声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
・上演を公開される際は、観覧無料の媒体のみで行うようお願いします。
観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
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<登場人物> <配役>
・
前半は素直な良い子。後半は知性と弁舌に長けた 生意気な子供。
・父親(セリフ数:41)
金坊の父。
・金坊:♀
・父親:♂
【ちょっと難しい言葉】
強権的(きょうけんてき)
強い権力を用いて押し付ける様子。
元亀(げんき)
日本の元号の一つ。永禄の後、天正の前。
天正(てんしょう)
日本の元号の一つ。元亀の後、文禄の前。
天保(てんぽう)
日本の元号の一つ。文政の後、弘化の前。
安政(あんせい)
日本の元号の一つ。嘉永の後、万延の前。
大和(やまと)
日本の旧国名の一つ。現在の奈良県。
武蔵(むさし)
日本の旧国名の一つ。現在の東京都と埼玉県のほぼ全域に神奈川県の東部を含めた地域。
摂津(せっつ)
日本の旧国名の一つ。現在の大阪府北部および兵庫県南東部。
駿河(するが)
日本の旧国名の一つ。現在の静岡県の中央部。
五大昔話(ごだいむかしばなし)
日本の代表的な五つの昔話。桃太郎・かちかち山・猿蟹合戦・舌切り雀・花咲爺。
五穀(ごこく)
五種の主要な穀物。米・麦・あわ・きび・豆(時代や地域によって変わるそうです)。
白玉粉(しらたまこ)
もち米を水でさらし、細かく砕いた、純白の粉。
三徳(さんとく)
人として守るべき三つの徳目。「中庸」で説かれた、智・仁・勇など。
ここから本編
父親:おい 金坊:ん~、でもオイラ、まだ眠くないよぉ……。 父親:今は眠くなくてもな、 金坊:(恐がって)うわあああああああ!!寝る!!寝るよォ~~!! 父親:よーし いい子だ いい子だ、ちゃんと 金坊:うん、わかった。 父親:むかーし むかし、ある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
金坊:(寝息)すー、すー…… 父親:寝ちまったか……ははっ、子供なんてのは、 父親:……と言った具合に、子供が素直に寝たというのは、ひと昔前の話でして……
父親:おい 金坊:ん~、でもオイラ、まだ眠くないよぉ……。 父親:今は眠くなくてもな、 金坊:オバケや妖怪~?
父親:何がおかしいんだよ! 金坊:この ご 父親:な、なんだよ!
金坊:当たり前だよ~。
父親:オマエ 何てこと言うんだよ。オマエの その発言が恐いよ……
金坊:だから眠くないんだよぉ。 父親:眠くなくても寝ろ! 金坊:んもぉ~、いつもそうだよ……
父親:き、 金坊:おもしろい話~?
父親:うるせえなあオマエは。
金坊:(ため息)ハァ~。しょうがないなぁ。
父親:ゴチャゴチャ言わなくていいんだよ。
金坊:あのねぇ お父上。 父親:なんだよ あらたまって。 金坊:聴きながら寝ろとおっしゃいますけどね、
父親:うるせえなあ いちいち。
金坊:あ、横になって聴いてて、寝ちゃったら もう聴かなくていいの?
父親:オマエは 金坊:何年くらい昔? 父親:な……!
金坊: 父親:ね、 金坊:ええ~?それは おかしいよ。
父親:うるせえなぁ。
金坊: 父親:そうだよ!
金坊:どこ? 父親:え? 金坊:「あるところ」って、どこ? 父親:ど、どこって……。
金坊:父ちゃん、「あるところ」なんて所は この世にはないよ。
父親:国の名前なんか無いくらい、昔の話なんだよ! 金坊:国の名前が無い……!?
父親:知らねえよ!
金坊:おじいさんの名前は? 父親:な、名前……!?
金坊:名前が無い……!?じゃ 父親:と、 金坊:名前も 父親:うるせえなぁもう。
金坊:はぁ~い。 父親:(金坊に邪魔されないように早口ぎみに)
金坊:(目を見開いて父親をにらんでいる) 父親:寝るどころか 目ぇ 金坊:あのねぇ父ちゃん。
父親:何がバカバカしいんだよ。 金坊:何がバカバカしいって…、父ちゃんが今した話、それ、桃太郎でしょ? 父親:そうだよ。いい話だろ?
金坊:桃太郎がバカバカしい話だって言ってるんじゃないんだよ。
父親:はあ?どういう意味だよ? 金坊:あのねぇ、父ちゃんは知らないかもしれないけど、桃太郎という お話は、
父親:何が可哀相だ。
金坊:父ちゃんよりは知ってると思うよ。
父親:(心底 感心して)へえ~~~~!そうだったのかァ!
金坊:それから「おじいさんとおばあさん」。
父親:(心底 感心して)へえ~~~~!なるほどねぇ!
金坊:それから桃の中から男の子が生まれるけどね、
父親:コラコラ!子供が そういうこと言うんじゃないよ。 金坊:桃の果実は、 父親:はい……気を付けます……。 金坊:それから 父ちゃん、
父親:はい、分かりました。 金坊:それから、犬と猿とキジを お 父親:(寝息)ぐー ぐー 金坊:寝ちゃってる……。
子供はもう寝る時間だぞ?
さ、早く
早く寝て早く起きるのが、いい子ってもんだ。
夜いつまでも起きてるのは、悪い子だぞ?
そんな悪い子の所にはな、こわーいオバケや妖怪が来るんだぞ~。
そうやって いい子にしてりゃあ、オバケも妖怪も、どっか行っちまうからな。
よし、じゃあ
聞きながら寝るんだぞ?いいな?
おじいさんは山へ
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が どんぶらこ どんぶらこ と流れてきました。
おばあさんは その桃を持って帰り、割ってみようとすると、中から男の子が飛び出しました。
おじいさんとおばあさんは、この子に「桃太郎」という名前を付け、大切に育てました。
やがて大きくなった桃太郎は、
おばあさんは、とてもおいしい きびだんごを たくさん作って、桃太郎に持たせてやりました。
「桃太郎さん 桃太郎さん、お腰に付けた きびだんご、ひとつ私にくださいな」と言うので、
桃太郎が きびだんごをやると、その3匹が お
めでたしめでたし。
どうだ
……
……おい、
子供はもう寝る時間だぞ?
さ、早く
早く寝て早く起きるのが、いい子ってもんだ。
夜いつまでも起きてるのは、悪い子だぞ?
そんな悪い子の所にはな、こわーいオバケや妖怪が来るんだぞ~。
あはっ、あはははは!
おまえ、オバケや妖怪が恐くないって言うのかよ!
オバケや妖怪を恐がってるようじゃ、スッピンの母ちゃんの顔 マトモに見られないよ。
聞こえたらブッ殺されるぞ……。
いいから寝ろ。
眠くもないのに無理やり寝ろだなんて……。
いくら親だからってねぇ、そういう
いいから
オマエが寝られるように、父ちゃんが おもしろい話をしてやるから。
父ちゃんが「おもしろい話」って言うときは、だいたい つまんない話だからなぁ。
大丈夫だよ、今日のは ちゃんと おもしろい話だから。
いいから
じゃあ ここはひとつ、父ちゃんの顔を立てて、お
いいからサッサと
(金坊、
よし、入ったな。いい子だ いい子だ。
じゃ話をしてやるから、聴きながら寝るんだぞ?いいな?
寝てしまったら人間は意識を失うんですよ?
意識を失ったら 話を聴こうと思っても聴けないんですよ?
聴きながら寝るなどというのは どだい無理な話。
聴くか寝るか どちらかにしていただかないと。
つまんない理屈こねるんじゃないよ。
とにかく横になって聴いてりゃいいんだよ。
聴いてるうちに眠くなって寝ちまったら、もう聴かなくていいんだよ。
そういうことなら分かりました。
それじゃあ横になって聴こうじゃありませんか。
さ、聴いててあげるから、まぁちょっと やってごらんよ。
まぁいいや……。
(咳払い)むか~し むかし……
何年も何も、むかーしむかしは、むかーしむかしだよ。
そんなもん、ないよ。
いくら昔でも、
古ければ
よっぽど昔の話なのかな……。
どうでもいいじゃねえか
昔から この話の始まりは、「むかーし むかし」って言うことになってるんだ。
いいから聞け。
むか~し むかし、あるところに
「あるところ」は「あるところ」だよ!
いくら昔でも、国の名前ぐらいあるでしょ?
縄文時代より前かな……?
とにかく!
あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
名前なんか無いよ!
具体的な情報が1つもありませんねぇ……。
いちいち
ちっとも話が進まねえじゃねえか。
いいから黙って聴けよ!
おじいさんは山へ
おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃が どんぶらこ どんぶらこ と流れてきました。
おばあさんは その桃を持って帰り、割ってみようとすると、中から男の子が飛び出しました。
おじいさんとおばあさんは、この子に「桃太郎」という名前を付け、大切に育てました。
やがて大きくなった桃太郎は、
おばあさんは、とてもおいしい きびだんごを たくさん作って、桃太郎に持たせてやりました。
「桃太郎さん 桃太郎さん、お腰に付けた きびだんご、ひとつ私にくださいな」と言うので、
桃太郎が きびだんごをやると、その3匹が お
めでたしめでたし。
おもしろいだろ?
どうだ?寝たか?
うわッ……
オイよせよ……怖いよ……。
寝ろって言ってんだから、目ぇ
父ちゃんの話を聴かなけりゃあ、もしかしたら寝られたかもしれないけどね。
あんなバカバカしい話を聴いちゃったら、神経が
何がバカバカしいんだよ。
父ちゃんが桃太郎のこと なんにも分かってないで話すからバカバカしいって言ってるんだよ。
日本の
それだけ よくできた お話なんだ。そこんとこ分かってんの?
それを あんな いい加減な話し方したら、お話が可哀相だよ。
オマエみたいな子供を寝かしつけなきゃならない俺のほうが よっぽど可哀相だよ。
偉そうに言ってるけどな、オマエが桃太郎の何 知ってるって言うんだよ?
いい?まず始まりのところ。「むかし むかし あるところに」。
父ちゃんは
こうやって時代や場所をハッキリさせてないのには、ちゃんとワケがあるんだよ?
これは子供に聴かせる おとぎ話。
具体的な
それにね、
その時代から離れた時代の人たちにとっては
同じように、
その土地から離れた所の人たちにとっては
いつの時代の どの地域の人にとっても
時代や場所を超えて いつでもどこでも語り継がれるように という願いを込めて、
わざと時代や場所を
分かった?
いや知らなかったなぁ。
これはね、本当はお父さんと お母さん。両親のことなんだよ。
だけど さっき言ったように これは子供に聴かせる おとぎ話。
両親は子供を甘やかすだけじゃなくて時々厳しく叱るけど、
おじいちゃん おばあちゃんは たいてい孫には甘いよね。
だから「おじいちゃんの お話」「おばあちゃんの お話」としたほうが
子供が愛着を持って聴きやすいだろうということで、
ここでは「おじいさん おばあさん」ということにしてあるんだ。
それから「おじいさんは山へ
これは何も2人の習慣を
おばあさんが行った川。これは、本当は海のことなんだ。
だけど海の水は
海と同じく水に
おじいさんは山にいて、おばあさんは海にいる。
これは、「父の恩は山よりも高く、母の恩は海よりも深い」ということを表している場面なんだよ。
分かった?
(隣の部屋にいる妻に)おーい!母ちゃん!
オマエもこっちに来て、一緒に
大人が聴いても ためになるぞ!
(金坊に)
実際に桃から人間が産まれるなんてことは あり得ないよ。
人間の子供というのは、果物の桃からじゃなくて、
お母さんの股(もも)の間から産まれるものなんだ。
ありがたい果物だと言われてるんだよ。
だから 桃の中から男の子が生まれる この場面は、
「子供は神様からの
それから「
もちろんこれも、実際に そんな島があったって言うんじゃないんだよ?
これは、オイラたち人間が生きる世界、「世間」を
そして「鬼」というのは、その世間を渡るうえで 降りかかって来る「苦労」とか「苦難」のこと。
つまり「
「鬼退治」というのは、「世間の荒波に
いいかい父ちゃん?
「渡る世間に鬼は無し」なんて言うけど、世間はそんなに甘くないよ?
渡る世間は鬼ばかりだよ?ボーっとしてちゃダメなんだよ?
「とてもおいしい きびだんご」なんて言ってたけどね、とんでもない話だよ。
キビなんてのは、
今 そこらへんで売ってるキビダンゴが美味しいのは、
調味料とか調理技術が発達したり、
そもそもキビじゃなくて
今のキビダンゴと、桃太郎に出てくるキビダンゴは もう別物。
お世辞にも おいしいなんてシロモノじゃなかったと思うよ。
そんな
「
無駄な
分かった?
これは どんな動物でもいいってわけじゃないんだよ?
犬は「3日飼われたら その恩を3年忘れない」と言われるほど
猿は人間を除けば 最も知恵のある動物。
キジは、卵がヘビに狙われたら、自分をオトリにして卵を守る勇気のある鳥。
つまり犬は
そうして この3匹の お
これは世間における「信用」とか「地位」「名誉」「財産」といった物のこと。
だからね 父ちゃん、この桃太郎という お話は、
両親の恩を忘れず、
信用や地位や名誉や財産を手に入れて、世の中の役に立つ立派な人間になり、
また、そうすることで両親に恩返しをする ―― そういった、人としての正しい生き方を、
子供にも聴きやすい おもしろい話に包んで教えてくれてる、ありがたい お話なんだよ?
分かった?
……父ちゃん?
……聴いてる?
……ちょっと父ちゃん?
親なんてのは、
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