声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
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<登場人物> <配役> 【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
八五郎:オーウ!ご隠居ォ!いるかい! ご隠居:おや、誰かと思ったら 八五郎:オウご隠居!悪いんだけどよォ、書いてくれよ。2本。急ぎで。書いてくれよ、2本。 ご隠居:ちょちょちょ…。まあ ちょいと落ち着きなよ。とりあえず、こっちにお上がり。 八五郎:オウ、邪魔するぜ。
ご隠居:ちょ、ちょいとお待ちよ…、話がよく見えないねえ。
八五郎:何をって、 ご隠居: 八五郎:んなこと言わねえで書いてくれよ。2本。急ぎで。書いてくれよ、2本。 ご隠居:ちょいとお待ちってんだよ。
八五郎:ババアだよ。 ご隠居:え? 八五郎:ババアだよ。 ご隠居:誰のことだい、そのババアってのは。 八五郎:あれ?ご隠居 知らねえの?ウチに古くからいやがるババア。
ご隠居:なんだい その 八五郎: ご隠居:何言ってんだい。
八五郎:親?なんだい親ってぇのは。つまらねえ言いがかり付けんなオイ。 ご隠居:言いがかり…?あれは お前さんの 八五郎:あれが!?冗談言っちゃいけねえよ。 ご隠居:じゃ何かい、お前さんのオカミさんの 八五郎:あ?バカなこと言うなィ。 ご隠居:親戚の 八五郎:んなワケねえだろ。 ご隠居:じゃ、その人は何なんだい? 八五郎:何なんスかねぇ…? ご隠居:どういうことだよ。
八五郎:いるんだよ…。またずいぶん古くから いやがってねぇ…。
ご隠居:そんなに長く一緒にいて、何者か分からないって言うのかい? 八五郎:そうなんだよ。3年前に死んだ ご隠居:じゃ やっぱり 八五郎:え? ご隠居:亡くなったお 八五郎:ほォ…。そういう ご隠居: 八五郎:お…?紙と筆 取り出したね。なんだ、やっぱり ご隠居:そうじゃないよ。いいから ちょいとお待ち。
八五郎:なんだい?これ。 ご隠居:私の知り合いに 八五郎:この手紙をそいつに渡せっての?なんだい、 ご隠居:そうじゃない。その手紙を渡せば、先生からお前さんに話をしてくださる。それを聞いてくるんだ。 八五郎:話を? ご隠居:うん。その先生の話を、そうだなぁ…、まぁ 八五郎:いい ご隠居:ちがうよ、 八五郎:ああ、この手紙を、そいつに渡しゃあいいんだな、分かった分かった。
ご隠居:アレって何だい? 八五郎:何ってオメエ、 ご隠居:うるさいねぇ、まだ言ってんのかい…。
八五郎:あ、そう。分かったよ。じゃ とりあえず行ってくるよ。じゃあな 八五郎:えーと、この辺だと思うんだが… (通行人に)オウ!ちょいと! 通行人:はい、なんでしょう? 八五郎:この辺によォ、べらぼうに なまけるとか何とか言うヤツの家、ねえかい? 通行人:べらぼ……なんですって? 八五郎:だからよォ、べらぼうに なまけるとか何とかって名前のよォ、あの、アレだ、
通行人: 八五郎:オウ、そうかい。ありがとよ! 八五郎:えーと、この家だな…。オーウ!いるかーい!オーウ! 紅羅坊:はいはいはい。どなたか、おいでですかな? 八五郎:オウ、オメエか?べらぼうに なまけるってのは。 紅羅坊:べ、べらぼ…?いやいや、 八五郎:ああ、オメエによぉ、手紙渡せって言うからよ、持って来たんだ。ホラ。 紅羅坊:ああ、そうでしたか。それはご苦労様なことで。では、拝見をいたしましょう。
八五郎:オウ、読み終わったかよ?
紅羅坊:あぁいえいえ、これは失礼をいたしました。
八五郎:そうだよ。 紅羅坊:あらためまして、ご挨拶を申し上げます。 八五郎:そうかい、邪魔するぜ。 紅羅坊:どうぞどうぞ。ささ、どうぞそちらの 八五郎:当たり前じゃねえか!親を殴るワケねえだろ! 紅羅坊:そうでしょうなぁ。 八五郎:蹴り倒すんだよ。 紅羅坊:蹴り倒す…!?それはまた乱暴ですな…。
八五郎:そうだろ、俺が発明したんだからな。 紅羅坊:そんなものを発明されては困りますな。
八五郎:当たり前じゃねえか。売ろうと思ったって、あんなモン誰が買うかい。 紅羅坊:あぁ…それも一理ありますなぁ…。あ、いやいや お気になさらず。
八五郎:あ、そうかい。
紅羅坊:どでえつ……??
八五郎:腹?ヘソの穴で? 紅羅坊:ヘソの穴ではございません。
八五郎:誰がタヌキだ! 紅羅坊:タヌキではございません。短気。気が短いということです。
八五郎:「お好きですかな」だと?
紅羅坊:いやいや、 八五郎:何言ってやがる。 紅羅坊:いやいやいや、 八五郎:冗談言っちゃいけねえや。
紅羅坊:いやいや、そういうことではございません。
八五郎:あ? 紅羅坊: 八五郎: 紅羅坊:お 八五郎:どうなさるもこうなさるもねえや。
紅羅坊:はり倒す…?はり倒すと言っても、これはまだ小さい小僧さんで… 八五郎:小さかろうが大きかろうが、んなこたァ関係ねえんだよ。
紅羅坊: 八五郎:当たり前だ、こちとら職人だ。 紅羅坊:はぁ、 八五郎:当たり前じゃねえか!
紅羅坊:その時、あなたはどうなさいます?
八五郎:んなワケねえだろうが! 紅羅坊:ははァ…、 八五郎:当たり前だ、こちとら職人だ。 紅羅坊:はぁ、 八五郎:あ、 紅羅坊:そこは意外と気が長いんですな…。
八五郎:当ッたり前じゃねえか!黙ってなんぞいられるか!んなもんオメエ………、え~っと…… 紅羅坊:どうなさいました?さあ、誰を相手に 八五郎:あ、当たり前じゃねえか…。こちとら黙っちゃいねえよ。だから……その…… 紅羅坊:ん?どうなさいました?黙ってはいないのでしょう?
八五郎:び、ビックリしたぁ…!きゅ、急に 紅羅坊:駆け出す…?駆け出したところで、広~い 八五郎:…。お、大きな木の下でもって、雨宿りしようじゃねえか。 紅羅坊:広~い 八五郎:…。そ、そこらの居酒屋か何かで1杯やりながら、雨が 紅羅坊:広~い 八五郎:…。そ、そこらの家の 紅羅坊:広~い 八五郎:オメエずるいなァ後から後からよォ!
紅羅坊:仕方がない…?どう 仕方がないのですか? 八五郎:どう仕方がないって…、だから…、 紅羅坊:ほう。どう 八五郎:ヤな野郎だなオメエは…。
紅羅坊:ほう…。天から降った雨だと思って 八五郎:られますかッたって、これ以上 られようがねえじゃねえか! 紅羅坊:ふむ。
八五郎:(考える)ん~~……。つまり…、じゃあ何か?
紅羅坊:まあ、そういうことです。 八五郎:ああ、なるほどなァ…。
紅羅坊:お分かりになりましたか。 八五郎:オウ、よく分かったよ。オメエの話聞いてよォ、俺は目から魚が落ちたぜ! 紅羅坊:ええと…、目から 八五郎: 紅羅坊:そ…、そうですか…。それは 八五郎:いやぁ、隠居の言うとおりだ、いい 紅羅坊:ああ、それは 八五郎:だろ?イイ話聞かしてくれて ありがとよ。
紅羅坊:あ、もうお帰りですか?
八五郎:いいってことよ。
紅羅坊:こ…、これはまた ものすごい応用でございますな…。
八五郎:おう、あばよ! 紅羅坊:あ、ちょっと…、その 八五郎:あ?何言ってんだ!
紅羅坊:は、はいッ…! 八五郎:いやぁイイ話聞いたなァ。 ご隠居:おや、 八五郎:オウ、ご隠居じゃねえか。
ご隠居:ああ、 八五郎: ご隠居:いや、私も聞いただけなんだけどね、こなだい 八五郎:ああ、そういや そんなこと言ってたな。 ご隠居:ところが、その別れ話が、前のカミさんとの間で上手く付いてなかったらしいんだな。 八五郎:というと? ご隠居:どうも前のカミさんは、まだ別れた気になってなかったらしくてねぇ。
八五郎:へぇ、んなことがあったのかい。 ご隠居:みんな言ってたよ。 八五郎:あ?どういうこったよ? ご隠居:もしお前さんがいたら、すぐに収まる 八五郎:オイオイオイ!みんな俺を何だと思ってんだよ!
ご隠居:行くって、どこへ? 八五郎: ご隠居:よしなよ。もう収まったんだから。 八五郎:いや、ちょいとヤロウに言って聞かせることがあるんだ。 ご隠居:よしなってのに。やっと収まったところなのに、お前さんが行ったら また持ち上がっちゃうだろ。 八五郎:冗談言っちゃいけねえ。今の俺は 八五郎:オーウ! 熊さん:うわぁ…マズいのが来たよ…。こっちはやっと収まったとこだってのによ…。
八五郎:おう、それはいいよ。今日はオメエに、ちょいと話があるんだ。 熊さん:な…なんだよ、あらたまって…。 八五郎:(咳払い)えー、てっきり 熊さん:え…!?オイオイ、オメエ大丈夫か…!? 八五郎:いいから黙って聞け。
熊さん:いやいや、俺はもう上がってるよ。上がるのはオメエじゃねえか。 八五郎:あ、そうか。じゃ上がるぜ。
熊さん:お手紙?俺はオメエに手紙なんざ書いてねえよ? 八五郎:いちいちうるせぇなぁ、黙って聞け。
熊さん:いやいや、 八五郎:あ、そうだった。じゃ俺んとこのババア貸すからよ。 熊さん:借りてどうすんだよ? 八五郎:蹴り倒せ。 熊さん:やだよ! 八五郎:あ、そう?
熊さん:だから 八五郎:昔から申します。
熊さん:当たり前じゃねえか!石なんぞ乗っけて 死んじまったらどうすんだ! 八五郎:いちいちうるせえってんだよ。
熊さん:難しいこと言うねぇ。 八五郎:お手紙によりますと… 熊さん:だから書いてねぇって。 八五郎:あなたはタヌキだそうで。 熊さん:どういうことだよ!クマとは呼ばれてるけど、タヌキじゃねえよ! 八五郎:人は、タヌキではいけません。 熊さん:人がタヌキになるわきゃねえだろ! 八五郎:ウナギになっていただきたい。 熊さん:う、ウナギ…!? 八五郎:ウナギのように柔らかに、グニャグニャになっていただきたい。
熊さん:そ…、そうなの…?
八五郎:気に入らぬ 風もあろうに ウナギかな
熊さん:風…?それオメエひょっとして、ウナギじゃなくてヤナギじゃねえか…?
八五郎:あ、そうだヤナギだ。
熊さん:オメエ何言ってんだ…? 八五郎:どうも、お分かりが無いようですな…。 熊さん:分かるワケねえだろ! 八五郎:では、あなたは 熊さん: 八五郎:そう。
熊さん:さっぱり分からねえ。 八五郎:お分かりが無いですか…。
熊さん:おう…、そうしてくれると助かるよ…。 八五郎:例えば…、あなたが 熊さん:危ねえなオイ! 八五郎:広~い 熊さん:こわッ!それを言うなら 馬の背を分けるじゃねえか?夕立のことだろ? 八五郎:そうそう夕立。 熊さん:バカじゃねえのか その小僧は。なんで雨降ってんのに水 八五郎:ああもう分からねえヤツだな!
熊さん:何言ってんだ。ウチへ来たのは、
・八五郎(セリフ数:111)
通称「はっつぁん」。ガラが悪い。口が悪い。気が短い。喧嘩が好き。
・ご隠居(セリフ数:35)
町内の物知り隠居。
・
心学の先生。ご隠居の知り合い。心学を修めているだけあって、物腰が柔らかく丁寧。年齢設定は特になし。
八五郎の受け答えに振り回されつつも、根気よく説いて聞かせる。ていうかなんでこんな名前なんでしょうね。
・通行人(セリフ数:3)
紅羅坊 奈丸の住まいを八五郎に教えるだけの人物。
・熊さん(セリフ数:26)
八五郎の友人。
・八五郎:♂
・ご隠居/紅羅坊/通行人/熊さん:♂
離縁状(りえんじょう)
夫が妻を離縁する際、その旨を記して渡す書状。
了見(りょうけん)
考え。思案。
唐傘(からかさ)
割り竹の骨に油紙などを張り、柄をつけて ろくろで開閉できるようにした傘。
縮緬(ちりめん)
表面に細かい「しぼ」と呼ばれる凹凸のある絹織物。
長谷川町(はせがわちょう)
東京都にあった地名。大正13年の区画整理で旧田所町と合併して現在の堀留町2丁目になった。
新道(しんみち)
ここでは「三光新道」(さんこうじんみち)のことかと。
「三光新道」は、現・堀留町2丁目(旧長谷川町)にある三光稲荷神社の前の道だそうです。
心学(しんがく)
いわゆる「石門心学(せきもんしんがく)」。石田梅岩(いしだ ばいがん)を開祖とする倫理学の一派。心の修練に重きをおく学問。
たたく。なぐる。 例)「二度も打(ぶ)った!オヤジにも打(ぶ)たれたことないのに!」
打擲(ちょうちゃく)
たたくこと。なぐること。ぶつこと。
若輩(じゃくはい)
年が若い者。また、未熟で経験が浅い者。
おこがましい
身の程しらずだ。差し出がましい。
端歌(はうた)
長唄(ながうた)などに対し、短い俗謡。三味線を伴奏として歌う。
下女/下男(げじょ/げなん)
どちらもそれぞれの性別の召使いのこと。
堀端(ほりばた)
堀のふち。
角店(かどみせ)
道の曲がり角にある店。
膏薬(こうやく)
動物のあぶらなどで薬を練り合わせた外用薬。
四里(より)
江戸時代の距離の単位「里(り)」は約4キロメートルだそうです。なので、四里は約16キロメートルですかね。
馬の背を分ける(うま の せ を わける)
馬の背の片側だけを濡らすように、ある場所では雨が降り、そのすぐ付近では晴れていることのたとえ。
原中(はらなか)
野原のまん中。
仏説(ぶっせつ)
仏が説いた教え。仏教の思想。
頭陀袋(ずだぶくろ)
僧が修行の旅をする際、経文などを入れて首にかける袋。死者の首にかける袋。
でよォ、書いてくれよ。2本。急ぎで。さ、書いてくれよ。
書いてくれ?書いてくれって、何をだい?
そんなもの、書けと頼まれたって、
人ん
それに、2本てのは何だい?まぁ
もう1本はいったい誰に渡すんだい?
あの
あのねぇ、お前さん
親を捕まえて
何なんスかねぇって…、その人は、お前さんの家にいるんだろ?
聞くところによるってえと、俺が産まれる前からいるってんだ。
(ため息)まったく
だいいちお前さんは しょっちゅう、気に入らないことがあると言っては
オカミさんや
どうもお前さんは気が短くていけない。
ちょいと待っといで。
(何かを書いている間)
これでよし。ほら
この手紙を持って、その先生を
えーと、
そこに住んでる…、名前 何てったっけ、えーと…、べらぼうに・なまける?
オウ、手紙はいいけどよぉ、アレはどうなってんだよ。
書いてくれって言ったじゃねえか
先生の話を聞いたうえで なお
その時は2本でも3本でも書いてやろうじゃないか。だから今は黙って、先生の所へ行って来な。
シンガクだかデンガクだかの先生してるって言う…
それなら、この先に、
お返事が必要なものであれば、すぐに差し上げますのでね、少々お待ちを。
どれどれ…
(差出人を見て)
ほォ、
(「ご無沙汰してます」みたいなことが書いてあって)
いやいや、
(「この八五郎というのがまた短気な男で」)
ほォほォ…。
(「毎日のように夫婦喧嘩 親子喧嘩で」)
あれまぁ…。
(「実の母親を提灯ババアよばわり」)
うわ~…。
(「時々母親を殴りさえする始末で」)
あちゃ~…。
(「それとなく ご意見をしてやってください」)
ははぁ、なるほど…。
どうでもいいけどオメエよぉ、手紙読みながらチラチラチラチラ俺の顔見やがって。
なんだよ?俺の顔に何か付いてるのかよ?
いやいや、てっきり
いささか
え~、お手紙によりますと、あなたのお
その母親を、あなたは
これは何かのお間違いでしょうな?
どのような事情がおありになるのかは存じ上げませんが、
親というものは大切にしていただきたいものでございます。
昔から申します。
親というのは
いくらお金を出して買おうと思っても、買うことはできないのです。
まぁそれとなく あなたに意見を差し上げてくれという お申し出なのですが、
ですが まぁ、お話相手くらいなら いたしましょう。
何だか知らねえけど 隠居が言うにはよォ、オメエの話を、
ひとつ、いい
何やるんだい?落語か?
いやいや、
まぁ
「耳は取り次ぎの
ただ聞き流すだけでなく、しっかりと腹に納めていただきたい。
まぁ、それぐらい しっかりと聞いていただきたいと言うことです。
え~…、お手紙によりますと、あなたは大変に その…、短気だそうで。
あなた、
こちとら
売られた
オウ、やるか?
オウ、やるのかよ?
まぁ誰しも 腹が立つ事はあるものでございましょうが、そこを、グッと我慢をしていただきたい。
気に入らぬ 風もあろうに
ムッとして 帰れば
風の吹く
南から風が吹けば北へなびく。北から風が吹けば南へなびく。
風の吹くまま 吹かぬまま。
人も
人間が
柔らかな
あなたは、「
腹が立つことがあってもグッと我慢をする。これが
では、もう少し分かりやすいお話をいたしましょうか。
そうですねぇ、例えば…、
あなたが
すると、
その
さて その時あなたは どうなさいます?
その小僧
俺はその小僧の
「テメエんとこの店か、こんなマヌケな小僧を
では、そうですねぇ…、今度は…、
風の強い日に、あなたが
すると屋根から
するとあなたは、痛いでしょう?
頭に
俺はその
「おいコラ!テメエんとこじゃ職人の
この頭のキズ どうしてくれるんだ!」
ってんで
まぁ、あなたのおっしゃりそうなことですが。
では、そこが
誰か越して来るまで待ってようじゃねえか…。
では、今度は、
あなたの頭上からザァザァと降ってまいります。
さて、あなたは先ほど、小僧さんの
この時、あなたはどうなさいます?どちらへ怒鳴り込みます?
職人で
職人で
どうなさる?ん?どうなさる?ん?どうなさる?ん?
(一喝)オイッ!!
ど、どうするって…、だから…、その…、か…、駆け出さァ!
雨は一面に降っている。とてもこの雨から逃れられるものではございません。
……。それじゃ、んなもん……もう……仕方がねえじゃねえか…。
どう
天から降った雨だと思って、
天から降った雨だと思って
天から降った雨だと思って、
人に頭を殴られたら、これは殴られたのではない、屋根から
屋根から
何事においても、心を広く持つことです。
これを
「天が
何事も、
早い話がよォ…、人を、天だと思えって、そういうことかい?
ま…、そう言われてみりゃよ…、
着物は
なるほどねぇ。オメエ、いいこと言うじゃねえか。なるほど、
あのさ、俺んとこの長屋にはさ、気の短い野郎が何人もいるんだ。俺だけじゃねえんだよ。
けどよ、
これからよ、長屋でもって騒動でもあった日にゃ、俺、今日教えてもらった
騒動おさめてやろうと思うよ!
じゃ、俺は帰るぜ。
これは
今までの俺だったら、なんだって茶の1杯も出しやがらねえんだ!って怒鳴りつけるところだがよ、
今日の俺は
オメエが茶を出さねえと思うから腹が立つんだ。天が茶を出さねえと思えば腹も立たねえ。
ま、早い話が、今日オレがここへ来た
では、お帰りになりましたら、
俺が閉めねえと思うから腹が立つんじゃねえか!天が閉めねえと思え!
ん…?なんだか長屋のまわり、ずいぶん人が出てるじゃねえか…。なんかあったのか…?
なんだい?長屋、なんかあったのかい?
ま、もう収まったみたいなんだけど。
新しい女ができたってんでカミさんと別れたって言ってたろ?
それで、今日
前のカミさんが暴れ込んで来て、死ぬの殺すの言って大騒ぎになって。
長屋の連中が
オウ、ちょいと行ってくらぁ。
お、オウ…、
(咳払い)
(咳払い)えー、お手紙によりますと…
えー、あなたのお
どのような事情があるかは存じませんが、親というものは大切にしていただきたい。
だいいちオメエいま、てめえのババア貸すから蹴り倒せとか言ってたじゃねえか!
オメエが大切にしろよ!
こうこうの したい
さればとて 親には石も 乗せられずと。
まぁワタクシがこれから申し上げるお話を、ヘソの穴で聞いていただきたい。
風の吹く
え~、ヤナギは風に逆らいませんな。南から風が吹けば、西になびき、西から風が吹けば、北になびき、
北から風が吹けば、寒いから、どうしたってキュ~っと1杯やりたくなるだろうと。
お分かりですかな?
では、もう少し分かりやすい話をいたしましょう。
すると、屋根から小僧が落ちてくる。
夏の雨は馬が降る。
と、小僧が表で水を
つまりオメエ、アレだろ?前のカミさんが暴れ込んで来たってんで腹ァ立ててんだろ?
そうじゃなくて、天が暴れ込んで来たと思え!そうすりゃ腹も立たねえ!
これ
おわり
【書き起こし人 補足】
本来の落語「天災」では、物語の終盤、八五郎は自分の女房から熊さん家の騒動を聞くのですが、女房の出番がそこだけのため、
この台本では、ご隠居から聞いたというふうにアレンジし、男2名で無理なくできる台本としました。
「自分の知ってる『天災』と違う!」とお怒りの向きもあるかもしれませんが、どうか柳の如く柔らかなお心でお赦しいただき、
楽しんでいただければ幸いです。
桂吉朝
柳家小三治(10代目)
春風亭柳橋(6代目)
柳家小さん(5代目)
春風亭柳朝(5代目)