声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
<登場人物>
<配役>
ここから本編
語り1: 男1:聞いたか?浪士の 女1:聞いたわよ! ひどい話じゃないか!
男1:まったくだ! それを 切腹だなんてよォ!
語り1:この幕府の 語り1:時は 七兵衛:(売り声) 徂徠:(空腹で倒れそう)
七兵衛:(遠くで呼んでるのかと思い)
徂徠:(空腹で息も絶え絶え)
七兵衛:ああ、そんな近くでしたか。
徂徠:(空腹で息も絶え絶え)
七兵衛:あんまり めでてぇって顔じゃ ござんせんねぇ。大丈夫ですかい? 徂徠:(空腹で息も絶え絶え)
七兵衛:へい、おひとつですね、ありがとう存じます。
徂徠:あ、では、(その辺から 欠けた器を取って)この器に……。 七兵衛:へい、じゃ そこに入れますよ。
徂徠:ありがとうございます。
七兵衛:え? 徂徠:(ひとくち食べる)アムッ ムシャムシャ。
七兵衛:(豆腐を褒められてゴキゲン)
徂徠:(食べてる)ムシャムシャ。
七兵衛:ほォ、こいつァ本当の豆腐好きでござんすね。 徂徠:ムシャムシャ。
七兵衛:へい、 徂徠: 七兵衛:そうですか、どうも ありがとう存じます。
徂徠:(実は1文無し)
七兵衛:ああ、さようでござんすか。
徂徠:いや、でも―― 七兵衛:なァに 構わねえスよ。よくある事なんで。
徂徠:あ、お分かりになりますか? 七兵衛:いや だって、 徂徠:いや先生だなんて とんでもない。
七兵衛:そうなんスかい?
徂徠:さあ……。5年先か、10年先か――。
七兵衛:エライ! いや 徂徠:いえ ですから まだ先生では―― 七兵衛:いやいや、あっしにとっちゃぁ もうセンセイすよ。
徂徠:(感じ入る)
七兵衛:おっと。ついつい長居しちまった。
語り1:そうして 七兵衛:オウ おっかあ、帰ったぜ。 うの:おかえり おまえさん。ご苦労さま。
七兵衛:当ッたり前よォ。 うの:あら、うの様をナメてもらっちゃ困るねぇ。
七兵衛:ハッハッハ、さすが おっかあ、大したモンだ!
うの:ホント。ありがたいねえ。 七兵衛:オ、そう言やあよぉ、 うの:学者のセンセイが?
七兵衛:ま、正確には まだ「センセイのタマゴ」って所らしいんだけどな。
うの:へぇ~。すごいもんだねぇ。 七兵衛:でよ、そのセンセイが ウチの豆腐、えらく気に入ってくれてよぉ。 うの:あら、そうなのかい? 七兵衛:ああ。器に入れてやったら、すぐ その場で食べ始めてさ。 うの:その場で!? 七兵衛:そうなんだよ。俺もビックリしちゃったよ。
うの:嬉しいねぇ。作るのにも ハリが出るってもんさ。 七兵衛:まったくだ。今年も春から 縁起がいいぜ。 語り1:そして翌日。
七兵衛:(売り声)豆ォ~~~腐ゥ~~~ 徂徠:(また空腹で衰弱)
七兵衛:(返事)へーい!
徂徠:おなかが 空いておりまして……。
七兵衛:へい、どうぞ。 徂徠:ありがとうございます。
七兵衛:(しばらく食べっぷりを眺めて)
徂徠:ああ、これは 大変 お見苦しいことで……。
七兵衛:いやいや、それだけ 夢中になって 食べてくれりゃあ、
徂徠:そうおっしゃっていただけると(ムシャムシャ) 、
七兵衛:ありがとう存じやす。
徂徠:それがその――、あいにくと今日も、
七兵衛:ありゃ、さようでござんすか。
うの:ちょいと おまえさん。 七兵衛:なんだい? うの:おまえさん、昨日も今日も、
七兵衛:ああ、売り切ったよ。 うの:おかしいねぇ……。 七兵衛:どした? うの:いやね、今 七兵衛:1丁分?
うの:え? どういうこと? 七兵衛:いや、例のセンセイなんだけどよ、昨日 売った時に、4 うの:ああ そういうことかい。
七兵衛:何がだよ。 うの:何がって そうじゃないか。
七兵衛:あ そっか。
うの:じゃ 七兵衛:オウ 分かったよ。 語り1:ということで また翌日。 徂徠:(食べ終えて)
七兵衛:ありがとう存じやす。
徂徠:それが その――、あいにくと今日も、 七兵衛:ええ、そうおっしゃると思いやしてね、
徂徠:え――!? 七兵衛: 徂徠:――。
七兵衛:へい。 徂徠:わたくしは、 七兵衛:ええ。おっしゃいやしたねぇ。 徂徠: 七兵衛:…………え? 徂徠: 七兵衛:……。
徂徠: 七兵衛:ええっ!それじゃ おまえさん、 徂徠:(勢いよく土下座)
七兵衛:(絶句)……。
徂徠:お金は…… 七兵衛:え、そうなのかい!? 徂徠:小さな塾で 読み書きを教えて 生活の足しに していた事もあったのですが、
七兵衛:それで 飢え死に しちまったんじゃあ 何にも ならねえじゃねえか。
徂徠:それはできません。 七兵衛:(ため息)学者ってのは、 徂徠:いえ、自分に商売の 七兵衛:(今の言葉に感じ入るものがある)――。 徂徠:――しかし、だからと言って、 七兵衛:え? 徂徠:お 七兵衛:ちょちょちょちょ、ちょいと待ちなよ!
徂徠:しかし罪は罪です。 七兵衛:いや、そりゃそうだけどよぉ……。
徂徠:分かっています。
七兵衛:おまえさんは それでいいかも知れねえけどよ――
徂徠:え――? 七兵衛:おまえさん さっき言ってたじゃねえか。
徂徠:それは――、それは買いかぶりというものです。
七兵衛:何 言ってんだ。
徂徠:しかし事実、私は お豆腐を食べてしまいましたし、
七兵衛:分かってるよ。いくら俺でも、法を曲げることなんざ できねえさ、
徂徠:え――?
七兵衛:おうよ。出世払い。
徂徠:はい――、意味は分かりますが―― 七兵衛:じゃあ決まりだ。
徂徠:し、しかし、世に出るなんて、いつになることやら――
七兵衛:んな弱気なことでどうするよ。
徂徠:(感動)
七兵衛:ん?
徂徠:え―― 七兵衛:ウチの豆腐 食ってる時の おまえさんの顔、本当に幸せそうでよぉ。
徂徠:(もう泣きそう)
七兵衛:よせやい(笑)
徂徠:ああ 七兵衛:え? なんだい、白い おまんま 嫌いかい? 徂徠:いいえ、大好きです。毎晩 夢に見ます。 七兵衛:なんだよ、それじゃ 遠慮すること ねえじゃねえか。 徂徠:いいえ。もし、 七兵衛:いや、豆腐は もちろん持って来るよ。
徂徠:そうは参りません。
七兵衛:――。
徂徠:お……、おかしいでしょうか……。 七兵衛:いや だってさ、出世払いなんて そんなアテの 徂徠:そ、それは……、 七兵衛:いやいや(笑)、まぁよく分かんねえけど、
徂徠:ありがとうございます……! 七兵衛:(真剣な顔になって)
徂徠: 七兵衛:飢え死になんざ したら――、このまま、世に出ねえまま、
徂徠:(もはや泣いてる)
七兵衛:そいじゃセンセイ、また 語り1:そんな うの:出世払いねえ……。
七兵衛:なんでだよ。 うの:いくら お豆腐1丁ずつと言ったって、
七兵衛:大丈夫だよ。
うの:そんなの分かるもんかい。 七兵衛: うの:意地悪で言ってるんじゃないよ。
七兵衛:どういうこったよ? うの:昨日だって、あたしに言われなきゃ 多めに 七兵衛:そのことは もういいじゃねえか、うるせえなぁ。 うの:だいたいねぇ、その人が 学者ってのが まず 七兵衛:バカ言ってんじゃねえよ!
うの:見えるかよって、あたしは その人 見たことないもん。 七兵衛:あ そっか。
うの:(納得して優しい顔になる)
七兵衛:おっかあ――。ありがとよ。 うの:さあ そうと決まったら、そのセンセイには
七兵衛:おっと、そいつは いけねえ。 うの:なんでさ? お豆腐だけじゃ 足しに なんないでしょ? 七兵衛:そりゃ おめえ、考えが浅いってもんだ。 うの:何よそれ。どういうことよ? 七兵衛:分からねえか?
うの:へえ、ご大層に 聞いたふうなコト言うじゃないか。
七兵衛:いや センセイ本人が そう言ってたからよ。 うの:何だいそれ、聞いたまま 言っただけかい。
七兵衛:俺もそう思うけどよぉ、むこうが ダメだって言うんだから しょうがねえじゃねえか。 うの:ん~~。
七兵衛:おお!そいつぁ いい考えだ!
語り1:「おから」とは、大豆から 豆腐を作る過程で出来る、
徂徠:(おからをもらって)
七兵衛:何言ってんだ、 徂徠:(感涙) 七兵衛:なぁに、おからのことは、ウチのカミさんが 考えついたんだ。
徂徠:なんと、 七兵衛:オクガタ様ァ!?
徂徠:はいッ!ありがとうございます――! 語り1:その 七兵衛:(独白)
語り1: 七兵衛:(戸の中へ呼びかける。ドンドンと叩いてもいい)
おたけ:オヤ、お豆腐屋さんじゃないか。 七兵衛:オウ、おたけバアさんじゃねえか。
おたけ:学者のセンセイ?
七兵衛:そうそう!
おたけ: 七兵衛:え!? いねえ!?
おたけ:ん~~ ありゃ 3日ほども前だったかねぇ。
七兵衛:そいつら 一体 何モンなんだよ?
おたけ:さあのぅ。あたしにゃあ 見当も付かないよ。
七兵衛:なんてこった……。 おたけ:お豆腐屋さん、おまえさん、 七兵衛:え? おたけ: 七兵衛:(照れくさいような 悲しいような)
おたけ:元気にしてると いいんだけどねぇ……。 七兵衛:…… 語り1:その日 うの:おかえり おまえさん。早かったね。
七兵衛:いや、いなくなってた。 うの:え!? いなくなってたって どういうこと!? 七兵衛:詳しくは分からねえ。
うの:何それ。夜逃げかい? 七兵衛:それもあるかも知れねえが、
うの:えっ、それじゃぁ―― 七兵衛:ああ。
うの:どうして―― 七兵衛:さあ……。
うの:そんな―― 七兵衛:(ため息)なんてこった。俺が寝込みさえしなきゃぁ、
うの:おまえさん――
七兵衛:――。
語り1:それからも しばらく 語り2:時は 内匠頭:(あくまで謙虚に。平伏して)
吉良:(嫌味で尊大、上から目線。小馬鹿にしたような 薄笑いさえ浮かべて)
内匠頭:(返事)はっ。
吉良:ほう。
内匠頭:は? 吉良:晴れの 内匠頭:あ、いえ、 吉良:はて?そのような 内匠頭:(怒りを ぐっとこらえる)……!
吉良:なんですと? 内匠頭: 吉良:黙らっしゃい!!
内匠頭:い、いえッ、決して そのようなことは―― 吉良:まったく あきれた 恥知らずじゃ。
内匠頭:(我慢も限界に近い)
吉良:よいから さっさと その 内匠頭:(ついにキレる)
吉良:ん?
内匠頭:これまでの 吉良:だッ、誰かッ!
内匠頭:(斬りつける)ふんッ! 吉良:(避けるが 肩先を斬られる)
内匠頭:(斬りつける)ふんッ! 吉良:(額を斬られる)ぐあッ! 梶川:(後ろから内匠頭を羽交い絞めにして抑える)
内匠頭:(振り払おうともがく)
梶川:(必死に抑えながら)
内匠頭:(振り払おうともがく)
梶川:(ズルズルと後ろへ引っ張りながら)
内匠頭:(だんだんと吉良から引き離されながら)
語り2:積もり積もった 日頃の 語り1: 男1:んなバカな話があるか!
女1:そうよそうよ!
男2: 男1:それも、 女1:まったく ひどい話よ!
語り1:処分に不平を 内蔵助:(赤穂浪士たちに)
語り1:そして 内蔵助:(赤穂浪士たちに)
語り2: 内蔵助:ヤアヤア 語り2: 内蔵助:ご 語り1: 男1:すげえよ! 女1:よかったねぇ!武士の 語り1: 七兵衛:(呆然)なんてこった……。
うの:ほんとだよ……
七兵衛:もうちょいと頑張りゃあ、 うの:おまえさん……
七兵衛:わからねえ…… 語り1: 七兵衛:(ため息)どうしたもんかなァ――。
うの:そうだねぇ――。 七兵衛: うの:あたしも、 七兵衛:仕事ったって、俺、オヤジから継いだ 豆腐屋しか やったことねえもんなぁ。
政五郎:(家の外で)
七兵衛:ん?誰か来たな。
うの:とにかく出てみるよ。 七兵衛:おう、頼む。 政五郎:(家の外で)
うの:はいはい、どちら様? 政五郎:これは どうも。
うの:あ、ええ、そうなんですけど、 政五郎:いや、ええと、こちらに うの:あ、 七兵衛:(出てくる)
政五郎:こりゃ どうも。
七兵衛:ああ そうだけど……おまえさんは? 政五郎:お初に お目に掛かりやす。
七兵衛:はぁ、そりゃ ご丁寧に どうも……。
政五郎:へい。
七兵衛:これは――? 政五郎:10両の 七兵衛:じゅ、10両!?
政五郎:まあまあまあ。いずれ 当人から ご 七兵衛:え? ふ、 政五郎:それもまぁ 仕上がったら お知らせに 参りやすんで。
七兵衛:いや、ちょっと、何がなんだか―― 政五郎:そいじゃ、あっしは すぐにも 七兵衛:ちょちょちょ――!
うの:知らないわよ。
七兵衛:俺だって知らねえよ。 うの:なんだか 悪い目つきしてたわねぇ。怪しいわ。 七兵衛:怪しいって何だよ。 うの:泥棒じゃないかい? 七兵衛:何言ってんだ。泥棒ってのは、物を うの:だから、 七兵衛: うの:あるのよ、そういうのが。
七兵衛:持ってかれちゃうって……、俺たちにゃあ、
うの:そういえばそうねぇ……。
七兵衛:はァ!? うの:きっとそうよ!
七兵衛:うるせえよ! 何 ひとりで盛り上がってんだ!
語り1:そうは言うものの、目の前に お金があれば 使ってしまうのが人情というもの。
徂徠:(現在36歳。立派な学者になっている)
語り1:幕府は この意見を採用しました。
男1:聞いたか? 女1:聞いたわよ! ひどい話じゃないか!
男2:まったくだ! それを 切腹だなんてよォ!
男1:なんでも オギュウ・ソライとか言う 男2:じゃあ、その オギュウ・ソライってヤツのせいで、
女1:ひどい! 血も涙も無いんだね! オギュウ・ソライって人は! 語り1:さて、 七兵衛:ん~、10両あった うの:そりゃ使ってるだけじゃ 減るのが 当たり前じゃないか。 七兵衛:やっぱり少しは うの:おまえさん、去年の暮れにも そんなこと 言ってたじゃないか。 七兵衛:言ってたけどよぉ。言ってたら 10両 転がり込んで来たんだもんよォ。
うの:言ってたけどさぁ、言ってたら 10両 転がり込んで来たんだもん。 七兵衛:何だよ おめえも おんなじじゃねえか。 政五郎:(家の外で)
七兵衛:ん?誰か来たな。
うの:なんか前にも こんな流れ あったような…… 七兵衛:そうか? うの:まあ いいけどさ……。
七兵衛:おう、頼む。 政五郎:(家の外で)
うの:はいはい、どちら様?(と言って出る) 政五郎:こりゃどうも。ご うの:(置き泥だ)
七兵衛:(来る)
政五郎:ああ、こりゃどうも 七兵衛:(指さして)あーッ! 政五郎:お、 うの:おまえさんッ!あの10両、けっこう使っちゃったよ!
政五郎:な、何 言ってんスか この人?? 七兵衛:(政五郎に)
政五郎:はァ!? 七兵衛:(うのを指して)
政五郎:(うのを指して)
うの:何よそれ!! 政五郎:おふたりとも 何 ワケの分かんねえこと 言ってんスか。
七兵衛:え?どこへ? 政五郎:まぁ、あっしに ついて来てくだせえ。 七兵衛:へ、へい。
語り1:そうして 七兵衛:ん――?
うの:何かしらねェ――? 語り1:やがて 七兵衛:こ――、ここは、昔 俺の店があった場所だ。
うの:ホント。ずいぶん立派な お宅ねェ。
語り1:その建物の 七兵衛:え――?
政五郎:いや あっしは 七兵衛:いや、あの――、なんか、
政五郎:当たり前じゃねえスか。
七兵衛:ええ!? これが!? あっしの店!? 政五郎:ええ、少々 お待たせしちまったんですが、
七兵衛:これが――、あっしの店――。
政五郎:ええ、その お方なんスけどね、普段は ご多忙で 自由に出歩くことも
七兵衛:は、はあ――。
うの:聞いたよ。
七兵衛:夢じゃ――ねえだろうな――? うの:確かめてみるかい? 七兵衛:頼む。 うの:(七兵衛のほっぺをひっぱたく)ベチーン! 七兵衛: うの:痛いかい? 七兵衛: 語り1: 徂徠:(座敷に入って来る)
七兵衛:(この男が誰だか分からない)
うの:(同じく 誰だか分からない)
徂徠:(夫婦に)
政五郎:いえいえ先生、お安い ご用で。
七兵衛:(男に。まだ誰か分からない。戸惑いながら)
徂徠:どうぞ頭を お上げください。
七兵衛:へ?
うの:(小声で)さあ…… 七兵衛:(女房に小声で)
うの:(小声で)
七兵衛:(女房に小声で)
徂徠: 七兵衛:――え。
徂徠:はい。 七兵衛:俺の豆腐、 徂徠:はい。
七兵衛:(うるうる)
うの:(徂徠に)
七兵衛:(女房に)
うの:あ。ええと、お 七兵衛:変わらねえよ。 うの:(徂徠に)
七兵衛:(女房に)
うの:(七兵衛に小声で)
徂徠:(うのに)
うの:いいえェ。
七兵衛:え? " うの:ブッ殺すぞ てめえ。 七兵衛:それはそうと――
徂徠:はい。お陰様で。 七兵衛:ホンモノの "先生"に なったんだね! 徂徠:はい。なれました。 七兵衛:(うるうる)嬉しいねェ――。
徂徠:あの 七兵衛:そうだったのかい――。 徂徠: 七兵衛:それじゃあ――、あの10両も この店も、
徂徠:ようやく、出世払いが できました。 七兵衛:冗談言っちゃいけねえ。
徂徠:ほんの利息でございます。 七兵衛:どこの世界に 80 徂徠:いいえ。
七兵衛:先生――。
徂徠:これは わたくしと したことが、初めて お会いして以来、
七兵衛:(どこかで聞いた名だ)
徂徠:ええ、それが わたくしの名前でございます。 七兵衛:(怒っている)
徂徠:どうされました?
七兵衛:当たり前だッ!
徂徠:(あくまで冷静に。威儀も礼節も保って)
七兵衛:てめえッ!よくも いけシャアシャアと ぬかしやがったなッ!!
徂徠:彼らは、 七兵衛:これだから学者ってのは イヤなんだ。
徂徠:そうは参りません。
七兵衛:いいじゃねえか、少しくらい曲げたって。
徂徠: 七兵衛:……どういうこったよ? 徂徠: 七兵衛:……なんだよ それ。
徂徠:いいえ。
七兵衛:どう言い 徂徠:(思わず感情が出る)
七兵衛:うるせえッ!そんなのは 学者の理屈だ! 徂徠: 七兵衛:(納得する気持ちもあるが、反発する気持ちもある。意地もある。涙)
徂徠: 七兵衛:そりゃあ、人を斬るためだろうが。 徂徠:いかにも。大のほうは、 七兵衛:――?
徂徠:無論 その用途も あるでしょう。
七兵衛:…… 徂徠:全員切腹という 内蔵助:( 徂徠:いかがでしょう。
七兵衛:(納得する)
徂徠:そんなことはありません。 七兵衛:グスっ……先生、さっきはバカなこと言って 噛みついて、すまねえ……!
徂徠:いえいえ、とんでもない。
七兵衛:それにしても、 徂徠:何を 七兵衛:――え?
徂徠:いいえ。
七兵衛:イヤイヤ、あっしにゃあ、そんな深い考えなんざ 無かったよ。
徂徠:あの時、 七兵衛:(涙が止まらない)
うの:(涙が止まらない)
七兵衛:先生、先生の気も 知らねえで 生意気 言って、すんませんでした。
徂徠:お分かりいただけて 嬉しゅうございます。
七兵衛:へい――ありがたく、頂戴いたしやす。
うの:ありがとうございます先生。
七兵衛:余計なコト言わなくていいんだよ。 徂徠:はっはっは。
七兵衛: うの:夢みたいだねえ!
七兵衛:よせよ!てめえは加減を知らねえんだから!
徂徠:なんと、わたくしの名を!
七兵衛:ありがとうごぜえやす!
徂徠:それから、また わたくしの所にも、お豆腐を売りに来てください。 七兵衛:え! でも 先生の お住まいは 徂徠:もちろん。話は通しておきます。
七兵衛:あ――あっしが、将軍様の お城に――!? うの:すごいね おまえさん!
七兵衛:まだ決まったワケじゃねえよ。
徂徠:ああ、それはいいですね。
七兵衛: 徂徠:とんでもない。
七兵衛:そんなことは
・上演を公開される際は、観覧無料の媒体のみで行うようお願いします。
観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
配信者へ 金銭または換金可能なアイテムやポイントを贈与できるシステムの有無は問いません。
ただし、ことさらリスナーに金銭やアイテム等の贈与を求めるような行為は おやめください。
・無料公開上演の録画は残してくださってかまいません(動画化して投稿することはご遠慮ください)。
録画の公開期間も問いません。
・当ページの台本を利用しての有料上演はご遠慮ください。
・当ページの台本を用いて作成した物品やデジタルデータコンテンツの販売はご遠慮ください。
・当ページの台本を用いて作成した動画の投稿はご遠慮ください。
・台本利用に際して、当方への報告等は必要ありません。
・
?歳 → ?+11歳(物語内で11年経過するため)。
豆腐屋。
親から継いだ豆腐屋を妻の うの と2人で営んでいる。
※豆腐を売り歩くシーンがあります。
・
25歳 → 36歳。
1666~1728。
江戸時代の儒学者。
5代将軍綱吉の側用人である柳沢吉保に重用された。
・うの(セリフ数:80)
?歳 → ?+11歳。
七兵衛の妻。
出商いの七兵衛に対して店売りと帳簿付けを担当している。
・
?歳。
大工の棟梁。
・おたけ(セリフ数:8)
?歳。
徂徠と同じ長屋に住む老婆。
七兵衛とは顔なじみ。
・語り1(セリフ数:25)
?歳。
丁寧な口調の語り。
・
35歳。
1667~1701。
赤穂藩藩主。
江戸城・松の廊下にて吉良上野介を斬り付け、切腹を申し付けられる。
・
60歳。
1641~1703。
江戸時代の幕臣。
江戸城・松の廊下にて浅野内匠頭に斬り付けられるが軽傷。
大石内蔵助率いる赤穂浪士に誅殺される。
・
42歳。
1659~1703。
赤穂藩の筆頭家老。
主君 浅野内匠頭の仇を討つべく、赤穂浪士を率いて吉良邸に討ち入り。
吉良を討ち取って仇討ちを果たし、のち切腹。
・
54歳。
1647~1723。
江戸時代の幕臣。
江戸城・松の廊下で吉良を斬りつけた浅野内匠頭を取り押さえた人物。
・語り2(セリフ数:4)
?歳。
講談のような 七五(もしくは七七)調の語り。
赤穂事件のシーンの語り担当。
・男1(セリフ数:7)
?歳。
モブ江戸庶民。
赤穂事件関連の幕府の裁きに対して憤る。
・男2(セリフ数:3)
?歳。
モブ江戸庶民。
赤穂事件関連の幕府の裁きに対して憤る。
・女1(セリフ数:6)
?歳。
モブ江戸庶民。
赤穂事件関連の幕府の裁きに対して憤る。
・七兵衛/内蔵助/梶川:♂ ※兼ね役にマーカーをした台本はこちら
・徂徠/内匠頭/男1:♂ ※兼ね役にマーカーをした台本はこちら
・語り1/吉良/政五郎/男2:♂ ※兼ね役にマーカーをした台本はこちら
・うの/おたけ/語り2/女1:♀ ※兼ね役にマーカーをした台本はこちら
※配役はあくまでも推奨ですので、自由に変えていただいて構いません。
【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
人間としての正しい道を堅く守り行う男子。
江戸時代、幕府および諸藩に置かれた役職。将軍と老中の取り次ぎをする。
1659年~1714年。江戸中期の大名。5代将軍・綱吉の寵愛を受けた。
国政を執り行うこと。
現在の東京都港区芝公園四丁目にあるお寺。
生きていてこそいい事もあるのであって、死んでしまえば、いい事も起こらず、何もかもおしまいである。
茶を入れた残りかす。
おもいやりの心。
ごみを掃き集めて捨てておく場所。転じて、つまらない所。汚い所。
親しかった者も、交流の機会が減って時間が経てば、その親しさも薄れていくものだ。
刃物で人を傷つけるような争いや、騒ぎ。
天皇の命令を伝えるために派遣された使者。
客をもてなすこと。
中央政府。朝廷や幕府。
朝廷の重大な儀式。
物事をおろそかに扱うこと。ぞんざい。
裾が長く、後ろに引きずる袴。
「大紋の直垂(ひたたれ)」と「烏帽子」のこと。江戸時代のフォーマルなコーディネートの1つ。
江戸幕府において、儀式や典礼を司る役職。
人に差し上げる品物。贈り物。
伊予の国。現在の愛媛県。
財産が多い家。金持ち。「ふか」とも。
田舎の侍を揶揄して言う言葉。正確な由来は良くわかりませんが、フナは沼の底などの生息していて、泥臭いイメージがあるから、という説があるそうです。
高貴な身分の人の住まいの中。ここでは将軍のいる江戸城の中ということ。
けんかや争いをした者は、双方とも処罰すること。
決まっているやり方。定まったやり方。
力を養いながら活躍の機会をじっと待つこと。
常の弓の半分ほどの長さの弓。座ったまま射ることができる。
繰り出しを円滑にするために管に柄を通した槍。左手で管を持ち、右手で柄を持って突く。
柄が細く短めの槍。
得意とすること。
樫などの堅木で作った大きな槌。杭や扉を打ち破るのに用いる。
仇討ちをして恨みを晴らすこと。
故事成語「会稽の恥をすすぐ」の略で、ここでは あだ討ちのこと。
「首級(しゅきゅう)」の丁寧語。討ち取った首のこと。
午前4時40分くらい。
ここでは反語の意味を表して、「どうして~だろうか。いや そうではない」。
ここが勝敗を決する大事な場合だと思って、いっしょうけんめいになるようす。
太陽のこと。おてんとう様。
東京都港区高輪にある寺。赤穂浪士の墓所がある。
現在の東京都港区三田あたり。
ここでは、職業斡旋所。現在のハローワークみたいな所。
大工の親方。
土木・建築の工事。
材木をたくわえておく所。また、材木商店が多く集まっている地域。
日照り続きのときに降る恵みの雨。困っているときにさしのべられる救いの手。
林鳳岡(はやし ほうこう 1645~1732)のこと。儒学者。5代将軍・綱吉の政権下で活躍。
「主君への忠誠」と「親への孝行」を行うよう勧める考え。
政治の行われ方。国の治め方。
すばらしく立派なさま。
上質の生糸を用いた絹織物のうち、黒色に染めたもの。
後ろ背中心、後ろ両袖、前両胸の五か所に紋が入っているということ。
宮城県仙台地方で産する精巧な絹の袴地。
久しく便りをしないこと。音信がとだえること。無沙汰。
民間から出て官職につくこと。
他の家から出た火事が広がってきて焼けること。
落ちぶれてみすぼらしい姿になること。
騒いで秩序を乱すこと。騒動。
重大な法規。
家来が、死んだ主君のあとを追って切腹すること。
花では桜が第一であるように、人では潔い武士が第一であるということ。
咲いても実を結ばずに散る花。
いわゆる「
主君・
その
主君の後を 追ったのでした。
あの
一体 幕府は 何 考えてやがんだ!
その学者の名は、
5代将軍
若い頃は たいそう貧乏で、日々の食事にも
ところは、
25歳の
ボロボロの部屋で 新年を迎えました。
食べる物も 底をつき、元旦早々、水を飲んで
どうにか 空腹をごまかす始末。
翌2日。
この
(長屋の部屋から 小さくかぼそい声で)
おとうふやさん…。おとうふやさん…。
ん?どっかで呼んでんな。
へーい!どちらさまでー?
おとうふやさん……こちらです……
あんまり声が
どうも、あけまして おめでとうごぜえやす。
はい……、おめでとうございます……
はい……大丈夫です……。
あの……、おとうふをひとつ……
(差し出された器に豆腐を入れてやる)
よっと。へい、どうぞ。
では、さっそくいただきます。
(おいしい。少し元気を取り戻す)
ああ、これは
そうスか?そりゃどうも。
いや しかし、よっぽど
いきなり豆腐だけ ガツガツやる人も珍しいや。
いえ、
せっかくの お豆腐の味を 殺すことになりますので。
ああ、あなたの お豆腐は本当に
お店は この近くなのですか?
ああ、この お豆腐は本当に
(食べ終わる)ふう、ごちそう様でございました。
いや私も お豆腐には うるさい
こんなに
豆腐屋にとっちゃ、商売モンの豆腐を
いやぁ嬉しいなぁ。
いや何もね、単に 豆腐が売れたから とか、お得意が出来たから とか、
そんなんで嬉しいんじゃねえんスよ。あ、いや それも嬉しいんスけどね。
それよりも、そうやって食ってらっしゃる時の
食い終わった時の 満足そうな顔。
その顔を こうして 目の前で 見れたってのが嬉しいんスよ。
(しみじみ)いやぁ、今日は いい
(我に返って)
おっと、まだ
えーと、豆腐1丁で、4
ああ――、その――、それがですね……、あいにくと今、
へい、承知しやした。
また
それより ダンナは、学者サンか何か なんスかい?
部屋の 奥のほうなんて 本だらけじゃねえスか。
いや~すごいもんスねぇ。学者のセンセイってわけだ。
いまだ未熟な
じゃ いつ "センセイ"になるんスか?
でも いつの日か、自分の学んだことを 世の中のために
立派なもんスねぇ。
いやね、ウチの死んだ
豆腐屋だって これからは 学問のひとつも 身に付けなきゃいけねえ、本読め 本読めって。
けど あっしは、本の表紙を見ただけで 頭がクラクラしちまってねぇ。
結局 学問なんざ やらずじまいスよ。
そこへいくとセンセイは、これだけの本を読んでらっしゃる。たいしたもんスよ。
立派な先生になれるように、これからも 頑張っておくんなさいよ。
ありがとうございます。
残りの豆腐、売っちまわねえとな。
じゃ先生、また
自分の店
売り残しちゃ いないだろうね?
バッチリ全部 売れたに 決まってんだろ?
そっちはどうだ?
店の方も、すっかり売り切ったさ。
いや それにしても、年明け早々 完売たぁ景気がいいな。
学者のセンセイなんて 住んでたんだなぁ。
ちっとも知らなかったぜ。
あんな、(「貧乏長屋」と言いかける)貧乏――、
ええと――、質素な
けど すごかったぜぇ。狭い部屋が 本で埋まってんだ。
けど 俺の目の前で、なんにも かけずに、
幸せそうな顔して 食ってくれてよぉ。見てるこっちまで 幸せになったぜ。
この日も
おとうふやさん…。おとうふやさん…。
こりゃどうもセンセイ。
(センセイ、昨日より弱ってるように見える)
……大丈夫ですかぃ?
心なしか、昨日より 元気が
お豆腐をひとつ、いただけますか……?
ではさっそく。
ムシャムシャ、ムシャムシャ……
やっぱり いい食いっぷりでござんすねェ。
空腹のうえ、とてもおいしい お豆腐ですので、
つい目の前でガツガツと……。
こっちも
こちらとしても ありがたいです。(ムシャムシャ)
ふう。今日も 大変けっこうなお豆腐でした。
ごちそう様でございました。
そいじゃ、昨日の分と合わせて、8
へい、ようござんす。では また
お豆腐 全部 売り切ったって 言ったわよね?
昨日も今日も、1丁分、お金が合わなくってさ。
ああ、そりゃアレだ、学者のセンセイんとこの分だ。
んで 今日も買ってくれたからよ、じゃ 昨日のと 合わせて 8
今日も
けど おまえさん。おまえさんも
昨日は しょうがないとして、昨日の今日で 何 同じことやってんだい。
昨日 こまかいの が無いって 言われたんなら、
今日は
言ってくれたら 今朝 多めに
こりゃ俺としたことが
ふう。今日も 大変けっこうな お豆腐でした。
ごちそうさまでございました。
では、おとといの分と 昨日の分と 今日の分、
合わせて 12
今日は
さ、
お豆腐屋さん……。
大きいのが あると、お思いになりますか――?
お思いになりますか――?
大きいのが あると……、
信じたいスねェ…。
とっっっくに 切らしております……。
も、申し訳ございません!!
お金が無くて、ここ何日も、水しか 口にしておりませんで……。
そうしたら おととい、お豆腐屋さんの 売り声を 耳にいたしまして、
あまりの ひもじさに、思わず お豆腐をくださいと……。
いただいてみましたら、あまりに
つい、昨日も今日も、いただいてしまいました……。
申し訳ございません……。
(ため息)ハァ~……。
ま、考えてみりゃ、そうか……。
大きい
豆腐 1丁だけ 頼んだりするワケねえよな……。
なぁ おまえさん、学問やってんのは 聞いたけど、その、
日々の
その塾も 先月 つぶれてしまい――。
もともと たいした
すぐに 蓄えも 尽きてしまって――。
それでも、いつか見出されることを信じて、
学問だけは 続けていたのですが――。
なぁセンセイよぉ、水しか飲めねえくらい 貧乏してるんなら、
ホラ、そのへんの本 何冊か売って、
死んでも 手放すわけにはまいりません。
あのさ、おまえさん、これだけの本を読んでるんだ、頭いいんだろ?
その頭 使って 何か
好きなもん
また
豊かになるのは 私1人のことです。
けれど 私が学問を
多くの人を 豊かにすることが できると思うのです。
私の学問が、いつか、世のため 人のためになると、
私は信じているのです。
ましてや
私は、払えるお金が無いにも関わらず、お豆腐を いただいてしまいました。
これから 私と一緒に、
いきなり 話が デケぇよ!
たかが豆腐3丁の
コトが
おまえさん、それでいいのかい?
たしかに おまえさんの言う通り、たかが豆腐3丁だろうが 何だろうが、
代金も払わねえで 食ったとなりゃあ、立派な
俺が
そしたらどうなる?
まぁ たかが 豆腐の タダ食いだ、
けど、
そっから 出て来れたとしても、その
それじゃあ おまえさんの なりてえ「ホンモノの先生」にゃあ、
生涯 なれねえかもしれねえんだぜ?
けれど
じゃあ、おまえさんが先生になったら豊かになるはずだった
たくさんの人はどうなる?
自分が学問を
たくさんの人が豊かになるって。
今ここで おまえさんが
その人たちが 豊かになれなく なっちまうじゃねえか。
本当に私が 人々を 豊かにできるという 保証はありません。
そりゃ 先のことは 分からねえよ?
けど おまえさんは、
貧しくて メシも食えずに 死にそうになっても
本も売らずに 学問 続けてきたんだろ?
それを 台無しにする
お金も持っていませんし、そして 法は法です。
ちゃんと 代金は払ってもらうよ。
ただし――
出世、ばらい――?
意味は分かんだろ? 学者なんだから。
おまえさんが 世に出て、俺だけじゃなく
みんなから「先生」と呼ばれるようになって、
立派に
豆腐の代金、払ってくんな。
そもそも、世に出られるかどうか――
やってみなくちゃ分からねえなら、一生懸命やるだけさ。
たくさんの人を豊かにするんだろ?
俺だってさ、忘れた頃に 豆腐代が入ってくりゃあ、
少しは豊かになるってもんだ。
センセイ、いっちょ頑張って、俺のことも豊かにしてくんな。
かたじけない――ありがとうございます――。
しかし
どうして そこまで してくださるのですか――?
ああ――。
いや何、おまえさん どう見たって 悪いヤツにゃ見えねえし、それに――、
ウチの豆腐、
俺ァまるで、我が子を
と言っても、ウチにゃ まだ ガキは いねえんだけどな、ハハ。
あんなに
俺は
あなたは 私の恩人です。
本当に ありがとうございます、
お豆腐の先生――。
センセイに 先生なんて 呼ばれちゃあ、ワケが 分からねえや(笑)
ヨーシ、そうと決まりゃあ、
たいしたモンは
タクアンの2、3切れも付けて……
ありがたい お申し出ですが、それはいけません。
どうか 商売ものの お豆腐を。
でもさセンセイ、豆腐だけじゃ淋しいし、足りねえだろ?
だから
ですから、商売ものの お豆腐をいただくのであれば、どれだけかかっても、
いつか その
しかし、おにぎりまで いただいてしまえば、それは
それでは、
貧乏はしても
これが私の、ささやかなケジメです。
ふふっ…、はっはっはっは。
今さら
まことにもって、お恥ずかしい……。
貧乏してても
その心意気は 伝わってきたよ。
よし分かった。
飯の差し入れが センセイの誇りを 傷つけるってんなら、
そんなヤボは よそうじゃねえか。
これまでどおり、豆腐だけ持って来るよ。
その代わりよぉセンセイ、
絶対に、
飢え死になんざ しちゃ いけねえぜ?
俺に豆腐の代金 払わねえまま 死んじまったりしたら、
おまえさんは「先生」じゃねえ。「食い逃げ」、「
おまえさんは
こんなところで 死んじゃいけねえよ。
死んで
死ぬ時は、世に出て、
見事に 花ァ 咲かせてから 死ぬんだぜ?
あ……、ありがとうございます……!
あたしは どうかと思うけどねぇ。
そんな いつ 出世するかも 分からない人に、
毎日毎日 タダで 商売モンを 食べさせてやるんだろ?
すぐに世に出て 払ってくれりゃあ いいけどさぁ、
何年も何十年も 世に出なかったら どうなんのさ?
チリも積もれば 何とやら。
1丁の豆腐代だって 積もりゃあ バカにならなくなるよ?
まぁそれでも、最終的に 世に出てくれりゃあ、まだ望みもあるさ。
世に出ずじまいだったら どうなの?
ウチは
あのセンセイなら、きっとすぐに世に出るよ。
意地が
家計を預かる身として、当然の心配じゃないか。
おまえさん、
ちょいとワキが甘いとこ あるからねぇ。
持ってくこと 考え付かなかったろ?
時々 抜けてるんだよねぇ おまえさん。
あんな
おまえさん 人が
あれが そんな悪いヤツに見えるかよ!
いや大丈夫だよ。
俺は あの人のこと ちゃんと見てんだ。
目の前で ウチの豆腐 食うとこ 見てんだ。
いい顔して 食ってくれたんだ。
おめえにも 見せてやりたかったぜ あの顔。
今まで 見てきた中で、いちばん
あの顔が ウソとは思えねえ。あんな顔して豆腐 食ってくれる人が 悪人だなんて思えねえ。
もしあれが おめえの言う通り、俺を
もうしょうがねえ、お手上げ、拍手もんだ。
それこそ、学者として世に出なくたって、役者として世に出られるってもんだ。
なあ おっかあ、今回ばかりは俺のこと、信じてみちゃあ くれねえか――?
――分かったよ。
おまえさんが そこまで言うなら、あたしも
そのセンセイのこと、信じようじゃないか。
しっかり体力つけて ますます
あたし、
それも 持ってって――
いいかい?
もらうのが 商売モンの豆腐なら、どれだけ掛かったって
いつかは 代金 払ってチャラにできるさ。
ところが
そいつは ただ
学者にだって
貧しくたって
それが学者のケジメってもんだ。
おまえさん、学者でもないくせに、どうしてそんなことが 分かるんだい?
でも――なるほどね、学者にも
けどさ、やっぱり お豆腐1丁だけじゃ、
あ!
じゃあさ、おから!
おからなら いいんじゃないかい?
それなら売りもんじゃないし、余ったって 捨てるだけの物なんだから!
よーし それじゃ、
まぁ 身も
もう少し 詳しく申し上げますと、豆腐を作る際は、
まず 水に
その加熱した物を、今度は
この
この
そして、
「おから」の「から」は、「卵の
「いらないモノ」 「捨てるモノ」といった
実際 豆腐屋のほうでも おからは売り物にならず、捨ててしまったり、
おからをもらった人々も、少しは 自分たちで食べることも あったでしょうが、
多くは 畑の肥料、あるいは 牛などの エサにしていたと言います。
それはともかく、翌日から
学者先生の元を
こんな結構な
安心しな、そいつは商売モンじゃねえからさ。
豆腐 作る時に できちまう残りカスだ。
毎日 大量に出るからよ、近所にタダで やったり
時々は ウチでも 食べたりするけど、
それでも余るから 捨てちまうもんなんだ。
センセイ、それなら いいだろ?
私のような者に こんな お気遣いまで していただき、
ありがとうございます――!
感謝なら カミさんに してやってくんな。
あれが オクガタってツラかよ(笑)
ありゃ ガタガタってぇ ツラさ。
その ガタガタ女房も、センセイが世に出るのを 応援してんだ。
おからなんて
ま、せいぜい
そうして 20日ほど経った頃、
高熱を出して 寝込んでしまいました。
看病していた おかみさんにも
2人仲良く 枕を並べて すっかり
何日もの間、
一週間後のことでした。
俺としたことが、たかが
こっぴどく やられちまうなんてな……。
もう若くねえのかなぁ。
いや そんなことより、センセイが心配だ。
この一週間、豆腐も おからも 届けてやれなかったからな。
さぞかし
まさか 飢え死になんて してなきゃいいけど……。
こうしちゃ いられねえ。
(女房に)
おっかあ、行ってくるぜ!!(出かける)
部屋の
センセー! センセーイ! いるかーい?
なあオイ、この部屋に住んでる 学者のセンセイ、
今日は まだ起きて
ああ、
へぇ、あのセンセイ、
そういや 知らなかったなぁ。
で、その
おい バアさん! センセイが もう いねえって、どういうこったよ!?
もう暗くなり始めた
お
ご大層な 身なりの 男の人たちが 何人も 固まって
で、この
そりゃもう、物々しい様子だったねぇ。
それで
出てきたところを 何人かで取り囲んで、一緒に どっかへ行ってしもうた。
残った何人かは、部屋にあった 本やら何やらを 箱に詰め込んで、
それ
センセイは、どこに連れて行かれたんだよ!
後から大家さんに聞いてみたんだけども、大家さんも
「とにかく
それだけしか 聞かされとらんようでねぇ。
だから あの男の人たちが 何者なのか、
誰にも 分からんわい。
ずいぶん 良くしてあげてたそうだねぇ。
時々
「お豆腐屋さんは 私の命の恩人なんです」って。
おまえさんに、それはそれは 感謝してる様子だったねぇ。
そうかい……。
学者のセンセイ、大丈夫だったかい?
おたけバアさんが言うには、3日ほど前らしいんだが、
何人もの男たちと一緒に、夜のうちに どっかへ 行っちまったらしい。
一緒に連れ立った 男たちの身なりが 立派だったって 話だからなぁ。
ひょっとしたら お役人だったのかもしれねえ。
しょっ
タチの悪い金貸しに 引っかかっちまったか、
それとも もう
それが返せなくて
あるいは ひもじさのあまり 盗みでも 働いちまったか――
こんな事にならずに 済んだかもしれねぇのに――
しょうがないよ、あたしたち2人とも、
あんなに熱が出て 動けなかったんだもの。
それに、なにも しょっ
決まったワケじゃ ないんだしさ。
今はとにかく、センセイが 元気なのを願って、
いつか 無事に帰って来るのを 祈ろう? ね?
――そうだな。
やはり学者先生が 戻った様子はありませんでした。
「去る者は 日々に
3ヶ月・半年と経つうちに、
また日々の 商売の忙しさにも
そして、学者先生が消えてから9年――
江戸を
そう、いわゆる「
花の
所は
周囲
春の嵐の
これは
これはこれは
今日の
身に余る
ならば
お
それにのう
それを いささかも 不審に思わず 馬鹿正直に
ちと
周りを 見てみなされ。
晴れの
それとも、
ハッハッハッハ。
――申し訳ございませぬ。
しかし
いささか 多いのではと――
いずれも
そしてまた
役目と思うて
ぐだぐだと 並べ立てて、どういうつもりじゃ!
貴様 何か? かような場で ワシの
大体のぉ、
それ
それを、5万3000
ロクな
これだから
くッ――!
まったく、
肩の
おのれッ――!
(吉良の背に向けて。刀を抜き)
(振り返って驚愕)
――!!
あ、
な、なんじゃ その
ぐあッ!
誰かッ!
助けてくれーッ!
ぬッ!ええい、放せ!放せッ!
なりませぬ!
放せッ!まだ
なりませぬ!
放せッ!放してくれッ!
武士の、武士の情けじゃ!
放してくれーッ!
命を
事件を聞いて
若き命は 桜と散った
この事件に関する
当時は
斬りつけた
それを、
対して
人情に
なんで
ふざけやがって!
いわゆる「
主君の
ご
殿の ご心中、いかばかり 無念で あられたことか……。
ご
たとえ 幕府に
すなわち、
ついに この時が参った。
ここまで長き
目指すは
雪の明かりが
手に手に持って
手に
手もなく
腕に覚えの
バッタバッタと なぎ倒し
さて
どこへ
長き
などか このまま 置くべきや
ここを
たちまち
隠れし
続いて
お陰で
これで何もかも終わった。
さあ、
いざ引き上げようぞ!
江戸じゅうが
その夜中に、
炎は またたく
結局、
全てを失って 焼け出されてしまいました。
ウチの豆腐が全部、焼き豆腐になっちまった……。
俺が 一体 何したってんだ……
一生懸命 働いてきたってのによぉ……
ふたりで コツコツ 大きくしてきた お店だったのに……
たった
少しは楽できるなぁ なんて言ってたのに……
な~んも 無くなっちまったなぁ……
あたしたち、これから どうしたら いいんだい……?
不幸中の幸いと言いますか、火事の
焼け出された2人は、
そんな年の瀬の ある日――
命があって おまんま食わしてもらえるのは ありがてぇけど――、
いつまでも
俺にできるようなこと あるかなぁ……。
ごめんくださいましー!
ごめんくださいましー!
今
ごめんくださいましー!
ごめんくださいましー!
ええと、こちらは
いらっしゃると
ちょいと お待ちになってください。
(七兵衛を呼ぶ)
おまえさーん!おまえさんに お客さんだよー!
俺に客?誰だい?
あっしは、ここいらの
この
――で?
えー、さる お方から 頼まれやして、こちらを
ちょちょちょ、10両って どういうこったい!?
その「さる お方」ってのは誰なんだい!?
で、その
なるべく 急ぎは するんですが、なにぶん「立派なものを」と
まぁ
それまで
行っちゃったよ――。
(女房に)
オイ おっかあ、今の、誰だ?
おまえさんの 知り合いじゃないの?
今のヤツ、
わざと お金 置いてって、
こっちが散々 使い込んだ頃合いを
やって
「先日 お貸しした金、返してもらいましょうか。
なに?返せない?
それじゃあ 代わりに、家の中の物、もらって行きますよ」
そうやって、
持ってかれるモンなんて、なーんも ありゃしねえ じゃねえか。
てことは……
やだ!!!! あたし!?!?
あたしが目当てなの!?!?
言われてみれば あの人、チラチラあたしのこと
いやらしい目で見てたわ……!
きっと あたしのカラダが目当てなんだわ!!
(実演してみせる)
「なに?金が返せない?そいつは困ったな。
ん?そこに
ほォ、なかなかイイ
よぉし、金の代わりに、おまえのカラダで
たっぷり楽しませてもらおうか、ゲッヘッヘッヘ」
おまえさん、あたし、
乱暴されちゃう!!!
エロ同人みたいに!!!!!
誰がテメエなんかに
(ため息)てめえの妄想なんざ どうでもいいんだよ。
この
まぁ どんなウラがあるか 分からねえし、
なるべく使わねぇほうが いいかなぁ。
いけないとは思いつつも、なんだかんだと 少しずつ 使っていくのでした。
さて、年も明けた
通常であれば 全員
無視できないほどに 熱を 帯びてきており、
(将軍 綱吉に)
わたくしは
すなわち、彼らには 切腹 申し付けるべきかと 存じまする。
2月4日、
主君の後を 追ったのでした。
彼らを 「
江戸市民たちは、この
あの
一体 幕府は 何 考えてやがんだ!
切腹させろって 幕府に 意見しやがったって話だ!
みんな
このまま ズルズル 使い込んじまいそうだなぁ。
おめえこそ、
ごめんくださいましー!
ごめんくださいましー!
今
とにかく出て来るよ。
ごめんくださいましー!
ごめんくださいましー!
――!!
アンタは――!
(七兵衛を呼ぶ)
おまえさん!おまえさーーん!
来とくれ~~!!
なんだよ騒々しいなァ。
誰が来たってんだ?
あたし、連れてかれちゃう!
連れてかれて、あんなコトや こんなコトされちゃう!!
エロ同人みたいに!!!!
オイ、アンタ!
アンタ、コイツの カラダが目当てなのか!?
本当に コイツのカラダが 欲しいのか!?
え、この人の!?
冗談じゃねえスよ。
ヤですよ こんなの。
今日 来たのはスね、おふたりに お見せしたい物が あって、
ちょいと あっしと一緒に 来ていただきたいと 思いやして。
あ、じゃあ ちょいと ここの
書き置きだけ しておこうと思いやすんで。
ちょいと待ってくだせえ。
(間)
どうも お待たせしやした。そいじゃ、行きましょうか。
どうやら
やがて、かつて
すると――
見慣れた なつかしい景色の中に、見慣れない 大きな建物が ありました。
何だ ありゃ――?
目的地であるという そこは、まぎれもなく 去年の火事で
しかし今 目の前に建っているのは、
いつの間に こんなデケぇ建物ができたんだ――!?
どこの大金持ちが建てたのかしら。
よく見てみますと、正面の
そこには
え――!?!?
(政五郎に
ちょちょちょ、
どうしました?
「
おたくの お店なんスから。
必ず立派なモノに仕上げろって
きつく
気合い入れて やらせていただきやした。
まぁ
いかがでしょう
いやもう、なんだか夢でも見てるみてえだ――。
こんな立派な店が 自分の物になるなんて――。
あの――、おまえさんに、あっしに渡すようにと10両 預けたり、
こんな すごい店 作るように 言いつけたりした、その お方ってのは、
いったい誰なんです?
おできに ならないんですが、今日は 少し時間が取れるってことで、
もうすぐ こちらへ いらっしゃることに なってやすんで。
ですから、中で少し 待ちやしょう。
座敷も ありやすんで、まぁ 茶でも 飲みながら。
(女房に)
おい、おっかあ、聞いたか?
こんなスゲぇのが、俺の店だって。
前の店の 何倍くらい あるんだろうねぇ――見当も付かないよ。
――でも、夢じゃねえんだ――!
ありがてえ――ありがてえ――!
戸口に 姿を見せた者が おります。
お
これは――どうも。
いらっしゃい――ませ――?
お邪魔をいたします。
(政五郎に)
(七兵衛に)
ああ――そうでしたか。
この度はどうも――いや、何と お礼を言っていいか――
ありがとうごぜえやす。
えーと……
(女房に小声で)
オイ おっかあ、誰だっけ?
オメエの親戚に、こんな立派な
いるわけないよ。
だよなあ……。
(男に向きなおって)
こりゃどうも、えーと……どちらかで お会い しやしたかね――?
いや その、どうも、お
いささか
お見忘れも 無理からぬ事。
ご
(少し溜めて)
お豆腐の先生。
(その言葉で思い出す)
――!!
お――おまえさん――!!
あん時の――、
学者のセンセイかい!!
お
その
ああ――学者のセンセイだァ。
こんな立派ん なって――。
(女房に)
オイ おっかあ、この人だよ、
俺が おから持って行ってた 学者のセンセイは。
んまあ、そうでしたか。あなた様でしたか、
コラ、失礼なコト言ってんじゃねえよ。
お話は 常々 主人から聞いておりましたよ。
あたしは 話を聞いた初めッから、
あなた様は 立派な学者様だと 思っておりました。
おめえ 最初、
余計なこと 言うんじゃないよ!
奥方様。わたくしに おからを下さるよう
奥方様だと
ようやく 直接 お礼を申し上げることができます。
奥方様、その
お望みでしたら おにぎりでも何でも 喜んで こさえましたのに。
(七兵衛に)
ねぇ おまえさん 聞いたかい?
あたしのこと、オクガタサマだってさ♪
(徂徠に 嬉しそうに)
センセイ、その
――世に出たんだね!
(徂徠が消えた日を思い出して)
先生、俺ァ心配してたんだぜ?
あん
いや俺も しばらく行ってやれなくて 悪かったけどよォ。
んで
夜のうちに どっか行っちまったって言うじゃねえか。
俺ァ、
実は その
ついては 急ぎ
取る物も 取りあえず
行き先も告げずに
お礼を申し上げねばと、常々 思ってはいたのですが、
わずかばかりの 出歩きすら ままなりませず――。
日々の多忙に 取り紛れまして、かような
我が身を切られる思いでした。
すぐにも
お顔出しの
それでも せめてもの お見舞いにと、そこにおります 出入りの
本日、ようやく1つの
遅くなりましたが、やっと、お
本当に 先生が あっしに下さったんですね。
ありがとう――ごぜえやす――!
先生にツケた 豆腐の代金なんざ、全部合わせても
たかだか80
返済がデカ過ぎらァ。
たかが80
一体どれほど いるものでしょうか。
あの時
どれほどの お金を差し上げても、
返せるものではございません。
あ。そういや先生、先生の名前 何だっけ?
ナントカ
ろくに 名も 名乗っておりませず 失礼をいたしました。
わたくしは、
「
――。
オギュウ、ソライ――?
(思い当たる。不愉快な事件の際に聞いた名だ。)
(怒気を含んだ顔になる)
おい、おまえさん今――、
オギュウ ソライって言ったか――?
そうかい――。
オウ、この店は
いや 半分ほど 使っちまったが、それは働いて返す。
とにかく、てめえからの
ビタ
何やら ご立腹の ご様子ですが――
てめえがオギュウ ソライか。
聞いたことある名前だぜ。
テメエだろ、「
いかにも。
彼らに切腹 申し付けるよう
この わたくしでございます。
おい てめえ、あの人たちはな、本物の
いくら
そんな 立派な人たちに
てめえ どういう
彼らは
その
何かってぇと
見事じゃねえか!立派じゃねえか!
それをアッサリ
ご
生かしてやりゃあ いいじゃねえかよ!
本来であれば
むろん
まこと
しかし
どこまで行っても
ひとたび
今後
てめえにゃ 人の心が
浪士たちを
いえ それどころか、わたくしの 心の底には、
しかし いかに
そのために 天下の
それゆえ わたくしは、
しかし彼らには もう1つの
すなわち、亡き主君のもとへ
それを
「彼らに
要は さっさと死ねってことじゃねえか。
(もう涙まじりの憤り)
死んじまって、何が
てめえにゃ、
彼らの、
その忠を尽くすべき者の
多く いることを わたくしは よく知っておりますし、
わたくしの気持ちも また 同様です。
しかし、
彼らとて 人の子。この先の人生、
つい出来心、あるいは魔が差して、
47名のうち、ただの1人も出ぬと 言い切れますでしょうか?
万一そのような事があれば、その汚名は 47名 全員に 及びます。
そうなった時、彼らの不名誉に対して、
――たとえ 今言ったような事にまでは ならなくとも、
やはり 彼らの、あの
「花は
せっかく見事に咲いた花、
まことの
実を結ぶというものです。
分からねえッ――!分かりたくもねえッ……!
さよう、
学者には学者の理屈があり、百姓には百姓の、
それぞれ互いに 理解の及びにくい所があるように、武士にも武士の理屈が ございます。
武士ならぬ者には
わたくしは
多くの武士を見、多くの武士の
それは
ゆえに この
なんのためにあると お思いでしょうか?
では――小のほう――
しかし 本来、
それは、
この
武士というものは、常に、いかにして
それを誇りとしています。
切腹は武士の誇り、
武士は、生涯の全てを、そこに
なんの
そして2月4日。47名、ただの1人の漏れもなく、
全員 見事に
彼らの
様子を 聞いたところ、口を揃えて 言っておりました。
浪士たち 全員、誰ひとり
最年少は
その彼すらも、晴れ晴れとした表情を浮かべ、
見事な
そして、彼の父、
『あら
思いは
かかる
わたくしは、これで 彼らの
わたくしは、
(涙が止まらない)
先生……!そうだったんスね……!
そこまで 理解して、考えて……!
それを あっしは、
そんな事にばっかり こだわってッ……!
物を流通させるのが
許しておくんなさい……!
正しいことを
そんなの、考えたことも無かったなぁ。
さすが先生だ!考えてるコトが違うぜ!
わたくしは それを、
いや先生、何 言ってんスか?
あっしに そんな
11年前、わたくしは 払う お金が無いにも関わらず、
売り物の お豆腐を いただいてしまいました。
でも
あなたは 天下の
そりゃ買いかぶりってもんだ。
わたくしは 世に出ることが できたのです。
あの日の
11年前、
「こんなところで死んではいけない。死んで
死ぬ時は、世に出て、見事に花を咲かせてから死ね」と。
11年 経った今、その言葉を 今度は わたくしが
浪士たちに 掛けているような気がして……
(感極まってくる)
見事に 花を 咲かせたな。見事に 花を 咲かせたのだから、
見事に……、見事に、散れ と……!
グスっ……先生……!
(女房に)
おっかあ、ダメだ、涙が止まらねえや。
こないだは 焼き豆腐だったが、これじゃ 泣き豆腐だ。
あたしも 涙が止まらないよ。
どっちも 立派だよ……!
先生の
今さら 命なんざ
それよりも、お
持ってってやりたかったんだろうな。
早いとこ そこへ送ってやるのも
では、10両も、この お店も、受け取ってくださいますね?
先生、ありがとうごぜえます!
(女房に)
ホラおっかあ、おめえも お礼 申し上げねえか。
すいませんねェ、ウチのが生意気ばっかり言って。
(何事が思い出す)
ああ そうだ。いつぞや
お
(女房に)
オイおっかあ、ウチの豆腐が、
由緒正しい
ねえ おまえさん、夢かもしれないから、
また おまえさんの顔 ひっぱたいていいかい?
(徂徠に)
先生、ありがとうごぜえやす!
(何事か思いつく)
あ、そうだ!
ねぇ先生、ついちゃあ、豆腐の名前、先生に あやかって、
「
ははは、なんだか 照れくさい気も いたしますが、
「
あっしみたいなモンが 出入りして いいんですかい?
それから、
お城から お呼びがあった時は、腕によりを掛けて、お願いしますよ?
こないだまで
とんでもない出世じゃないか!
(徂徠に)
先生、何から何まで かたじけねえ。
(何事か思いつく)
そうだ!
先生、
それもこれも、こんな立派な店を くださった 先生の お陰だ。
先生、切腹した
先生も、負けねえくらい 立派な 武士でござんすねえ。
わたくしは、ただの豆腐好きの学者ですよ。
こないだの10両、それに この店。
先生は、あっしのために、自腹を切ってくださった。
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
三遊亭圓窓(6代目)
三遊亭兼好
入船亭扇辰
三遊亭栄楽
立川志の輔
一龍斎貞心 ※講談
広沢菊春(2代目) ※講談
宝井琴調 ※講談
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp