声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
・上演を公開される際は、観覧無料の媒体のみで行うようお願いします。
観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
配信者へ 金銭または換金可能なアイテムやポイントを贈与できるシステムの有無は問いません。
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<登場人物> <配役>
【ちょっと難しい言葉】 ここから本編
女房:おまえさん、今朝はどうだい?目の 亭主:ん~、いやダメだなぁ……。
女房:当たり前じゃないか。
亭主:んなこと言ったって、ボーッとして
女房:あのねえ、ここは あたしたちの家だよ?
亭主:ホントかぁ?
女房:(呆れ)わかったよ。
亭主:うわぁ!!バケモノ!!
女房:どういう意味よ!バケモノって! 亭主:いやぁ、食われちまうかと思ったぜ……。
女房:ちょっと離れると 見えにくくなるのかい? 亭主:そうなんだよ。
女房:それじゃあ、今日も仕事に行けないのかい? 亭主:しょうがねえよ。こう目が見えねえんじゃ、
女房:困ったねえ。
亭主:そんなに切れてんのか?まいったなぁ。
女房:切れないのは 包丁ぐらいのもんだよ。 亭主:それは切れたほうがいいんだよ。 女房:食べる物だって ロクに買えや しないしさ。
亭主:たしかに、焼きイモだの、ふかしイモだの、
女房:行ってどうするんだい? 亭主:ワケを話して、 女房:わかった。じゃ、行ってくるよ。 女房:ただいま。
亭主:オウ、ありがと。
女房:ああ、ダメダメ!
亭主:書いてある?
女房:あたしだって読み書きなんか できないよ。
亭主:こんなとこで悪かったな。
女房:どれどれ……?
亭主:おめえもそうか?
女房:あ!おまえさん!
亭主: 女房:そうだよ!
亭主:ん……?
亭主:(女房に)
女房:はァ!?
亭主:だれがスケベだよ!
女房:はあ!? 何 ワケ分かんないこと言ってんのさ!
亭主:しょうがねえだろ?
女房:何 バカなこと言ってんだい! 亭主:だったら 早く おめえのケツ出せよ。 女房:なんで そうなんのよォ……。
亭主:知らねえよ。知らねえけど、
女房:(ため息)しょうがないねぇ……。
亭主:ヨシ、 女房:(しぶしぶ着物をまくる)
亭主:ん~?
女房:ケチってるワケじゃないわよ!
亭主:ハァ?
女房:うるさいわねぇ……わかったわよ……。
亭主:(眼前に出現した 巨大な尻に 若干 驚くやら引くやら)
女房:バカなこと言ってんじゃないわよ! 亭主:それにしても、こんな明るい所で
女房:いいから!やるなら早くしてよ! 亭主:分かった分かった、そんなに怒るなよ。
女房:この 亭主:分かったよ。 女房:うるさいわねぇ。 亭主:(お尻の穴を触って)
女房:キャッ!!
亭主:おめえのケツってさあ、
女房:どういうことよ? 亭主:真ん中に コウモン様が いる。※「黄門」と「肛門」のシャレ 女房:くっだらねえ!!
亭主:なぁ おっかあ、俺の この目の 女房:なによ急に……。
亭主:俺、思うんだ。
女房:もう うるせえよ!!
亭主:ヨーシ、じゃ、コウモン様に 付けてくぜぇ。
女房:(くすぐったい)
亭主:オイオイ、笑うんじゃねえよ。
女房:わ、わかったよ……。 亭主:じゃ、また付けてくぜ。
女房:(下腹に力を入れて我慢する)
語り:さあ おかみさん、笑うなと言われたもんですから、
女房:あ…… 亭主:(屁を顔面にマトモに浴びる)
女房:だ、だって、笑わないようにガマンしたら…… 亭主:見ろ、せっかく付けた
・亭主(セリフ数:39)
年齢:何歳でも自由に。
大工。ここ数日、目の具合が悪い。
・女房(セリフ数:40)
年齢:何歳でも自由に。
・語り(セリフ数:2)
どちらかが兼ねてください。
・亭主:♂
・女房:♀
・語り:不問 ※どちらかが兼ねてください。
釜のふたが開かない(かまの ふたが あかない)
米を買う金もない(従って釜を使うことがない)ほど貧窮すること。
湯屋(ゆや)
風呂屋のこと。
長火鉢(ながひばち)
横に長い箱型の木製火鉢。引き出しや物入れが付いている。
ちっとも良くなってねえや。
視界も
(女房の顔も霞んでよく見えない)
そこにいるのは、おめえか……?
他に誰がいるのさ。
顔が よく見えねえんだよ。
見えなくたって、あたしに決まってるじゃないか。
じゃあ もっと こっちに顔 近付けてみろよ。
(顔をぐっと近づけて)
ホラ、よく ごらんよ。
まちがいねえ、たしかに おめえの顔だ。
んー、これくらい近付くと 見えるんだがなぁ……。
(ため息)まいったなぁ。
職人が 目ェ
下手すりゃ テメエの指 ブッ叩いちまう。
仕事に なりゃしねえよ。
第一、この視界じゃあ、誰かに 手でも 引いてもらわねえと、
怖くて 外なんざ歩けねえや。
川に落っこちるか
おまえさん、もう5日も仕事に行ってないだろ?
おまえさんが稼いでくれないと、
ウチの台所は もう大変なんだから。
お米は切れるし お
塩は切れるし
何か切れねえもんは
おかげで ここんとこずっと おイモばっかり食べてるでしょ?
もう お
ずっと イモばっか食ってんなぁ……。
(ため息)しゃあねえ。
いつまでも ウチでグダグダしてる
よし、おっかあ、ちょいと
で、帰りに
目薬 買って来たよ。
はい。(と言って薬の紙袋を渡す)
(袋から薬を取り出して見る)
ん?こりゃ
目薬ってえと、てっきり
(女房に)
なあ おい、これは水に
飲み薬じゃないって
使い方は 袋の裏に書いてあるから
よく読んで その通りに使えって。
オイオイ、俺ぁ職人だぜ?
字は苦手なんだよ……。
第一、
ん~、どれどれ……?
(顔を近づけて袋の裏書を見る)
ああ、何か書いてあるな……。
お、
これなら なんとか読めねえことは ねえか……。
ん~、なになに……?
えー、
(1字1字 たどたどしく)
「こ・の・く・す・り・は・み・み・か・き・い・つ・は・い……
ああ なるほど、「この
えーと それから……。
ん?次の字、これ何だ?
どっかで見たことあるような気もするんだが……。
ん~、この字が分かんねえな……。
えー、「ナントカ・の・し・り・に・つ・け・る・へ・し」……。
どういうこった……?
オウ おっかあ、この字、読めるか?
そんな教養あったら、こんなとこへ嫁に来てないよ。
いいから見てくれよ。
どっかで見たことある字だと思うんだが……。
あら、あたしも この字、
どっかで 見たことあるような気がするよ。
何て字だったかなぁ……?
これ、お
おお……!
そういや そうだ!
これ「
てことは……
「
「
読めた!
「この薬は、耳かき一杯、
なるほど!
この ご亭主、目薬の使用法を読んで、
「
まぁ もちろん これは間違いです。
治るワケがありませんから。
つまり ご亭主は、字を読み間違えたんですね。
では 本当は 何と書いてあったのかと言いますと、正しくは、
「この薬は、耳かき 一杯、めのしり(目の尻)――目のお尻、要は
と書いてあったんですね。
つまり ご亭主は、
読み間違えてしまったというワケです。
「そんなの間違うか?全然 ちがう字じゃないか」と思うかもしれませんが、
それは 現代人の感覚で。
もともと
漢字を 変形させて できた字なんですね。
それぞれ 元になってるんです。
では
それが「
まあ昔は、現代のように 誰もが きっちり
読み書きの教育を 受けるわけじゃありませんし、
職人さんなら なおさらでしょう。
「読み書きよりも ウデを
それに昔の文字というのは、だいたい 筆で こう、
ウニャウニャと書かれていて、わかりにくいですからね。
まあ そんなワケで、ご亭主は、「目の尻に 付けるべし」と書いてあるのを
「
さて、どうなりますか――
オウおっかあ、ちょっと こっち来てよぉ、
着物まくって、ケツ出してくれ。
(何を勘違いしたのか、照れ始める)
ちょ……ちょいと おまえさん、
いくら仕事 休むからって、
こんな明るいうちから そんなこと……、
もォ、やだよォ♥ おまえさんのスケベ♥
おめえが いちばんスケベじゃねえか!
妙な勘違いしてんじゃねえよ。
目薬つけるから ケツ出せってんだよ。
おまえさんの目と あたしの お尻と、
どういう関係があんのよ!
ここに「女の尻に付けるべし」って書いてあんだから。
この家に 女は おめえしか いねえじゃねえか。
それともナニか? 俺の目ェ治すために、
隣の お
あのねえ、
なのに どうして あたしの お尻に薬つけんのよ。
ここに そう書いてあるんだから。
とにかく やってみりゃ分かるよ。
よいしょ。(と四つん這いになる)
オウ、もっと頭 下げて ケツを上げろ。
近付けてくれなきゃ よく見えねえからよ。
オーそうそう、いいぞォ。
もっと突き出すように。
そうだそうだ。
オーシ そんなもんでいいだろ。
じゃ着物まくれ。
こ、こうかい……?
あのなぁ、それじゃ半分しか出てねえじゃねえかよ。
ケチケチしねえで ガバっと全部 出せよ。
恥じらいってもんが あんのよ!
おいおい、俺たちゃ何年 夫婦やってんだ?
今さら おめえのケツなんざ見たところで
なんとも思わねえよ。
ホラ、ガバっといこうぜ ガバっと。
(ガバっとまくる)
ホラ!これでいいんでしょバカ!
おおぅ……これはこれは、
たいそう立派な おケツで……。
いやぁ、まさしく
おめえのケツ 見たの 久しぶりだなぁ……。
しかも こんな
あ、おめえ こんなとこにホクロあったのか。
(あらためて使用法を確認)
えーと、「この薬は 耳かき一杯」……
(女房に)
オウおっかあ、耳かき取ってくれ。
そういうことは こんな格好させる前に言いなさいよ!!
耳かきだったら
自分で取ればいいでしょ!
(探す)
えーと……、オッ、あったあった。
で、これに一杯分を ケツに付けろってことなんだが……
この でけえケツの どこに付けりゃいいんだ……?
見渡す限りケツだもんなぁ。
やっぱり 真ん中の ここかなぁ?
いきなり どこ触ってんのよ!!
てゆーか アンタの お尻も 同じでしょうが!!
あたしに
お医者さんでも 薬屋さんでも ないんだから。
尻に薬 つけさせるってことは、この
ケツ
何なの!?
大工やめて 芸人にでも なんの!?
いいから さっさと 薬つけなさいよ!!
(薬を耳かきから指にちょっと取って お尻の穴に付け始める)
よいしょ。
あんッ(笑)
く、くすぐったいッ……(笑)
動いたら 付けにくいじゃねえか。
少しぐらい くすぐったくても我慢しろよ。
よいしょ、よいしょ。
ううっ……!
さて、ここで思い出していただきたいのが、
この家では このところ ずっと
イモばかりを食べていた ということ。
イモを食べると お
おかみさんのお
パンパンに
そんなところへ 急に
もう お察しでしょう。
おかみさん、大きなオナラを一発、
ブーーッ!!
ゴホッ、ゴホッ……
な、何しやがんだ おめえ……。
人の顔に向けて
ぜんぶ飛び散って、俺の目に入っ――
なるほど、この薬は こうやって付けるのか。
おわり
春風亭小朝
三遊亭鬼丸
橘家文左衛門
春風亭傳枝(10代目)
露の五郎兵衛(2代目) ※上方落語