声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
・上演を公開される際は、観覧無料の媒体のみで行うようお願いします。
観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
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ただし、ことさらリスナーに金銭やアイテム等の贈与を求めるような行為は おやめください。
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録画の公開期間も問いません。
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<登場人物> <配役>
【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
亭主:(居酒屋で呑んだ帰り。往来を 家に向かって歩いている)
女房:まーた この人はこんな時間に帰って来て……。
亭主:は? 女房:だから、ふとん 亭主:お 女房:お 亭主:だから、お 女房:なんだい?その手つきは。 亭主:オイオイ、俺たちゃ 何年の付き合いだよ。
女房:お酒?
亭主:あのねえ、ずっとウチん中にいた オメエは知らねえだろうけどよ、外は寒いぜェ?
女房:酔いが 亭主:オメエは どうして そういう言い方をするかねェ……。
女房:ホント? 亭主:あッたりめえじゃねェか。 女房:ハイハイ。
亭主:そう?じゃ もらおうか。 女房:インチキじゃないか! 亭主:ハハハ、怒るな怒るな。
女房:んもう……、しょうがないねェ……。 女房:(卓の上に 湯呑みと一升瓶を置く)
亭主:いや、ハイどうぞ じゃねえよ。
女房:ハイハイまったくうるさいねェ……。
亭主:オウ、そうそう……。
女房:え? 亭主:もっとケツを上げろっての。 女房:ええ……?
亭主:あのなあ、オメエのケツ上げてどうすんだよ!
女房:なんだ、そうかい。
亭主:オウ、そうそう。
女房:え? 亭主:だからよ、なんか ツマミになるモンは 女房:なんにもないよ。 亭主: 女房:なんにもないってば。 亭主:いやいや、なんかあるだろ? 女房:ないってば。 亭主:んな つれねえコト言うなよ……。
女房:なんにもないんだってば。
亭主:いたんだけどねぇじゃねえよ。
女房:ああ、食べちゃった。 亭主:え? 女房:だから、アタシが、
亭主:あのなぁ……。
女房:イチイチうるさいねェ……。
亭主:それでいいんだよ。
女房:いただきました。 亭主:あ、そう……。
女房:いただきました。 亭主:シオカラがあったろ? 女房:いただきました。 亭主:わさび 女房:いただきました。 亭主: 女房:いただきました。 亭主:オメエちょっと いただきすぎじゃねえか……?
女房:いただきました。 亭主:オイオイオイ!
女房:まだ 亭主: 女房:持って来てどうすんだい? 亭主: 女房:なるわけないだろ!
亭主:おォッ!おでんか!いいねえ!
女房:ハイハイ。
亭主:ん~そうだなァ……。
女房:「ヤキ」って何よ? 亭主:なんだオメエ知らねえのか?
女房:あ、そう。「ヤキ」ね。
亭主:それから……、「コン」だな 女房:キツネかい? 亭主:ちがうよ……。
女房:ハイハイ、「コンニャク」の「コン」ね。
亭主:あとは……、「ガン」。 女房: 亭主:なんでだよ。こわいよ。どんなおでんだよ。
女房:あらそう?
亭主:なんだそりゃ? 女房:「スジ」と「チクワ」と「ハンペン」。 亭主:変な 女房:ハイハイ。じゃあ行って来ますね。 女房、鏡台の前に座り、化粧を始める。 亭主:ん――?
女房:だって、外へ出るのに こんなスッピンじゃ、恥ずかしいじゃない。 亭主:ハァ?
女房:わ、分かったよ……。(慌てて出て行く) 亭主:(独白)
女房:あらァ、そうだったのかい♪ 亭主:オメエ まだ いたのかい!!
※なぜタイトルが『替わり目』なのか
・亭主(セリフ数:43)
酒を飲んで酔って帰ってくる。酔いの程度はおまかせします。ほろ酔いでもベロベロでも。
・女房(セリフ数:43)
・亭主:♂
・女房:♀
床を延べる(とこを のべる)
ふとんを敷くこと。
脇(わき)
ここでは「他所(よそ)」の意味。
葉唐辛子(はとうがらし)
未熟な唐辛子の葉。佃煮などにする。
つづめる
縮める。短くする。簡略にする。
う~ッ、さぶい!
今晩は また一段と
1杯だけで帰るつもりだったんだけどなぁ、
ついつい
おかげで すっかり遅くなっちまったよ。
(帰宅)
オウッ、いま帰った!
お酒くさいねえ……。
どうせまた、しこたま飲んで来たんでしょ。
ホラ、今日はもう遅いし、
早く お
早く お
(おちょこで酒を呑む手つきをして)
ちょいと こんなコト やろうかと思ってね。
この手つき見りゃあ、酒を飲むと分かりそうなモンじゃねェか。
いけませんよ。
このうえ飲ませられますか。
酔いも
酒の1杯も飲まずに
さんざん飲んできたことに 変わりはないんでしょ?
ダメダメ!
今日は、飲ま!・せま!・せん!
「飲ま!・せま!・せん!」だなんて……。
そんな言い方するから こっちだって
「飲むゾー!」ってコトに なるんだよ。
あのな?そういう時はだよ?
「たいそう飲んで来てらっしゃるようですが、
アタシのお
アナタおひとつ いかがですか?」
ってなふうに言うんだよ。
そうすりゃ こっちだって
「ああ、ウチで
外で飲んで来ちゃって悪かった。
じゃ今日は飲むのはよそう。今日は
ってな
たいそう飲んで来てらっしゃるようですが、
アタシのお
1杯飲んだら
ハイ、どうぞ。
俺の目の前に
それで仕事
お
(酌を始める)ハイ
おい、もっとケツ上げろよ。
(四つん這いになってお尻をつきあげながら注ぐ)
こうかい……?
1
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勢いよく
(言われたとおりに注ぐ)
ハイハイ、こうね。
ああ、そんなもんでいいや。
(ひと口飲む)
ああ~、うめえ!
けど…………、ちょいと
オイ、なんか つまむ物は
いや、なんも
いやホント何でもいいの。
なんか あるだろ?
もうちょっと早く帰ってくりゃあ、
そこんところに ゴキブリがいたんだけどねぇ。
亭主にゴキブリ食わすんじゃねえよ。
いやいや、なんか あるだろ?
あ、そうだ!
俺、
その残りが36
あれ持って来いよ。
食べ!・ちゃっ!・た!!
オメエはツラがマズいんだから、
そんな「食べ!・ちゃっ!・た!!」なんて言ったら、
オレ今 お前に食われちまうかと思ったよ。
同じ言うなら、女らしく、おしとやかに 丁寧に
「いただきました」と言うんだよ。
ハイハイ。いただきました。
ああ、コンブのつくだ
あ、シャケの焼きざましがあったろ?
あ、そうだ!きのう隣のダンナが――
それは
隣のダンナいただいちゃ ダメでしょ……。
あ!台所にキュウリのぬか
持って来いよ!
頭に 石 のっけときゃ、腹ん中で
何言ってんだい この人は。
(ため息)しょうがないねェ。
じゃあさ、
そこ行って おでん買って来ようか?
おでん買って来てくれ!
じゃあ、何 買って来る?
まずは、「ヤキ」だな。
「ヤキ」ってのは「焼き豆腐」のことだ。
江戸っ子は気が
いちいち「やきどうふ」なんて 長ったらしいだろ?
だから
あとは?
「コンニャク」の「コン」だよ。
あとは?
だいいち英語じゃねえか。
んなもん どこで覚えてくんだよ……。
「ガン」は「ガンモドキ」だよ。
ああ、オメエも自分の好きなの 買ってこいよ。
それじゃアタシは、「ジ」と「チク」と「ペン」にしよっと。
ま、イイや。
とにかく頼んだぜ。
オメエ何してんの?
たかが おでん買いに行くだけだろ?
顔なんぞ どうだっていいじゃねェか。
だいたい夜中だよ?
誰がオメエの顔なんか見るってんだ。
そんなの いいから 早く行ってくれよ。
おい行けよ。行けって言ってんだろ?
さっさと行けェー!!
フン、あわてて出ていきやがった。ざまァ見ろ。
まったく トロくせえんだから……。
(しみじみ)
けど ―― 、いい女房だよ ―― 。
友達にも よく言われるんだ、
「オメエんとこのカミさんは、オメエには過ぎたカミさんだよ」って。
俺もそう思うよ ―― 。
俺なんかにゃ もったいねえ いい女だ……。
よく尽くしてくれるしよォ……。
心ん中じゃあ 手ェ合わせて
「いつもこんな ダメ亭主の面倒 見てくれて すまねェ、ありがとう」ってな……。
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
古今亭菊之丞
古今亭志ん朝(3代目)
実は、本来この お話には続きがあり、その本当のオチの文言が、
「ちょうど 銚子の替わり目でしょうから」というものだからです。
以下詳しく説明します。
女房がおでんを買いに出た後、亭主は、たまたま近所を通った 流しのうどん屋を呼び入れます。
そしてウザ絡みをし、さらに「お燗をしたいから湯を使わせろ」と言ってうどん屋の湯を使い、
あげく、うどんは注文せずに うどん屋を叩き出してしまいます。うどん屋にとっては散々です。
帰ってきた女房にそれを言うと、女房は、それじゃ うどん屋さんがかわいそうだからと、
外へ出て「うどん屋さーん!」と うどん屋を呼びます。
外で別の客に うどんを出していた うどん屋さん。
客「うどん屋さん、呼んでるよ」
う「どこです?」
客「あそこの家だよ」
う「ああ、あの家はいけません」
客「どうして?」
う「今行ったら、ちょうど 銚子の替わり目でしょうから」
ということでオチとなります。
つまり、お燗をした1本目のお銚子を呑み終えて、2本目に移るタイミングだということです。
今行ったら、またお燗をさせられて絡まれるだろうからイヤだと言ってるんですね。
実際の落語口演でも、この後半部分まで演じられることは わりと少なくなっています。
さらに厳密に言うと、当ページの台本は 亭主の帰宅から始まりますが、
本来は その前、亭主が外にいるところから始まります。
そこでは人力車の車夫が「乗りませんか?」と亭主を呼び止め、そこから
亭主と車夫の 珍妙なやりとりがあって、亭主の帰宅となります。
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp