声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
この台本は、同名の古典落語(もしかしたら古典じゃないかも)を声劇用の台本にしたものです。
落語という話芸は、師匠から弟子へ口伝えにして継承されるもので、原則的に、いわゆる"台本"にあたるテキストはありません。同じ演目でも、口演される噺家さんによって、話の解釈・登場人物名・人物の性格・時には話の筋さえも、様々に変わります。この台本は、私が聴いたいくつかの落語口演をブレンドし、それに私独自の言葉や言い回しを織り交ぜて書き上げたものです。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
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<登場人物> <配役> 【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
トメ:トクさーん。トクさん、いるかい? トク:ん?
トメ:トクさん、ちょいと買い物に付き合ってくんねえかなぁ? トク:買い物?そりゃ トメ: トク:はっはっは。おめえは お トメ:なんだよトクさんまで……。
トク:(まんざらでもない様子)
トメ:うん。
トク:……。
トメ:だからね、あの人は 人間が こすっ トク:言っちゃってんじゃねえか!
トメ:ホントかい!?
トク:今頃かしこまったって トメ:それなんだけどね。
トク: トメ:そうなの? トク:そうだよ。常識だぜ?覚えとけ。
トメ:え?なんで こんなもの持ってくの? トク:いいから。それも 安く買うための トメ:あ、そう……?
トク:よーし、それじゃ トメ:ねえトクさん。 トク:なんだ? トメ:どうやったら トクさんみたいに トク:ん?
トメ:コツ? トク:おう。買い物なんてのは、 トメ:いやトクさん、俺たちは これから トク:分かってるよ。 トメ:うん、まぁ、ひやかしぐらいなら いいけどねぇ……。
トク:分からねえヤツだな おめえは……。
トメ:ああ、どっかで トク:おめえホントにバカなんだな……。
トメ:え?そうなの? トク:そうだ。
トメ:え、 トク:違うよ、口で傷を付けるんだよ。 トメ:え、食いちぎるの!? トク:そうじゃねえよ!ケチを付けるんだよ!
トメ:ほォ~なるほどねえ!
トク:誰が トメ:なるほど そういうコツがあるのかぁ。
トク:やめとけやめとけ、おめえにゃ無理だよ。
トメ:いや、ないけど。 トク:そうか。じゃ そこの店でいいか。
店主:どうも いらっしゃいまし。
トク:ああ、 店主: トク:お、そうかい、ちょいと見させてもらうぜ。
トメ:そうじゃねえんだよ……。 トク:じゃ どうしたんだよ? トメ:いや、だってトクさん、「 トク:……え?
トメ:え、いいの……? トク:いいんだよ! 店主:あの、大丈夫でございますか……? トク:(店主に)ああ、 トメ:(並んでいる壺を 触ったり持ち上げたり)ふんふん……。
トク:ダメか? 店主:何か問題でも ございますか? トメ:問題も何も、この 店主:あの、それは トメ:あ、これ トク:(トメに)なんで見て分からねえんだよ。
店主:はあ。 トメ:トクさん、それでもやっぱり、この トク:何が。 トメ: 店主:は? トク:バカじゃねえのか おめえは。 トメ:裏の トク:ねえよ!もう おめえは余計なこと言うな!黙ってろ! 店主:あの、 トク:いやいや、 店主:さようでございますねえ。
トク:なるほど。
店主:ええ、さようでございます。 トク:ふむ。
店主:ああ、それでしたら……、
トク:変わらねえじゃねえか! 店主:申し訳ございません。 トク:はっはっは、いいよいいよ、分かってる 分かってる。
店主:ええ、それでしたら、 トク:なるほど、 店主:さようでございます。 トク:ん~、よし、そいじゃあ、この 店主:お買い上げでございますね。ありがとう存じます。 トメ:(トクに)ちょ、ちょっとトクさん! トク:(小声でトメに)おめえはゴチャゴチャ言うな。俺に トメ:(トクに)いや、でも俺が欲しいのは…… トク:(小声でトメに)いいから!黙って見てろってんだ! 店主:あの、また何か トク:(店主に)いやいや!何でもねえんだ!気にしちゃいけねえ。 店主:さようでございますか。
トク:おう。 店主:では、3円50 トク:そこだよ。
店主:お客様、どうぞ ご勘弁くださいまし。
トク:分かってる、分かったうえで頼んでんだ。
店主:いえもう……手前どもは、 トク:んなこと言わねえでよぉ、頼むよぉ。
店主:なるほど それで トク:おまえさんも強情な人だねぇ……。いや立派だよ。
店主:いや……そう申されましても…… トク:これだけ言っても まだダメなのかよ。
店主:そんな乱暴な……。
トク:え!?3円で売ってくれんの!?ホントに!? 店主:はい。 トク:おおー ありがと ありがと!
店主:無理矢理 安くさせたんじゃございませんか……。 トク:はっはっは、 店主:ええ、頼りにしておりますので。 トク:おう 店主:それは どうもありがとう存じます。
トク:分かった。
トメ:いや、でもトクさん…… トク:いいから出せってんだよ! トメ:だって、俺が欲しいのは…… トク:(小声で。キレ気味)分かってるよ!これでいいんだよ!
トメ:そ、そんなに怒らなくたって いいじゃねえか……。
トク:オウ。
店主:はい、たしかに3円 トク:お、ありがとよ。
トメ:わ、分かったよ……。
トク:(トクは後棒を担ぐ)よいしょ。
店主:お買い上げ、どうも ありがとうございました。 トク:オウ、じゃあな!
トメ:(ため息) トク:いやー トメ:トクさんよぉ…… トク:なんだ? トメ:たしかにトクさんは トク:心配するな、大丈夫だよ。
トメ:大丈夫じゃねえよ。
トク:大丈夫だって。
トメ:え!? トク:なわけねえだろ。いいから歩け。
トメ:あれ?トクさん、これ どこへ向かって歩いてんの? トク:いいから いいから。
トメ:はいはい右ね。
トク:これでいいんだよ。
店主:いらっしゃいまし……あ、これはこれは。
トク:お?
店主:覚えるも何も……つい先ほど お帰りになったばかりですので、
トク:それなんだ。いや ちょいと聞いてくれよ。
トメ:だから俺は最初から…… トク:(小声でトメに)おめえは黙っとけ!
店主:ああ、さようでございますか。
トク:なるほどね。
店主:はい それでしたら、 トク:ほう! 店主:はい、さようで。 トク:てことは、俺たちゃ さっき 店主:え…………。
トク:6円で売ってくれる!?いやーすまねえなぁ! トメ:(小声でトクに)おお!トクさん、すげえなあ! トク:(小声でトメに)なぁに まだまだ こっからよ。 トメ:え? 店主:ええと お客様、 トク:ああ、そっちは間違いだったから、いらねえんだ。
店主:ええ、かしこまりました。
トク:でさぁ、この 店主:え?
トク:3円で引き取ってくれるんだな!ヨシ!
店主:ああ、はい。先ほど いただいたまま、
トク:で、この 店主:ええ、さようで。 トク:てことは 3円と3円で6円だから、この 店主:ああ、はい。
トク:いや だから、最初に3円 渡してあるだろ? 店主:はい。 トク:で、 店主:はい。 トク:てことは 3円と3円で6円だから、この 店主:ええと……
トク:よーし、じゃあ行くぞぉ。ほら トメ:トクさんすげえ、すげえよ……! トク:いいから。感心してねえで歩け。 トメ:だって すげえよ!いや~ホント トクさん頭いいなぁ。
トク:あんまりニヤニヤしながら うしろ見るんじゃねえよ。
トメ:んなこと言ったって、なんか さっきより トク: トメ:あ、そっか。 店主:お客様ー!あの、お客様ー!
トク:見ろ、グズグズしてるから、なんか勘付きやがったじゃねえか。 トメ:ど、どうしよう……。 トク:逃げるわけにもいかねえ。戻るぞ。 店主:どうも 申し訳ございません、お呼び止めいたしまして。 トク:いや別に かまわねえんだけどさ。
店主:ええ、そうなんでございます。
トク:そうだよ。分かってるよ。 店主:ところがですね、今、手前どもの 手元に、3円しか ございませんで……。 トク:何言ってんだよ。
店主: トク:忘れちまってねえか?それ3円で引き取ってくれたんだろ?
店主:ええと…………
トク:いやいや、分かりゃいいんだよ。
トメ:あっはっはっは、あいつバカじゃねえの?(笑)
トク:笑うなってんだよ、怪しまれるじゃねえか。 トメ:しっかしトクさん すげえよ。コロっと まるめ込んじまうんだもんなぁ。
トク:うるせえなぁ。いいから早く歩け。 店主:お客様ー!お客様ー!ちょっと お戻りを願いますー!
トメ:うわ、まただよ……。 トク:ヤロウもなかなか しぶといなぁ。 店主:申し訳ございません お客様。
トク:おい、そろそろ いい加減にしてもらおうじゃねえか。
店主:申し訳ございません。
トク:何が どう合わねえんだよ!
店主:それは……そうなんでございましょうけど……。
トク:んなこと こっちは知ったこっちゃねえんだよ。
店主:は? トク:ソロバン出せってんだよ。 店主:いやいや、何もソロバンを使うほどのものでは…… トク:何言ってんだよ。
店主:はい……。
トク:よし。まず最初に3円 渡してある。
店主:はい、手元に3円たしかにあります。
トク:よし。
店主:ええと……。
トク:いくらになってる? 店主:…………。
トク:ほらみろ。
店主:いや、その、それは……そうなんでございますけど……。
トク:おまえさん、ちょいと頭が こんがらがってるみてえだな。
店主:問題? トク:おう。
店主:はい。 トク:その店の番頭が30円 受け取って、奥にいる主人のところへ持ってった。
店主:はい。 トク:ところが その番頭が 悪いヤツで、
店主:あら。 トク:返ってきた3円を、3人の お客は1円ずつ分け合った。
店主:たしかに。 トク:9かける3で27円。
店主:え……。
トメ:トクさん、俺も分かんねえよ。 トク:だろうなぁ。 店主:(ひとりで悩んでいる)えーと……えーと……
トク:どうだ?落ち着いたか? 店主:(もうパニック)
トク:お、帰っていいのかい? 店主:帰ってください!
トク:え? 店主:元はと言えば、この トク:でも もう それ 店主:ですから この3円も返しますんで!! トク:え!その3円も返してくれるの!? 店主:ええ!ですから トク:そうかい!ありがとよ!
トメ:いやートクさん すげえよ!
トク:ああ、上手くいったな! トメ:あの野郎、よっぽど混乱してたんだねえ!
トク:はっはっは。まさに こっちの 思う
・トクさん(セリフ数:122)
?歳。
口が上手くて買い物上手。
・トメ
?歳。
町内の間抜け男。天然おバカ。
・
?歳。
人の好い店主。
・トク:♂
・トメ:♂
・店主:♂
水壺(みずつぼ)
水を入れる壺。水がめ。
こすっ辛い(こすっからい)
ずるく抜け目がない。悪賢い。
荷(か)
量を表す単位。「1荷」は一人が肩に担える物の量。
荒縄(あらなわ)
わらで作った太い縄。
天秤棒(てんびんぼう)
荷物を吊るして肩に担ぐための棒。
勉強(べんきょう)
ここでは、商品を安く売ること。
了見(りょうけん)
考え。思案。
おう、なんだ、誰かと思えばトメ
いや実は
「じゃ ひとっ走り
「ちょいとお待ち。おまえさん ひとりで行っちゃいけないよ」って止められて。
「なんでだよ」って
「おまえさんくらい買い物の下手な人はいないよ。
悪い品物を わざわざ高い値段で買って、
ご丁寧に お礼まで言って 帰って来るような人なんだから」
こんなこと言うんだよ。
ちょいと
で、カカアが言うには、裏のトクさんは 頭が良くて
ほう。俺が、頭が良くて、
いやあ、悪い気しねえなぁ。
おめえのカカアが、俺のこと そんなふうに言ってたの?
「あの人は 人間が こすっ
どんな安い物でも さらに値切って買うような人だよ。
おまけに ちょいと おだてりゃホイホイ言うこと聞いてくれるから、
連れてって値切ってもらいな」
なんて言ってたよ。
おめえ、持ち上げといて、ものすごい勢いで落とすねぇ……。
え、おめえのカカアが
ああ、そいうえばカカアが言ってたな、
ここの部分は 本人の前で言っちゃいけないよって。
……まぁいいよ、おめえみてえなマヌケに言われたんじゃ 腹も立たねえや。
いいよ、一緒に行ってやるよ。
トクさん、このたびは、お手を わずらわせて、もうしわけありませんねぇ。
で?どんな
今までは
前々から ちょっと小せえなぁと思っててさ。
で、いい機会だから、今度は 倍
いいか?店に着いたら、おめえ 余計な事するんじゃねえぞ?
おめえが余計な事して
安く買おうと思ったら、絶対に
ヨシ、じゃあ行くか。
おうトメ
ごちゃごちゃ言わねえで持て。
ほい、持ったよ。
ああ、ちょっとしたコツだよ。
まぁ 話の持って行き方 ってヤツだ。
例えばよ、俺たちが
「
いいから黙って聞け。
いいか?
「お!いい
いかにも買いたそうな態度を見せたりしたら、店のモンも つけ上がって、
15円のところを 17円、18円と
さっきも言ったろ?買い物は 店と客との
ここはな、まず 出てきた
そうしておいてな、ちょいと考えるフリでもして、
「ん~、まぁでも、せっかく来たんだし、手ぶらで帰るのも
安けりゃコレ買って帰ってもいいんだがなぁ……」。
そうやって、「安けりゃ」ってところを しっかり聞かせといて、
「オウ、この
店のモンにしてみりゃあ、多少
1円か2円は まけてくれるってもんだ。
さすがトクさん、
俺も今度やってみよっと。
お、んなこと言ってる
おう トメ
(店主に)オウ、邪魔するぜ。
今日は何を お求めでいらっしゃいますか?
こちらに並べておりますのが、
手前の小さい方が
オウ、トメ
(なぜかトメが店先でしゃがみ込んでいる)
ん?どうした トメ
気分でも悪いのか?
じゃ おめえ、ほんとに テメエの足 見られねえように、
しゃがんで
(ため息)どうしようもねぇバカだな おめえは……。
あのなぁ、「
ああもう、いいから立てよ!
いやバカな野郎でよ、ときどき ワケ分かんねえこと しやがるんだよ。
気にしねえでくんな。
(トメに)ホラ、こっち来て
いや、トクさん、この
(店主に)な?こういうバカなんだよ。気にしねえでくんな。
ところでよ、この
この
わざわざ手前どもの店を 選んで入ってくださった お客様ですから、
ぐっと勉強させていただきまして、3円50
この
わざわざ おまえさんの店を 選んで入ってやった俺だから、
ぐっと勉強してくれて、3円50
じゃ念のために
この
俺たちが たまたま おまえさんの店に入った客で、
したがって勉強もしてくれなかったら、いくらになんの?
3円50
それじゃよぉ、
お値段のほうも、
では、
3円50
いや俺だってね?この
分かってるけどさ、実を言うと 今日は 俺の買い物じゃねえんだよ。
コイツに頼み込まれて 来てんだ。トクさんは
その俺が
だからよ、この
もう この お値段で いっぱいいっぱい でございますんで……
俺たちゃ今日 初めて おめえんとこの店 来たんだ。
今日は 顔つなぎってことで ひとつ、頼むよ、これから
いや、なにも無茶な 値切り方しようってんじゃねえんだ。
3円50
3円に してくんねえか?
どうぞ ご勘弁くださいまし。
いや俺たちもね、なにも ただ まけてもらおうなんて図々しい
ホラ、
この
俺たちで
ここまで気ィ
いえ、その お
やっぱり3円で お売りするわけには まいりませんので……
でもさ、「
この
おめえの店のこと、近所じゅうに
いい店だぞーっ、
そうすりゃ 客が増えて
俺に 50
でも
よーし分かった!近所じゅうに
そうすりゃ すぐにでも客が 押し寄せて来るぜ!
(ため息)分かりました。手前どもの
今日のところは 特別に その
いやぁ なんか
まぁ気ィ悪くしねえでくれよ。
これから ちゃーんと
そいじゃ さっきも言ったとおり、運ぶ手間は取らせねえ、
こいつは俺たちで
(奉公人の小僧に)
運びやすいように
(トクに)それでは お客様、3円
(トメに)おうトメ、3円出せ。
つべこべ言わねえで さっさと3円出せってんだよ!
分かったよ、出しゃいいんだろ……ホラ(3円わたす)
(店主に)いやぁ
どうも ありがとう存じます。
では お持ちになった
お気をつけて お持ち帰りくださいまし。
(トメに)よーしトメ、
早く
(しぶしぶ担ぐ)よいしょ。
うっし、じゃあ帰るぞ!
(トメに)さ、歩け歩け!
人の話をちゃんと聞かねえから いけねえや。
俺は
なんで
おう、そこ右に曲がれ。
こんなの持って帰ったら、またカカアに
おう、そこも右に曲がれ。
こうやって
え、なに、
で、そこをまた右に曲がれ。
よーし、最後 そこを右だ。
あれ!?
トクさん、ぐるっと回って さっきの店に戻って来ちゃったよ!?
(店主に)オウッ、ごめんよ!
何か お忘れ物でも なさいましたか?
「お忘れ物でも なさいましたか」なんて 言うところを見ると、
俺のこと 覚えてくれてんのかい?
お見忘れのしようも ございませんが……。
あの、何か……?
(トメを指して)ここにいる このバカ、こいつが欲しかったのは
そんなら そうと最初っから 言っとけってんだよなァ?
(店主に)てなわけだからよ、すまねぇ、
ええ ええ、お間違いは どなたにでも あるものでございますから。
奥のほうに並べておりますのが
どうぞ ごらんになってくださいまし。
えーと、
お値段のほうも、
その倍で6円てことだな!
お客様……、あなた様という方は、ホント~~に
お買い物が お
わたくし 初めてでございますよ、
ここまで手の込んだ 値切り方を見たのは……。
(ため息)分かりました。今日はもう、手前どもの完敗でございます。
では今回だけ、今回だけでございますよ?
特別に
それで、今 持って戻られた こちらの
(奉公人の小僧に)
……いや、いくらと申されましても……
ついさっき お持ちになって、そのまま戻って来られただけですからねぇ……。
で、さっき3円 渡してあるよね?
まだ しまいもせずに ここに置いてございます。
……はい??
(なんか納得しちゃう)ああ、さようでございますね。
では どうぞ お持ちになってくださいまし。
お買い上げ ありがとう存じます。
あと、もうちょっと早く歩け。
申し訳ございません!ちょっと、お戻りを願いますー!
お
どうしたんだい?
手前ども その
(
その3円と 手元の3円 足しゃあ 6円になるじゃねえか。
(なんか納得しちゃう)あ、さようでございますねぇ。
わたくし、この
ふむふむ、3円で引き取って、手元の3円と足して6円。
ああ、合ってますねぇ。
いや これはどうも、お急ぎのところ お呼び止めして 申し訳ございませんでした。
よーし トメ
ちっとも分かってやがらねえの(笑)
もう
お
たびたび お戻りを願いまして……。
こっちが
まるで俺たちが
周りの連中も ジロジロ見るじゃねえか!
ですけど、どうにも お
最初に3円 渡してある!
それから
3円と3円で6円!何も 問題ねえじゃねえか!
でも……、なにか、こう……引っかかるんでございますよ……。
「ああ、今日も いい
なんか、こう……心に モヤモヤしたものが残るんでございますよ。
しょうがねえ野郎だなぁ。
じゃソロバン出せよ。
おめえ さっきから頭で考えて ちっとも分かってねえじゃねえか。
いいからソロバン出せよ。
出しました。
そこにある3円だ。
3円と入れろよ。
では3円、と。
(ソロバンに3円と入れる)はい、入れました。
次に そこの
3円と入れろよ。
この
(ソロバンに3円と入れる)入れました……。
6円になってます……。
ソロバン使っても6円になるんだから 間違いねえじゃねえか。
なんか こう……しっくりこなくて……。
なんでだろ……?なんで6円に なっちゃうんだろ……?
よし、いったん落ち着くためにな、これから俺が出してやる簡単な問題を、
冷静になって解いてみろ。
いいか?
ある店に 3人の旅人が やって来て、
10円ずつ出し合って 30円の品物を買ったんだ。
そしたら そこの主人が優しい人で、「
2円ネコババして 3円だけ お客に返したんだ。
10円ずつ出したところに 1円ずつ返ってきたんだから、
3人の旅人は
そこに 番頭が ちょろまかした2円を足して29円。
さて あと1円は どこへ行った?
え??
えーと えーと……、30円出して 3円返ってきて…… 、
てことは、ひとり9円……。9かける3で27円……。2円 足して29円……。
あれ?
え?
あれェ?
なんでだ……?1円どこ行っちゃったんだ……?
えーと えーと……
あああ~~!わから~~ん!!
落ち着きませんよ!よけいにモヤモヤしちゃってますよ!
どこ行っちゃったんですか!この1円も!
(トクに)
あ、あなた一体 何者なんですか!
数字の魔術師か何かですか!
(半泣き)もうやだ!なんで お金が消えるんだ!
もうやだ!お客様、今日は もう帰ってください!
あ!それから!
この
こんなモノを引き取ったばかりに ワケの分からないことに……!
申し訳ありませんが、この
持って帰ってください!
今日はもう店じまいです!
よーし トメ
おかげで
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
柳家三三
桂歌丸
三遊亭兼好
古今亭志ん陽
柳家東三楼(3代目)
立川志の輔
春風亭昇太
春風亭一朝
入船亭扇治
柳家権太楼(3代目)
三升家小勝(6代目)
三遊亭萬橘(4代目)
笑福亭松喬(6代目) ※上方落語
桂米朝(3代目) ※上方落語
桂南光(3代目) ※上方落語
桂枝雀(2代目) ※上方落語
笑福亭仁鶴 ※上方落語
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp