声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
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<登場人物> <配役>
ここから本編
語り:時は江戸。
侍1:柳田のぅ……。
侍2:同感でござるな。
侍1:いかにも。
侍2:あいつと一緒に 仕事をしておると、
侍1:さようさよう。
語り: 格之進:それがしが いったい 何をしたというのだ……。 語り:なかば きぬ:お父上、ご飯と 格之進:おお、きぬ、かたじけない。 きぬ:あ、ご 格之進:いや、いただこう。
きぬ: 格之進:さようか……。
きぬ:何を おっしゃいます お父上。
語り:格之進の 一人娘・きぬは、父 格之進: きぬ:お父上、きぬは、お父上が しくじりを なされたとは 思っておりませぬし、
格之進:しかし、 きぬ:けれど、 格之進:いかにも。
きぬ:そうでございましょうとも。
格之進:ならば きぬ:ええ、そうに違いございませぬ。
格之進:そうで……あろうかの……。 きぬ:はい。
格之進:きぬ――。
きぬ:まあ。
格之進:ははは……、これは 柳田としたことが、
きぬ:お父上、きぬは 大丈夫でございます。
格之進:なに? きぬ:こちらへ 来てからというもの、
格之進:そうは 申しても、なかなか さような気分には なれぬ。
きぬ:それが お父上、 格之進: きぬ:それが 格之進:きぬ。 きぬ:はい。 格之進: きぬ:それは 格之進:では、さっそく 行ってまいる。 きぬ:はい。お気をつけて 行ってらっしゃいまし。 語り:格之進が 格之進: 店主:どうも おいでなさいまし。
格之進:いや、初めて参ったもので、相手は 決まっておりませぬ。
店主:さようでございますか。
善右衛門:おや、見かけない 店主:ええ。初めて おいでになった 善右衛門:へえ。
店主:よろしいじゃございませんか。
善右衛門:そうだねぇ……。
店主:ありがとうございます。
格之進:おお、かたじけのうござる。
店主:では、ゆっくりと お過ごしくださいませ。 善右衛門:お 格之進:拙者、 善右衛門:ありがとう存じます。 語り: 善右衛門:柳田様、ありがとうございました。
格之進:いや、それがしも 久しぶりに 楽しい時を 過ごさせてもらった。
善右衛門:ただいま 帰りましたよ。
長兵衛:旦那様、お帰りなさいまし。
善右衛門:いやいや、 長兵衛:おや、そうでしたか。
善右衛門:いや すまなかった すまなかった。
長兵衛:ほう。とすると、お相手は 善右衛門:いやいや それが違うんだ。
長兵衛:はあ。 善右衛門: 長兵衛:ははは。
善右衛門:どうだかねえ。
長兵衛:ふむ……。旦那様を 善右衛門:いやいや。そんな 長兵衛:おや、さようでございましたか。 善右衛門:まあ 長兵衛:なるほど。
善右衛門:それがね、お 長兵衛: 善右衛門:柳田格之進と おっしゃる お 長兵衛:浪人――。 善右衛門: 長兵衛:はあ。しかし、今は ご浪人なさってるんでしょう?
善右衛門:聞いてないよ、そんな 立ち入ったこと。
長兵衛:なんだか 怪しいような気が しますがねえ……。
善右衛門:そうかい? 長兵衛:だって、本当に ご立派な 善右衛門:いいじゃないか、
長兵衛:……。 格之進:きぬ、今 帰った。 きぬ:お帰りなさいませ お父上。
格之進:うむ。たいそう きぬ:まあ。
格之進:さる きぬ:それは ようございました。 語り:あくる日も 格之進が 善右衛門:柳田様、今日も ありがとうございました。 格之進:こちらこそ、今日も 楽しゅうござった。
善右衛門:あ、柳田様、お待ちくださいまし。 格之進:ん? 善右衛門:あの、わたくし、少し考えたのでございますが ―― 。 格之進:何でござるかな? 善右衛門:この一週間、柳田様は、ここで
格之進:いや、拙者は 善右衛門:わたくしも 柳田様としか 打っておりませぬ。
格之進:……。
善右衛門:何の迷惑が あるものですか。
格之進:まことに ありがたいお言葉でござるが……しかし……。
語り:そして あくる日。
長兵衛:うちの旦那様にも 困ったものだ……。
きぬ:(出てくる)
長兵衛:(一瞬みとれる)
きぬ:あ、さようでございますか。
長兵衛:今のは……、 格之進:お待たせいたして 申し訳ござらん。
長兵衛:はい。わたくし、番頭の 長兵衛と申します。
格之進:ああ―― 、そのことでござるが……。
長兵衛:(個人の本心は おくびにも出さず、礼節を保って)
格之進:さようでござるか……。
長兵衛:ありがとう存じます。 長兵衛:旦那様、柳田様を お連れいたしました。 善右衛門:ああ、番頭さん、おかえり。
格之進: 善右衛門:おお、柳田様!
定吉:はーい。 善右衛門:あとで 定吉:はーい。かしこまりましたー。 善右衛門:(長兵衛に)
長兵衛: 善右衛門:では 柳田様、まいりましょう。 定吉:あれが、だんな様が いつも言ってる、やなぎだ様かぁ。
長兵衛: 定吉:ろうにん って何?番頭さん。 長兵衛:ご 定吉:え、やなぎだ様、国を おいだされちゃったの!? どうして!? 長兵衛:そんな事は 知らんさ。
定吉:よからぬこと、って? 長兵衛:たとえば、 定吉:えー! そんな人には 見えなかったけどなぁ……。 長兵衛:浪人なんて 定吉:そうかなぁ……。 長兵衛: 定吉:ええ~?
長兵衛:そんなことは ない。
定吉:はーい。 善右衛門:柳田様、こちらでございます。 語り:格之進が 案内された 善右衛門:さ、柳田様。どうぞ お座りになってくださいまし。
格之進:これは……、実に立派な 善右衛門:なにしろ 格之進:まことに 善右衛門:お気に 語り:そうして、これまでと同じように、
格之進:いや 善右衛門:いや わたくしも、
格之進:いやいや、もてなしは もう 善右衛門:そう言っていただけて 何よりでございます。 格之進:ずいぶんと 遅くなり申した。
善右衛門:あ、柳田様、お待ちください。
格之進:いや。
善右衛門:さようでございますか……。
格之進:それが、まこと 善右衛門:何の 迷惑なことが ございましょうや。
格之進:では……、たびたび お邪魔いたそうかの。 善右衛門:ええ! 語り:帰ってゆく格之進の 後ろ姿を 見送りながら、
語り:格之進は 定吉:(格之進の長屋の前で)
格之進:どなたで―― おお、そなたは、
定吉:はい! 格之進:はっはっは。
定吉:はい! 今日は、 格之進:おお……。そういえば そうであったな。
定吉:はい。まいとし 格之進:ほぉ……お 定吉:はい。
格之進:さようか……。
定吉:(泣く)うわーん! 格之進:これこれ、どうしたのじゃ?
定吉:うっうっ。
格之進:(かわいらしい理由になごみ、思わず笑う)
定吉:ほんと? 格之進:ああ。だから安心しなさい。 定吉:ありがとうございます!やなぎだ様! 格之進:では 少し 定吉:はい! 格之進:きぬ、 きぬ:はい……。きぬも、行きとう存じますが……、
格之進:……。
きぬ:よろしいんですのよ お父上。
格之進:きぬ。
きぬ: ―― !
格之進:きぬ……、許してくれ……。
きぬ:……。 格之進:きぬ。わしも、行くのは きぬ:それは なりませぬ! 格之進:いや、そなたが 行かれぬのは、
きぬ:なりませぬ。
格之進:聞いておったのか……。
きぬ:(真剣な表情。格之進の目をまっすぐに見すえ)
格之進:……! きぬ:たとえ相手が 格之進:きぬ……。 きぬ:(優しい表情になって)
格之進:(行くのはためらわれるが、きぬの言にも理がある)
きぬ:(優しく微笑み。手をついて)
語り: 語り:月見の 善右衛門:いやぁ柳田様、今日のご 格之進:いや拙者のほうこそ、 善右衛門:ところで柳田様。いかがでございましょう?
格之進:と申されると、 善右衛門:ええ。 格之進:はっはっは。 善右衛門:では そういたしましょう。
長兵衛:はい、旦那様。 善右衛門:ちょいとね、柳田様と 長兵衛: 善右衛門:(格之進に)
語り:月見の 長兵衛:(離れに入ってくる)
善右衛門:(碁に集中している。生返事)
長兵衛:お楽しみのところ、
善右衛門:(碁に集中している)んー。 長兵衛:それで、旦那様にも お 善右衛門:(うわの空で)
長兵衛:はあ……。
定吉:番頭さーん、ちょっと来てくださいましー! 長兵衛:では旦那様、たしかに お渡ししましたので、
善右衛門:(生返事)んー。
語り:こうして ふたりはまた 時を忘れて 善右衛門:いやはや、また夢中で 打っておりまして。
格之進:さようでござるな。
善右衛門:こちらこそ 楽しゅうございました。
定吉:はーい。 善右衛門:柳田様が お帰りになる。
定吉:はーい。
格之進:これは……? 善右衛門: 格之進:これは、何から何まで 痛み入り申す。かたじけない。 善右衛門:来年は 格之進:そうじゃの……。
善右衛門:お気をつけて、お帰りくださいませ。 長兵衛:お気をつけて お帰りくださいませ。 定吉:おきをつけて、おかえりくださいませー! 善右衛門:番頭さん、どうもありがとう。
長兵衛:いえいえ。それは よろしいんでございますが……。
善右衛門:ああ、 長兵衛:いえ 旦那様……。あの……、
善右衛門:え?そうだったかい? 長兵衛:そうですとも。
善右衛門:ああ ―― 、
長兵衛:ええ。その時に、50両の包みを
善右衛門:ああ……、そういえば、
長兵衛:いやいや、しっかり なさってくださいよ 旦那様。
善右衛門:ん~……(ごそごそ)
長兵衛:いやいや!
善右衛門:まあまあ 落ち着きなさいよ。
長兵衛:は、はあ……。
2人して 離れの中を捜している。 善右衛門:どうだい?あったかい? 長兵衛:ありませんねえ……。 善右衛門:ない……?
長兵衛: 善右衛門:ん~……、そんなはずは ないんだが……。 長兵衛:……。
善右衛門:(怒りを含んで。長兵衛をにらみつけ)
長兵衛:あ、いや、例えば ですよ……?
善右衛門:やめないか!
長兵衛:いや、別に ハッキリと そう申し上げる 善右衛門:いい加減にしないか!
長兵衛:しかし ―― 善右衛門:もういい!
長兵衛:いや、でも…… 善右衛門:わたしが いいと言ってるんだ!
語り:寝ろと言われて 語り:翌朝 ――
長兵衛:(表向き まだ にこやかに)
格之進:おお、これは 長兵衛:(柳田を疑っているが、あくまで表向きは にこやかに)
格之進:して ―― 、こんな朝から、いかがなされた? 長兵衛:ええ。実は、柳田様に ――
格之進:ほう……?
長兵衛:わたくし、 格之進:ああ ―― 、
長兵衛:ええ。
格之進:ほう。 長兵衛:それで……、
格之進:……?
長兵衛:ええ、ですから……、
格之進:(怒気を含んで)
長兵衛:ああいや、決して そういう 格之進: 長兵衛:ああ いえいえ、
格之進:たわけた事を 申すな!
長兵衛:ああ いえいえ!
格之進:知らん! 長兵衛:(なだめるように)
格之進:くどい!
長兵衛:……わかりました。
格之進: 長兵衛:つきましては、柳田様も 当日 その場に いらっしゃいましたので、
格之進:待て。 長兵衛:何でございましょう。 格之進: 長兵衛:はい。 格之進:それは……、思いとどまっては くれまいか。 長兵衛:これは 格之進:……。
長兵衛:おや ―― 。
格之進:違う!! そうではない!!
長兵衛:はあ、さようで ございますか……。
格之進:……あい分かった。
長兵衛: 格之進:待て。 長兵衛:まだ何か? 格之進:もう一度 言うがな、その50両、
長兵衛:(苦笑)
格之進:……。
語り:部屋に戻った 格之進は、
格之進:きぬ。 きぬ:はい、お父上。 格之進:そなた、久しく きぬ:はい。お届けいたします。 格之進:うむ。
きぬ:はい。 格之進: ―― !
きぬ:わずか 格之進:きぬ……。 きぬ:お父上が 切腹なされば、
格之進:……。
きぬ:お父上は 正直な 格之進:(力なく)
きぬ:お父上。
格之進:……。
きぬ:……。
格之進:なんだ。 きぬ:きぬを ―――― 、
格之進:なに……!
きぬ:……。 格之進:……あい分かった。
きぬ:ありがとうございます……。
格之進:……ああ。
きぬ:それでは、わたくしを……、
格之進:なんだと!! きぬ:わたくしと お父上とは、
格之進:馬鹿を申せ!
きぬ:なさらなければ なりませぬ!!
格之進:きぬ……! きぬ:なくなったという 50両、盗まぬものならば
格之進:…… 語り:近くに住む やくざ者から 紹介された 長兵衛:(格之進の長屋へ来た)
格之進:そなたか。 長兵衛:ええ、どうも おはようございます。
格之進:(金包みを差し出して)
長兵衛:お、これはどうも。
格之進:待て。 長兵衛:何か? 格之進:その金は、拙者が 長兵衛:(薄く笑って)
格之進:待て。 長兵衛:(苦笑)
格之進:拙者は 盗んではおらん。
長兵衛:はあ ―― 、もし50両が 他から 出てきた場合ですか?
格之進: ―― 。
長兵衛:ええ。
格之進:では、50両が 他から 出てまいった その時には、
長兵衛:(一瞬ぎょっと目を見開くが)
格之進:間違いないな。 長兵衛:ええ、 格之進:申したな。
長兵衛:ええ、忘れませんとも。
格之進:それだけ聞けば、もう何も言うことは無い。 長兵衛:さようでございますか。
格之進:……。 長兵衛:ふん、やっぱり あいつだった。
長兵衛:旦那様!旦那様! 善右衛門:ん? 番頭さん。
長兵衛:旦那様、先日なくなった50両、
善右衛門:なに、出てきた?
長兵衛:いえ、そうじゃございません。 善右衛門: 長兵衛:それがですね。
善右衛門: ―― !
長兵衛:いや、わたくし、やはり どうしても 気になりましたんでね、
善右衛門:な……!!
長兵衛:(得意げに)
善右衛門:(怒りに身を震わせている)……。
長兵衛:(主の 見たこともない怒り具合に驚愕)
善右衛門:お前という奴は、なんてことを……!
長兵衛:え……、あの、旦那様、どちらへ……? 善右衛門:柳田様の所だ!
語り:善右衛門と 長兵衛が 格之進の長屋へ 来てみると、
善右衛門:(手紙の文面を読む)
長兵衛:は、はい! 善右衛門:柳田様を 長兵衛:は、はい……! 善右衛門:わたしは 店の者にも言って、手分けして 語り:しかしその日、格之進の 語り:やがて秋が過ぎ、 定吉:だんな様!だんな様! 善右衛門:おや 定吉:(手に持った物を 差し出しながら)
善右衛門:(差し出された物を 手に取って見る)
定吉:はい。 善右衛門: 長兵衛:だ、旦那様、どうか なさいましたか? 善右衛門:50両 ―― 、出てきたぞ。 長兵衛:(ちょっと忘れかけてる)
善右衛門: 長兵衛: ―― ど、どういうことですか……? 善右衛門:わたしが はばかりに立った時に 長兵衛:これは……、たしかに 善右衛門:だから言ったじゃないか、
長兵衛:(呆然)
善右衛門:(ため息) 長兵衛:(格之進が犯人でないとすると 奇妙な事がある)
善右衛門:そこだよ。 しかも 長兵衛:(猛省。後悔)
善右衛門:とにかく。
長兵衛:(何かを思い出したように)
善右衛門:なんだい、急に 大きな声を出して。 長兵衛:あ……、あのッ……、その……、
善右衛門:馬鹿だね ほんとに。失礼なことばかり言って……。
長兵衛:それが……、
善右衛門:(ため息)
長兵衛:ええ、わたくしの首を 差し上げるのは、よろしいんです……。
善右衛門:どうして ひとの首を勝手に……!
長兵衛:はい。 善右衛門:(店の奉公人たちに)
語り:そうして 店の者 一同、また格之進を 語り:やがて 定吉:番頭さん見て見て!
長兵衛:あれは、 定吉:やさしい人なんだね!
語り:一歩一歩 確かめるように、
格之進:あいや。
長兵衛:え……?
格之進: 長兵衛:(驚愕) ―― !
格之進:覚えておいでか。
定吉:あー! やなぎだ様だー!
長兵衛:こ、こら! 格之進:おお、そなたは いつぞやの 定吉:はい! 長兵衛: 定吉:え、でも…… 長兵衛:いいから。
定吉:はーい。
格之進:うむ。気を付けてな。 定吉:はーい!(去る) 格之進:さ、長兵衛殿。傘を半分 お貸しいたそう。入られよ。 長兵衛:いえッ! 格之進:かまわぬ。 長兵衛:あ、ありがとう存じます……。
格之進:お久しゅうござるの ―― 。
長兵衛:は、はい。おかげ様で……。
格之進:いやなに、 長兵衛:なんと……、さようでございましたか……。 格之進:まあ、調べが進んで それがしの 長兵衛:そ、それは、この 格之進: 長兵衛:はい。お陰様で、みな 達者に 暮らしております。 格之進:さようか。それは何よりだ。
長兵衛:お待ちください! 格之進:何でござろう。 長兵衛:あのッ……、柳田様ッ……!
格之進:これこれ、そんな 雪の上に 手をつくものではない。
長兵衛:いえッ! 頭を 上げる 格之進:……何でござるかな。 長兵衛:月見の 格之進:なに……! 長兵衛:手前どもの 格之進:そうか……!
長兵衛:それが……、それが 手前どもにも、
格之進:よく聞け。
長兵衛: ―― !!
格之進:実の娘を 長兵衛:ああ……!
格之進:のちに 長兵衛:(後悔に嗚咽する)
格之進:その 長兵衛: ―― !
格之進:あれはな、きぬとの 約束でも あるのだ。
長兵衛:さようでございましたか……。
格之進:よい覚悟である。
語り:店に戻った 長兵衛は、
善右衛門:そうか……。
長兵衛:はい。 善右衛門:頼みたい事が あるんだがね。 長兵衛:は、はあ……、何で ございましょう……? 善右衛門:ちょいと 待っとくれ。
長兵衛:は? いやしかし…… 善右衛門: 長兵衛:何言ってるんですか!
善右衛門:いいから!
語り:翌朝。
格之進: 善右衛門:これは柳田様。
格之進: 善右衛門:とんでもございません。
格之進:さようか。ならば 話は早い。
善右衛門:はい。どうぞ お上がりくださいませ。 語り: 格之進:懐かしいの。
善右衛門:わたくしもでございます……。
格之進:金は ―― 、この部屋に あったそうだの。 善右衛門:お詫びの言葉も ございません。
長兵衛:(離れに駆け込んでくる)
善右衛門:長兵衛!お前!何してるんだ!
長兵衛:こんな事ではないかと思って、
善右衛門:柳田様!
長兵衛:いけません旦那様!
格之進:黙れ!!
善右衛門:長兵衛、かくなる上は、覚悟を決めよう。
長兵衛:(泣いてる)
善右衛門:あとはゆっくり あの世で聞くよ。
きぬ:お父上 ―― 。
語り:きぬの声は、あまりに 格之進:覚悟いたせ。
語り:かちり、と きぬ:お父上。
語り:さらに ゆっくりとした動作で、
きぬ:お父上! 格之進:(刀を振り下ろす)
語り: 善右衛門:(生きているのが信じられない)
格之進: 長兵衛:(息も声も震えている)
善右衛門:あ ―― 、ありがとう……ぞんじます……。 格之進:(きぬに)
きぬ:いいえ、もう、よいのでございます……。
格之進:きぬ……。 きぬ:わたくしも、 語り:格之進は、きぬに向けて 格之進:(善右衛門に)
善右衛門:はい……。 格之進: 善右衛門: 格之進:さようか……。 善右衛門:柳田様……。
格之進: 善右衛門:はい。 格之進:(長兵衛を目で示し)
善右衛門:はい……!
格之進:(長兵衛に)
長兵衛:はい……! 格之進: 長兵衛:は……はいッ!
格之進:なんだ。 長兵衛:もし、お 格之進: ―――― 。
長兵衛:は……はいッ!
長兵衛:(きぬに)
きぬ:いいえ。
長兵衛:何を おっしゃいます!
きぬ:長兵衛様……。 長兵衛:もし、あなた様が、以前のように お元気に なられまして、
きぬ:ご 長兵衛: ―― !
格之進:なんでござろう。 善右衛門:(金包みを取り出す)
格之進:これは……? 善右衛門:柳田様と お嬢様が、身を切られる思いを なさって、
格之進:うむ。
善右衛門:……?
格之進:また そなたと 打ちとうなった。
語り:それから ――――
おわり
・
30代半ば~40歳くらい?
現代でいう50代くらいの貫禄があってもいいかもしれない。
真面目で実直な性格の武士。
あまりに清廉すぎて仲間から煙たがられ、浪人となってしまう。
一人称は、「わし」 「拙者」 「それがし」 「身ども(みども)」 など。
・きぬ (セリフ数:55)
16~18歳くらい?
格之進のひとり娘。
気丈で芯の強い女性。
一人称は 「わたくし」。
・
50歳くらい?
浅草にある大きな商家「萬屋」の主。
碁が好きな、人のいい おじさん。
格之進の人柄に惚れ込む。
一人称は 「わたくし」 「わたし」 「手前(てまえ)」。
・
30歳前後?
萬屋の番頭。
善右衛門が浪人の格之進と親しく付き合うのを快く思っていない。
一人称は、独白では「俺」、それ以外では 「わたくし」 「わたし」 「手前(てまえ)」など。
※「語り」と兼ね役の場合、「長兵衛」と「語り」のセリフが連続する場面がいくつかあります。
・
10歳前後?
萬屋に奉公している小僧さん。
一人称は「オイラ」。
・
・侍1 (セリフ数:3)
・侍2 (セリフ数:2)
・語り (セリフ数:35)
出番自体は少ないですが、テキスト量はそれなりにあります。
※「長兵衛」と兼ね役の場合、「語り」と「長兵衛」のセリフが連続する場面がいくつかあります。
●4人の場合
・格之進:♂ ※マーカーあり台本 → こちら
・きぬ/定吉:♀ ※マーカーあり台本 → こちら
・善右衛門/侍1:♂ ※マーカーあり台本 → こちら
・長兵衛/語り/侍2/碁会所の店主:♂ ※マーカーあり台本 → こちら
●5人の場合
・格之進:♂ ※マーカーあり台本 → 「4人の場合」と同じ
・きぬ/定吉:♀ ※マーカーあり台本 → 「4人の場合」と同じ
・善右衛門/侍1:♂ ※マーカーあり台本 → 「4人の場合」と同じ
・長兵衛/侍2:♂ ※マーカーあり台本 → こちら
・語り/碁会所の店主:不問 ※マーカーあり台本 → こちら
上記配役はあくまで推奨ですので、自由に変えてください。
【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
近江国(おうみのくに)のこと。現在の滋賀県。
あまりに清廉すぎる人は、かえって人に親しまれず孤立してしまうことのたとえ
他人をおとしいれるため、目上の者や主人に、ありもしない事を告げること。
味噌汁のこと。
書物を読むこと。
買い求める。
箱入りにして大切に育てられていること、弱々しいことのたとえ。
(長らくほかに行っていた人が)帰って来ること。特に、一度主人の元から去った武士が、またもとの主人に仕えるようになること。
席料をとり、碁を打たせるところ。麻雀荘の囲碁版?
親しくつきあう間柄。
碁の好敵手。
見た目はみすぼらしくとも心までは落ちぶれていないということ。
きっと。まちがいなく
規模の大きな店。
南部鉄器でできた風鈴。
その折。ころあい
酒と、酒のさかな。
ごちそうになる。もてなしを受ける。
未払いの金。あとで清算する約束で行う売買。
物が見当たらないときなどは、よく探したうえで最後に他人を疑えということ。
どんなに苦しいときであっても、決して不正なことは行わないことのたとえ。
刀を抜く手が見えないほど素早く斬る。武士が相手を恫喝する際の文句。
切腹することを敬っていう言葉。
曇り・偽りのない心。
小人物には大人物の考えや志がわからないことのたとえ。
落ちぶれて、みすぼらしい姿になる。
時には自分より未熟な者・年下の者から教えられることもあるということのたとえ。
女を遊郭に売る周旋を職業とする者。
遊女を等級分けした案内書「吉原細見」の中で、最高級の花魁に付けられた印。
吉原で最も格式の高い遊郭。
書き物や読書をするための和風の机。
大掃除のこと。
トイレ。
不平・不満・恨みなどを解消して、気を晴らす。
冬が終わり春が来ること。新年が来ること。
新年。正月。(「新玉」は「年」にかかる枕詞)
山や丘などを切り開いて通した道。
江戸時代の町駕籠の一種。竹製で、左右に畳表を垂らした。
中央とまわりに渋を塗った蛇の目傘。
筒長の角頭巾(すみずきん)にながい錣(しころ)をつけたもの。(画像検索した方が早いと思います)
非常に高価な織物。「ばくちくらしゃ」ではない。
江戸時代の雨具兼防寒着のうち、丈の長いもの。ラシャで作られる。
刀剣の柄を覆う袋。鍔(つば)までかけ、雨・雪の日などに用いた。
手や脇にはさんで持つ。
支配人・番頭等を敬った言い方。
もとの主人。旧主。
諸藩に置かれた役職のひとつ。江戸に常駐し、藩と幕府の公務連絡、他藩との交際連絡を任務とした。
気が進まない。気に入らない。
健康がすぐれて元気なこと。
トイレ。
刀の鞘の口。
心の底。
名を 「
たいそう
まこと
―― しかし。
ちと 固すぎやせぬか……?
ああ
まとまる話も まとまらぬわい。
わずかばかりの 手落ちにも 目くじら 立ててきおるで、
面倒くさくていかん。
気づまりで かなわん。
その
ある日 とうとう 仲間の
格之進が 流れてきたのは 江戸。
妻は
すぐに 別の商売を 始められるほど 器用な
日々 することもなく、
お食事は もう少し 後になさいますか?
(いつもは具なしの味噌汁に菜が入っているのを見て)
ん、今日の
いかが いたした?
その帰りに
きぬ、すまぬな……。
この父のせいで、そなたに
これしきの 暮らし、苦労のうちに 入りませぬ。
箱入りにして 育てられた身であったが、
現在は
父に代わって どうにか 家計を支えていた。
父の しくじりゆえに、
かような
まこと
ましてや
ひとえに この父の
この父の身には 一切 覚えがない。
こちらへ 移ってきてからというもの、
己に いかなる 落ち度が あったのか
まったく 見当もつかぬ。
勤めも
お父上ほど
きぬは 他に 知りませぬ。
まったく、何かの 間違いであるとしか 思えぬ……。
何かの お間違いでございますれば、
お父上の 身の
明らかとなる はずでございます。
ですから、いつかきっと ご
きぬは 信じておりまする。
つい この
そのように ひ
武士の娘は 名乗れませぬ。
それに、わが身よりも、きぬは
お父上の
うちの中で ご
なさっておいでで ございます。
狭い部屋に 閉じこもられてばかりでは、
お
お
たまには 外を お
それに、外へ出たところで、おもしろいものも なかろう。
お勤めの頃は、よく お打ちに なってらしたでしょう?
気晴らしに 一度 行かれてみては いかがでございますか?
そう申せば、
ふむ、日がな 本ばかり読んでおるというのも
久々に
戸を開けてみると、中は
えー、お相手は お決まりでいらっしゃいますか?
もしよければ、どなたか 拙者の相手を 願いたいが。
少々 お待ちくださいまし。
(善右衛門に)
いかがでございましょう。
しかし わたしなんかのウデで、
お
試しに
それじゃ、
(格之進に)
お
わたくし、
どうぞ お見知り置き くださいませ。
ご
ふたりは
互いの 身の上を 話すでもなく、
ふたりは ただ 黙々と 石を並べた。
周囲は
格之進と善右衛門の間には、
「ピシッ ――
」「ピシッ ――
」という、
最も楽しいという。
ちょうど ふたりの腕は 互角と見えて、
互いに 勝ったり負けたりを 繰り返しながら、
時間を忘れて 打った。
久しぶりに 楽しい
また、お手合わせ願えればと思います。
また ご
番頭さん、遅くなって すまないね。
今日は どちらかへ お寄りでしたか。
ではまた ずいぶんと遅くまで お打ちに なってらしたものですねぇ。
お帰りが遅いもんですから、手前どもも 心配してたんでございますよ?
今日の
まあ、あれと打つのも楽しいがね。
といっても、
おしゃべりでだからね。
わたしも上手な
相手になりゃしない。
「これ、
お茶と団子で いいんじゃないか」ってね。
でも
手は すぐに止まるくせに、口は ずっと動いてるからねえ。
ま、それはそれで 楽しいから いいんだけどね。
そこへいくと 今日は違ったよ。
今日は 久々に、「
いや
今日 初めて お会いした
よくある事だけどね、
それで 時間を忘れるほど
そうそう あるもんじゃないよ。
そうはいかない。
どっちかが うますぎたり ヘボすぎたりしたら、
やっぱり つまらなくなるからね。
では、旦那様は
いったい どのような お
今は
ただの町人らしからぬ 雰囲気は 感じていたんだがね。
お
「
いったい どういう
ましてや
浪人なんて、
旦那様は「ご立派な
そりゃ お人が
何か しくじりが あったからこそ、ご
ロクな者ではないと 思いますがねえ……。
ご浪人なさってる理由なんか どうだって。
人には それぞれ 事情というものが あるんだよ。
お前さんは
刀 ちらつかせて
思ってるようだけれど――まぁ そういうのも 多いんだが……。
柳田様は 違ったよ。
それは 礼儀正しい お人だった。
お
気晴らしには なりましたか?
それは お
いかがで ございましたか? 久しぶりの
さだめし 裕福な 身の上であろうが、
それを 鼻にかけるふうでもなく、
かといって
おかげで
いや、まこと
ふたりはまた「ピシッ ――
」「ピシッ ――
」。
黙々と
そのまた あくる日も 格之進は
ふたりで
結局、この一週間というもの、
格之進は 毎日
毎日
では、
わたくし以外の者と お打ちになりましたか?
となれば、なにも わざわざ
手前ども、ここから ほど近いところに ございます。
多少の おもてなしも できます。
いかがでございましょう?
お手合わせを していただくというのは。
拙者は
そんな
迷惑であろうゆえ……。
主人である わたくしが、
お誘いしているのでございます。
こんなことを 申し上げては 失礼に当たるかもしれませんが……、
わたくしは 柳田様を、身の上などは 関係なく、
良き
どうか、手前どもの
うーん……。
そうじゃのう……。
では
うかがうと しようかの……。
ただ待っていたのでは、
格之進は
来られないのではと
番頭の
よりによって 浪人なんぞを 招くなんてな……。
そんな怪しいヤツが ウチみたいな
出入りしてるなんて
かと言って、
番頭の俺が
「お連れ できませんでした」じゃ すまねえもんなぁ……。
(ため息)仕方ねえ……。
(格之進の長屋に着く)
ええと、この長屋だな。
しっかし 汚い 長屋だなぁ……ボロボロじゃないか……。
(ため息)気は進まねえけど……。
(戸口の外から中に向けて)
(営業モードに切り替え、にこやかに礼儀正しく)
ごめんくださいまし、ごめんくださいまし。
こちらは 柳田様の お宅でございましょうか?
はい。どちら様でしょうか?
あ……。
わ、わたくし、
長兵衛と申します。
柳田格之進様は いらっしゃいますでしょうか?
父でしたら 奥で
ただ今 呼んでまいりますので、
お待ちくださいませ。(奥へ去る)
いや、こんな
しかし、着ている物も ずいぶん
年頃の娘さんが あんなボロを着て……おかわいそうに……。
手前どもの
やはり 拙者のような者が
いえ、
なんとしても 柳田様を お連れ申し上げろ ということで、
わたくしが こうして お迎えに あがったのです。
このまま1人で帰ったのでは、わたくしが
ここは ひとつ、番頭である わたくしの顔を 立てていただいて、
手前どもへ おいで願えませんでしょうか。
あい分かり申した。
では、お招きに あずかるといたそう。
ご苦労だったね。
お待ちしておりました!
ただいま
(小僧の定吉を呼ぶ)
これ
お茶を 2つ 持ってきておくれ。
では番頭さん、わたしは
お店のこと、頼んだよ。
(長兵衛に)
番頭さん、オイラ、もっと コワい人かと思ってた。
おさむらい様なんでしょう?
いずれにせよ、重大な しくじりをしたか、
または
ご
ああ見えて 手クセの悪いところが 無いとも限らない。
あの男に 何か 不審な
注意しておきなさい。
番頭さん、そんなに疑っちゃあ、
やなぎだ様が かわいそうじゃありませんか?
店をあずかる番頭として、当然の心配だ。
旦那様は たいそう人が
それは とても いいことだが、いつ どんな人間が
そこに つけこんでくるか 分かったもんじゃない。
わたしからすれば 喜ばしい事じゃないが……、
旦那様が あれほど ご友人として
大切に なさってるんじゃ しょうがない。
わたしは 番頭として、
用心しておきたいと 思っているだけだ。
……ま、とにかく、お茶 持っていって さしあげなさい。
職人の手入れが 行き届いた 庭を 眺めれば、
赤や白の
まことに 風流な 空間であった。
さっそく
道具にも
この
たいそう 気に入っております。
また この部屋も、眺めは
ささ、
善右衛門が 格之進に 白の石を譲り、
ふたりは
互いの 身の上を 話すでもなく、
ただ 黙々と 石を並べた。
「ピシッ ――
」「ピシッ ――
」という、
ふたりは これまで以上に 時を忘れて
ついつい夢中で 打ってしまいました。
お茶を足すのも 忘れてしまいまして、
申し訳ない事でございました。
かように
拙者は 大満足でござる。
では今日は これで 失礼つかまつる。
かたじけのうござった。
いかがでございましょう、
あちらに
お
こちらに 上げていただくのも
その上 そのような ご
ご
その お
では、また、こちらで
毎日でも 遊びに いらしてくださいませ。
「
このような
どれほど素晴らしい事だろう」
と
暑い夏が 過ぎ、
すすきの
ごめんくださいまし!
やなぎだ様! ごめんくださいまし!
しっかり
して、今日は どうしたのじゃ?
それが、
「お
出入りの お職人さんや お客様や、
近所の人たちを 呼んで、
ご主人も 店の者も みんな いっしょになって、
お月様を見ながら、お酒を飲んだり、
おだんごを たべたりして 楽しむんです。
それで、今年のお
やなぎだ様も、おじょう様も、
ぜひおいでくださいと、
てまえどもの 主人が もうしますので!
いや、お招きはかたじけないがの……。
わしは 見てのとおり 貧乏浪人だ。
日々
この上、
ましてや そのような 晴れがましい席に わしのような者、
場違いに 過ぎるでな……。
すまぬが
何を 泣くことがある?
ご、ごしゅじんが、かならず、
やなぎだ様を、おつれ、しなさい、って。
もし、やなぎだ様を、おつれできずに、
ひとりで帰ってきたりしたら、
おまえのぶんの、おだんごは、ないぞ、って。
だから、やなぎだ様が、
いっしょに いってくれなかったら、
オイラ、おだんご、たべられないんです。
う、う、うわああん。
はっはっはっは。
そうか、そうであったか。
いや、これは わしが悪かった。
分かった 分かった。行く。
な? わしも行くから、もう泣かなくてよい。
ここで待っていておくれ。
月見の
その お招きに あずかった。
そなたも一緒にと 申されるで、どうだ?
一緒に 参らぬか?
きぬ……、すまん。
わたくしのことは ――
嘘であろう。
いえ……
父が、
そなたが
もう、売りに出してしまっていたのだったな……。
すまぬ……。
わしの
それなのに、わし ひとりが 行くことなど できん。
もう、行くと おっしゃったのでしょう?
いや、かような ボロ
なに、また断ればよい。
お父上。武士が
お父上が、柳田格之進が、
男の約束を
わたくしが
それに、お父上が 行ってさしあげなければ、
それでは
ですから、どうぞ 行ってさしあげなさいまし。
……。
きぬ、すまぬな……。
では……、行ってまいる。
はい。お気をつけて 行ってらっしゃいまし。
格之進は 出かけて行った。
たくさんの
初めのうちこそ、格之進に
格之進は、きぬの事を思うと
決して 心から楽しむものでは なかったが、
まことに ありがとう存じまする。
わたくし、先ほどから 月を見ておりますと、
どうにも あれが
拙者のほうも、かように
そちらの
(長兵衛を呼ぶ)
番頭さん!番頭さーん!
後のこと 頼んだよ。
何か あったら、わたしは
では柳田様、参りましょうか。
酔って
唄を歌いだす者がいる、
それに合わせて 踊る者がいる、
あるいは
そんな
失礼いたします。
(善右衛門に)
あの、旦那様。
んー?
お邪魔をして 申し訳ありません。
先ほど、
先日の
わたくし、預かってまいりました。
お持ちしたんで ございますが……。
(主人は聞いてるか怪しい)
―― あの、旦那様……?
んー……。
ああはい、預かります預かります。
(お金を手渡して)
では、これを。
お
では、失礼いたします。
(碁の手を考えている)
ん~……。
ふと
ずいぶんと 遅い時間に なってしまいましたな。
お嬢様が ご心配されるといけません。
いや、今日はまこと
かたじけのうござった。
では、
(定吉に声をかける)
ああ、
あれを、柳田様に。
(なにやら包みを差し出して)
やなぎだ様、こちらを どうぞ。
お嬢様への お
包ませていただきました。
どうぞ、お持ちになってください。
―― では、ご
遅くなっちゃって すまなかったね。
先ほどの、
あれは、店の
それとも、旦那様の ご
なんだい、
じゃ、もらいますよ。
わたくしが、
50両 預かりましてですね、
先ほど、
旦那様は
お聞きに なってるんだか なってないんだか
分からないような 具合でしたが……、
たしかに お渡ししましたよ。
お忘れなんですか?
そういえば お前さん、来てたねえ……。
お渡ししたじゃありませんか。
そんなような物を、受け取ったような……。
わたくし、たしかに お渡ししたんですから!
今、お持ちじゃないんですか?
いや……、ないねえ……。
「ないねえ」じゃ ありませんよ旦那様!
50両ですよ 50両!
いま 旦那様が お持ちでないのなら、
どこにあるんですか!
すぐに見つかるよ。
ちょっと探しに行こう。
もう、
気をつけてくださいませんと……。
おかしいねえ……。
やっぱり ありませんよ。
―― あの、旦那様。
ことによると……、
柳田様が お持ちになったんじゃ ありませんか……?
……お前さん、今 何て言った。
柳田様が お持ちになった?
どうして そんなことに なるんだ。
わたくしが、こう、旦那様に 50両をお渡しして、
それを 旦那様は、こう、
旦那様は、その……、
何かの
柳田様は、こう申し上げては 失礼ではございますが、
ずいぶんと 貧しい 身の上で いらっしゃるようですから、
その
黙って 聞いてれば 何だ!
それじゃ何かい、
柳田様が その50両を 盗んだと、
お前さんは そう言うのかい!
もしかしたら、こう……、
今夜は 柳田様も いくらか お酒を
その、
ご自分の
こう、
「
お前さんは、柳田様が ご浪人なさってる というだけで
そうやって 疑ってかかるようだがね、
柳田様は 決して そのようなことを なさるお
あの50両は、わたしの
わたしの
それが なくなろうが どうしようが、
店にも お前さんにも 関わりの 無いことじゃないか!
どうせ そのうち どっかから 出てくるだろうし、
出てこなきゃ 出てこないで、別に
50両のことは忘れて、もう寝なさい!
わたしも もう寝る!
長兵衛は
自分は
にもかかわらず、
こんな 怪しげな 金の
自分の言うことに 耳を貸してくれない。
金は あの
やつを 信じ切っている
なんとか
長兵衛は ひとり、格之進の長屋へと
ごめんくださいまし!
おはようございます 柳田様!
ゆうべは
かたじけのうござった。
いえいえ、とんでもございません。
ご満足いただけたのでしたら、
少々 お
何でござるかな。
お
それをですね、
持って参ったんで ございますが ―― 。
そういえば
それで、その50両を
あとになって、その金が
その50両の
柳田様が、その……、
ご存知では いらっしゃらないかと、
お
その金と拙者と、なんの関わりがある。
ひょっとすると、
柳田様が お持ちになっては いらっしゃらないかと……
馬鹿を申せ。
そのようなことが あるか。
では何か。
拙者が その金を 盗んだと申すか。
何も 柳田様が、わざと お
申し上げている
例えばその……、
わたくしが
それを
で、なにかの はずみで
ころころっと 柳田様の お
で……、ゆうべはその……、
ま、いくらかお酒も
こう……、
いかに 酔っておっても、
これ以上
決して そのようなつもりで
ただ、ひょっとしたら、ご存じなのでは ないかなぁと
思っただけで ございまして……
ええ、ええ 分かりました。
申し訳ございませんでした。
どうか、お静まりください。
では ―― 、
本当に ―― 、ご存知ないと、
おっしゃるんですね ―― ?
そのような金、知らんと言ったら 知らん!
柳田様が ご存じないと おっしゃるのであれば、
それまでで ございます。
ただ ―― 、
50両といえば 大金でございます。
そんな大金が
わたくしは
このまま 放っておく
このことを、わたくし、これから この足で、
今日か
それは ご
では、お話は 以上ですので、
わたくしは これで失礼をいたします。
50両もの金が なくなって、
探しても 出てこない、誰も
わたくしどもには もう
お
その50両、拙者が
なにやら 風向きが 変わりましたね。
ではやはり柳田様が お持ちに ―― ?
そうではないが……、
拙者が その金を
その
拙者が 50両 用意しよう。
ええ もう、手前どもと しましては、
50両が
なにも わざわざ
では、50両は 拙者が用意しよう。
だが、今すぐというのは無理だ。
ええ、
では、また
それでは 失礼をいたします。
拙者は
拙者は その金を
これだけは
さようでございますか。
ともかく
それでは。(去る)
やはり、わしは あの家に 出入りすべきではなかった……。
手紙を 1通 したためた。
そなたが顔を見せれば、
そうしたらな、久しぶりで 積もる話も あろう。
今晩は、泊めていただけ。
ゆっくりと過ごして、夕方にでも 帰って来ればよい。
―― ですが お父上。
わたくしが 出ました
お
おとどまりくださいませ。
(ごまかすように)
は ―― ははは、何を言うのだ。
わしが、腹を切ると 申すか。
馬鹿を申せ、なにゆえ父が 腹など 切らねばならん。
聞く気が なくとも 聞こえてまいります。
お父上は、
武士の
相手は しょせん 町人。
「
武士の心など、
ほれ見たことか、柳田は 50両を盗んで、
それが
言われるのが 落ちでございます。
それでは……!
それでは、犬死にでございます……!
小さいうちから
今も 変わらぬな……。
父の嘘、すぐに 見破られてしもうた。
嘘を お
下手でいらっしゃるだけでございます。
ははは……。
やりつけぬ事を するものではないな……。
お父上が おっしゃるのであれば、
わたくしは
ですが、どうか、
お
おやめくださいまし。
しかしな、きぬ……。
わしは、他に どうして
このままゆけば、
わしは 決して 盗んではおらん。
だが相手は 町でも
この辺り きっての
ふたりだけの場所で 金が
わしの
もちろん 調べが進めば、
ひとたび 受けた
さすれば
柳田の
さような
お父上、お願いしたいことが ございます。
きぬを、
親子の
……。
……さもあろう。
武士の娘として 生まれた そなただ。
父などと 呼びたくはない ということか……。
ふがいない父で、すまなかった……。
……では、今を もって、
そなたを
これで、もう……、
わたくしは、柳田の娘では ありませんね……?
親でもなければ、
……娘でもない。
もう、赤の他人で ございますれば、
わたくしが
柳田の
どうか、わたくしを売った そのお金を、
そのようなこと、できるわけが無い!
柳田格之進が、
たかが娘の ―― 赤の他人の娘の 身を案じて
あっては なりませぬ!
お願いでございます!
今は、わたくしを売った お金を
どうか、
そうして 身の
お父上と、……わたくしの、
無念を お晴らしくださいませ……!!
きぬ……、そなたの
……。
あい
きぬ、許してくれ……!
きぬは
その
店に出しても 恥ずかしくなかろう というほどの 美しさ。
また
女ひと通りの 手習いと教養も 身についている。
すぐに話は まとまって、きぬは、
「
格之進の手元には、仲介料を差し引いて、
50両と少しの 金が残った。
長屋に戻った 格之進は、
その金を
―― やがて、
おはようございます。
ごめんくださいまし。
おおせのとおり、50両、
ここにある。
あらためるがよい。
ふむふむ……。
はい、たしかに50両 ございますね。
どうも ありがとう存じます。
いやもう、この50両さえ戻ってくれば、
どうぞ ご安心を。
では、わたくしは これで失礼を ――
拙者は、決して 50両を 盗んでなど おらん。
ええもう、その事に ついては、
手前どもも、もう何も 申しません。
手前どもと いたしましては、
50両さえ 戻ってくれば それで
では、わたくしは これで失礼を ――
まだ 何かございますか?
盗まぬものなら、いつか必ず
どこかから 出てまいろう。
そうなった
(余裕の表情)
まぁ、そんなことは ございますまいが……、そうですねえ……。
もし万が一、そのようなことが ありましたら、
わたくしは 柳田様に 、
あらぬ疑いを おかけしたという事に なりますので、
そのお詫びに、柳田様の お望みになる物、
なんでも 差し出しましょう。
まことか。
もし、そのような事があったらの 話でございますがね。
拙者は その
首を
(やはりまだ余裕)
ほう、これは また……。
ええ、
こんな 汚い首でよろしければ、
どうぞ 差し上げましょう。
ああ、わたくしの 首ひとつじゃ
手前どもの
その言葉、忘れるでないぞ。
では、もう よろしゅうございますか?
それとも まだ何かございますか?
それでは、失礼をいたします。
ああ、お嬢様にも よろしく お伝えください。
では。(去る)
ロクなもんじゃ なかったな。
おとなしく
おおかた
あんな父親を持って、お嬢さんも 気の毒に……。
たまに長屋の近くで 見かけるけど、
あんな
ウチの店にでも 来ればいいのに……。
そういや、
早くから 働きにでも 出てんのかな。
おかわいそうに……。
どうしたんだい?
出てまいりました!
はっはっは、そうかいそうかい。
だから言ったろ?そのうち出てくるって。
いや よかったよかった。
やっぱり
じゃ、どこに あったんだい?
やはり、柳田様が お持ちでした。
なんだって……!?
柳田様のお宅に、行った……!?
ええ。
それで柳田様に、50両を お持ちでないか お
あくまで 知らないと おっしゃるもんですからね、
では
そうしましたら 急に、金は
で、
(金を取り出して)
ほら、50両、お出しになりましたよ。
旦那様、どうか 目を お覚ましになって、
わたくしの 申し上げます とおり、
もう あんな
お控えくださいまし。
よろしゅう ございますね?
聞いてらっしゃいますか?旦那様。
(怒り爆発)
だ……、旦那様……!?
あれほど言ったろ……!50両のことは もう いいと……!
柳田様は、金を盗むような お
あの
わたしが 「もらってください」と言って 差し出したって、
受け取るような お
それにな、そんな お
仮に、もし仮に、
自ら お取りに なったんだとしたら、
それは、もう、よっぽどの ことだ……!
ならば、黙って 差し上げておけば いいじゃないか……!
どうしてそんな 余計なことをしたんだ……!
こうしちゃ いられない。
長兵衛! ついて来なさい!
よく お詫び申し上げて、
この お金を お返しするんだ!
いいから 来い!
呼んでも 戸を叩いても 返事が無かった。
事情を話して
手紙が2通、
1通は
「まことに 勝手ながら、
お支払い つかまつる ものなり」
とあった。
もう1通は、
『
柳田格之進』 ―― 。
遅かった……。
なんということだ……。
わたしは、大事な大事な、生涯の友を、
たかだか 50両ばかりの金で…………!
いや、まだ そう遠くへは 行ってらっしゃらない かもしれない。
長兵衛!
町の者にも
柳田様の
いいね!
なんとしても 柳田様を 見つけるんだ!
とうとう 分からなかった。
その日から 毎日、善右衛門は 店の者
また
格之進の
手に手に ホウキやハタキを持って、
一生懸命に 掃除をしていた。
どうしたんだい?
あの、
こんなものが 見つかりましたので。
ん ―― ?
(金包みだ)
―― !
これは、50両の
落っこちてまいりました。
そうだ、思い出した……!
わたしはあの日、
そのとき、
そんな
戸の
そのまま 忘れて、また
(長兵衛を呼ぶ)
長兵衛!!
は? 50両……?
(金子を見せて)
ほら!
柳田様が お
では、本当に ――
柳田様は 金を盗むような お
長兵衛、お前さんこそ、目が覚めたかい。
柳田様では ―― なかった ――
それを俺は、
(猛省)
(善右衛門の前に手をついて がっくりと頭を下げて)
旦那様……、わたくしが……、わたくしが 間違っておりました……。
今になって、ようやく、目が覚めました……。
申し訳……ございませんッ……!
しかし……、事実、柳田様は、50両を 手前に お渡しになった……。
あの金は、一体どうやって ご用意なさったんだろう……!?
たった
ましてや 柳田様のような 身の上なら
よほどの苦労をなさって、ご
ああ……! 俺は とんでもないことを……!
柳田様から 受け取った50両、
そのままに しておく
なんとしても お返ししなければ。
さ、掃除なんてもういい。
柳田様を お
ああッ!! だ、旦那様!
柳田様から 50両を いただいたときに、柳田様が
「自分は50両は盗んでおらん。
盗まぬものなら いつか
そうなったら その
わたくし、そんなこと あるはずが無いと 思いましたんで、その……、
「もしそうなったら、柳田様のお望みになる物、
なんでも差し上げます」と、言ってしまいまして……。
差し上げましょう 差し上げましょう。
柳田様が お望みになるなら、
わたしが 何だって 喜んで 用意しますよ。
で? 柳田様は 何か お望みになったのかい?
わたくしの首を ご
さも ありなんだ。
お前さんは、それだけ 武士の誇りを 傷つける行いを したってことだ。
差し上げなさい 差し上げなさい。
そんな首が ついてるから 余計なことを言うんだ。
差し上げてしまいなさい。
ですが…、あの……、その時にですね、わたくし、
「手前の首ひとつじゃ お
手前どもの
まあいいよ。番頭の
こんな首で 柳田様の お気が済むか 分からないけど、
それで 少しでも
この首、喜んで 差し出そうじゃないか。
とにも かくにも、
まずは 柳田様を 見つけて50両を お返しして、
よく お詫びを 申し上げなければ。
さ、行くよ。
店のみんなもね、今日はもう 掃除は いいから、
手分けして 柳田様を
やはり、その
正月2日。
江戸の
朝から どんよりとしていた 江戸の町には、
いつしか 白いものが ハラハラと 舞い落ち、
真っ白な
長兵衛が
中から ひとりの
その
おさむらいさんが歩いてくるよ!
でも、どうして
雪も降ってるし、
乗ってるほうは楽だが、それを担いで
この坂を登るのは 大変だからな。
ふうん、なかなか できた
お身なりも立派だし、かっこいいなぁ……。
ゆっくりと 坂を登って来る
その
坂を
双方が すれ
つられるように 長兵衛も 立ち止まった。
もしや 人違いであらば お詫びをいたすが ―― 、
長兵衛
さ……、さようでございますが……。
いかがでござる。
この顔を、お見忘れか。
や……、
柳田……様……!!
さよう。柳田格之進だ。
やなぎだ様、みつけたー!
こんな雪の中、使いの
お前は 先に 店へ帰りなさい。
もうすぐ暗くなる。その前に帰るんだ。
ほら、傘、持っていきなさい。
では やなぎだ様、しつれい いたします!
柳田様の お
さ、入られよ。
(真実を伝え 詫びねば という思い)
(しかし首を斬られるという恐怖も)
(葛藤。緊張。あぶら汗)
正月早々、こんな所で
思いもよらなんだ ―― 。
どうじゃ? お変わり ござらぬかな?
あ、あの、柳田様も、その、
たいそうな ご出世の ご様子で……。
お恥ずかしい話であるが、それがしは
ちと 人間が 固すぎたようでな、
それを煙たがって
それで
お陰様で 殿の お
今は
いつの日か
いや、お忙しいところを 呼び止めて 失礼いたした。
では、
もッ……
申し訳ございませんッ!!(土下座)
いかが なされた?
さ、お立ちなされ。
わたくし、柳田様に、
申し上げねば ならない事が ございますッ!
て……、手前どもの
出ましてございますッ!
先日の
それを、わたくしは 柳田様が お
とんでもない
申し訳……ございませんッ……!!
50両……、出てまいったか……!
―― のう長兵衛殿。
しがない 貧乏浪人であった それがしが、
その
いかようにして
不思議で 仕方ございませんでした……。
あの金はな ―― 、娘の きぬが、
あ ――
あの お嬢様が ―― !!
だがな、きぬは まこと 武士の娘だ。
自分を売って
そのために、親子の
さすれば 娘が
そう言って、
わたくしは……!
わたくしは、なんということを……!!
その
それがしの元に 帰って来た きぬは、
もはや かつての きぬではなかった……。
笑うことも なく、物も ろくに食わず、
毎日、部屋の
かわいそうに……
その後ろ姿は、まるで
ああ……!
あああああ……!
それがしが 50両を渡した
その
(観念。うなだれ、目を閉じ)
はい……、
覚えております……。
それがしの
それがしと ―― 、きぬの 無念を 晴らしてくれとな……。
柳田様……、
お嬢様にも……、
もはや、お詫びの しようも ございません……。
この首、いくつ差し上げても 足りるものでは ございますまいが……、
どうぞ、お斬りになってくださいまし……。
しかし かような
(自分の うなじあたりを触ってみせ)
ここらあたりを よぅく洗っておけ。
さ、……
(長兵衛が転がるように駆け去るのを見届け)
きぬ……、我らの無念、晴らすときが まいったぞ……!
格之進との 会談の内容を
善右衛門に 話して聞かせた。
―― 番頭さん。
(なにやら荷物を持ってきて)
よいしょ。
この荷物をね、
持ってって ほしいんだ。
あいつ
大事な お
あんまり下の者を
悪いけど お前さん、代わりに行っとくれ。
だって
必ず お届けすると 約束したんだ。
ほら、これが お手紙。
これも忘れずに お渡ししておくれ。
いいかい?
これは
寝坊するんじゃないよ? わかったかい!頼んだよ!
中から まず 降り立ったのは、柳田格之進。
そして、格之進に 手を 引かれるようにして
ふらふらと
やつれた顔。
うつろな目。
おどろに乱した 白い髪。
かつての
さながら
娘の きぬであった。
(きぬを見て一瞬絶句)
お嬢様も……。
柳田様、お久しゅうございます……。
無事 ご
おめでとう存じます……。
すでに
店先では 人目も あろう。
善右衛門と格之進が
変わらず そのまま そこにあった。
どちらから言うとも無く、
ふたりは あの夜と 同じように、
きぬは 父の少し後ろに、
力なく
そなたと ここで
もう、遠い昔の事のようだ……。
あの夜 以来、もう、
わたくしが
(長兵衛を守るために嘘を言う)
柳田様が お帰りになった
50両が無いのに 気づいた わたくしは、
すっかり取り乱しまして、番頭の長兵衛に、
柳田様に お
柳田様、わたくしが 行かせたのです。
あの者は、わたくしに命じられるまま、
そちらへ
悪いのは、わたくし ひとりでございます。
この首ひとつでは 不足にも過ぎましょうが、どうか、
わずかばかりでも お気持ちを お
旦那様!
そこで聞いておりました!
(格之進に)
柳田様!
いま
まったくの でたらめでございます!
旦那様は、50両のことはもういい、忘れろと おっしゃってたんです!
それなのに わたくしは、余計な
勝手に 柳田様のところへ 参ったのです!
……いいえ、……
旦那様は、
ご浪人の 柳田様と 親しくなさっているのを見て……、
わたくしは……
柳田様!
旦那様は、初めからずっと、
柳田様は お金を
言い続けてらっしゃいました……!
お願いでございます!どうか……!
わたくしの首だけで、お
この者の
わたくしへの
この者は まだ先のある 若者です!
この者だけが 頼りなのです!
お願いでございます! どうか!
どうか この者に 情けを おかけいただき、
わたくしの首を 斬ってくださいませ!!
そもそも柳田様が ご
わたくしの首なのです!
どうか、わたくしの首を……
(ふたりの情に 胸打たれるものがある)
(が、きぬの仇。斬らねばならぬ。葛藤)
黙れ黙れ黙れ黙れ…………
黙ってくれッ……!
いまさら 何を申したところで、もう遅いッ…………!
きぬは……!
きぬはどうなる…………ッ!
50両のために
あのような姿に…………!
その
きぬに顔向けが できるかッ……!
わたしたちは、首を斬られても 仕方のない事を してしまったんだ。
お前さんだけでも 助けてもらいたいと 思ったんだがね……、
わたしの首じゃ 安すぎた。すまないね。
旦那様……!
申し訳ありません……!
わたくしのせいで…………
(格之進に)
柳田様、どうぞ、
格之進の耳には 届かなかった。
格之進は ゆっくりと
格之進は 刀を 上段に構えた。
ふんッ!!
―――― かに思われた。
しかし 2つの首は、
刀を
「ふうっ」と息を ひとつ
まっぷたつになった
や ―――― 、柳田様…………
や……柳田様…………
きぬ……。
わしは……、そなたの無念、晴らしてやれなんだ……。
すまぬ……。
よくぞ、おとどまりくださいました……。
長兵衛様は
命を 投げ出さんと しておられました……。
武士にも劣らぬ その
その
お父上、よくぞ、おとどまりくださいました。
ありがとうございます……。
善右衛門、長兵衛のほうに 向きなおった。
わたくしには、もう、
このたびの お情け、ありがとう存じます…………。
わたくしには、過ぎたる
長兵衛殿。
これからも、忠を 尽くされよ。
ありがとう存じますッ……!
……あッ、あの……!
柳田様!
わたくしに……その……、
お嬢様の お世話を、
させていただけませんでしょうか……?
それがしと きぬは 親子の
それがしが
当人に 直接
お嬢様……、お……おきぬさん……、
このたびは、まことに、申し訳ございませんでした……!
もう……、お詫びのしようも ございません……!
わたくしのせいで、こんなことに……!
なんの
わたくしに、あなた様の、ご看病、お世話を、
させていただけませんか……!
あなた様は、
わたくしのような、
あなた様は、
それに、世間が どのように申しましても、
わたくしは 気になど いたしません!
お願いでございます!
どうか、わたくしに、あなた様の お世話を させてくださいませ!
……もう わたくしが
その時は、もう来るなと おっしゃっていただいて かまいません。
けれど、お元気になられるまでは、どうか……!
……どうぞお好きに、なさってくださいまし。
ありがとう……ございますッ……!!
善右衛門:柳田様。
これを ―― 。
お作りになった 50両でございます……。
ようやく……、ようやく お返しすることができます……。
では、
なぜでございます……!?
この10両は……!?
その10両で、新しい
格之進と 善右衛門は、以前よりも深く
長兵衛は きぬを
きぬは だんだんと 健康を 取り戻すようになっていった。
そして、いつしか ふたりは 想い想われる仲になり、
やがて
長兵衛に 店を譲って、
さらに 数年が 経つうちに、
長兵衛と きぬは ふたりの男の子に 恵まれた。
格之進、善右衛門、そして夫婦が 話し合い、ゆくゆくは、
長男を 格之進が引き取って 柳田の
次男には
今でも
「ピシッ ――
」「ピシッ ――
」という、
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
柳家さん喬
立川生志
古今亭志ん朝(3代目)
金原亭馬生(10代目)
三遊亭圓楽(5代目)
古今亭志ん生(5代目)
立川志の輔
何かありましたら下記まで。
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