声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
<登場人物>
<配役> ここから本編
男:(歩いている。わりと長い距離を歩いてきたようで、お疲れ気味)
店主:(気付いていないのか、タバコを吸っている)
男:(独白)
店主:(気付いた様子)
男:あ、どうも。今、いいスか? 店主: 男:ちょちょちょ、俺ぁ 店主:なんだよ、 男:何だよって……、やってもらいに来たんだよ。
店主:何を? 男:何をって、頭を。 店主:どこへ? 男:いやいや、頭を どっかへ持ってってくれって言ってんじゃないよ。
店主:こしらえる?そりゃ無理だ。
男:人形の頭をこしらえてくれってんじゃねえよ。
店主:不景気になると ワケ分かんねえヤツが 出てくるなぁ……。
男:そうじゃねえよ!刈るんだよ! 店主: 男: 店主: 男:いや、見えねえけど……。
店主:何を? 男:だから、散髪だよ!
店主:無茶言うなよ。その ツラ 男前にしようと思ったら、
男:そうじゃねえよ!別に 顔の 店主:だよなぁ。そのツラは、もう手の 男:うるせえよ!大きなお世話だ!
店主:あのねぇ おまえさん、目ェ 付いてんのかい?
男:いや 見えねえけどよぉ。
店主:――さっきから聞いてりゃあ おまえさん、まるで 客みてえなこと言うなぁ。 男:客だよ! 店主:(疑わしげに)
男:払うよ!当たり前だろ! 店主:なんだ、客だったのか。
男:え、俺が悪いの……?
店主:あん? 男:いや だから、体に 店主:寒いのか? 男:そうじゃねえよ!
店主: 男:え、 店主:落ちたって いいじゃねえか。
男:床に落ちるのは どうでもいいんだよ!
店主:それが どうしたってんだよ。
男:いや そうかもしれねえけど……。
店主:あん? 男:だから、頭を 店主:そりゃ そうだな。 男:じゃ早く 店主:なんで俺が? 男:は?なんで俺がって……
店主:おまえさんが 自分で やんなよ。 男:ハァ!? 俺 客だよ!? 店主:客だからって 甘えてちゃ いけねえよ。
男:いやいやいや、俺、おまえさんに 店主:あのねえ お 男:そ、そうかなぁ……?
店主:うるせえ客だなぁ。
男:そこが休みだったから、仕方なく ここ来たんだよ。 店主:あ、そう。じゃ 男:イヤだよ。ここ来るのに さんざん歩いて来たんだ。
店主:ダメだよ。 男:なんでだよ! 店主:ムダだからだよ。 男:ムダじゃねえだろ、頭 店主:そうじゃねえよ。
男:どういうことだよ。 店主:出ねえんだよ。 男:え? 店主: 男:いやいや、え?なんで水 出ねえの? 店主:止められてるからだよ。 男:え?水道 止められてんの!? 店主:だから そう言ってるじゃねえか。 男:なんで止められてんの!? 店主:水道代 払ってねえからだよ。 男:いや 払えよ! 店主:払えるもんなら 払ってるよ。 男:え、払えねえの!? 店主:払えねえから、払ってねえんだよ。 男:なんで!?そんなに経営 苦しいの!? 店主:あのねえ、ホントに目ぇ付いてんのか?
男:だから なんでそんな 店主:おまえさんの足元の 男:(右ななめ前らへんの床に木桶がある)
店主:いいから 早く やんなよ。 男:いや、早くやれったってさぁ……。
店主:さあなぁ……。
男:え?え!? 店主:今年で23年目か―― 男:ちょちょちょちょ!23年!?23年前の水!?
店主:店 建てた頃は、水道なんざ 引いてなかったからな。 男:いや どっかのタイミングで 水道 引いたんだろ?
店主:面倒じゃねえか。
男:どんだけ 店主:うるせえなぁ。
男:なんで そんな前向きなんだよ……。
店主:大丈夫だろ、飲むってワケでも 男:いや まあ 飲みゃしねえけど……。
店主:早く やんなよ。 男:(困惑)ええ~……。
店主:何が やべえんだよ。
男:いやいやいやいや!だって!
店主:だから なんだよ。
男:いや、だったら キレイな水に 代えりゃいいじゃねえか。
店主:別に、俺はもう慣れてるからな。
男:ホント 店主:ほう、そうかい? 男:たかだか隣の豆腐屋だろ?
店主:出て 左向いて 2キロほど行ったとこだ。 男:え!?に、2キロ!? 店主:ああ ついでに 豆腐2丁と 男:待て待て待て!隣が2キロも先かよ!
店主:もののついでじゃねえか。 男:ふざけんな!俺は客だぞ!
店主:分かったよ。じゃ水だけでいいよ。 男:いや行かねえよ!
店主:あ、そう。じゃ さっさと その水で 頭 男:(ため息)
店主:そうだよ。かわいいだろ。 男:かわいくねえよ!
店主:大丈夫だよ。食いつきゃしねえから。 男:いや 食いつきゃしねえだろうけど……。
店主:だらしねえなぁ。
男:ホントかよ? 店主:いいから やってみなって。 男:分かったよ……。
店主:そこまで仕込むのに苦労したんだよ。 男:仕込んだの!? わざわざ!? 店主:ホラ、そいつらが 男:お、おう……。
店主:ほら早く。 男:わ、分かってるよぉ。
店主:あのねぇ お 男:知らねえよそんなこと。
店主: 男:手ぬぐいも 店主:しょうがねえなあ。ま、いいや。
男:なんでも いいから 早くやってくれよ。 店主:まあ慌てんな。
男:え?見習いの小僧なんて いんのか? 店主:ああ。奥で稽古させてんだ。
男:(吉公を見て)
店主:大丈夫 大丈夫。ウチに見習いに来て3年。
男:あ、そう。じゃあ まあ よろしく。 店主:(吉公に)
男:待って待って待って!聞き捨てならない!
店主:ああ、こいつがウチに来て以来、初めての客なんだよ おまえさんが。 男:え!?初めて!?
店主:ああ。 男:そんなに客 来てなかったの!?
店主: 男:よく こんな店で 修行する気になるな……。 店主:やっぱり実際に 男:待て待て!
店主:ヤカンの 男:そんなんで稽古になんの!? 店主:だから その成果を 男:ちょ待ってくれよ!それじゃ 俺、 店主:あのねえ。考えてもみなよ。
男:いや 言ってる事は 分かるけどよぉ……。
店主:心配いらねえよ。 男:まぁ そうかもしれねえけど…… 店主:だったら頼むよ。
男:――わ、分かったよぉ…… 店主:(客に)
男:(吉公に。不安そうに)
店主:(客に)
男:お、おう……(目を閉じる) 店主:(吉公に)
男:(不安。誰にともなく)
店主:まだ やってねえよ。 男:やってねえのかよ! 店主:(吉公を叱咤)
男:待て待て待て待て!何てこと言うんだ!
店主:大丈夫だよ。ホントに 肉えぐれってワケじゃねえよ。心意気の話だよ。
男:ホントかよ…… 店主:大丈夫 大丈夫。
男:わ、分かったよ……。
店主:(吉公に)ほら 男:(吉公による 店主:(吉公に)
男:(吉公の手が止まる)
店主:(客に)
男:1回目で やめてくんない!?
店主:しょうがねえなぁ。
男:オイオイ!そんなんで 人の顔 ガリガリやってたのかよ! 店主:まあまあまあ。
男:最初っから あんたが やっといてくれよぉ…… 店主:(客に)
男: 店主:(さらに続ける。吉公に)
男: 店主:で、客が3回 男:1回で やめろよ!
店主:悪い見本 見せてたんだよ。 男:人の顔で 悪い見本 見せてんじゃねえよ! 店主:おまえさんねぇ、ちょっとぐらい 男:やめろ!子供の前だぞ! 店主:さて、悪い見本は もういいだろ。
男: 店主:(吉公に)
男: 店主:(吉公に)
男: 店主:(客に)
男:なんでだよ!どこまで 店主:しっかしホントに 言うこと聞かねえヤロウだなあ。
男:(激痛) 店主:あ。
男:おいいいい!!なんてこと すんだよ!! 店主:見りゃ分かるよ。 男:なんで落ち着いてんの!?
店主:大丈夫だよ。 男:傷の深さの問題じゃねえんだよ!
店主:違うよ。 男:冷静に訂正してくるんじゃないよ。
店主:法学部出身だからな。 男:法学部 出て、なんで床屋なんて やってんだよ。 店主:んなもん、俺の自由じゃねえか。 男:そりゃそうだけどよぉ……。
店主:分かったよ。
男:はぁ!?頭の毛も全部 剃る!?
店主:そうだよ。
男:冗談じゃねえ!
店主:だって、その傷 どうにかしてほしいんだろ? 男:は? 店主:そうだよ。 男:なんでだよ? 店主:考えてもみろ。
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・男(セリフ数:115)
?歳。
行きつけの床屋が休みだったので、仕方なく隣町の床屋へ散髪をしに来た男。
一人称は「俺」。
※「コンコン」という音を鳴らすシーンがあります(ひしゃくで木桶を叩く音です)。
・店主(セリフ数:115)
?歳。
床屋のマスター(店主)。
めんどくさがりで 愛想も良くない。
営業トークどころか、客に敬語すら使わない。
一人称は「俺」。
※「コン!」という音を鳴らすシーンがあります(かみそりの背で客のおでこを叩く音です)。
・男:♂
・店主:♂
【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
人形を作る職人。
蚊の幼虫。水中にすみ、体は短い棒状で、くねくねと運動し浮き沈みする。
ここでは、僧侶としての名前。
(ため息)
まったく、今日に限って 行きつけの
おかげで
えーと、聞くところによると、この辺りに 1軒あるって話なんだが……。
しっかし なんも
(1軒ポツンと建物がある)
ん……?なんかポツンと1軒あるなぁ……あれか……?
(その建物の前に来る)
お、どうやら ここらしいな。
(ずいぶんと さびれた感じ)
それにしても、
ガラスが汚れてて 中の様子も よく見えねえけど……
なんだか静まり返ってんなぁ……。ちゃんと営業してんのかぁ?
ま、いいや、入るだけ入ってみるか。
(入る)
お邪魔しますよー。(ホコリっぽい)ウプッ、ゴホッゴホッ。
なんだよ、中も汚ねえなあ、ホコリだらけじゃねえか。掃除もロクにしてねえのかよ。
(店内を見回す)
えーと……
(奥のほうに店主らしき男が椅子に腰かけている)
お、あれが
(店主に)すいませーん。
すぱすぱ、ふぅーっ。
なんだよ、客が来てるってのに、
(店主に)
すいませーん。あのー、すいませーん。
ん?何だ?
すぐ やってくれるかい?
頭を こしらえてくれって言ってんだよ。
この先に
俺の頭を 刈ってくれってんだよ。
なんだ?
分かんねえ人だなぁ……。ここ、床屋なんだろ?
だったら、早いとこ やってくれよ。
髪切って ヒゲ 当たって、男前にしてくれってんだよ!
この先の
よく言うだろ?「床屋 行って 男前にしてもらう」って。
言葉のアヤだよ。
髪切って ヒゲ 当たってくれりゃあ、それでいいんだよ。
で、今
客がいるように見えるか?
客?ホントか?
だったら客らしくしたらどうだ?
入口でペコペコ「お邪魔します」だの「すいません」だの言ってるから、
あのなぁ、客なら客らしく、堂々と入って来て 黙って座りゃあ いいんだよ。
そうすりゃ こっちも 黙って仕事に掛かるんだ。
余計な事 ゴチャゴチャ言ってるから
なんで床屋に来て
分かったよ、座りゃ いいんだね?
(施術用の椅子(バーバーチェアと言うらしい)に座る)
よいしょ。
ほら、座ったぜ?
さっさと
始める前に 掛ける
だって 切った
あとで
俺の服にも落ちるだろ!
ホコリみてえなもんなんだから、あとで パンパン はたいときゃ 落ちるじゃねえか。
分かったよ、
じゃ さっさと 頭
え?さすがに 頭
じゃ誰がやんの?
水で 頭
おまえさんには、自分で 髪を切ったり刈ったりする技術が
だから技術のある俺が、おまえさんの髪を 切ったり 刈ったりしてやる。
おまえさんは その技術に
頭
つまり 俺の技術は関係ねえ。
てことは、
わざわざ やってやる
そうだろ?
ただの
普通は 床屋の
そんなにグチグチ言うなら、
いまさら 別の床屋 行く元気なんざ
(ため息)
分かったよ、自分でやりゃあいいんだろ?
そこの水道 使えばいいのかい?
ちょっとの水道代ケチってんじゃねえよ!
水道なんざ使おうとしてるのがムダなんだよ。
な?ムダだろ?
この真っ昼間に、客が おまえさんだけなんだよ?
たしかに
それじゃあ、水は どうすりゃいいんだよ。
え?ああ、この
いや、置いてあるのは 気付いてたよ?
たしかに水も入ってるけど。
え、これ、頭
俺 てっきり、
この水、なんか
これ、いつから入れてある水なんだい?
俺が この店を持って すぐぐらいだから――
なんで そんな水が あるんだよ!?
なんで そん時に 捨てねえんだよ!
あって困るもんでも
おかげで 水道 止められた今でも 水に困らねえんだから、
むしろファインプレーだろ。
だって23年前の水だよ?
大丈夫なの?そんな水。
それにしたってさぁ……。
わ、分かったよ……。それじゃ……
(桶をのぞき込む)
(ドブみたいな臭いがする)
ウ!くっせ!
(店主に)
ちょちょちょちょ、
髪が
ドブ川みたいなニオイするよ!?
それぐらいで ギャーギャー騒ぐんじゃねえよ。
だいたいねぇ、
てことは、髪 切ってる間
そうすりゃ
特に我慢するほどでも
それに面倒なんだよ。
キレイな水に代えるとなったら、
隣の豆腐屋に 水 もらいに行かなきゃならねぇ。
いいよ、じゃ水くらい 俺がもらって来てやるよ。
ここ出て どっちだい?
それに なんで俺が 買い出しまで しなきゃなんねえんだよ!
使い走りじゃねえんだよ!
2キロも歩いてられっか!
分かったよ……。
(手を浸けようとする)
あー くっせ……
(よく見ると水面付近で何か動いている)
ん……?なんか動いてんな……。なんだ……?
(ボウフラだ。10匹はいる)
げっ!!ちょちょちょちょ
なんとか してくれよ!
気持ち
じゃ、そこの
そうすりゃ そいつら、底のほうへ
(柄杓で桶の縁を叩く)<コンコン>
(するとボウフラたちがスーっと沈んでいく)
あ、ホントだ!
(水に手をつける)
よいしょ……。
うわ~っ、なんか生ぬるくて ヌルヌルしてる。気持ち
(頭を濡らす)
よいしょ、よいしょ。
ああ、頭が気持ち
(店主に)
ほら、
いつまでも座って タバコ吸ってねえで、仕事にかかってくれ。
ビッチョビチョじゃねえか。
それじゃ かえって切りにくいんだよ。
だったら 初めっから
ビチョビチョで切りにくいんなら、手ぬぐいで チョチョっと拭いてくれよ。
じゃ、乾くのを待つ間、先に
(奥へ向けて)
オーイ、
(吉公 来る。10才くらい)
お、来たな。
(客を指して 吉公に)
オウ、この人の
あ、この子が 見習いの?へえ。
(店主に)
ねえ
ちゃんと できんの?
しっかり稽古は 積ませてあるから。
よかったなぁ
「ようやく生き物で やれる」って どういうこと!?
この3年間で 初めて!?
もう商売 成り立ってねえじゃねえか!
なんで そんな状態で 見習いなんか
「床屋の修行したい」っつーから、「
「それでいい」っつーから、置いてやってるだけだ。
ウデは上がらねえからな。いやぁ いい機会だ。
じゃあ稽古は 何で やってたんだよ!
ヤだよ!
例えば どんなにウデのいい
「初めて手術をした日」ってのが 必ずあるんだよ。
そいつに経験が
いつになっても できるようにならねえ。
そんな事してたら、そのうち世の中から 医者がいなくなっちまうぜ?そうだろ?
床屋だって同じだよ。
「初めて人間の顔を
だって、今までの練習台、ヤカンなんだろ?
ヤカンから いきなり人間てのは、不安だよぉ……。
だいたい、医者と違って 腹
コイツに 経験 積ませてやってくんな。
よし、そいじゃあ、背もたれに しっかり もたれて、
アゴ上げて ちょいと
(吉公に)
オウ
(吉公、客のかたわらに立つ)
ん、よし。
ああ、小僧さん……お手柔らかに 頼むぜ……?
じゃあ お
よーし
うう……頼むぜぇ……。
(意外と 全然 痛くない)
ん――?
あれ――?
お、けっこう
当て方が
やってんのか やってねえのか 分からねえくらいだ。
どうした
ん?どうした?
なんだよ、初めて人間の顔
だらしねえヤツだなぁ。
オウ
血が出ようが 肉が えぐれようが、てめえの顔じゃねえんだから、
おい
肉 えぐられて たまるか!
技術は ちゃんと仕込んであるから 心配すんなって。
ほら、目ぇつぶって。
でないと終わらねえよ?
(目を閉じる)
頼むぜ……?
あ
ちょ、
ちょ、
オイ
オイ
いったん 手ぇ
いててて………。
あァ~痛かったぁ……。
おう、すまなかったなぁ お
(吉公に)
馬鹿野郎!あれほど言っておいたろうが!
客が3回「
ていうか 痛く しないでくんない!?
めちゃくちゃ痛かったよ!?
もう
(吉公に)
オウ
ホラ、
(剃刀を受け取る。刃がギザギザだ)
ん?
オイオイ
馬鹿野郎、こんなんで
こいつは さっき、俺が
ガキのやったことだ。
こっからは 俺がやってやるから。
ホラホラ、目ぇつぶって。
(吉公に)
いいか?
(剃り始める)
ほーら、こんな具合にやるんだ。
こうすりゃあ、スムーズに
お前は
な?お前のは こうなってんだよ。
ホラ、こんなんじゃ どうやったって 引っかかんだろ?
じゃなくて 痛くすんなよ!
どういうつもりなんだよ!
何べんも何べんも
こっからは また ちゃんとやってやるから。
(吉公に)
オウ
(剃り始める)
ほら、こうやって
(不意に吉公がその場を離れてどこかへ行こうとする)
ん?おい
(吉公、窓際へ行く)
(吉公に)
え?チンドン屋が来てる?
馬鹿野郎、そんなもん見てねえで、戻って来い。
チンドン屋なんざ いつでも見れるだろうが。
客は 次 いつ来るか分からねえんだぞ?
(吉公、チンドン屋に夢中なのか、戻って来ない)
聞かねえヤロウだな……。
コラ!
オイ
戻って来いって言ってんだよ!<コン!>
オイ
戻って来いって言ってんだよ!<コン!>
待て待て待て待て!
ちょっと!
小僧に
いや、こっからじゃ手ェ伸ばしても アイツの頭に届かねえから、
じゃあ もう
(吉公に)
オイ
てめえ聞こえねえのか!
戻れって言ってんだよ!!<コン!!>
ちょちょちょちょ!今のメチャクチャ痛かったんだけど!!
間違えて
(額を触ると 手に血がついた)
あ~っ!血が出てる!
ちょっと!血が出てるよ!!
血が出てんだよ!?ケガしてんだよ!?
あのねぇ、これ立派な犯罪だよ!?
なんで床屋が そんな知識 持ってんだよ。
とにかく!
俺ぁ アンタのせいでケガしたんだ!
どうにかしてくれよ この傷!
それじゃあ、顔とヒゲだけじゃなく、
頭の毛も全部 剃ってやろうじゃねえか。
ツルッパゲにする気か!?
ついでに
俺ぁ 散髪しに来たんだ!
坊主になりゃあ、毛が無くて(怪我 無くて) めでたしめでたしだ。
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
三遊亭歌武蔵
春風亭一之輔
古今亭志ん朝(3代目)
古今亭志ん生(5代目)
柳家小さん(5代目)
三遊亭圓生(6代目)
桂文治(10代目)
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp