声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
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<登場人物>
<配役> ここから本編
八五郎:こんちはァ。
ご隠居:おお、誰かと思ったら 八五郎:いやぁ、今日はちょいと、ご隠居に ご隠居:ほう、私に 八五郎:そうなんスよ。
ご隠居:(持ち上げられて まんざらでもない)
八五郎:へい。
ご隠居:あぁ、こないだ見かけたよ。
八五郎:なんてこと言うんスか。
ご隠居:妙なもの? 八五郎:そうなんスよ。
ご隠居:あぁ……それは いかんな……。
八五郎:そうそう花札――いや違いますよ。
ご隠居:ああ、それは 八五郎:おぐらやまの百人いっしょ? ご隠居:うむ。
八五郎:へぇ、そうなんスか。
ご隠居:いい男?
八五郎:そう!その ナントカのナントカ! ご隠居:ありわらの なりひら。 八五郎:長ったらしくて ややこしい名前スねぇ……。
ご隠居: 八五郎:そう!それ!
ご隠居:この歌が どうかしたのかい? 八五郎:そうなんスよォ。
ご隠居:当たり前じゃないか。 八五郎:そうなんスよ、嫁に行くまでウチにいるんスよ。
ご隠居:(歌の意味と言われると、実はよく知らない)
八五郎:そうなんスよ!教えてください!
ご隠居:ふむ……。なるほどねえ……。
八五郎:だからそう言ってるじゃねえスか!
ご隠居:ふむふむ、なるほどねぇ…………。
八五郎:ちっとも早くねえじゃねえスか!
ご隠居:ばッ……馬鹿なことを言うんじゃないよ。
八五郎:じゃ教えてくださいよ。 ご隠居:わ、わかったよ……。
八五郎:いやいや……。
ご隠居:うるさいねえ お前さんは……。
八五郎:いや、それが分からねえから聞きに来てんスよ。
ご隠居:あのねえ、分からないなら 分からないなりに 少しは考えてごらんよ。
八五郎:ああ、 ご隠居:なんスかじゃないよ。
八五郎:はあ……、まあ、思いますねえ。 ご隠居:それが 八五郎:なんだよ それ。
ご隠居:違うな。
八五郎:ひどい言われようだねえ……。
ご隠居: 八五郎:へえ~ ご隠居:そりゃあそうだ。
八五郎:へえ。 ご隠居: 八五郎: ご隠居:だが最初から強かったわけじゃない。
八五郎:ああ!なんか聞いたことがあるねえ。
ご隠居:うむ、お前さんにしてはよく知ってたね。
八五郎:別に砂糖まくこたァねえと思いますがね。 ご隠居: 八五郎:女っスか! ご隠居:そうだ。
八五郎:3年も女を ご隠居:そうだろうな。
八五郎:ほっといて下さいよ。 ご隠居:さて、めでたく出世を果たした 八五郎:へえ~!いい女ばかりなんスか! ご隠居:いかにも。いずれ劣らぬ美女ぞろいだ。
八五郎: ご隠居:そうだ。
八五郎:美しいって ご隠居:目が覚める。 八五郎:くっだらねえ……。 ご隠居:さあ 八五郎:震えましたか。 ご隠居:震えたね。
八五郎:ほォ……。
ご隠居:そうじゃないよ……。
八五郎:あっしは ないスねぇ。
ご隠居:ある。 八五郎:誰見て震えるんです? ご隠居:ウチの女房。 八五郎:美しすぎて? ご隠居:恐ろしすぎて。 八五郎:何だいそりゃあ……。 ご隠居:さて 八五郎:ありゃ、フられちまったのかい? ご隠居:そうだ。
八五郎:なんだい、また振られちゃったのかよ……。
ご隠居:そう、ガッカリだ。
八五郎:ちょちょちょ……!
ご隠居:なったっていいじゃないか。
八五郎:いやいや、それにしたって、
ご隠居:うむ。実は、 八五郎:あ、 ご隠居:そうだ。 八五郎:いや、それにしたってですよ?
ご隠居:うるさいねえお前さんは。
八五郎:まあ、そりゃそうスけどねぇ……。 ご隠居:晴れて家業を継いで 豆腐屋になった 八五郎:色んな人が出て来るんスねえ……。 ご隠居:この 八五郎:いいねえ。互いに ご隠居:好きだねぇなんて、ボーっと聞いてる場合じゃないよ。
八五郎:驚いた?
ご隠居:どうしたも こうしたも。
八五郎:へ?
ご隠居:分からないのも無理はない。
八五郎:ちょちょちょちょ!
ご隠居:おかしいかい? 八五郎:おかしいスよ!
ご隠居:なったっていいじゃないか。
八五郎:なりたくねえスよ。
ご隠居:うるさいねえ お前さんは。
八五郎:本当に当人が なりてえって言ったんスか……? ご隠居:まぁとにかく、この 八五郎:なんスか? ご隠居:お前さんなら、この時、おからをやれるかい? 八五郎:ん~。
ご隠居:そうだろう。
八五郎:飛んだんスか。 ご隠居:飛んだ飛んだ、ふっ飛んだ。
八五郎:ゴムまりみてえな女ですねえ。 ご隠居: 八五郎:へえぇ……、おもしろくなってきたねぇ。
ご隠居:出ない。 八五郎:出ない?
ご隠居:ならない。 八五郎:じゃ どう続くんです? ご隠居:どうも続かないよ。
八五郎:おしまい?
ご隠居:何が尻切れトンボだ。
八五郎:え!?
ご隠居:そうだよ。 八五郎:え、あ、そうだったんスか!
ご隠居:何を言ってるんだい。
八五郎:ああ、なるねえ!
ご隠居:3年 八五郎:あ、おからをくれねえから からくれないスか!
ご隠居:最後に 八五郎:はァ~なるほどねぇ……。
ご隠居:何がおかしいんだい? 八五郎:水をくぐるんなら、「水くぐる」で切りゃいいじゃねえスか。
ご隠居:お前さんも 八五郎:イヤそうはいきませんよ。
ご隠居:とわ……とわ……?う~ん……
・
?歳。
通称「はっつぁん」。
職人で、あまり学があるとは言えない。
娘がひとりいる。
その娘に和歌の意味を尋ねられ、困って物知りのご隠居に教えを請いに来た。
一人称は「あっし」。
・ご隠居(セリフ数:70)
?歳。
町内で 物知りとして通っている ご隠居さん。
とはいえ何でも知っているわけではなく、中途半端な物知り。
なまじ物を知っているだけに、知らないことを素直に「知らない」と言えず、
知ったかぶりをしてしまうこともしばしば。
一人称は「私」。
・八五郎:♂
・ご隠居:♂
【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
在原業平(ありわらの なりひら)
平安時代の歌人。六歌仙のひとり。
はばかり
トイレのこと。
三役(さんやく)
相撲で、大関・関脇・小結の総称。
断ち物(たちもの)
神仏に願を掛け、自分の好きなものを一定の期間やめること。
花魁道中(おいらんどうちゅう)
位の高い遊女がなじみ客を迎えるために美しく着飾って遊郭の中を練り歩いたこと。
清掻き(すががき)
歌がなく、三味線だけで奏でる音曲。
遊女を等級分けした案内書「吉原細見」の中で、最高級の花魁に付けられた印。
松の位(まつ の くらい)
遊女の最高の地位。
全盛(ぜんせい)
いちばん盛んな時期。
あちき
遊女がもちいたとされる一人称。「わちき」とも。
妹女郎(いもうとじょろう)
妹分の女郎。後輩の女郎。
夕まぐれ(ゆうまぐれ)
夕方のうすぐらいこと。ゆうぐれ。
そぼろ
ぼろぼろに乱れた衣服。
卯の花(うのはな)/おから
豆腐の絞りかす。卯の花とおからは同じもの。
了見(りょうけん)
考え。思案。
灯芯(とうしん)
あんどん・ランプなどの芯。綿糸などをより合わせて作る。
前非(ぜんぴ)
過去におかした過ち。
ご隠居、いますか?
どうしたんだい?
ご隠居は、ものをよく知ってるでしょ?
なんたって、町内で いちばんの物知りだからね。
ん?ああ、まあ そうだな。
自慢するわけじゃないが、まぁ長く生きてる分、
お前さんたちよりも ものは知ってるだろうね。
ま、お前さんたちに何を
返答に困るという事は まず ないだろう。
さ、なんでも答えてあげよう。
何が聞きたいんだい?
あの、あっしん所に、娘が1人いるんですがね。
ちょっと見ない間に ずいぶんと大きくなったねえ。
顔も お前さん そっくりになってきたなぁ。
……気の毒に。
いや、それでね、その娘が最近、
ホラ、あるでしょ?
目の前に、
それを みんなで取り合うっていう……
花札かい。
花札は あっしがやるんスよ。
そうじゃなくて、あの……、
ホラ、ひとり仲間はずれのヤツがいて、
そいつが、こう、妙~な 声と調子で、
「ナントカの~ ナントカカントカ ナントカで~~」
なんて 歌ァ うたって、
そしたら、そいつを合図に みんながウワーッと
昔
100人の人が一緒に歌を
で、その、100人だか
その中に1人、イイ男がいるって話で。
ふむ、百人いっしょの中の いい男といえば、
まあ名前は いいんスよ。
その、ナリヒラ?の歌……、どんなのでしたっけ?
からくれないに 水くぐるとは
いやぁ、さすがご隠居、よく知ってらぁ。
いやね、さっき あっしが仕事から帰って来たら、
娘のヤロウが駆け寄って来て、
この歌の意味を教えてくれだなんて言うんスよ!
んなこと急に言われたって、知るわけねえじゃねえスか。
かと言って「分からねえ」なんて言っちまったら、
親の
だから娘にね、
「ちょっと待て。
お
今ちょっと
出たら教えてやるから、ちょっと待ってろ」。
そう言って、はばかり入ったんスよ。
まぁ しばらくここでジーっとしてりゃあ、
あいつもそのうち
よくよく考えたら ウチの娘ですからね、帰るわきゃねえんスよ。
いくらなんでも 娘が嫁に行くまで はばかりで過ごすわけにゃ いきませんからね。
はばかりの
だからね ご隠居、この歌の意味を教えてもらわねえと、
あっしはウチへ帰れねえんスよぉ。
ねえご隠居、この歌いったい、どういう意味なんスか?
(でも八五郎の手前、知らないとは言えない)
ふむ…………。なるほどねえ…………。
つまり、お前さんは……、
「
この歌の、意味を、知りたいと……。
どういう意味なんスか?
要するに お前さんは……、
「千早ふる
という歌の、意味を、知りたいと……。
どういう意味なんスか?
まあつまり……、要するに……、早い話が……
あれェ……?
もしかすると、ご隠居も、この歌の意味、知らねえんスか?
私が この歌の意味を知らないなんて、そんなことはないよ。
ん~……、まぁ、まず「
まず「
やはり自然と「
となれば 物の道理から言って「
であるならば「からくれないに」となるのが
さすれば「水くぐるとは」となるのは、
もはや
なんだか難しそうな事 言ってますけど、
それ、歌を 切れぎれに言っただけじゃねえスか。
ちゃんと意味を教えてくださいよ!
わかったよ……。
ええと……、
「
お前さん、この「
何なんスか?
「川」の字が付くんだから、お前さん、これ 川の名前だと思うだろ?
じゃ
私がお前さんに
え?思うだろ?
そう思うように ご隠居が 仕向けたんじゃねえスか。
川の名前じゃねえんスか?
やれやれ、「川」の字が付くからと言って、
そのように
いや実に その
あきれ返って物も言えないな。
川の名前じゃねえなら、
あんまり聞いたことねえ名前だなぁ。
今の力士じゃない。
何百年も昔に活躍した力士だ。
厳しい世界だ、まわりには強い力士がゴマンといて、
そこで
昔の人はよくやったらしいスね。
だが
だいいち
塩を
土俵の上がアリだらけになるだろ?
女にうつつを抜かすというのが いちばん良くない。
さて
それからは女に目もくれないどころか
メス猫1匹
その努力の甲斐あって、3年
みごと
いやぁ、あっしにゃあ考えられねえなぁ。
お前さんじゃ、3年どころか、
3日と もたないだろうなぁ。
ある日のこと、
これまでだったら
もう
当時の
そこへもってきて、
第一番に
先を争い 負けず劣らず、いずれも非の打ちどころのない
さあ そこで、第三番目に出てきたのが、誰あろう、
当時、かの
この
さながら夜中の はばかりだ。
どういうことスか?
体がブルブルっと震えた。
その震えが
やっぱりマラリアで。
男というものは、
思わず体が震えるものなんだ。
お前さん、女を見て震えたことは ないかい?
ご隠居は、あるんスか?
「あぁ世の中には いい女がいるものだ。
男と生まれたからには、あんないい女と、
たとえ一晩でもいいから、しみじみと
そう言うと、
「なあに
金さえ積めば
そう言うので 掛け合ってみたんだが……。
「あちきは
と、こうきた。
と、
「なにも千早ひとりが
と言うことで、この
「ねえさんがイヤなものは、
と言って、これも言うことを聞いてくれなかった。
そりゃガッカリだねえ……。
ガッカリした
田舎で豆腐屋になった。
急展開スねぇ。
なんでいきなり豆腐屋になったんスか?
人間、なりたいと思えば何にでもなれるんだ。
豆腐屋ってのは どこから出てきたんスか?
いくら女にフられてガッカリしたからって、
豆腐屋なんかに ならなくたっていいじゃねえスか。
いいじゃないか。
当人が なりたいんだから、
お前さんがとやかく言うことじゃないだろ?
年老いた両親に苦労をかけまいと一生懸命働いた。
時の
夢のように流れ去った
いつものように
竹の杖にすがってヨロヨロと歩いてきた。 ※そぼろ・・・ぼろぼろの衣服。
「お恥ずかしい話ですが、おとといから何も口にしておりませぬゆえ、ひもじゅうてなりませぬ。
蚊の鳴くような声で願い出た。
もとより情け深い
大きな手で
「さ、たんとお上がり」。
差し出そうと見下ろす
「おありがとうございます」。
受け取ろうと見上げる
互いに
色っぽくて、あっしは好きだねぇ。
顔を
「貴様は……!」
「あなた様は……!」
どうしたんです?
この
んなもん分かるわきゃねえじゃねえスか。
誰あろう、これが3年前に
それは おかしいでしょ!
だってそうでしょ?
なんで たった3年で
人間、なりたいと思えば何にでもなれるんだ。
とりわけ
お前さんだって 今からでもなれる。
それにしたって
ちょっと信じらんねえけどなぁ……。
いいじゃないか。
当人がなりたいんだから、
お前さんが とやかく言うことじゃないだろ?
3年前に
さあそこで
いやぁ、ちょいと恨みのある女ですからねぇ……。
あっしなら やれねえかなぁ。
「貴様のおかげで俺は
そう
ベシャっと地面に叩きつけた。
そして女がおびえて逃げ出そうとすると、
その
突いた方は 力自慢の元力士。
突かれた方は 3日も物を食ってない、
ふっ飛んだな。
飛んだ先に
もし この
この
その横に、
この柳の木にすがってヨロヨロと
立ち上がった
ハラハラと
ドボーーン……!
井戸の中へ身を投げた。
それから
「うらめしや~」なんて言いながら、
こっから
この話は これでおしまいだ。
んなバカな。
それじゃ尻切れトンボだ。
いいかい?
フられたって言ったろ?
だから、
ちょちょちょ……、え!?
この話、あの歌の意味だったんスか!?
いやぁ、あんまり
あっしはまた別の話かと思ってましたよ。
お前さんが歌の意味を知りたいと言うから 教えてやってるのに。
しっかり聞いといてくれなくちゃ困るよ。
いいかい?
言うことを聞いてくれなかったろ?
だから、
なるほどなるほど。
だから、から くれないじゃないか。
そりゃ ちょっと気が付きませんよぉ。
じゃ、「水くぐるとは」ってのは?
どんな身軽な人間だって、井戸に飛び込めば
一度くらいは水をくぐるだろ?
だから水くぐるとはだ。
井戸に飛び込んで「水くぐるとは」……
ん――?
でも、ちょいとおかしくねえスか?
何なんスか?その、「水くぐるとは」のとわってのは。
とわくらいの
教えてください ご隠居、
とわってのは、何なんスか!
とわと言うのは………………、
おお!そうだ!
よ~く調べてみたら、とわと言うのは、
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
三遊亭圓楽(5代目)
柳家小さん(5代目)
柳家小三治(10代目)
三遊亭小遊三
滝川鯉昇
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp