声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
この台本は、人間国宝・故 桂米朝師匠の創作落語を声劇用の台本にしたものです。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
・上演を公開される際は、観覧無料の媒体のみで行うようお願いします。
観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
配信者へ 金銭または換金可能なアイテムやポイントを贈与できるシステムの有無は問いません。
ただし、ことさらリスナーに金銭やアイテム等の贈与を求めるような行為は おやめください。
・無料公開上演の録画は残してくださってかまいません(動画化して投稿することはご遠慮ください)。
録画の公開期間も問いません。
・当ページの台本を利用しての有料上演はご遠慮ください。
・当ページの台本を用いて作成した物品やデジタルデータコンテンツの販売はご遠慮ください。
・当ページの台本を用いて作成した動画の投稿はご遠慮ください。
・台本利用に際して、当方への報告等は必要ありません。
<登場人物> <配役>
ここから本編
ヒデ:(往来で老紳士を呼び止める)
老紳士:(呼び止められたのに気付く)
ヒデ:いや、こりゃどうも、こんな 老紳士:はあ、なんでしょう? ヒデ:まあ 立ち話も 何ですからねぇ。
老紳士:はぁ……、そこまで おっしゃるなら……。
ヒデ:こりゃどうも! ありがとうごぜえやす!
ヒデ:(茶店の店員に)
老紳士:これですか?
ヒデ:実は、その 老紳士:はぁ?え、何ですって? ヒデ:いや、ですからね、その 老紳士:いやいや ちょっと待ってください。
ヒデ:いや、旦那は ご存知ない事なんですがね……、
老紳士:ええっ!? お前さん スリなのかい!? ヒデ:シーッ!! 大声出しちゃ いけませんや。
老紳士:はあ……。 ヒデ:実は、あっしらの仲間の ある男が、その 老紳士:ええと……。
ヒデ:あるんですなァ これが。
老紳士:はぁ……、なるほど……。 ヒデ:で、あっしも旦那の 老紳士:10円……?
ヒデ:いやいや、とてもじゃねえが、元なんざ取れやしません。
老紳士:ちょちょちょ……、
ヒデ:売ってくださる!?
老紳士:はっはっは。わかりました。
ヒデ:ええ、お 老紳士:ああ いえいえ。
ヒデ:いやいや とんでもねえ!
老紳士:行っちまった……。
ヒデ:(スリのたまり場。集まったスリ仲間たちに向けて)
兄貴:おうヒデ、ずいぶんと売り出してるじゃねえか。 ヒデ:ああ、アニキ! 兄貴:よせやいアニキなんて。
ヒデ:ま~た始まったぜ、アニキの説教。
兄貴:馬鹿なこと言ってんじゃねえや。
ヒデ:しょうがねえじゃねえか!
兄貴:ほォ……。偉そうなこと 言うじゃねえか。
ヒデ:おいアニキ、妙な 言いがかりは 勘弁 願いてえな。
兄貴:…… ヒデ: 兄貴:やっぱりオメエだったんだな……。
ヒデ:ええっ!? 兄貴:長屋の連中が すぐに その子を 引き上げた。
ヒデ:…………。
兄貴:俺に謝ったって どうしようもねえだろうが。
ヒデ:勘弁してくれ……! これに免じて……!
兄貴:ヒデ!! この馬鹿野郎!!
ヒデ:(激痛。意識も朦朧。涙ながらに)
兄貴:わかった。わかったから ジッとしてろ。
ヒデ:けどアニキ……、
兄貴:当たり前じゃねえか。
ヒデ:お 兄貴:わかった。だからもう あんまり喋んな、傷に さわる。
ヒデ:アニキ、昨日は 騒がしちまって、すまねえ……。 兄貴:おうヒデ!上がれ上がれ。
ヒデ:俺の手なんざ どうだっていいんだ。
兄貴:生きてるよ。
ヒデ:医者に見せてねえのか? 兄貴:そりゃ見せたさ。
ヒデ:どっかに いい医者は いねえのかよ! 兄貴:まぁ、いねえことも ねぇんだがな……。
ヒデ:じゃ、そいつに頼みゃ いいじゃねえか! 兄貴:今朝 頼んだんだ。
ヒデ:ええ!? 兄貴:けど、すぐに 入院させて、しかるべき手を 尽くしたら、
ヒデ:……。
兄貴:ああ、また ヒデ:……。
兄貴:ん?
ヒデ:(帰って来る)アニキ。 兄貴:おうヒデ。
ヒデ:(兄貴の前に財布を出す)
兄貴:おい、なんだよ この財布。 ヒデ:そん中に、4、50円 入ってるはずなんだ。 兄貴:オメエ……、コレどうしたんだ……? ヒデ:俺が 酒屋の前に行ったら、 兄貴:なんだとォ……? ヒデ:アニキぃ、そんな顔しないでくれよぉ……。
兄貴:そりゃまあ……、子供の命に 関わることだ、
ヒデ:アニキ、
・ヒデ(セリフ数:42)
腕利きのスリ。
・兄貴(セリフ数:25)
ヒデの兄貴分。元スリだが、今は足を洗って堅気になっている。
・老紳士(セリフ数:15)
身なりの良い老紳士。腰に提げた煙草入れをスリ達に狙われる。
・ヒデ:♂
・兄貴/老紳士:♂
【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
京都およびその付近一帯をさす語。また広くは畿内地方。京阪地方。関西地方。
神社・寺の境内にある商店街。
壁塗り職人。
米を買う金もない(従って釜を使うことがない)ほど貧窮すること。
つばのない短刀。
西洋に旅行・留学すること。
9割がた。おおかた。ほぼ間違いなく。
責任をもって,確かに約束を果たすと引き受ける。
人力俥(じんりきしゃ)を引く職業の人。
旦那!
ちょいと!そこの旦那!
私ですか?
実はその……、ちょいと旦那に お
ああ いやいや、お手間は 取らせねえんで、
ちょいと そこの
いやもう、すぐに
わかりました。ご一緒しましょう。
では、参りやしょうか。
オウッ、ごめんよッ!
(老紳士に)
さ、どうぞ旦那、そちらへ お座りんなって くだせえ。
いやどうも、見ず知らずの人間が いきなり 呼び止めたりして、
申し訳ねえことで ござんした。
それで……、お
旦那、ずいぶんと いい
……ええまあ、いいと言うほどの物でも ありませんが、
まぁ気に入って 使っております。
……この
あっしが 3円で 買ったんで ござんすよ。
お前さんとは 今日 初めて会ったんですよ?
ましてや
私は この
(甘酒が運ばれてくる)
(店員に)
あ、オウ、
(老紳士に)
ま、どうぞ、
旦那、実は あっしねぇ ――
、スリなんスよ。
そんなに驚いてもらっちゃ 困りやすよ。
こっちは 腹を割って 話してるんですから。
「いい
旦那の
「こりゃ難しいや」と思ってるところへ、また別の仲間が来て。
いや スリ仲間なんてのはね、見たらすぐに 分かるんスよ、
「ああ、アレ狙ってやがるな」ってな具合にね。
で、
「いい
「いやそれが抜けねえんだ」
「何言ってんだ、あんな老いぼれ…… いやその、
(咳払い)「あんな お年寄りが
「それが どォしても抜けねえんだ」
「よし!じゃあ俺が 1円で買った!」
てなワケで、そいつが1円で、その
つまり、その 腰に
ま、
スリの世界では、そういうことが あるんですか……?
で、その男、1円出した手前、どうしたって
モノにしなきゃ ならねえってんで、
旦那の
聞いたとおり 旦那の
「なるほど こいつァ難しいな」ってんで
手を出せないで いるところへ、また別の仲間が 来て。
こいつは
あっしら
まァ実に イイ仕事をする男で。
こいつが「よっしゃ ワイに 2円で売れ」ってんで、
2円出して、旦那の
で、あっしも ちょうど その近くを ブラブラしてて
たまたま その話を 聞いたもんスからね、
こいつァ面白ぇと思って
しばらくして ハヤブサに 追いついたんですがね、
結局こいつも まだ抜けずに「難しい、難しい」って言って
頭かかえてやがるんスよ。
そこで あっしが、「よし、俺が3円で買った!」ってんで、
3円出して買ったと、こういうワケでしてねえ。
なるほど 仲間が 手こずるわけだ。
何でもないように見える 旦那の
これっぽっちも スキが
さすがの あっしも、こんなに難しいシゴトは 初めてだと 腰が引けたんだが、
それでも、人ごみン中だったら なんとかなるかもしれねぇと思って、
人に
どォ~しても 抜けねえ。
人も
こりゃもう 仕事にならねえと 思いやしてね……、
恥を忍んで、こうして 声を お掛けしたと、
こういうワケなんで。
旦那 ――
あっしの見たところ、15、6円から、20円近く お出しになった
いかがなモンでしょうねえ、
あっしに、10円で
しかしお前さん、さっきの話だと、その、抜き取る権利……でしたかな?
それを買うために、もうすでに 3円 出してらっしゃるんでしょう?
それを、今 また10円 出すと おっしゃる。しめて13円。
13円も出して、元が 取れるものですか?
あっしら相手の 商売人なんてのは、足元 見てきやがるんでね、
これだけの品物 持って行ったって、
まぁせいぜい 4円か、いっても4円50
でもね旦那、こいつァ
仲間が集まってる前で 旦那の
「どうだ!おめえらが 抜けなかった
そう言って 自慢してえだけなんで。
(頭を下げる)
お
まあまあ、どうか頭を 上げてください。
なるほどねぇ……。
いや、私は しがない
よくわかりますよ。
ふむ、せっかく こうして 腹を割って 話して下さったことだし……、
では10円で、買っていただくとしましょうか。
ありがとうごぜえやす!
じゃ、お気の 変わらねえうちに。
10円、どうぞ 受け取ってくだせえ。
で、そちらの
へい、確かに
あ、このことなんですがね、誰にも おっしゃらねえように、
どうか
バレちまったら カッコがつかねえんで……。
では、我々だけの 秘密ということで。
では、これで あっしの お
どうも、お時間 取らせちまって 悪うござんした。
では、ここの
わざわざ 付いてきてもらったんだ、あっしが 払いやすよ。
(茶店の店員に)
オウ、すまねえ! いくらだい?
オウ そうかい、じゃ ここ 置いとくぜ。
あァ 釣りは いらねえ、取っといてくれ。
(老紳士に)
旦那、どうも ありがとうござんした。
それでは、くれぐれも ご内密に。
じゃ、あっしはこれで。(去る)
不思議なことも あるもんだねぇ……。
それにしても、
ワシの腰の物を 抜き取ることができなかったとは、
ワシも なかなか 捨てたモンじゃないな。
まんざら 悪い気もしないねぇ。
それに あの
あれだけ使って 10円で売れたんなら、
今日は思わぬことで 10円なんて金が入ったし、
これから どこかで一杯……………………ん…………?
あれ…………?
財布がない!!
どうだ オメエら、仕事ってのァ こういう具合に やるんだ。
いいか?
オメエらはよォ、
もう
それじゃ ダメなんだよ。
仕事がしやすいように、財布に 形を変えてやりゃあ いいんだよ。
これが
その財布に 形を変えるのに 10円かかろうが 20円かかろうが、
その
世の中が チョンマゲ捨てて 明治へと 変わったんだぜ?
これからは
俺はもう 綺麗に 足 洗って、今じゃ カタギだ、
お仲間扱いは 勘弁してくれ。
しかしオメエは 頭の働く男だなァ。
そこで オメエの話 聞いてて、俺ァ 感心したぜ。
なぁヒデ、それだけの
いい方へ 向けりゃあ オメエ、何やったって 一人前以上の人間に なれると思うぜ?
どうだい、このへんで 心 入れ替えて、足 洗う気にゃあ ならねえか?
もう 勘弁してくれよ。
あのなアニキ、俺とアニキとは 違うんだよ。
アニキは、間違って こんな世界に来ちまったんだ。
もともと カタギになって 当たり前の人間なんだ。
俺は違うぜ?
オギャアと生まれた時から この世界だ。
自慢にも なりゃしねえけど、俺ァ 親に
そう言われて 育ってきたんだ。
今さら どうにも ならねえじゃねえか。
それよりアニキ、アニキの方こそ、今じゃつまらねえ
こまけえ
もったいねえなァ、こっちの
何十倍も
どうだいアニキ、心 入れ替えて、またこっちに戻る気は ねえかい?
俺ァ 真面目な話を してんだぜ?
それと言うのも、オメエという人間が もったいねえと思うからだ。
他の連中に こんなことは言わねえよ。
なぁヒデよォ――、
オメエ 一生 こんなこと 続けるつもりか?
オメエの人生、それでいいのか?
今さら
俺ァこれ以外、なんのウデも ねえんだ。
――けどアニキ、ひとつだけ 言わせてもらうぜ?
俺はなァ、ここいらの連中みてえに、
そんな気持ちだけは 持ってねえぜ?
はばかりながら、俺ァ「あくどいシゴト」ってヤツだけは したことねえんだ。
この
いっぺんだって 狙ったことはねえ。
これくらいの
ヘタに
狙ったことはねえんだ。
これだけはなァ、ハッキリ言っとくぜ。
じゃオメエに
今日 ウチの長屋で、オメエ、シゴトしなかったか?
たしかに アニキの長屋へは 行ったよ。
近所を 通りかかったから ちょいと 寄ってみたんだ。
けどアニキは留守だって言うから すぐ帰ってきたんだ。
言っちゃあ悪いがよ、あんな
それも アニキが住んでる 長屋だぜ?
そんなとこで 俺が 仕事なんざ するワケねえじゃねえか。
ああ、アレか!
なんだよ、俺が 長屋から 何か
ビックリしちまったよ。
なんだ、あの笛のことか。
ああ、アレだったら アニキの言うとおり、俺だよ。
いや、帰りがけに あの
何やってんだと思って ヒョイと見てみたら、
いろんな色の オモチャの笛、あれを 下ろしてるところでよ。
ガキどもは 大喜びだ。
もう手に取って ピィピィ鳴らしてるヤツもいりゃあ、
どの色の笛にしようか 迷ってるヤツもいる。
みんな楽しそうに 騒いでるってのに、そっから ちょいと離れた所によ、
ひとりだけ ポツンと立ってる ボウズがいたんだ。
髪も バサバサに伸びた みすぼらしいガキでよ。
仲間に入りたそうな顔して 立ってんだ。
しばらくは 指くわえて 眺めてたんだが、
みんなが あんまり面白そうに 騒いでるもんだから、
遠慮しながら寄って行って、笛を1本 手に取った。
そしたら、あの
前から いけ好かねえババアだと思ってたが
おっそろしい顔して その子の持ってた笛 ひったくってよォ、、
「
こんなこと
俺ァ なんだか ガキの
カーッと来ちまったもんだからよォ、
通りがけに その笛 ひとつ取って、
その子の
それが どうかしたかい?
あの
その子が気付かねえうちに
何だろと思って 探ってみりゃあ、買った覚えのねえ笛だ。
妙だとは思ったが、そこは子供だ、
ましてや 欲しかった笛、どうしたって 吹きたくもなるさ。
口へ持ってって ピィと鳴らしてみた。
そしたら ババアが 目ざとく 見付けやがって、
「オマエに買ってもらった覚えはない。さては
そう言って、父親のところへ 引っ立てて 行っちまった。
その子の お
おっかさんは 何年か前に 死んじまって、父ひとり 子ひとりの 二人暮らし。
お
だが 貧しくても 元は
てめえの息子が
「貧乏はしても、
そう言って、その子を 放り出しちまった。
長屋の連中が なだめようとしたって 聞く耳 持たねえ。
その子は 涙ながらに 「覚えがない」と訴えたが、
現に
家から 閉め出されちまった。
はじめのうちは ワァワァ泣いてたんだが、
しばらくして 泣き声が 止んだかと思うと、妙な音がした。
長屋の連中が 慌てて 飛び出してみるってえと……、かわいそうに……、
その子なぁ、井戸に 身を 投げたんだ!
どうにか 息は吹き返したが、気ィ失ったまま、
いまだに 目ェ覚まさねえ……。
おいヒデ、さっきの 口ぶりよォ ――
もしかして オメエ、いい事 した気にでも なってたんじゃねえのか?
子供が かわいそうだと思ったんなら、たかが 5
どうして
それが
オイ、テメエ さっき何て言ってた?
ずいぶん 偉そうなこと
この
この
どんな
その
オメエ いっぺんでも 考えたことあんのか!
でけえ口 たたいてんじゃねえ!!
アニキ…………、
すまねえ…………。
オイ、もし あの子が死んだら、オメエどうするつもりだ?
どう言って 親に 詫び入れるつもりだ!
ふんッ!!(懐から刃物を取り出して右手の人差し指と中指を叩っ切る) ぐぁッ!!
(周囲の連中に)
オイ誰か! 急いで
このバカ、テメエの 指2本、切り落としやがった!
(誰かが布きれ持ってくる)
おう、
右手だ右手!
人差し指と中指の
きつく しばれ! とにかく血を止めろ!
落としちまった指は……もう しょうがねえ……。
アニキ……、俺、今日限り スリやめる…………
足……洗うよ…………。
(布きれ巻いてる奴に)
おう、もっと グルグル巻きにして ――
よし、そこんとこで しっかり くくってやれ。
ふぅ、とりあえず そんなもんでいいだろ。
(また別の奴に)
ああ、そこの
そんな
まったく、なんてバカなマネ しやがるんだ……。
俺みてえな、
カタギになんて、なれんのかな……。
オメエは 何だってできる 能があるんだ。
俺に任しとけ。
俺を、人並みの カタギにしてくれ……、このとおりだ……。
オメエほどの人間だ。どんなことがあっても、俺が 一人前の男に してやる。
いいか?これから すぐ医者へ行け。
血が止まって 落ち着いたら、明日でも あさってでもいい、
俺んところへ来い、わかったな?
(周囲の連中に)
おうオメエら、2、3人 付き添ってよぉ、
コイツ 医者へ 連れてってやれ。
右手の具合は どうだ? もう痛まねえか?
あの子、まだ生きてるか?
死んじまったか……?
あの子に 死なれちまったら、
俺ァ どうしていいか分からねえ……。
生きてるか……?
……ただ生きてるってだけの話だけどな……。
気ィ失ったまま、まだ目ェ 覚まさねえ……。
けど こんな
当たりさわりのねえこと 言って 帰っていくだけだ。
ほら、
そこの
なんでも
まぁとにかく ウデは いいらしいんだ。
ところがよ、困ったことに この医者、
金が好きで 貧乏人が嫌いなんだ。
頭 下げて 頼みこんで、どうにか 長屋に 来てもらってよ、
いちばん
まぁそれでも、
その医者が言うには、このまま 放っておいたら、
この子は 元通り 元気になる、間違いなく
「それじゃ先生、その入院てヤツを」と言いかけたら、その医者、
「
「この紙に書いてある内容を よく読んで、
それだけ言って 帰ってったよ。
20円だとよ。
あっさり言ってくれるじゃねえか。
そんな大金、長屋じゅうの
用意できるかどうか 怪しいもんだぜ。
裏のタケんところよォ、昨日 カカアが 8
「
8
俺ァ今日ほど
アニキ、その医者、今どこにいるんだい……?
今ごろは
そうやって いい
いい身分なもんだぜ。
そうか……。
アニキ、すまねえ、俺ちょっと出てくる。(席を立つ)
おいヒデ、オメエ 頼みに行くつもりか?
やめとけやめとけ、
オイ! オーイ!
行っちまいやがった……。
ダメだったろ?
しょうがねえんだ、ああいう
アニキ、何も言わねえで、この
あの医者を 送ってくために 待ってるヤツだ。
見たら、
俺、
そしたら、お医者のセンセイが 出て来て。
酔って
俺、すれ違いざまに、ヒョっと、こう…………、そいつの
約束 やぶっちまったのは 悪かった……。
けどよぉ、あの子に 死なれちまったら、
俺ァもう どうしていいか 分からねえんだ……。
この
また向こうへ 帰るんじゃねえか。
頼むよアニキ。
俺だって このまま
けど、今 俺が名乗って出たら、あの子を助けられねえ……。
この
俺、
だからアニキ、今回だけ、見逃してくれ!お
見逃すも 見逃さねえも ねえけどよぉ……。
しかし オメエは 名人だなぁオイ。
右手の 人差し指と 中指、指 2本も 落として、
よく これだけの 仕事が できたな!
実は俺、
おわり
桂米朝(3代目)
林家正蔵(9代目)