声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
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<登場人物> <配役> 【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
八五郎:(ご隠居さん家の玄関先で)
ご隠居:ああ、誰かと思ったら、 八五郎:へい、じゃ遠慮なく。
ご隠居:え?何がひどいんだい? 八五郎:何がって、あっしが上がるなり そうやって 新聞、ガサガサって……。 ご隠居:それの何がひどいんだい? 八五郎:アレでしょ?ひとりで まんじゅうか何か食ってて、
ご隠居:まんじゅう?そんなもの食べてないよ。 八五郎:じゃヨウカン? ご隠居:ヨウカンも食べてないよ。 八五郎:じゃ その新聞の下に 何隠したんスか! ご隠居:何も隠してなんかいないよ。
八五郎:あれ?ホントだ。
ご隠居:何って、新聞を読んでたに決まってるじゃないか。 八五郎:え?新聞て、読むモノなんスか? ご隠居:当たり前じゃないか。
八五郎:どうするって、そりゃあ、 ご隠居:何言ってんだい。
八五郎:読みませんねえ。 ご隠居:それはいけないねえ。
八五郎:そうスかねえ。
ご隠居:まあ、面白いというものでもないが、ためになるものだな。 八五郎:ためになる? ご隠居:そうだ。新聞を読むと、世の中のことを よく知ることができる。 八五郎:え?それだけ? ご隠居:それだけって……。
八五郎:なぁんだ。
ご隠居:いらないかい? 八五郎:いらねえスよ。
ご隠居:お前さんが?ホントかい? 八五郎:ええ。だから 新聞なんざ読まなくたって、あっしは困りませんよ。 ご隠居:ふうん……。
八五郎:あっしの友達?誰です? ご隠居:てんぷら屋のタケさんだよ。 八五郎:タケ?タケちゃんがどうしたんスか? ご隠居:ホラごらん。知らないだろう?
八五郎:タケちゃんのことが新聞に出てるんスか?
ご隠居:ゆうべ、てんぷら屋のタケさんの所に 泥棒が入ったらしい。 八五郎:泥棒が!? ご隠居:うん。
八五郎:お~ ご隠居:ビックリするかと思いのほか、タケさん 八五郎:え、なんですって? ご隠居: 八五郎:そうそう、町の道場 ご隠居:それがいけないな。 八五郎:なんで? ご隠居:昔から言うだろう。 八五郎:え?なんスか? ご隠居: 八五郎:なんスか それ。 ご隠居:知らないかい?
八五郎:ぎゃくじょう!
ご隠居:なんにも知らないんだねえ お前さんは……。
八五郎:あいぷち? ご隠居:アイプチじゃないよ。
八五郎:えっ……!?
ご隠居:気の毒なことをしたよ。
八五郎:逃げやがったんスか! ご隠居:ああ。
八五郎: ご隠居:ああ 八五郎: ―― 。
ご隠居:そうだよ。
八五郎:もォ~ よしてくださいよ ご隠居ォ!
ご隠居:だから新聞を読めと言ったろ?
八五郎:分かりましたよ……。
ご隠居:ちょちょちょ、 八五郎:(往来をうろつきながら)
タケ:オウ、なんだ ハチ 八五郎:オウ、知ってるか? タケ:何を? 八五郎:ゆうべ、てんぷら屋のタケちゃんが殺されたんだよ! タケ:え? 八五郎:ゆうべ、てんぷら屋のタケちゃんが殺されたんだよ! タケ:オイ、おめえ それ 誰に言ってんだ? 八五郎:え?
タケ:俺が誰に殺されたって? 八五郎:あ、いや……ハハハ……
タケ:なんだアイツ……。 八五郎:いやー、ビックリしたぁ。
トメ:バカが来たよ……。
八五郎:分かってるよ。気にすんな。
トメ:何を? 八五郎:(嬉しそうに)何をってオメエ、へっへっへ、
トメ:おめえ 何 笑いながら言ってんだよ。
八五郎:(嬉しそうに)そう!タケちゃん 殺されたんだよ! トメ:なんで おめえ嬉しそうなんだよ。
八五郎:実は ゆうべ、タケちゃん所に泥棒が入ったんだよ。 トメ:泥棒が!? 八五郎:うん。
トメ:待て待て待て待て。
八五郎:そうそう 6 トメ:何て? 八五郎:「ヘイいらっしゃい!」 トメ:なんでだよ。
八五郎:そうそう、「ドロボーッ!」と大声で言った。
トメ:何て? 八五郎:「エビ天ひとつ」 トメ:言うワケねえだろ。 八五郎:え~と、何だっけなぁ……。
トメ:…… 八五郎:そうそう!
トメ:いやオメエ……それを言うなら「静かにしろぃ」じゃねえか? 八五郎:そうそう、「静かにしろぃ」 トメ:ふーん、 八五郎:ビックリするかと思いのほか、タケちゃんは トメ:痛そうだなオイ。
八五郎:そうそう、 トメ:何言ってんだオメエ……。
八五郎:そう それ!
トメ:何が? 八五郎:昔から言うだろ? トメ:意味が分からねえ。 八五郎:ちょっとばかし強いからって、 トメ:それを言うなら、 八五郎:そう それ!その トメ:何を。 八五郎:ご トメ:なんだ? 八五郎:いや そうじゃねえよ。
トメ: 八五郎:そう 泥棒が トメ:くも 八五郎:そう 泥棒が くも トメ: 八五郎:そう トメ:何を? 八五郎:何をって……えーと……、かわしたんだよ。 トメ:だから何を かわしたんだよ? 八五郎:えーと……。
トメ:よせよオイ。
八五郎:違うな……枕じゃねえな……。
トメ: 八五郎: トメ: 八五郎:違うよ……どこだよそれ…… トメ:原宿? 八五郎:んー、反対側 行っちゃったかなー? トメ: 八五郎:そう えびす!えびす様!
トメ: 八五郎:オウ トメ:糸? 八五郎:糸の トメ:浮き? 八五郎:浮きの トメ:針? 八五郎:針の トメ:エサ? 八五郎:オメエわざと言ってるだろ!!
トメ:タイ? 八五郎:そう タイ!!
トメ:もう帰ってくんない?疲れたよ。 八五郎:待って待って!ここからが面白いんだから!
トメ:アイプチ!? 八五郎:いや あの アイプチじゃなくて……あの、 トメ:それを言うなら 八五郎:そう トメ:どれだよ? 八五郎: トメ:犬か? 八五郎:そう トメ:ネコか? 八五郎:そう トメ:サイか? 八五郎:そう トメ:オオアリクイ! 八五郎:そう トメ:ゾウか? 八五郎:そう トメ:ホントもう帰ってくんない? 八五郎:待って待って!
トメ:人の 八五郎:ああ。気の毒なことをしたよ。
トメ:捕まったか。 八五郎:ああ 捕まった。入った トメ:どうした? 八五郎:これじゃ落ちない。 トメ:何言ってんだ。 八五郎:ちょっと待って ちょっと待って、もう1回。
トメ:逮捕されたか。 八五郎:ああ 逮捕された。入った トメ:どうしたんだよ。 八五郎:これでも落ちない。 トメ:さっきから何言ってんだ。 八五郎:ちょ、ちょっと待って。
トメ:よく 八五郎:そう!!それ!!それだよ!!
トメ:入った 八五郎:(言おうとしていたオチを先に言われて絶句)
トメ:知ってたよ。
八五郎:なんだよ、知ってたのかよォ。
トメ:おめえがモタモタ喋ってんのが いけねえんだ。
八五郎:続き?続きなんて あるの? トメ:あるよ。タケの女房のことだ。 八五郎:ああ!おみっちゃんかい? トメ:そう。
八五郎:え!あの おみっちゃんが トメ:ああ。
・
?歳。
町内の間抜け男。
愛称は「はっつぁん」。
一人称は「あっし」もしくは「俺」。
・ご隠居(セリフ数:34)
?歳。
町内の物知り隠居。
一人称は「私」。
・タケ(セリフ数:6)
?歳。
八五郎の友達。
てんぷら屋。
・トメ(セリフ数:61)
?歳。
八五郎の友達。
豆腐屋。
・八五郎:♂
・ご隠居/タケ/トメ:♂
匕首(あいくち)
鍔(つば)の無い短刀。
アイプチ
のり状の化粧品で、一重まぶたを人工的に二重まぶたにするためのもの。
落とし話(おとしばなし)
最後にオチのある滑稽な話。
重曹(じゅうそう)
「重炭酸曹達(ソーダ)」の略。炭酸水素ナトリウム。
ご不浄(ごふじょう)
「トイレ」の丁寧な言い方。
はばかり
トイレのこと。
枕を交わす(まくら を かわす)
男女が共に寝る。情交する。
こんちはー。ご隠居、いますかー?
まあ お上がりよ。
(上がる)
(ご隠居が 読んでいた新聞を卓に置くのを見て)
あっ!ご隠居、ひどいじゃないスか!
あっしに取られちゃいけねえってんで、慌てて新聞の下に隠したんでしょ?
(新聞をどける)
ホラ、何もないだろ?
それじゃ ご隠居、新聞なんか広げて 何してたんスか?
新聞なんてもの、読まずにどうするってんだい。
丸めてゴキブリぶっ
そういうふうに使うにしても、まず読んでからだろ。
お前さん
お前さんも、もう いい
新聞てのは、読むと面白いモンなんスか?
新聞てのは、そういうもんだよ。
じゃあ いらねえや。
世の中のことなんざ、あっしは たいがい知ってますから。
それじゃあ
お前さんは新聞を読まないから知らないんだ。
私は新聞を読むから ちゃんと知ってる。
「災難」って言いましたよね?
タケちゃんの身に何かあったんスか?
ゆうべ 仕事を終えたタケさんは、いつものように奥の部屋で寝ていた。
夜中の2時ごろ、
何だろうと思って パッと目を
6
タケさん 思わず「ドロボーッ!」と大声で言った。
さあ これを聞いた泥棒、
タケさんの
「静かにしろぃ」
タケの野郎も ビックリしたでしょ。
小さい頃から
だからタケちゃん 強いんスよ。
中途半端な強さは かえって身を
いくら
ところが
これを見た泥棒が、
―― ぎゃくじょうって何スか?
泥棒は たまらず前につんのめって
その
タケさん しめたとばかりに泥棒を
ここでタケさん 油断した。
有利な
ところが泥棒の
かねてより
なんで泥棒が そんな色っぽいもの持ってるんだよ。
あいくち だよ。
胸は
「アッ」と言ったが この世の別れだ。
タケさん、死んじまったよ。
た、タケの野郎、し、死んじまったんスか!?
泥棒は 動かなくなったタケさんを
荷物を しょい込んで逃げちまった。
しかし 人間 悪いことはできないものだ。
逃げて5分
入った
※「逮捕する」の意の「挙げる」と てんぷらの「揚げる」が掛かっています。
え?
あの、ご隠居 ――
これって もしかして ―― 落とし
お前さんが 新聞読まなくても 世の中のこと知ってるなんて
ちょいと からかってやろうと思ってね。
こっちは 友達が死んだなんて聞かされて 泣きそうになったんスよ!?
ちゃんと新聞を読んでりゃあ、こんなデタラメな作り話に
引っかかることもなかったんだ。
分かったかい?
まったく、ご隠居には かなわねえなぁ……。
それにしても、今の話、おもしろかったねぇ。
よくできてるよ。
よぉ~し、俺もひとつ、誰かに この話 やってやろ。
そいじゃ ご隠居、さいなら!(去る)
お前さん、何か用があってウチに来たんじゃないのかい?おーい!
行っちまったよ……。
しょうがない男だねえ……。
さぁ~て、誰にやってやろうかなぁ。誰でもいいんだけどなぁ。
(キョロキョロしながら)
ん~、見知った顔は いねえかなぁ。
見知った顔、見知った顔……
お!いたいた!
オーウ!
あ、タケちゃん。
さいならー!(去る)
本人に言っちゃったよぉ。いけねえいけねえ。
いくら誰でもいいって言ったって、タケちゃん本人に言っちゃダメだよ。
ん~、誰か いねえかなぁ。
おっ!そういや この先に トメ
トメ
よくできた話だからねぇ、ウケるぞぉ きっと。
オチだけは間違えねえようにしなきゃな。
え~と、オチは何だったっけな。
あ、そうだ、「入った
これだけは忘れねえようにしねえとな。
入った
お、ここだ ここだ。
オーウ!入った
おいハチ
おう トメ
ゆうべ、てんぷら屋のタケちゃんが殺されたんだよ!
え、なに?タケの野郎が殺されたって!?
いったい誰に 殺されたんだよ?
ゆうべ 仕事を終えたタケちゃんは、いつものように奥の部屋で寝ていた。
夜中の2時ごろ、
何だろうと思って パッと目を
1
どこが
1
それを言うなら 6
6
タケちゃん 思わず大声で言ったね。
そういう時は たいがい「ドロボーッ」って叫ぶもんじゃねえのか?
さあ これを聞いた泥棒、
タケちゃんの
あ、そうだ!
えーとね、
でもって、富士山があって……、お茶が
「
タケの野郎もビックリしたろうなぁ。
それを言うなら、
なんたって 小さい頃から
それを言うなら
でも それがいけない。
こういうのを昔から、
ところが
来るなら来いとばかりに パッと身構えた。
これを見た泥棒が……、しちゃったんだな。
えーと、頭にカーッと血が
何て言ったっけな?
いや違うな。
いや違うよ。
ご
タケさん ヒラリと ……、かわしたんだな。
あ!枕!
枕をかわした!
なんで いきなりタケと泥棒が布団でイチャイチャしだすんだよ。
えーと、何を かわしたんだっけなぁ……。えーと……
あ!あれだ!
そう!
そうじゃなくて、あの……、ぐるぐる回る、
えびす様を かわした!
違うな……。
ホラ、えびす様が持ってる物、あるだろ?
エサに食いついてる 赤い大きな魚がいるだろ!
タイをかわしたぁ!!
泥棒は たまらず前につんのめって
その
タケちゃん しめたとばかりに泥棒を
ここでタケちゃん 油断した。
有利な
ところが泥棒の
かねてより
胸は
ホラ、動物だよ。
いや違うな……。
いや これも違うよ。
ホラ、動物園にいる、灰色で、足の太い……
いや違うよ。
ホラあれだよ、鼻の長~い……
違うよ!
鼻が長くて 耳が大きい動物だよ!
これだ!!
もうちょっと!もうちょっとで終わるから!
「アッ」と言ったが この世の別れだ。
タケちゃん、死んじまったよ。
タケの野郎、死んじまったの?
泥棒は 動かなくなったタケちゃんを
荷物を しょい込んで逃げちまった。
しかし 人間 悪いことはできないものだ。
逃げて5分
逃げて5分
えーっと、何だっけなぁ……捕まったでもなくて……逮捕されたでもなくて……
逃げて5分
え ―― ?
ええ!?
ちょちょちょ……
知ってたの!?
ご隠居が よくやる落とし
ひでえじゃねえか。
オレは最後のオチが言いたくて ずーっと喋ってたのによぉ……
この話は スラスラ喋ってオチまで持ってくから 面白いんじゃねえか。
おめえは話し方がヘタすぎんだよ。
オウ それよりよ、おめえ この話の続き、知ってるか?
女房の おみっちゃんな、亭主に先立たれて 世を
自慢の
てんぷら屋だけに、
※「衣をつける」は「出家する」の慣用表現。
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
春風亭一之輔
三遊亭円楽(6代目)
林家正蔵(9代目)
柳亭痴楽(4代目)
春風亭三朝
古今亭志ん五
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp