声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
この台本は、人間国宝・故 桂米朝師匠の創作落語を声劇用の台本にしたものです。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
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観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
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ただし、ことさらリスナーに金銭やアイテム等の贈与を求めるような行為は おやめください。
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<登場人物> <配役> 【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
ヒデ:旦那!もし、 老紳士:私ですか? ヒデ:えらい、突然声かけて、あいすまんこってす。
老紳士:何でおまっしゃろ? ヒデ:立ち話も何でっし…。
老紳士:はぁ、そこまでおっしゃるなら…。
ヒデ:こらおおきにありがとうございます。
ヒデ:どうぞ、どうぞまぁそこへお掛けやす。
老紳士:これですか?
ヒデ:実はその 老紳士:はぁ?私ゃ売った覚えはないが。 ヒデ:いや、あんさんはご存じないこってんねやが…、
老紳士:えっ!?あんさんスリ!? ヒデ:シーッ!!声が 老紳士:はぁ…。 ヒデ:実は、我々の仲間のある男が、あんさんのその 老紳士:へェ~ッ!そういうことがあるんですか! ヒデ:そういうことがございまんねん。
老紳士:はぁ…。しかしあんた、さき3円出してなはる。
ヒデ:アホらしい、んなもん引き合いますかいな。
老紳士:そないまで言われたら断りにくいなコレせやけど…。
ヒデ:えらいすんまへん 老紳士:はあ…。ほな、内緒ということで…。 ヒデ:おおきにありがとうおます!
老紳士:ああいえいえ。ではここの甘酒代は私が… ヒデ:いやいやアホらしぃ!私が払いますがな。
老紳士: ヒデ:どや皆、仕事というものはこういう具合にせなあかんぞオマエら。
兄貴:ヒデ、えらい売り出してるやないかい。 ヒデ:おおアニキお越し。 兄貴:アニキてなこと言わんといてくれ。今では綺麗に足を ヒデ:また始まったアニキの説教、もォ 兄貴:何を ヒデ:しゃあないやないかい!今さら大工にも 兄貴:ほォ…。偉そうなこと言いやがったな。
ヒデ:おかしなこと言わんといてやオイ。
兄貴:… ヒデ: 兄貴:やっぱりオマエやったんやな…。 ヒデ:え!? 兄貴:長屋のもんがびっくりして、じきに引き上げた。
ヒデ:……すまん… 兄貴:ワシに謝ったかてしゃぁないやないかい。
ヒデ: 兄貴:何をすんねん!
ヒデ:アニキ…、ワイ今日限りスリやめる…カタギになる…。 兄貴:わかった。わかったさかいジッとしてえ。
ヒデ:せやけどアニキ…、ワイ 兄貴:わかった。オマエだけの人間や。どんなことがあってもワシが一人前の男にしてみせる。
ヒデ:アニキ、昨日は騒がしてすまん…。 兄貴:おうヒデ。こっち入れ。右手はどうや?もう痛まんか? ヒデ:ワイの手ェみたいなどぉでもええねん。
兄貴:まだ生きてる。……というだけのこっちゃ。
ヒデ:医者は!? 兄貴:そら医者にも見したわい。せやけどこんな貧乏長屋に来てくれるような医者のテコに合うかいな。
ヒデ:どこぞにええ医者はおらんのかい!? 兄貴:そこにな、 ヒデ:…。その医者はもう 兄貴:いや。またあの酒屋戻ってな、 ヒデ:…。さよか…。まだ、おるか…。 兄貴:ん?ああ、あけへんあけへん、頼んだかてアカンねや。
ヒデ:アニキ、何にも言わんとなァ、この金で、子供入院さしたってくれ! 兄貴:何じゃ?この財布。 ヒデ:4,50円入ってるはずや。 兄貴:どないしたんやオマエこれ。 ヒデ:いやあの 兄貴:そらまぁ…、人間の命に関わるこっちゃさかい、見逃すも見逃さんもないけど………
ヒデ:アニキ、実はワイ
・ヒデ(セリフ数:35)
腕利きのスリ。
・兄貴(セリフ数:20)
ヒデの兄貴分。元スリだが、今は足を洗って堅気になっている。
・老紳士(セリフ数:13)
身なりの良い老紳士。腰に提げた煙草入れをスリ達に狙われる。
・ヒデ:♂
・兄貴/老紳士:♂
チボ
スリのこと。
今日ら(きょうら)
このごろ。
引き合う(ひきあう)
割にあう。もうけがある。
覚悟の前(かくご の まえ)
覚悟の上。
ねがけてるさかい
狙っているから ※「ねがける」=狙う、目をつける。
あけへん
あかん。駄目だ。
得心(とくしん)
納得すること。
おまはん
おまえさん。
左官(しゃかん)
左官(さかん)と同じ。壁塗り職人。
釜のふたが開かない(かまの ふたが あかない)
米を買う金もない(従って釜を使うことがない)ほど貧窮すること。
端(はな)
物事の初め。最初。
最前(さいぜん)
さっき。先刻。
頬桁を叩く(ほおげた を たたく)
口をきく。しゃべる。言う。(非難の意を込めた表現)
匕首(あいくち)
つばのない短刀。
高高指(たかたかゆび)
なかゆび。「丈高指(たけたかゆび)」の転。
あんじょう
いいぐあいに。うまく。
テコに合わない(てこ に あわない)
手に負えない。
洋行(ようこう)
西洋に旅行・留学すること。
責任をもって,確かに約束を果たすと引き受ける。
去ぬ(いぬ)
行ってしまう。去る。「往ぬ」とも。
すっくり
すっかり。すべて。
しないな
しなさんな。「そんな顔しないな」=「そんな顔しなさんな」。
俥夫(しゃふ)
人力俥(じんりきしゃ)を引く職業の人。
ぎっちょ
左きき。
実はその…、ちょっとお願いの筋がございますねやが…。
いえ、決してお手間は取らせまへんねやが…、ちょっとそこの
いえ、じきに済むこっておます。お手間は取らせまへんよってに。
わかりました。ほなご一緒しましょか。
ほな、参りましょか。
(茶店の店員に)お
えらいどうも、見ず知らずの人間が道の真ん中で突然呼び止めまして、申し訳ないこっておます。
お願いの筋と申しますんは……、あんさん、えらいええ
…ええまぁ、ええと言うほどのもんでもないが、まぁ気に入って
これがどうぞいたしましたか?
(甘酒が運ばれてくる)
あ、ああ、甘酒おおきに。
ま、どうぞ飲みながら。
実はわたくしはその……、大阪のチボ、スリでおまんねや。
そないびっくりしてもぉたら困ります。こっちから、割ってお話をしとりまんのんで。
ええ
あんさんのお
ほて、
いやこらもう、スリ仲間てな見たらじきに分かりまんねん、
「ああ、あれ
ほて
「ええ
「それが抜かれへんねん」
「なんでよぉ抜かんねんあんな老いぼれ」…いやその…、こらどォも…、
ま、陰ではどんなこっても言いまんがな、どうぞご勘弁を。
いやほんで、
「あんなお年寄りが提げてはる
「いやもうどォしても抜けんねん」
「よし!俺に1円で売れ!」
…ちゅうてそいつが1円で買いよりましてん。その、腰につけたままで。
まぁ、
ほてこいつは1円出したもんやさかい、どうでも仕事にせんならんちゅうわけで、お
なるほど、なんでもないように見えて、お
こいつは、もともと江戸っ子でな、我々の仲間で「はやぶさ」とあだ名を取った、こらなかなかエエ仕事をするヤツで。
「よしッ!おいらが一番!」ちゅうてコイツが2円出して買い取りまして。ほて、
で、私も
「こらおもしろい」ちゅうんで、じきに
「よォしワイに3円で売れ」ちゅうてまァ、3円で
なるほど仲間が手こずったはずや。
なんでもないように見える旦那のお
大阪、
もぉ恥を忍んで、一番当たって砕けぃと思てまァ、お声を掛けさしてもろたような訳で。
…どうでおまっしゃろ、それなァ、値段を付けて申し訳ないが、
15、6円から20円近くはお出しになった
飽きが来て、道具屋へ払い下げたと思うて、どうでおまっしゃろ、それ私にひとつ、
10円で譲っていただけまへんやろか?
今また10円出して…、この品物、13円も出して引き合いますか?
私らのもんばっかり
これだけの
せやけど損は
「皆がどぉにもならなんだヤツを俺が見事に抜いてきたやろ」と自慢したいだけでお願いしとりまんねや。
どうでおまっしゃろな、ひとつ、10円で 曲げてお願いできまへんやろか?
ん~…ほなまぁ……、せっかく打ち明けて言うてくれはったんやさかい…、ほな10円で、
ほしたら、気の変わらんうちにコレ、へェ。ええ、確かにちょうだいいたしました。
え~…どうぞあの、これ内緒にお願いします。こんな話あんまり自慢になるもんやおまへんさかい。
エエ、こいで私のお願い、話ちゅうんは
いやホンマ、お時間取らして申し訳ないこっておました。
(茶店の店員に)
お
ん、さよか。ほなここ置いとくで。あァ釣りはいらん釣りはいらん。
(老紳士に)
では
……しかし不思議なことがあるもんじゃなァ~、へェ~エ。
ま、しかし、
悪い気もせんわい。
あの
思わぬことで今日は10円てな金が…、……
かねが……………………
財布がない!!
ええか?オマエらなぁ、
財布のほうが仕事がしやすいねん、そらせや。
その財布に形を変えるのに10円かかろうが20円かかろうが、その
世の中がちょんまげ切り落として明治と変わったんじゃ。
これからは
しかしオマエはえらい男やなぁ、ええ?
わしゃそこで聞いてて
なあ、それだけの
心入れ替えてひとつ、足洗う気にはならんかい。
そらなぁ、アンタとワイとは違うねん。
おまはんはなぁ、
ワイは違うで。オギャアと生まれた時からこの世界や。
自慢にもならんけど、ワイ親父に
「菓子が欲しい
それよりアニキ、おまはんこの頃なさけない商売してるそやなァ。
もったいないなァあれだけの腕、ええ?
どや、心入れ替えてもっぺん戻る気ないか?
お前という人間が勿体ないと思うさかいこんなこと言うてんねや、他のもんにはこんなこと言わへんわい。
オマエ一生こんなことしてる気ィかい。
その代わりなぁ、ワイはここらの連中みたいに、
これだけはちょっと言わしてもらうわ。
はばかりながらワイは「悪どい仕事」ちゅうやつだけはしたことないで。
この金がなかったら明日の釜のふたが開かんてな奴の
これくらいの金この人にあってもなかっても別にどうっちゅうこともないような人の
こんな奴にこんな金、持たさんほうが世の中のためやちゅうような奴の
せやからワイは年中貧乏してんねや。
これだけはなァちょっと言わしといてもらうわ。
んならオマエ、今日ウチの長屋でなんであんなマネしたんや?
たしかに長屋へは
せやけどアニキ留守やちゅうさかい、じきに帰ってきたんや。
言うてすまんけどあんな貧乏長屋で、それもアニキが住んでる長屋で、なんでワイが仕事したりすんねん!
あァ~~、何を言うのかと思たらアレかい。ああ、あらワイや。
いやな、おまはん留守やちゅうさかい帰りかけたんや。
ふっと見たらあの角の
何かいなァと思たら、
赤やら青やらに染めたぁるなァ、あれをおろしてたとこや。
子供が集まってきて、こいつを、ピィピィピィピィ吹いてる奴がある、
あれ
一人だけちょっと離れた所でな、みすぼらしい洗いざらしの着物着て、髪バサバサに伸びた、
指くわえて見てたけど、皆があんまりおもしろそうにしてるもんやさかい、
自分も遠慮しながらそばへ寄って
あっこの
「
ワイ ムカ~ッときてな、
通りしなにあの笛ひとつシュッと取ってその子の
あの
子供
おかしいなぁとは思たけどそこは子供や、口ぃ持っていてピィと鳴らすわい。
ほんなら
「お前に
ちゅうて親父のとこへ引ったてて
あの子のお
腰の立たんような病気になってな。母親はとうに死んでおらへんねや。
「貧乏はしても
長屋のもんが謝ってやっても聞くような親父やあらへん。
子供が泣いて「覚えがない」と言うたかて現に
閉め出されてしもて。
近所のもんが出てみたら、かわいそうに……、子供、井戸へ身ィ投げたで!
息は吹き返したけれども、どっか打ちよったんかな…、ず~っと寝たきりで今だに気が付かん。
ワシゃ仕事から帰ってきてこの話聞いてオマエが来たちゅうこと聞いたさかい、
こらひょっとしたらヒデの
おい、オマエ何ぞええ事でもしたように思てたんと違うか?
子供がかわいそうやと思たら、たかだか5
それが
ワレ
この金がなかったら困る奴の
どんな恰好してようと誰が持ってようと、その金がどんな事情のある金か、
生意気な
この子が死んだら、オマエ親にどない言うて申し訳する気やねん。
どないすんねん!!
ふんッ!!(懐から刃物を取り出して右手の人差し指と中指を叩っ切る) ぐぁッ!!
(周囲の連中に)
オイ!誰か!布きれかなんか持ってきてくれ!!このドアホ、
(誰かが布きれ持ってくる)
おう布きれおおきに。右手じゃ右手。
人差し指と
(布きれ巻いてる奴に)
おう、力いっぱいくくれよ。
(また別の奴に)
ああ、そこのもん、その
思い切ったことやりやがったなこいつ…。
じきに医者へ行け医者へ。血が止まって、始末してもろたら、明日でもあさってでもええ、ウチぃ来い。
なん~ッぼでも相談に乗ったるさかいな!
子供まだ生きてるか?……死んだか?
あの子に死なれたらワイどないしてええや分からん。生きてるか…?
ず~っと寝たきりで、まだ気が付かん。
「えらいこっちゃなぁ」ちゅうて顔見合わしてるだけや。
あすこへ
で、こいつ頼もかと思たけど、困ったことにこの医者、金が好きで貧乏人が嫌いやねん。
騙すよぉにして連れてきて、長屋でいちばん上等の座布団出したけど、心地悪そうに座りやがって。
けどまぁ
「こんなり
せやけど「これをすぐ入院さして手に手を尽くしたら、今度は逆に
「ほんなら先生その入院ちゅうやつを」て言いかけたら、何や書いた紙出しよってな、
「
「入院さしたかったらこれに書いてある通りにして手続きを取りなさい。20円という前金を用意して」。
いちばん
20円。あっさり言いやがったでホンマに。この長屋の
裏のタケとこなァ、昨日嫁はんが8
8
ワシゃ今日ほど金が欲しいと思たことないな。
金積まなんだら話にならんという有名な医者やないかい。口に風邪ひかすだけや。
……ん?おい、ヒデ!どこ行くねん!おい!
ほなあの医者の
見たら
ほて
ご
いただいてきたんやけど……いやそんな顔しないな。
そら約束破ったんは悪いけどな、あの子に死なれたらワイどないしてええやわからん。
この金かて、どうせいっぺんこっち通るだけでまた向こうへ帰るんやないか、な?
そらもォ…名乗っても出る。せやけどな、今ワイが名乗って出たら子供助けることがでけへんがな。
この金で入院さして、もぉ命が大丈夫や頭も確かやちゅうことがわかったら、ワイ
せやから、もっぺんだけ見逃して、頼むわ!
しかしオマエは名人やなオイ。
この指2本飛ばして、よぉこれだけの仕事がでけたな!
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
桂米朝(3代目)
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp