声劇台本 based on 落語

猫の皿ねこのさら


 原 作:古典落語『猫の皿』
 台本化:くらしあんしん


  上演時間:約10分


【書き起こし人 註】

古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。

アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。



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<登場人物>

旗師はたしの男(セリフ数:27)
 旗師はたし」とは古美術品の仲買なかがい業者のこと。
 安値で入手した骨董品こっとうひんを道具屋などに高値で売って生計を立てている。



・茶店の店主(セリフ数:27)
 年齢・性別の設定は特にありません。
 「連れ合いに先立たれて」というセリフがあるので、
 ある程度年配のほうが説得力があるかもしれませんが、
 あまり気にしなくて良いかと。



・語り(セリフ数:1)
 冒頭のセリフ1つだけです。
 旗師か店主のどちらかが兼ねてください。





<配役>

・旗師:♂

・茶店の店主:不問

・語り:不問 ※どちらかが兼ねてください。




【ちょっと難しい言葉】

旗師(はたし)
「端師」「果師」「他師」などとも書く。店舗を構えない、古美術品の仲買業者。

高麗の梅鉢(こうらい の うめばち)
「絵高麗(えごうらい)」ともいい、 白地に鉄分質の釉薬(うわぐすり)で黒く絵や模様を描いた朝鮮渡来の焼き物。とても高価。

縁台(えんだい)
庭先の腰掛け。




ここから本編





 語り:その昔、「旗師はたし」と呼ばれる商売がございまして。
    簡単に申しますと、古美術品こびじゅつひん仲買人なかがいにんでございますね。
    
    全国各地を飛び歩いては、高価な品を見つけますと、
    口八丁手八丁くちはっちょうてはっちょう、あの手この手で 安く手に入れ、
    骨董屋こっとうや古道具屋ふるどうぐやに売って 生計を立てていた商売でございます。
    
    
    さて、ここにおります1人の旗師はたし
    掘り出し物を求めて あちらこちらを旅するものの、
    今回はめぐり合わせが悪いのか、
    なかなか値打ち物を見つけられないようで……
    



 旗師:(ため息)ハア……、まいったなぁ……。
    旅に出て もう7日になるってのに、な~んにも ありゃしねえ。
    見つかる時はすぐに見つかるってのに、えとなると 何にもえや。
    
    
    あ~疲れたなぁ……歩きっぱなしだもんなぁ。
    のどもカラカラだよ。
    
    そこの茶店ちゃみせで休んでいくか。
    
    (茶店の店主に)
    オウッ!ごめんよゥ!

 店主:あァ、これはどうもいらっしゃいまし。
    どうぞどうぞ、おかけくださいまし。

 旗師:おう、すまねえな。
    
    (くつろいで)ふゥ~!
    
    (店主に)
    あァ、茶ァ1杯もらおうか。

 店主:申し訳ございません、ただいま水を足したところでして、
    少し時間が かかるんでございますが……

 旗師:ああ、かまわねえよ。
    別に急ぐわけじゃねえんだ。
    ゆっくり やってくれ。

 店主:ありがとうございます。
    では、少々 お待ちを。

 旗師:(独白)
    (ため息)ハァ……、落ち着いたは いいものの……
    これから どうすっかなぁ……。
    このままじゃ、手ぶらで江戸へ帰ることになっちまうぜ……。
    
    まったく、世知辛せちがれえ世の中になったもんだよ。
    こんだけ歩いて何にもえんだからなぁ……。
    前は、ちょっと歩きゃあ 必ず2つや3つ あったもんだよ。
    
    あ~あ、どっかに何か いいモンはえかなぁ……。
    
    (店の隅に猫がいる)
    ……ん? 猫じゃねえか。
    皿に盛ったメシ食ってら。
    てことは、ここで飼ってる猫か……。
    
    
    ん……!? 
    
    猫がメシ食ってる あの皿……。
    
    ……!!!
    
    
    ……まちがいねェ。
    
    ありゃあ、"高麗こうらい梅鉢うめばち" じゃねェか……!
    
    適当な店へ持ってっても300両、
    好きなヤツなら500両は出そうって代物しろものだ。
    
    オイオイ、なんてモンで猫にメシ食わしてんだよォ……!
    値打ちを知らねえってのは おそろしいモンだなぁ……。
    
    (ニヤリと笑みを浮かべ)
    しかし こいつは ツキが回ってきたぜ。
    まさかこんなところに高麗こうらい梅鉢うめばちが あるなんて思わなかったなァ。
    
    ヨーシ、なんとかして コレ、ふんだくってやろう。

 


 


 店主:お待たせをして、どうもすみません。
    お茶でございます。

 旗師:おッ、すまねえな。
    
    (茶を冷まして飲む)ふーっふーっ、ずずっ。
    
    あー、うめえ。
    けっこうな茶だァ。
    ありがとよ。

 店主:さようでございますか。
    それはよろしゅうございまいた。

 旗師:オウ、ところでよ、あの縁台えんだいの下に、猫がいるね。
    アイツは、おめえさんとこの猫かい?

 店主:ええ、さようでございます。

 旗師:そうかい。
    いやあ、かわいいねェ。
    
    (猫に)
    オイ、ホラ、こっち来い、こっち来い。
    
    オー来た来た♪
    オーよしよし。
    
    お?
    おお、なついてやがらァ。
    ずいぶん人なつっこいねェ。
    よしよしヨシヨシ。
    
    んー?ひざの上、乗りてえのか?
    よしよし、ホラ、乗んな♪
    (猫、膝に乗る)
    オー乗った乗った♪ハハハハ。

 店主:ああ、いけません。
    お着物がよごれてしまいます。
    
    どうも すみませんねぇ。
    お客様が来られますと、すぐひざの上に乗りたがるもので……。

 旗師:なァに、かまわねえよ。
    俺は猫が大好きなんだ。
    
    ホラ、ゴロゴロ言ってる。
    かわいいなァ。
    
    (猫に)
    お?どした?
    今度はフトコロに入りてえのか?
    
    ヨシヨシ、(猫を持ち上げてフトコロへ入れる)よーいしょっとォ。
    オーッ、入った入った♪

  

 店主:あァお客様、およしになったほうが……。
    今は毛が抜ける時期でございますから……。

 旗師:心配するこたァねえよ。
    猫好きにゃ たまんねえんだ、こういうのは。
    
    何かい?お前さんも、猫が好きなのかい?

 店主:いえ、とりたてて好きというほどでも なかったんでございますが、
    ある時、連れ合いに先立たれて 寂しくなったもので、
    知り合いから猫を1匹もらいましてねェ。
    
    そしたら その猫が 友達の猫を連れて来たり、
    連れて来た猫が 子供を産んだり……。
    
    まあ そんなコトを繰り返してるうちに、
    今じゃもう20匹ばかりウチにおりましてねえ。

 旗師:そんなにいるのかい?
    どこにも見当たらねえじゃねえか。

 店主:いえいえ、ウチは ここじゃございませんで。
    この先にございましてね。
    夜になると店を閉めて 帰るんでございますよ。
    
    そうしますともう、大勢でウワーッと寄って来て大変なんでございますよ(笑)
    
    ですけどカワイイもんでしてねェ。
    
    朝、店へ出て来ますときに、今日のとは また別なのを、
    かわるがわる連れて来るんですけどね、
    そうしますと、残された猫が、うらめしそォ~な顔で
    私のことを見るんでございますよォ(笑)

 旗師:ハハハ、そォかい(笑)
    
    (猫に)
    じゃあ今日はオメエが連れて来てもらったのか。よかったなぁ。
    
    (店主に)
    ……あー、……あのさぁ……、
    この猫、すっかり俺になついてるしさァ……、
    こいつ……、もらえねえかなァ?

 店主:え……?
    
    あァ……すみません、それはどうぞ ご勘弁を……。
    私も かわいがっておりますもので……。

 旗師:いや、そりゃそうだろうけどさ……。
    これだけ かわいい猫だ、かわいがってんのも分かるけどよォ…………。
    いいじゃねえか、20匹もいるんだからさァ。
    
    いや実はね、うちのカカアがさ、また猫が好きなんだよ。
    で、俺たちゃ子供がいねえもんだから、
    かわりに猫を飼ってたんだけどさぁ、
    こないだ、そいつに死なれちゃって……。
    
    カカアすっかり気落ちしちゃってんだよ。
    で、「おまえさん、どっかにいい猫がいたら もらって来ておくれよ」
    なんて言われてたんで、ひとつ、いい猫がいたら……、なんて思ってたんだ。
    
    ここで見つけたのも 何かのえんだと思うんだよ。
    な?いいじゃねェか。こうやってなついてんだしさァ。
    頼むよ。

 店主:はぁ……、そう言われましてもねぇ……。

 旗師:ンなこと言わねェで。頼むよぉ。
    
    いや、俺だって、なにもタダで もらって行こうなんて言わねえよ。
    カツブシ代、置いて行こうじゃねえか。
    ちょいと待ちな。
    
    (ふところゴソゴソ)
    ホラ、3両ある。取っといてくれ。
    そんだけありゃ いいだろ?

 店主:ご、ご冗談でございましょう……?
    こんな猫に3両なんて大金たいきん……

 旗師:なァに、あとで100倍になって返ってくるんだ。

 店主:は?

 旗師:いやいや!何でもねえ何でもねえ!
    
    ホラ、こんなに かわいい猫なんだ。
    3両でも安いぐらいだよ。

 店主:はあ……。
    
    でも、なんだか申し訳ない気がしますねェ……。

 旗師:かまうこたァねェよ。
    これでカカアも元気になるんだ。安いモンだよ。

 店主:さようでございますか……。
    それでは、遠慮なく頂戴をしておきます。
    どうもありがとうございます。
    
    では、その子のコト、よろしくお頼み申します。
    かわいがってやってくださいましね。

 旗師:大丈夫だよ、わかってらァ。
    誰がいじめたりするもんか。
    
    (猫に)
    おゥよしよし。
    これから方々ほうぼう旅して、そんで江戸へ連れてってやるからな。
    おーヨシヨシヨシヨシ。
    
    
    (店主に)
    あ、そうだ。
    
    そういやァよ、こいつはいつも、あの皿でメシ食ってんのかい?

 店主:ええ、さようでございます。

 旗師:そうかい。
    
    あのさ、猫ってのは「慣れたうつわじゃねえとエサを食わねえ」って言うからよ、
    その皿も一緒に もらって行こうかな。

 店主:いえいえ、これはさっき その子がオマンマを食べて、よごれてございますんで。
    奥にキレイなおわんがありますから、それを。

 旗師:いやいや!
    その!その皿がいいんだよ!

 店主:ええ、ですけど、きたのうございますから……。

 旗師:いやいや!
    きたねえのが いいの!そのきたねえのが いいんだよ!

 店主:はあ……。
    
    いや……これは困りましたねえ……。

 旗師:なにが困るんだい?

 店主:この皿は……、さしあげるわけには いかないんでございますよ。

 旗師:なんで?

 店主:実は……、お客様はご存知でないかもしれませんがねェ……。
    
    この皿は高麗こうらい梅鉢うめばちと申しまして。
    適当な店へ持って行っても300両、
    お好きな人なら500両はお出しになろうかという、
    たいそう値打ちのある品でございましてねェ……。

 旗師:(絶句) ―― !!
    
    え……、そ……、そうなの……?
    
    こ、このぎたねェ皿が?
    
    じょ、冗談だろォ……?

 店主:いえ、まちがいございませんで。

 旗師:そ、そうなの?へえ~。
    
    
    (小声で独白)
    なんだよ、知ってやがったのかよオイ……。
    
    
    (店主に)
    い……、いやあ、そんな値打ちモンにゃあ、見えなかったけどなー。
    へえー、ふぅーん……。

 店主:そういうようなワケでして……、
    そのお皿はご勘弁いただいて、おわんをお持ちいたしますんで……。

 旗師:(すっかりテンション下がって)
    おわん……?おわんじゃ意味ねえんだよ……。

 店主:は?

 旗師:あ、いや、何でもねえよ。

 店主:では、おわんをお持ちになりますか?

 旗師:え……?
    
    いや……、いらねえよ……。

 店主:さようでございますか?
    
    それでは、その子のこと、よろしく かわいがってやってくださいまし。

 旗師:え……?
    
    お、おう……。
    か……、かわいがるよ。
    かわいがりゃいいんだろ?
    
    ゴロゴロ言ってやがる。
    (小声で猫に)
    うるせェよ、もういいんだよゴロゴロは。
    
    あッ!! 
    こいつ フトコロん中でションベンしやがった!
    何すんだよぉ!
    
    あーもう!出ろ出ろッ!
    どっか行け!しッしッ!(猫を追い払う)
     
    あーあ、もう毛だらけじゃねえか。
    これだから猫は大嫌いなんだよ!
    
    (店主に)
    どうでもいいけどお前さんよォ、
    そんな高価なモンなら、奥に しまっときゃいいじゃねェか!
    
    なんで そんな皿で 猫にメシ食わすんだ!

 店主(嬉しそうに)
    ええ、そのお皿で 猫にご飯を食べさせておりますとね、
    
    ときどき猫が3両で売れますんで。
  



おわり

その他の台本                 


参考にした落語口演の演者さん(敬称略)


三遊亭円楽(6代目)
立川志の輔
古今亭志ん朝(3代目)


何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp

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