声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
・上演を公開される際は、観覧無料の媒体のみで行うようお願いします。
観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
配信者へ 金銭または換金可能なアイテムやポイントを贈与できるシステムの有無は問いません。
ただし、ことさらリスナーに金銭やアイテム等の贈与を求めるような行為は おやめください。
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<登場人物>
<配役> 【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
泥棒:(ため息)ハァ……。
男:起きてるよ。 泥棒:うわ びっくりした!
男:うん。お前さんが入って来たときから、ずっと見てた。 泥棒:こわッ!
男:じぶん 泥棒:いやまぁ……、そりゃそうだけどよ……。 男:それからね。 泥棒:なんだよ。 男:お前さん、夜 知らない家に上がるときは、
泥棒:上がってすぐ 床に穴が 男:あれか?
泥棒:あれ 男:別にいいよ。俺の家ってわけじゃねえんだし。
泥棒:とんでもねえ野郎だな。
男:夜中に勝手に 人ん 泥棒:うるせえなあ。
男:なんで俺がそんな奴の心配しなきゃならねえんだよ。 泥棒:……そりゃそうだけどよ。
男:え? 泥棒:出せよ。 男:何を? 泥棒:何をって……。
男:なんで俺が お前さんに 泥棒:なッ……!
男:知らないよ。
泥棒:いや初めて会ったんだけど……、そうじゃなくて……。
男:しーッ!声が大きいよ。
泥棒:…………。
男:嘘じゃねえよ。
泥棒:…………。
男:そこまで小さくしなくてもいいけど。 泥棒:いいから 男:出せったって……。ないよ。 泥棒:あ? 男:ないよ。 泥棒:嘘つけよ。
男:そりゃお前さんの 泥棒:ほぉ……あくまで出さねえつもりか……。
男: 泥棒:この野郎……!
男:入らないよ。
泥棒:見えねえのかってんだ!! 男:見えてるよ。
泥棒:それがどうしただと……?
男:殺す……?
泥棒:そうだよ。 男:そうかい。
泥棒:ありがてえ……?
男:分かってるよ。
泥棒:なにがありがてえんだよ? 男:いや、俺さ、もう生きてるのがイヤになって、
泥棒:オイちょっと待てよ。 男:なんだよ、 泥棒:ちょっと待てって。何 言ってんだよ。 男:俺を殺すんだろ?殺してくれよ。
泥棒:難しいこと言うなよ。
男:どうでもいいから殺してくれよ。
泥棒:ちょちょちょ……落ち着けよ……。
男:いや、実は俺、 泥棒:悪い 男:いや、体はピンピンしてるんだけどよ。
泥棒:なんだよ、そういうことかよ。
男:こないだもさ、 泥棒:馬鹿だな お前は。 男:わかってるよ。
泥棒:待てよ。早まるんじゃないよ。
男:泥棒に言われてもなぁ。 泥棒:うるせえなぁ。
男:ダメだよ。 泥棒:なにがダメなんだよ? 男:仕事に 泥棒:落ち着けよ。
男:ダメなんだよ。
泥棒:落ち着けってんだよ。
男:5円だよ。 泥棒:5円……?
男:え?この金、くれるの? 泥棒:そうだよ。 男:ほんとに?嘘じゃないよね?
泥棒:もう始まっちゃってんだよ こっちは。
男:いいのかい……?
泥棒:なんでだよ。
男:いや、そういうことじゃないんだ。 泥棒:じゃ何なんだよ? 男:これじゃ足りねえからさ……。 泥棒:なんだよ、さっき 5円で入れたって言ったじゃねえか。 男: 泥棒:よせよオイ。
男:いや、そこまでしてもらっちゃ悪いと思うからさ、
泥棒:ああもう!
男:2円。 泥棒:(ため息をつきつつ、懐を探って追加の2円出す)
男:え……。
泥棒:いいもなにも……。
男:うん。 泥棒:だからだよ!
男:すまないね。ありがと。
泥棒:なんだよ気持ち悪いな。
男:いいから。 泥棒:なんだよ……。
男:そうなんだよ。
泥棒:待て待て!
男:だよな。
泥棒:わかったよ!
男:うん。 泥棒:(ため息)ハァ……
男:すまないね。ありがと。 泥棒:これで ちゃんと仕事行けよ? 男:それがさ……。 泥棒:今度はなんだよ? 男:さっきも言ったけど、
泥棒:ああもう 分かった分かった!
男:俺 おかずが無いとメシ食えねえんだよ。 泥棒:知らねえよ!
男:そうだよな……。
泥棒:うるせえなあもう!分かったよ!
男:すまないね。ありがと。
泥棒:なんだよ!
男:お前さんも知ってるだろ?
泥棒:(もう泣きそうになって)
男:すまないね。ありがと。
泥棒: 男:帰るの? 泥棒:帰るよ。 男:帰るなら、 泥棒:なんでだよ? 男: 泥棒:俺ぁ今夜は 捕まるような事してねえよ!
男:あ。
泥棒:(戻ってきて)
男:だって、名前 知らねえんだもん。 泥棒:だからって泥棒って呼ぶんじゃねえよ!
男:ちょいと頼み忘れた事があってさ。 泥棒:いい加減にしろよオイ!
男:分かってるよ。 泥棒:じゃあ何なんだよ! 男:来月も、また来てくれよ。
・泥棒(セリフ数:67)
?歳。
泥棒を生業にしてはいるものの、どこか人のいいところがあり、悪人になりきれない。
・男(セリフ数:67)
?歳。
泥棒が入った長屋に住んでいる男。大工。
・泥棒:♂
・男:♂
【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
蚊遣り(かやり)
煙をいぶして蚊を追い払う道具。
匕首(あいくち)
鍔(つば)の無い短刀。
賭場(とば)
ばくちをする所。ばくちば。
腹掛け(はらがけ)
着衣の一種。胸から腹までを覆い背中でヒモを十文字にとめて着用する。
半纏(はんてん)
羽織りに似た着衣の一種。羽織りとは違い、えりの折返し・胸ひもがない。
元の木阿弥(もとのもくあみ)
一時よくなったものが再びもとのつまらない状態に帰ること。
番所(ばんしょ)
警備や見張りのために設置された番人が詰めるために設けられた施設。
近頃はどいつもこいつも用心深くなりやがって。
どの家 見たって きちんと戸締まりしてやがるもんだから、忍び込めやしねえ……。
今晩はもう仕事できそうにねえな……。
(目の前の長屋を見て)
この長屋がダメなら、仕方ねえ、帰って寝ちまおう……。
(忍び込めそうな部屋がないか眺める)
どれどれ……。
お……!?あの奥の家、戸が
へっへっへ、ありがてぇありがてぇ。
今日はもうダメかと思ったけど、最後に運が向いてきやがった。
(忍び込む)
よぉし、そーっと、そーっと……。ん……?
(煙たい。咳こむ)ゴホッゴホッ!
なんだこりゃ、ずいぶん
ん……?なんだありゃ。
おいおい、火事になったらどうするんだ。
俺が入ってきたから良かったようなもののよぉ。
(燃えているものを見て)
ゴホッゴホッ、なんだこりゃ……?
どんぶりの中で
何考えてんだ、ここの奴ぁ。
とにかくこのままじゃ危ねえ。消しといてやるか。
よっと。
(手ぬぐいか何かでポンポンポンポンと火を叩いて消そうとしている音と声。適当でいいです)
(どうにか火を消し終わる)
ふぅ、これでよし。
まったく、
家ん中で火ぃ
しっかし……、
まぁでもな、案外こういうとこに住んでる奴が、
裏で
よーし、そいじゃ、上がらせてもらうぜ。
(穴に足がはまる)うわっ!!
びっくりしたぁ……。なんなんだよ この家は。
なんで 上がってすぐのとこに穴なんか
ん?あれ……?
この家、よく見たら 畳が
どういうことだよ。おまけに
おかげで足 取られちゃったじゃねえか。
なんだか わけの分からねえ家だな……。
さっさと
(奥の部屋に何か見える)
ん……?
なんだオイ、奥に誰かいるぞ……?
なんだよ、留守じゃなかったのかよ。
(どうやら寝ているようだ)
なんだ……?
のんきな野郎だなぁ、人の苦労も知らねえで……。
(男の枕元で)
オイ、起きろ。
起きてたのかよ!
なんだよ、俺が入って来たの見てたんなら、なんか言えよ!
なんで黙って見てるんだよ!声あげるなり何なりしろよ!
もっと用心して歩かなきゃダメだよ。
暗くて見えねえんだから。
つま先で
気を付けねえから、ほら、床の穴に足 取られちゃうんだよ。
だいたい何だよ、あの穴は。
いや俺ん
この季節になると、
そんなもん買う
畳あげて
それ燃やして 蚊を追っ払おうと思って。
危ねえだろ……。長屋が火事になったらどうすんだよ。
借りてるだけなんだから。
あのなぁ、自分の家じゃねえからって燃やしていいわけじゃねえだろ。
人様に迷惑かけるんじゃねえよ。
それからお前、床に穴が
畳くらい元通りに
夜中に入って来る奴が危ねえじゃねえか。
まぁいいや……。
オウ、出せよ。
てめえ、俺を誰だと思ってやがる!
初めて会ったよね?
(大声で)
俺 は 泥 棒 だ !!
隣は
こんな時間にそうやって「泥棒だー!」なんて大声で
飛び込んできて、お前さん、腕の1本や2本、折られちゃうよ?
(精一杯強がって)
な……なんだよ……。
こっちが知らねえと思って、いい加減なこと言いやがって……。
お、
じゃいいよ。嘘だと思うんなら、そうやって
好きなだけ大声出せば?
(ビビって ささやくように)
こういう汚ねえ家に住んでる奴に限って、
裏で
ほんとにないよ。
よぉし……、いま出しやすくしてやる。
(懐から刃物を取り出して)
ホラ、
せいぜい
これが目に入らねえのか!
そんなもんが目に入るなら、俺は
だから
それ
それがどうしたってんだよ。
やい、てめえがどうしても
この
俺が
お前さん、俺を殺すって言うのかい……?
うん。そりゃあ、ありがてえ。
てめえ、俺の言ってることが分かってんのか?
シャレや冗談じゃねえんだぞ。
本当に殺すって言ってんだぞ。
だから、ありがてえって言ってんだよ。
死にてえ死にてえと思ってたとこなんだ。
でも、自分で死ぬとなると 度胸がなくてさ。
おまえさん、いいところに来てくれたよ。
さ、殺してくれ。
さ、殺せよ。
俺 死にてえんだよ、殺してくれよ。
俺 死にてえんだよ。
な?頼むよ。
助けると思って殺してくれよ。
殺すんだか助けるんだか 分からねえじゃねえか。
俺のこと殺すって言ったじゃねえか。
さあ早く殺してくれよ。
殺せよ!殺せ!!
命を粗末にするんじゃないよ……。
どうしてそんなに死にてえんだよ……?
そうじゃなくてさ。
俺、とにかく
どうしても
それで?
道具箱を
最初の何日かは、すげえ勝って
でも、調子に乗って
取り返そうと思って 意地になって
しまいには大負けに負けて スッカラカンになっちゃって。
しばらくは どうにか食いつないでたんだけど、
とうとう何にも なくなっちゃってさ。
もう3日も 何も食ってねえんだ。
必ず損するようになってるんだ。
最初にちょいと勝たせといて、あとから その倍も3倍も
ふんだくるってのが、
その場で
わかってるんだけど、どうにも やめられねえんだなぁ……。
ずっとそうなんだ。
道具箱を
そのたんびに 親戚やら友達やらに
ちょっと仕事して
そんでまた道具箱を
これの繰り返しなんだ。
この先もずっと、こうやって同じこと繰り返すんだろうなって考えたら、
もう生きてても しょうがねえって気持ちになって……。
だからさ、殺してくれよ。殺せ!
なにも死ぬことは ねえだろ?
人間、
とにかく、死ぬなんて言わねえで、
大工が道具箱 持ってなきゃ、仕事しようにも できねえよ。
やっぱり死ぬしかねえんだ。
さ、殺してくれ。殺せ!
つくづく馬鹿な野郎だなあ。
なんで
道具箱 受け出しとかねえんだよ。
道具箱 受け出してから負けりゃいいじゃねえか。
ま、今さら言ってもしょうがねえけどよ……。
じゃあ今度だけ、また知り合いから
道具箱 受け出して来いよ。
もうさ、誰も
昨日も おとといも、心当たりの連中に当たってみたんだけど、
みんなもうイヤだって言って、誰も
だから道具箱 受け出せねえ。
道具箱 受け出せなきゃ、仕事もできねえ。
な?もう死ぬしかねえんだよ。
さ、殺してくれ。殺せ!
それじゃ、道具箱があれば、
その道具箱、いくらで入れたんだよ。
(ため息をつきつつ、懐を探って5円出す)
ほら、5円。これで道具箱 受け出して来い。
嘘つきは泥棒の始まりだよ?
嘘じゃねえよ。
ほんとにやるから、これで道具箱 受け出して来い。
なんかすまないね。ありがと。
…………。
けど……、やっぱり これ返すよ……。
俺がいいって言ってんだ。
遠慮しねえで取っとけよ。
5円だけもらっても しょうがねえから、
気持ちだけありがたく受け取って、
やっぱり死ぬしかねえんだ。
さ、殺してくれよ。殺せ!
(ため息)ハァ……
……
ほら。これで道具箱 受け出せるんだろ?
いいの……?
道具箱 受け出せなきゃ、てめえ死ぬって言うんだろ?
いいからそれで道具箱 受け出して、
――あのさ、ちょっと 俺の
なんでだよ。
(布団をめくる)
ん!?
なんだお前、フンドシ1
みんな
これは
そんなもんまで俺に払わせようってのか!
そんなことまで頼むわけには いかねえよな……。
こんな格好じゃ
ましてや仕事になんて行けやしねえ。
道具箱 受け出したってしょうがねえんだ。
だから、さっきもらった
やっぱり死ぬしかねえんだ。
さ、殺してくれ。殺せ!
2円だな?
2円ありゃ、着るモンも受け出せるんだな?
なんで こんな家 入っちゃったんだ……。
(懐を探って追加の2円を出す)
ほら、2円。
俺もう3日も何も食ってねえんだ。
仕事行こうにも、もう腹が減って、
起き上がることもできねえ。
(ため息をつきつつ、懐を探って50銭出す)
ほら!50
3日も食ってねえんだろ?
おかずとか言ってる場合じゃねえだろ!
でも俺、ほんとにおかずが
このまま俺は、飢えて死ぬんだよ。
だからさ、ひと思いに殺してくれ。殺せ!
(ため息をつきつつ、懐を探ってまたいくらか出す)
ほら!これで おかずも買ってメシ食え!
…………。
けど……、やっぱりこの
まだなんか不足があんのかよ!
職人なんてのはさ、
すぐ その日に
下手すりゃ ひと月も先だ。
やっぱり死ぬしかねえんだ。
さ、殺してくれ。殺せ!
分かったよもう!
(大きなため息をつきつつ、懐を探ってまたいくらか出す)
ほら!これで全部だ!
もう1
てめえのおかげで 俺は
これだけありゃ、
さ、取っとけ!
なんか悪いね、
とんでもねえ野郎だな、泥棒から
まぁいいや……。
いいか?
じゃあな。
捕まっちゃうよ?
じゃあな!あばよ!(立ち去る)
(間)
泥棒さーん。
おーい。
泥棒さーん!
どろぼー!
どろぼー!!
おい!何考えてんだよ この野郎!
あれだけ世話してやったのに、その恩を
なんだよ、でけえ声で泥棒泥棒って!
それで、なんだよ?
まだ何か用かよ。
俺はもう
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
柳家三三
三遊亭兼好
蜃気楼龍玉(3代目)
柳家小里ん
三遊亭金時
柳家小さん(5代目)
三遊亭金馬(3代目)
三遊亭圓遊(4代目)
五街道雲助
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp