ほう、私のうわさ
    
    まぁ「うわさ」という字は 口偏くちへんに「たっとぶ」と書くが、
    あんまり たっとぶような事は 聞かないねぇ。
    
    お前さんたちの事だ、どうせ 私の悪口でも 言ってたんじゃないのかい?

八五郎:ええ、そうッス。

ご隠居:そうッスじゃないよ。
    私は 他人ひとさまに 悪く言われる覚えなんてないよ。
    
    いったい 何て言ってたんだい?

八五郎:いや~……、これ言ったら、
    ご隠居さん 怒るから……。

ご隠居:別に 怒りゃしないよ。
    言ってごらんよ。

八五郎:そうスか?
    
    じゃ言いますけどね?
    
    え~
    「この横丁よこちょうに 住んでいらっしゃる、
     あの ご隠居さんという お方は」……。

ご隠居:悪口にしては ずいぶん 丁寧だねぇ。

八五郎:いやホントは もう少し 口は悪かったんスけどね、
    本人の前なんで 気ぃ つかったんスよ。

ご隠居:別に気なんぞ つかわなくたっていいよ。
    お前さんが 聞いてきたとおりに 言ってごらんよ。

八五郎:そうスか?
    じゃ言いますけどね。
    
    え~、
    
    「この横丁よこちょうに トグロ巻いてやがる、
     あの いけ好かねえ スケベじじいは」……。

ご隠居:ずいぶん ひどい 言い方だね。
    
    それで?あの いけ好かねえ スケベじじいは?

八五郎:「この世知せちがれぇ世の中に、
     毎日 仕事もしねぇで ブラブラしてやがるくせに、
     いい着物 着て うまいもん食って 暮らしてやがるところを見ると、
     こりゃあ――――、知れねえぞ」
    
    と 1人が言ったらね、みんなも、
    「あぁ、知れねえ、知れねえ」っつってね。

ご隠居:何だい、その 「知れねえ知れねえ」ってのは。

八五郎:え?ですからね――
    
    「泥棒かも知れねえ」

ご隠居:おいおい。誰が 泥棒だよ。
    お前さん ウチに じゅう 出入りしてるんだから、よく知ってるだろ。
    
    そんな ひどい事、お前さん 黙って 聞いてたのかい?

八五郎:冗談言っちゃ いけませんや。
    あっしだって おもしろくねえよ、
    ご隠居さんのこと そんなふうに言われて。
    だから 言ってやったんスよ。
    
    「オウ おめえら 何てこと 言うんだ!
     あのご隠居が 泥棒だぁ?
     ふざけたこと 言ってんじゃねえ!
     ご隠居はな――――
    
     もう 足 洗ったんだ」

ご隠居:おいおいおいおい!
    そんなこと言ったのかい?
    冗談じゃないよ。

八五郎:え?まだ 現役だったんスか?

ご隠居:そうじゃないよ!
    私ゃ泥棒なんて したことないよ。
    
    まったく ひどいうわさを 立てるねぇ……。

八五郎:あ!でもね、中にゃ ご隠居さんのこと
    めてる野郎も いたんスよ?

ご隠居:ほぉ……?
    
    いや められると また照れくさいが……。
    
    どう言ってたんだい?

八五郎:「あの人はな、この町内には なくては ならねぇ人だ。
     日頃はともかく、いざ何か 起こった時、
     俺たちには あの人が頼りなんだ。
    
     あの人は、この町内の 生き地獄だ!」
    
    
    ご隠居さんて、生き地獄だったんスか?

ご隠居:何 言ってんだい。
    
    そりゃお前さん、字引じびき」と おっしゃったんだろう。

八五郎:え?「字引じびき」って何スか?

ご隠居字引じびきという書物しょもつには、
    世の中の ありとあらゆる事が 書いてある。
    
    まぁ私が 色んなことを 知っているというので、
    きた字引じびき、字引じびきだと おっしゃったんだろう。

八五郎:はぁ~なるほどねぇ。
    たしかに ご隠居さん、色んな事 よく知ってるもんねぇ。
    
    あ、そうだ!
    その物知りの ご隠居さんにね、きてえ事が あったんスよ!

ご隠居:ほう、なんだい?

八五郎:さっき行った とこの壁にね、じくかってまして。
    で、そこに、鶴の絵が いてあったんスよ。
    そしたら トメの野郎が それ見て、
    
    「いいかオメエら、鶴ってぇのはな、日本にっぽん名鳥めいちょうなんだぜ」
    
    ってな事を 言いやがって。
    
    
    ご隠居さん、鶴ってのは 日本にっぽん名鳥めいちょうなんスか?

ご隠居:おお、いかにも。
    鶴は 日本にっぽん名鳥めいちょうだな。

八五郎:へぇ。
    
    でね、トメに
    「どういうワケで、鶴は 日本にっぽん名鳥めいちょうなんだい?」
    っていたんスけどね、
    あの野郎、どういうワケで 名鳥めいちょうなんだか 知らねえってんスよ。
    
    だから あっしは、それを ご隠居さんに こうと思って 来たんスよ。
    
    どういうワケで、鶴は 日本にっぽん名鳥めいちょうなんスか?

ご隠居:うむ。いい質問だな。
    
    いいかい?
    鶴という鳥は、全身が 真っ白で、
    尾は 黒いツヤツヤとした毛で おおわれ、
    頭には 「丹頂たんちょう」という 赤いものを いただき、
    また スラっと 背が高い。
    
    姿形すがたかたちが まことに 美しいうえに、
    いったん メス オスの つがい・・・が 定まると、
    他の者には 見向きも しないという、
    まことにみさおの 正しい鳥なんだ。
    
    ま、そのあたりをもって、日本にっぽん名鳥めいちょうと言われるんだな。

八五郎:はァ~なるほどねぇ……。
    
    けど ご隠居さん、アイツら ちょいと、
    首が 長すぎねえスか?

ご隠居:いいところに気が付いたな。
    たしかに鶴は 首が長い。
    
    だから昔は、あれを 「くびながどり」と呼んでたんだな。

八五郎:へぇ、首がなげぇから「くびながどり」。
    
    分かりやすいじゃねえスか。
    
    それで 分かりやすいのに、
    どういうワケで
    「つる」なんて 妙な名前に なったんスか?

ご隠居:え?

八五郎:いや、首がなげぇから「くびながどり」。
    それで いいじゃねえスか。わかりやすいんだから。
    
    どうして 「つる」なんて 妙な名前に なったんスか?

ご隠居(そんなこと よく知らない)
    ああ……。
    
    えーと……、
    
    それにはねぇ……、
    
    
    まあ……、ワケがある。

八五郎:どんなワケなんスか?

ご隠居:それは……、
    
    えーと……
    
    
    また今度 教えてあげよう。

八五郎:いやいや、今 教えてくださいよ。

ご隠居:今は……、
    
    
    忙しい。

八五郎:いや忙しくないでしょ。
    
    だいたい ご隠居さんが
    「上がって 茶ァ飲んでけ」って言ったんじゃねえスか。
    
    
    あ!
    
    さては ご隠居さん、知らねえんだな?

ご隠居:し、知ってるよ!

八五郎:じゃ 教えてくれたって いいじゃねえスか。

ご隠居:わ、わかったよ……。
    
    教えてやっても いいけどね……。
    これ、ちょいと お前さんには 難しいと思うよ……?

八五郎:難しくても いいスよ、がんばって 聞きますから。
    
    どういうワケで 「くびながどり」が 「つる」に 変わったんスか?

ご隠居:その……
    
    「くびながどり」が どうして「つる」に 変わったのかと言うとな――

八五郎:ええ。

ご隠居:昔のことだ。

八五郎:ええ。

ご隠居:昔、ひとりの老人が、浜辺に立って、
    はるかな 沖合おきあいを 眺めていた。

八五郎:ええ。

ご隠居――と、唐土もろこしの 方角から、

八五郎:ええ、ものしの 方角から。

ご隠居ものしじゃないよ。唐土もろこしだ。

八五郎:なんすか?その「もろこし」ってのは。

ご隠居唐土もろこしというのは、昔の 中国のことだ。

八五郎:あ、そうすか。
    
    なんで「もろこし」って 言ったんスか?

ご隠居(それも よく知らない)
    それは……、
    
    (適当に出まかせを言う)
    もろもろの物を、日本にっぽんおこしたから、「もろこし」だな。

八五郎:はァ~ なるほどねぇ。

ご隠居:ま、とにかく、唐土もろこしの 方角から。

八五郎:ええ。

ご隠居:まず最初に、くびながどりの オスが 1羽、
    
    「つ~~~~~」
    
    っと 飛んできて、
    
    浜辺の松に ヒョイと とまった。

八五郎:ええ。

ご隠居:あとから メスが
    
    「る~~~~~」
    
    っと 飛んできたから、
    
    「つる」だな。

八五郎:…………え?

ご隠居:いや 分からないかい?
    
    昔 ひとりの老人が 浜辺に立って
    はるかな 沖合おきあいを眺めていた。
    と、唐土もろこしの方角から、
    まず最初に くびながどりの オスが1羽
    「つ~~~~~」
    っと 飛んできて、
    浜辺の松に ヒョイと とまった。

八五郎:ええ。

ご隠居:あとから メスが
    「る~~~~~」
    っと 飛んできたから、
    
    「つる」だな。

八五郎:…………はい?

ご隠居:おまえさん 聞いてないのかい?
    昔 ひとりの老人が 浜辺に 立って――

八五郎:いやいや 老人は もう いいんスよ。
    その、なんで「つる」になったか、
    そっから やってくだせえ。

ご隠居:なんだい もう……。
    
    だから、唐土もろこしの方角から。

八五郎:ええ。

ご隠居:まず最初に くびながどりの オスが1羽、
    
    「つ~~~~~!」
    
    っと 飛んできて、
    浜辺の松に ヒョイととまった。
    
    あとから メスが、
    
    「る~~~~~!」
    
    っと 飛んできたから、
    
    「つ」「る」
    
    だろ?

八五郎:……あァ~~~なるほど!
    それで、「つ」・「る」!
    
    いや~ こりゃあ 知らなかったなぁ。
    なるほど なるほど。
    イヤ さすがは ご隠居さんだ、
    物を よく知ってらぁ。
    
    じゃ、あっしは これで。

ご隠居:オイオイ ちょいと 待ちなよ。
    どこ 行くんだい?

八五郎:決まってんじゃねえスか!
    これから 町内 まわって、
    皆に 鶴のらい 聞かしてやるんスよ!
    
    さいならー!

ご隠居:オイ、ちょいと待ちな! オーイ!
    
    (八五郎は行ってしまう)
    
    
    …………
    
    
    あんな いい加減な話 信じて行っちゃったよ……。

 


 

八五郎:(町を歩きながら)
    (ウキウキ)
    イヤ~ いいこと 聞いたなぁ。
    さぁ~て、これ どこ行って しゃべってやろうかなぁ。
    
    
    あ、そうだ タケ!
    タケんとこ 行ってやろ!
    
    あの野郎、いつも 俺のこと 馬鹿にしてやがるからなぁ、
    こっちが 鶴のらいなんざ 教えてやった日にゃあ、
    ビックリすんじゃねえか?こりゃいいや。
    
 
    (タケの家に着く)   
    ああ、ここだ ここだ。
    オーウ、タケぇ! いるかい?

 タケ:ん?
    
    おう、誰かと思ったら ハチじゃねえか。
    
    どうだい この頃。
    
    頭の調子は。

八五郎:うるせぇよ。
    
    そうやって俺のこと バカにしてられんのも 今のうちだからな。
    
    
    おう、オメエ、鶴 知ってるか?鶴。

 タケ:え?
    
    鶴って……、鳥の 鶴か?

八五郎:そうだよ。

 タケ:んなもん おめぇ、子供でも 知ってんだろ。

八五郎:いや 鶴は 誰でも知ってるよ。
    
    けどな、あれ 昔は「つる」とは 言わなかったんだぜ。
    「くびながどり」っつったんだよ。

 タケ:ああ、首がなげぇからか?

八五郎:そうそう。
    
    それが どういうワケで「つる」になったか、
    オメエ 聞きてえだろ?

 タケ:別に 聞きたか ねえよ。

八五郎:え?

 タケ:別に 聞きたかねえよ。

八五郎:いや、「くびながどり」が
    どういうワケで 「つる」になったか、
    オメエ 知ってんの?

 タケ:知らねえよ。

八五郎:いや、だから、聞きてえだろ?

 タケ:別に 聞きたくねえってんだよ。
    
    今日は 仕事が まってんだ。
    オメエの相手してるヒマなんざ ねぇんだよ。
    けえんな。

八五郎:ぐ……!
    
    オメエが 聞きたくねえと言ってもなぁ、
    オレぁ 無理矢理 聞かせるぜ?

 タケ:面倒なヤツだな オイ……。
    
    (ため息)わかったよ、聞いてやるから、
    みじかにしてくれよ。

八五郎:ヨーシ、じゃ 教えてやらぁ。
    
    あのな、あれは 昔、「くびながどり」と 言ってたんだ。

 タケ:そりゃ さっき 聞いたよ。

八五郎:それが どういうワケで
    「つる」に変わったかと いうとな――
    
    
    (咳払い)
    昔、ひとりの老人が、浜辺に立って、
    はるかな 沖合おきあいを眺めていた。

 タケ:ほぉん。

八五郎:と、もろこしの 方角から――
    「と、もろこし」ったってオメェ、
    みせで焼いてるやつじゃねえよ?
    
    海の向こうの、唐土もろこしの方角から、
    まず最初に くびながどりの オスが 1羽、
    
    つる・・~~~~~」
    
    っと飛んできて、
    浜辺の松に ヒョイと とまった。

 タケ:ふぅん。

八五郎:あとから メスが――――
    (続きが出なくて絶句)
    
    ………………
    
    さいなら。

 タケ:何しに来たんだ アイツ……。

 


 

八五郎:(町を歩きながら)
    あれぇ?おっかしいなぁ……。
    途中までは 上手い具合に いってたんだけど……。
    どこで 間違えたんだ……?
    
    (ご隠居さんの家に着く)
    ご隠居さーん!
    あれ、どういうワケで 「つる」になったんでしたっけー?

ご隠居:もう どこかで しゃべって来ちまったのかい……!?
    迂闊うかつに 冗談も 言えやしないねぇ……。
    
    あのねえ、そんなことは もう いいじゃないか。
    また お茶 れてやるから……

八五郎:お茶も羊羹ようかんも いいんスよ。
    どういうワケで 「つる」になったのか、もう1回だけ!

ご隠居(ため息)もう1回だけだよ……?
    
    昔 ひとりの 老人が――

八五郎:イヤ そこは わかってんスよ。
    なんで「つる」って言うようになったか、その さわり・・・だけ。

ご隠居:注文が うるさいねぇ……。
    
    だから、唐土もろこしの方角から。

八五郎:ええ。

ご隠居:まず最初に くびながどりの オスが1羽――

八五郎:ふむふむ、オスが1羽?

ご隠居「つ~~~~~」
    
    っと 飛んできて、
    浜辺の松に ヒョイと とまった。

八五郎:ふむふむ。

ご隠居:あとから メスが、
    
    「る~~~~~」
    
    っと 飛んで来たから、
    
    「つる」だよ。

八五郎:それだ……!それだよ!
    
    どうも ありがと ご隠居!さいならー!

ご隠居:オイ もう やめときなってのに!
    (八五郎は行ってしまう)
    
    (ため息)行っちゃったよ……。

 


 

八五郎:オーウ、タケぇ!
    
    あの鳥、昔は 「つる」とは 言わなかったんだ!

 タケ:また来たよ オイ……。
    今日は 仕事ン ならねぇな……。

八五郎:あれ 昔は 「くびながどり」っ つってたんだ。

 タケ:だから そりゃ さっき 聞いたよ。

八五郎:それが どういうワケで
     「つる」に変わったかと 言うとだよ?
    
    (咳払い)
    昔、ひとりの老人が、浜辺に立って、
    はるかな 沖合おきあいを眺めていた。
    と、唐土もろこしの方角から、
    まず最初に くびながどりの オスが 1羽……、
    
    タケ、ここ、大事なとこだから、
    ちょいと 仕事の手 止めて 聞いてくれ。いいかい?
    
    まず最初に くびながどりの オスが 1羽、
    
    「つ~~~~~」
    
    (得意げに)
    どうだい?
    さっきのと ちょっと 違うだろォ?
    
    「つ~~~~~」
    
    っと 飛んできて、
    
    浜辺の松に っと とまった。

 タケ:ほぉ。

八五郎:あとからメスが――――
    
    
    あれ?
    
    
    えーと……
    
    
    む、昔は 「つる」とは 言わなかったんだ……。

 タケ:戻っちゃったよ。

八五郎:ちょ、ちょっと 待ってくれ。
    
    あれぇ?おかしいなぁ、
    こんなはずじゃねぇんだけど……。
    
    (ひとりで確認するように)
    えーと、昔 ひとりの老人が 浜辺に立って はるかな沖合おきあいを 眺めていた。
    と、唐土もろこしの方角から、まず最初に くびながどりの オスが 1羽「つ~~~~~」……
    うん、ここは これで 間違いねえんだよ。
    
    「つ~~~~~」っと飛んできて、浜辺の松に 「る」っと とまったんだよ。
    
    あとから メスが…………。
    
    …………
    
    (涙声で)
    昔は 「つる」とは 言わなかったんだ……。

 タケ:泣いてるよオイ。
    なにも 泣くこたぁ ねえだろ。

八五郎:ちょ、ちょっと待ってくれ。
    こんなハズじゃ ねえんだよ……。
    
    まず最初に くびながどりの オスが 1羽 
    「つ~~~~~」っと 飛んできて
    浜辺の松に 「る」っと とまって、
    
    あとから メスが……、
    
    あとから メスが……

 

 タケ:おい、メスは一体 どうしたってんだよ!

 

   

八五郎:黙って 飛んで来た……。





おわり


その他の台本                 


参考にした落語口演の演者さん(敬称略)


桂吉朝
三遊亭王楽
桃月庵白酒(3代目)


何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp

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