声劇台本 based on 落語

桃太郎ももたろう


 原 作:古典落語『桃太郎』
 台本化:くらしあんしん


  上演時間:約15分


【書き起こし人 註】

古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。

アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。



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<登場人物>

金坊きんぼう(セリフ数:39 )
 前半は素直な良い子。後半は知性と弁舌に長けた 生意気な子供。


・父親(セリフ数:41)
 金坊の父。






<配役>

・金坊:♀

・父親:♂



【ちょっと難しい言葉】

強権的(きょうけんてき)
強い権力を用いて押し付ける様子。

元亀(げんき)
日本の元号の一つ。永禄の後、天正の前。

天正(てんしょう)
日本の元号の一つ。元亀の後、文禄の前。

天保(てんぽう)
日本の元号の一つ。文政の後、弘化の前。

安政(あんせい)
日本の元号の一つ。嘉永の後、万延の前。

大和(やまと)
日本の旧国名の一つ。現在の奈良県。

武蔵(むさし)
日本の旧国名の一つ。現在の東京都と埼玉県のほぼ全域に神奈川県の東部を含めた地域。

摂津(せっつ)
日本の旧国名の一つ。現在の大阪府北部および兵庫県南東部。

駿河(するが)
日本の旧国名の一つ。現在の静岡県の中央部。

五大昔話(ごだいむかしばなし)
日本の代表的な五つの昔話。桃太郎・かちかち山・猿蟹合戦・舌切り雀・花咲爺。

五穀(ごこく)
五種の主要な穀物。米・麦・あわ・きび・豆(時代や地域によって変わるそうです)。

白玉粉(しらたまこ)
もち米を水でさらし、細かく砕いた、純白の粉。

三徳(さんとく)
人として守るべき三つの徳目。「中庸」で説かれた、智・仁・勇など。




ここから本編




父親:おい金坊きんぼう、いつまで起きてるんだ。
   子供はもう寝る時間だぞ?
   さ、早く布団ふとんに入って寝なさい。

金坊:ん~、でもオイラ、まだ眠くないよぉ……。

父親:今は眠くなくてもな、布団ふとんに入って 目をつぶってりゃあ、すぐに眠くなる。
   早く寝て早く起きるのが、いい子ってもんだ。
   夜いつまでも起きてるのは、悪い子だぞ?
   そんな悪い子の所にはな、こわーいオバケや妖怪が来るんだぞ~。

金坊:(恐がって)うわあああああああ!!寝る!!寝るよォ~~!!

父親:よーし いい子だ いい子だ、ちゃんと布団ふとんに入ったな。
   そうやって いい子にしてりゃあ、オバケも妖怪も、どっか行っちまうからな。
   よし、じゃあ金坊きんぼうが眠くなるように、今から父ちゃんが 面白い話をしてやるからな。
   聞きながら寝るんだぞ?いいな?

金坊:うん、わかった。

父親:むかーし むかし、ある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
   おじいさんは山へ柴刈しばかりに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
   おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が どんぶらこ どんぶらこ と流れてきました。
   おばあさんは その桃を持って帰り、割ってみようとすると、中から男の子が飛び出しました。
   おじいさんとおばあさんは、この子に「桃太郎」という名前を付け、大切に育てました。
   やがて大きくなった桃太郎は、鬼ヶ島おにがしまへ鬼退治に行くことになりました。
   おばあさんは、とてもおいしい きびだんごを たくさん作って、桃太郎に持たせてやりました。
   鬼ヶ島おにがしまへの道中、犬・猿・キジが、
   「桃太郎さん 桃太郎さん、お腰に付けた きびだんご、ひとつ私にくださいな」と言うので、
   桃太郎が きびだんごをやると、その3匹が おともとして ついて来てくれました。
   鬼ヶ島おにがしまに着いた桃太郎は、おともと力を合わせて鬼をらしめ、
   宝物たからものをたくさん持って おじいさん おばあさんの元へと帰りました。
   めでたしめでたし。
   
   どうだ金坊きんぼう、おもしろいだろ?
   
   
   ……金坊きんぼう
   
   
   ……おい、金坊きんぼう

金坊:(寝息)すー、すー……

父親:寝ちまったか……ははっ、子供なんてのは、無邪気むじゃきなもんだなァ。

 


 

父親:……と言った具合に、子供が素直に寝たというのは、ひと昔前の話でして……

 


 

父親:おい金坊きんぼう、いつまで起きてるんだ。
   子供はもう寝る時間だぞ?
   さ、早く布団ふとんに入って寝なさい。

金坊:ん~、でもオイラ、まだ眠くないよぉ……。

父親:今は眠くなくてもな、布団ふとんに入って 目をつぶってりゃあ、すぐに眠くなる。
   早く寝て早く起きるのが、いい子ってもんだ。
   夜いつまでも起きてるのは、悪い子だぞ?
   そんな悪い子の所にはな、こわーいオバケや妖怪が来るんだぞ~。

金坊:オバケや妖怪~?
   あはっ、あはははは!

父親:何がおかしいんだよ!

金坊:この ご時世じせいにオバケだの妖怪だのって……、父ちゃんもカワイイこと言うねぇ。

父親:な、なんだよ!
   おまえ、オバケや妖怪が恐くないって言うのかよ!

金坊:当たり前だよ~。
   オバケや妖怪を恐がってるようじゃ、スッピンの母ちゃんの顔 マトモに見られないよ。

父親:オマエ 何てこと言うんだよ。オマエの その発言が恐いよ……
   聞こえたらブッ殺されるぞ……。
   
   いいから寝ろ。

金坊:だから眠くないんだよぉ。

父親:眠くなくても寝ろ!

金坊:んもぉ~、いつもそうだよ……
   眠くもないのに無理やり寝ろだなんて……。
   
   いくら親だからってねぇ、そういう強権的きょうけんてきな やり方は どうかと思うよキミィ。

父親:き、キミ!?親に向かって上から目線でモノを言うんじゃないよ。
   
   いいから布団ふとんに入れ!
   オマエが寝られるように、父ちゃんが おもしろい話をしてやるから。

金坊:おもしろい話~?
   
   父ちゃんが「おもしろい話」って言うときは、だいたい つまんない話だからなぁ。

父親:うるせえなあオマエは。
   大丈夫だよ、今日のは ちゃんと おもしろい話だから。
   
   いいから布団ふとんに入れ!

金坊:(ため息)ハァ~。しょうがないなぁ。
   
   じゃあ ここはひとつ、父ちゃんの顔を立てて、お布団ふとんに入るとしますか。

父親:ゴチャゴチャ言わなくていいんだよ。
   いいからサッサと布団ふとんに入れ。
   
   (金坊、布団ふとんに入る)
   よし、入ったな。いい子だ いい子だ。
   
   じゃ話をしてやるから、聴きながら寝るんだぞ?いいな?

金坊:あのねぇ お父上。

父親:なんだよ あらたまって。

金坊:聴きながら寝ろとおっしゃいますけどね、
   寝てしまったら人間は意識を失うんですよ?
   意識を失ったら 話を聴こうと思っても聴けないんですよ?
   聴きながら寝るなどというのは どだい無理な話。
   聴くか寝るか どちらかにしていただかないと。

父親:うるせえなあ いちいち。
   つまんない理屈こねるんじゃないよ。
   
   とにかく横になって聴いてりゃいいんだよ。
   聴いてるうちに眠くなって寝ちまったら、もう聴かなくていいんだよ。

金坊:あ、横になって聴いてて、寝ちゃったら もう聴かなくていいの?
   そういうことなら分かりました。
   
   それじゃあ横になって聴こうじゃありませんか。
   
   さ、聴いててあげるから、まぁちょっと やってごらんよ。

父親:オマエは噺家はなしか師匠ししょうか。
   
   まぁいいや……。
   
   (咳払い)むか~し むかし……

金坊:何年くらい昔?

父親:な……!
   
   何年も何も、むかーしむかしは、むかーしむかしだよ。

金坊:年号ねんごうは?

父親:ね、年号ねんごう……!?
   
   そんなもん、ないよ。

金坊:ええ~?それは おかしいよ。
   いくら昔でも、年号ねんごうぐらいあるでしょ?
   古ければ元亀げんきとか天正てんしょうとか。新しければ天保てんぽうとか安政あんせいとか。
   年号ねんごうが ないなんて、そんなバカなことないよ。

父親:うるせえなぁ。
   
   年号ねんごうなんか無いくらい、昔の話なんだよ!

金坊:年号ねんごうが無い……!?
   
   よっぽど昔の話なのかな……。

父親:そうだよ!
   どうでもいいじゃねえか年号ねんごうなんか。
   
   昔から この話の始まりは、「むかーし むかし」って言うことになってるんだ。
   いいから聞け。
   
   むか~し むかし、あるところに

金坊:どこ?

父親:え?

金坊:「あるところ」って、どこ?

父親:ど、どこって……。
   
   「あるところ」は「あるところ」だよ!

金坊:父ちゃん、「あるところ」なんて所は この世にはないよ。
   いくら昔でも、国の名前ぐらいあるでしょ?
   大和やまととか武蔵むさしとか、摂津せっつとか駿河するがとか。

父親:国の名前なんか無いくらい、昔の話なんだよ!

金坊:国の名前が無い……!?
   
   縄文時代より前かな……?

父親:知らねえよ!
   
   とにかく!
   
   あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

金坊:おじいさんの名前は?

父親:な、名前……!?
   
   名前なんか無いよ!

金坊:名前が無い……!?じゃとしは?

父親:と、としも無いよ!

金坊:名前もとしも無い……!?
   
   具体的な情報が1つもありませんねぇ……。

父親:うるせえなぁもう。
   いちいちかってくるんじゃねえよ。
   ちっとも話が進まねえじゃねえか。
   いいから黙って聴けよ!

金坊:はぁ~い。

父親:(金坊に邪魔されないように早口ぎみに)
   おじいさんは山へ柴刈しばかりに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。
   おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が どんぶらこ どんぶらこ と流れてきました。
   おばあさんは その桃を持って帰り、割ってみようとすると、中から男の子が飛び出しました。
   おじいさんとおばあさんは、この子に「桃太郎」という名前を付け、大切に育てました。
   やがて大きくなった桃太郎は、鬼ヶ島おにがしまへ鬼退治に行くことになりました。
   おばあさんは、とてもおいしい きびだんごを たくさん作って、桃太郎に持たせてやりました。
   鬼ヶ島おにがしまへの道中、犬・猿・キジが、
   「桃太郎さん 桃太郎さん、お腰に付けた きびだんご、ひとつ私にくださいな」と言うので、
   桃太郎が きびだんごをやると、その3匹が おともとして ついて来てくれました。
   鬼ヶ島おにがしまに着いた桃太郎は、おともと力を合わせて鬼をらしめ、
   宝物たからものをたくさん持って おじいさん おばあさんの元へと帰りました。
   めでたしめでたし。
   
   おもしろいだろ?
   
   どうだ?寝たか?
   
   うわッ……

金坊:(目を見開いて父親をにらんでいる)

父親:寝るどころか 目ぇいてにらんでるよコイツ……。
   オイよせよ……怖いよ……。
   寝ろって言ってんだから、目ぇつぶれよ……。

金坊:あのねぇ父ちゃん。
   父ちゃんの話を聴かなけりゃあ、もしかしたら寝られたかもしれないけどね。
   あんなバカバカしい話を聴いちゃったら、神経がたかぶって、目がえちゃったよ。

父親:何がバカバカしいんだよ。

金坊:何がバカバカしいって…、父ちゃんが今した話、それ、桃太郎でしょ?

父親:そうだよ。いい話だろ?
   何がバカバカしいんだよ。

金坊:桃太郎がバカバカしい話だって言ってるんじゃないんだよ。
   父ちゃんが桃太郎のこと なんにも分かってないで話すからバカバカしいって言ってるんだよ。

父親:はあ?どういう意味だよ?

金坊:あのねぇ、父ちゃんは知らないかもしれないけど、桃太郎という お話は、
   日本の五大ごだい昔話むかしばなしに数えられるぐらいの名作なんだよ?
   それだけ よくできた お話なんだ。そこんとこ分かってんの?
   それを あんな いい加減な話し方したら、お話が可哀相だよ。

父親:何が可哀相だ。
   オマエみたいな子供を寝かしつけなきゃならない俺のほうが よっぽど可哀相だよ。
   
   偉そうに言ってるけどな、オマエが桃太郎の何 知ってるって言うんだよ?

金坊:父ちゃんよりは知ってると思うよ。
   
   いい?まず始まりのところ。「むかし むかし あるところに」。
   
   父ちゃんは 年号ねんごうも国の名前も無いくらい昔の話だなんて いい加減なこと言ってたけどね、
   こうやって時代や場所をハッキリさせてないのには、ちゃんとワケがあるんだよ?
   
   これは子供に聴かせる おとぎ話。
   具体的な年号ねんごうや地名を入れたって、子供には難しくなるだけなんだよ。
   
   それにね、元亀げんきとか天正てんしょうとか、特定の年号ねんごうを入れちゃうと、
   その時代から離れた時代の人たちにとっては馴染なじみの薄い お話になっちゃうかもしれない。
   同じように、大和やまととか武蔵むさしとか 特定の地名を入れちゃうと、
   その土地から離れた所の人たちにとっては馴染なじみの薄い お話になっちゃうかもしれない。
   
   いつの時代の どの地域の人にとっても馴染なじみがある話になるように、
   時代や場所を超えて いつでもどこでも語り継がれるように という願いを込めて、
   わざと時代や場所を曖昧あいまいにしてるんだよ。
   
   分かった?

父親:(心底 感心して)へえ~~~~!そうだったのかァ!
   いや知らなかったなぁ。

金坊:それから「おじいさんとおばあさん」。
   
   これはね、本当はお父さんと お母さん。両親のことなんだよ。
   だけど さっき言ったように これは子供に聴かせる おとぎ話。
   両親は子供を甘やかすだけじゃなくて時々厳しく叱るけど、
   おじいちゃん おばあちゃんは たいてい孫には甘いよね。
   だから「おじいちゃんの お話」「おばあちゃんの お話」としたほうが
   子供が愛着を持って聴きやすいだろうということで、
   ここでは「おじいさん おばあさん」ということにしてあるんだ。
   
   それから「おじいさんは山へ柴刈しばかりに、おばあさんは川へ洗濯に」っていうところ。
   
   これは何も2人の習慣をえがいてるだけじゃないんだよ?
   おばあさんが行った川。これは、本当は海のことなんだ。
   だけど海の水は塩水しおみず塩水しおみずで洗濯ってのは おかしいから、
   海と同じく水にえんのある場所ということで、川にしてあるんだ。
   
   おじいさんは山にいて、おばあさんは海にいる。
   これは、「父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深い」ということを表している場面なんだよ。
   
   分かった?

父親:(心底 感心して)へえ~~~~!なるほどねぇ!
   
   (隣の部屋にいる妻に)おーい!母ちゃん!
   オマエもこっちに来て、一緒に金坊きんぼうの話 聞け!
   大人が聴いても ためになるぞ!
   
   (金坊に)金坊きんぼう先生、続きをどうぞ。

金坊:それから桃の中から男の子が生まれるけどね、
   実際に桃から人間が産まれるなんてことは あり得ないよ。
   
   人間の子供というのは、果物の桃からじゃなくて、
   お母さんの股(もも)の間から産まれるものなんだ。

父親:コラコラ!子供が そういうこと言うんじゃないよ。

金坊:桃の果実は、邪気じゃきを打ち払い 不老不死を もたらす
   ありがたい果物だと言われてるんだよ。
   だから 桃の中から男の子が生まれる この場面は、
   「子供は神様からのさずかりものである」ということを表してるんだよ。
   
   それから「鬼ヶ島おにがしま」だけどね。
   もちろんこれも、実際に そんな島があったって言うんじゃないんだよ?
   
   これは、オイラたち人間が生きる世界、「世間」をたとえたものなんだ。
   そして「鬼」というのは、その世間を渡るうえで 降りかかって来る「苦労」とか「苦難」のこと。
   
   つまり「鬼ヶ島おにがしまへ行く」というのは、苦労や苦難の多い世間に出るということであり、
   「鬼退治」というのは、「世間の荒波にまれ、それを乗り越える」ということなんだよ。
   
   いいかい父ちゃん?
   「渡る世間に鬼は無し」なんて言うけど、世間はそんなに甘くないよ?
   渡る世間は鬼ばかりだよ?ボーっとしてちゃダメなんだよ?

父親:はい……気を付けます……。

金坊:それから 父ちゃん、
   「とてもおいしい きびだんご」なんて言ってたけどね、とんでもない話だよ。
   
   キビなんてのは、五穀ごこくの中でも とりわけ粗末そまつな物なんだ。
   今 そこらへんで売ってるキビダンゴが美味しいのは、
   調味料とか調理技術が発達したり、
   そもそもキビじゃなくて白玉粉しらたまこで作ったりしてるからなんだよ?
   
   今のキビダンゴと、桃太郎に出てくるキビダンゴは もう別物。
   お世辞にも おいしいなんてシロモノじゃなかったと思うよ。
   
   そんな 粗末そまつで美味しくもないキビダンゴを持たせたのは、
   「贅沢ぜいたくをしてはいけない」といういましめ。
   無駄な散財さんざいをせず、質素しっそ 倹約けんやくに努めなさいという教えが込められてるんだ。
   
   分かった?

父親:はい、分かりました。

金坊:それから、犬と猿とキジを おともにするけどね、
   これは どんな動物でもいいってわけじゃないんだよ?
   
   犬は「3日飼われたら その恩を3年忘れない」と言われるほど仁義じんぎに厚い動物なんだ。
   猿は人間を除けば 最も知恵のある動物。
   キジは、卵がヘビに狙われたら、自分をオトリにして卵を守る勇気のある鳥。
   
   つまり犬は仁義じんぎ、猿は知恵、キジは勇気を表していて、この3匹を おともにするというのは、
   三徳さんとく すなわち「智仁勇ちじんゆう」という3つの徳を身に付けなさいという教えなんだ。
   
   そうして この3匹の おともと協力して鬼を やっつけて ―― つまり世間の荒波を乗り越えて手に入れる宝物たからもの
   これは世間における「信用」とか「地位」「名誉」「財産」といった物のこと。
   
   だからね 父ちゃん、この桃太郎という お話は、
   
   両親の恩を忘れず、質素しっそを守り、三徳さんとくを身に着け、そして世間の荒波を乗り越え、
   信用や地位や名誉や財産を手に入れて、世の中の役に立つ立派な人間になり、
   また、そうすることで両親に恩返しをする ―― そういった、人としての正しい生き方を、
   子供にも聴きやすい おもしろい話に包んで教えてくれてる、ありがたい お話なんだよ?
   
   分かった?
   
   
   ……父ちゃん?
   
   
   ……聴いてる?
   
   
   ……ちょっと父ちゃん?

父親:(寝息)ぐー ぐー

金坊:寝ちゃってる……。
   
   親なんてのは、無邪気むじゃきなもんだなぁ。
  



おわり

その他の台本                 


参考にした落語口演の演者さん(敬称略)


柳亭痴楽(4代目)
柳亭痴楽(5代目)
昔昔亭桃太郎
春風亭小朝
三遊亭歌之介
橘家文蔵(3代目)
桂米朝(3代目) ※上方落語
桂団治郎 ※上方落語
笑福亭呂竹 ※上方落語
笑福亭福笑 ※上方落語


何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp

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