声劇台本 based on 落語 「
【書き起こし人 註】
古典落語をベースにしていますが、あくまでも"声劇台本"として作成しています。
なるべく声劇として演りやすいように、元の落語に様々なアレンジを加えている場合があります。
アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。
ご利用に際してのお願い等
<登場人物>
<配役>
ここから本編
語り: 泥棒:(家の外に忍んでいる。ちょうど2人が会食している部屋の窓の下あたりに身をかがめている)
女:(玄関先。旦那に)
泥棒:(侵入済み)
女:(旦那に)
泥棒:モグモグ……うん!ナスの天ぷらも うめぇ!
女:(部屋のすぐ外の廊下。ふすまは閉まっているが、中から音と人の声もする)
泥棒:モグモグ。うん! 女:(覗きながら)
泥棒:あ~食った食ったァ。
女:(入って来て)
泥棒:(びっくりしてむせる)
女:(別に怖がらない)
泥棒:(まだ すごむ)
女: 泥棒:おうよ。
女:(思わず吹き出す)
泥棒:な、何がおかしいんだよ! 女:何がって、おまえさんの言う事がさ。
泥棒:あ?どこって ここに……
女:何 言ってんだか。
泥棒:げ、芸人!? 女:そうさ。あたしが 泥棒:待て待て待て。誰が芸人だ。
女:シーッ!うるさいねぇ。
泥棒:あ……。
女:そこまで小さくしなくてもいいけど。
泥棒:そうだよ。 女:本物の泥棒が、なんで物も 泥棒:いやぁ すげえ腹 減っててよぉ……。
女:何やってんだか。
泥棒:え?どういうこと? 女:いえね、あたし、今でこそ 囲われの身だけど――、
泥棒:え!?
女:そうよ。 泥棒:そうだったのかぁ。
女:ホントにねぇ。
泥棒:え?相談?
女:あのね、実は あたし、さっきの旦那とは そろそろ切れようと思ってんの。 泥棒:え、あのジジイと手ぇ 切んの?
女:まあねぇ。
泥棒:へえ、そうだったのかい。 女:でね、おまえさんに相談なんだけど――、
泥棒:え?? 女:だからね、あたしみたいな女を
泥棒:え?つまり、 女:そう。誰か いい人、紹介してくれないかい? 泥棒:ちょ、ちょっと待ってくれよ。
女:いいのよ。
泥棒:広くねえよ!なるべく顔 見られねえように仕事してんだから。
女:ホントかい?嬉しいねぇ。
泥棒:まぁ そりゃそうだよね。
女:そうねえ、あたし、見てくれには あんまり こだわらないの。
泥棒:へえ。 女:度胸のある人がいいね。 泥棒:度胸のある男かぁ。 女:そう。
泥棒:え? 女:(すり寄って)
泥棒:え、ちょ、 女:あ、ご、ごめんね。
泥棒:いやいや!いないよ。
女:そうなの?
泥棒:いない いない!
女:ホントかい――?
泥棒:え――!?ど、どういうこと? 女:だからさぁ、あたしみたいな女と――、
泥棒:お、俺が 女:何言ってんのさ。
泥棒:ね、 女:おまえさんでなきゃ ダメなんだよ。
泥棒:もちろんだよ。
女:ホントかい!?嬉しいねぇ!
泥棒:段取り 女:ありがと。
泥棒:おお、いい 女:ふふっ。さ、これで あたしたち、晴れて夫婦だよ。 泥棒:いや~ なんか夢でも見てるみてえだなぁ。
女:やだよぉ。親しき仲にも礼儀ありって言うじゃないか。
泥棒:あ、そういや俺も名乗ってなかったな。
女:え!?あの伝説の 泥棒:の 弟子で―― 女:なんだ 弟子かい。 泥棒:"もぐら 女: 泥棒:の 弟子で―― 女:さらに弟子なの!? 泥棒:"イタチ 女:イタチ 泥棒:そうかい?けっこう気に入ってんだけどなぁ。 女:"ねずみ 泥棒:"もぐら 女:なんで そんな名前なの? 泥棒: 女:そ、そうなの……。
泥棒:警察に捕まりそうになったら、
女:やっぱり くさいんじゃないか。 泥棒: 女:あたしはねぇ――、
泥棒:ああ そうだよ。 女:――やっぱり あたしたち、縁があったんだよ。 泥棒:え?どういうこと? 女:おまえさん、" 泥棒:ああ もちろん知ってるよ!
女:その高橋お伝――
泥棒:ああ……たしか、俺の 女:そう。
泥棒:そういや そうだったなぁ。
女:実は、高橋お伝はね――、あたしの おばあちゃんなの。 泥棒:え!?高橋お伝が!?
女:そう。 泥棒:おいおいおいおい!そうだったのかよ!
女:お伝の孫で――、ハンペンて言うの。 泥棒:ホントかよ!
女:イタチ 泥棒:へえ、お菊さんかぁ。 女:んもう、あたしたち もう夫婦になったんだからさぁ、
泥棒:(照れ)
女:勿論よ♥
泥棒:(デレデレ)
女:なあに♥おまえさん♥ 泥棒:(デレデレ)
女:あ、それはダメなの。 泥棒:なんで? 女:ほら、あたしを囲ってる あの旦那、
泥棒:(ビビる)
女:ごめんね。今日のところは いったん帰ってちょうだい?
泥棒: 女:いつも お昼には 店の様子を見に帰るから 大丈夫だと思うけど…… 泥棒:ホントにそうなら いいんだけどさぁ、もし万が一、
女:それもそうねぇ。
泥棒:なるほどぉ。 女:お願いね。
泥棒:ああ、この家の前の通りを 左に まっすぐ行って、
女:そう。
泥棒:持ってるよ。 女:ちょいと見せてくれないかい? 泥棒:え?いいけど……
女:あら、なかなか いい 泥棒:ちょちょちょちょ、なんでだよ?
女:何言ってんのよ。あたしたち 夫婦になったのよ?
泥棒:そりゃそうだけど……俺が持ってちゃダメなの? 女:だってねぇ……、こう言っちゃ何だけど、
泥棒:いやいや、泥棒が入るどころか、
女:でも 泥棒の家に 泥棒が入らないとは限らないでしょ?
泥棒:いやまぁ そうなんだけど……。
女:いいわよ、払わなくたって。 泥棒:よくねえよ!今度 払わなかったら―― 女:払わなかったら どうなるの? 泥棒:長屋 追い出されちまうよ。 女:それでいいのよ。
泥棒:(嬉しい)
女:ね♥
泥棒:お、おう、分かった。 女:暗いから、足元 注意して帰ってね。
泥棒:何言ってんだ。
女:本当だね?ウソついちゃイヤよ?
泥棒:もう始まっちゃってるけど ウソはつかねえよ。
女:うれしい――!
泥棒:なんだい? 女:愛してるわ♥ 泥棒:お菊――!
女:じゃ、気を付けて。 泥棒:おう。じゃ また明日な。 泥棒:あぁ~、まだ夢でも見てるみてえだなぁ。
語り:さて翌日。浮かれ気分の泥棒さん、約束どおり、
泥棒:さーて、おてんと様も てっぺん過ぎてるし、
語り:そうして 泥棒さん、町内を ぐるっと散歩して 少し時間をつぶし、
泥棒:おっかしいなぁ。
煙草屋:いらっしゃいまし。どの おタバコにしましょ? 泥棒:ああいや、タバコ買いに来たんじゃねえんだ。
煙草屋:はいはい、なんでしょ? 泥棒:そこの斜め向かいの家ってさぁ、お菊の家だよね? 煙草屋:ええ、そうだねぇ。
泥棒:ん?
煙草屋:おや そうかい。
泥棒:ゆうべの話?何だいそれ? 煙草屋:(おもしろ話を聞かせてやれるのが嬉しい といった感じ)
泥棒:へえ、ゆうべ お菊の家で、なんか おもしろい事があったのかい? 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:え――!?ど、泥棒が……? 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:ま、まぬけ……? 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:そ――、そうスか…… 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:い――、いませんかねぇ――? 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:ひ、 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:(呆然)ええ…… 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:そ――、そうスか――? 煙草屋:(嬉しそうに楽しそうに)
泥棒:は、はぁ……。
煙草屋:ああ、お菊さんが その泥棒に 仕返しされないかどうか 心配なんだね?
泥棒: 煙草屋:よそへ お引っ越しなさったのよォ。だから 心配しなさんな。 泥棒:引っ越した!?2円 持って!?
煙草屋:ご存知 無いのかい?
泥棒:
・上演を公開される際は、観覧無料の媒体のみで行うようお願いします。
観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
配信者へ 金銭または換金可能なアイテムやポイントを贈与できるシステムの有無は問いません。
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録画の公開期間も問いません。
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・台本利用に際して、当方への報告等は必要ありません。
・泥棒(セリフ数:101)
?歳。
まぬけな泥棒。
一人称は「俺」。
・女(セリフ数:81)
?歳。20代後半~30代くらいかな。
ある金持ち商人の愛人。
その商人に建ててもらった家に住んでいる。商人はそこへ通って来る。
一人称は「あたし」。
・煙草屋(セリフ数:16)
?歳。おばちゃんか おばあちゃんぐらいのイメージ。
煙草屋の店主。
話好き、ゴシップ好きな感じ。
・語り(セリフ数:3)
丁寧な口調の語り。
女性側に振っていますが、泥棒役が兼ねてもかまいません(その場合、セリフが続くことになりますが)。
・泥棒:♂
・女/煙草屋/語り:♀
【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
すっきりとしゃれている様子。
有田を中心とする肥前国で生産された磁器の総称。呼び名の由来は、主な積み出し港が伊万里であったことから。
約84~85センチメートル。刀の標準的な長さのひとつ。
「だんびら」のこと。幅の広い刀、もしくは単に刀のこと。
「かっぽれ かっぽれ 甘茶で かっぽれ」の囃子言葉で有名な江戸発祥の踊り芸。
結婚して家庭を持つこと。
1797年~1832年。江戸時代の盗賊。
金持ちから金品を盗んで貧乏人に分け与える盗賊。
1850年~1879年。明治時代の強盗殺人犯。
人をだましたりおとしいれたりする無慈悲で性根の悪い女。
信念を貫きとおす激しい気性の女子。
「こづかっぱら」とも。江戸~明治初期に刑場(死刑を執行する所)があった。
「南千住回向院」のこと。回向院は歴史上の著名人の墓が多数ある寺院で、「両国回向院」と「南千住回向院」がある。
ここでは、浮気相手である男のこと。
家賃のこと。
新郎新婦がお酒を酌み交わす儀式のこと。
1階建ての家屋。
財産家。金持ち。
浄瑠璃の一種。「太夫(たゆう)」と呼ばれる語り手の台詞に、三味線の弾き手が伴奏を付ける。
そこに女が ひとり 住んでいました。
女の一人暮らしには 少し広すぎる家でしたが、何を隠そう その女は、
さる
その
ある夜のこと。
その日も
お
その様子を、家の外で こっそりと うかがっている泥棒が ひとり――
(独白)
へっへっへ。いやぁ、今日はツイてるなぁ。
こんな
囲い者の女ってのは、
さーて、あとは ジジイが
そうすりゃあ ここには女がひとり。仕事も やりやすいってもんよ。
仮に見つかったところで 相手は女。
ちょいと
あー さっさと あのジジイ 帰らねえかなぁ。
だいたい、世の中 不公平だよなぁ。
あんな ボーッとしたジジイがさぁ、金 持ってて、あんなイイ女 囲って、
うまいメシ食って、女の
俺なんざ、金も
あ~ 腹 減ったなぁ。
見てろ、今日は 家ん中にある
(旦那が帰るようだ)
――ん?ジジイが帰るみてえだ。
(旦那が玄関先に出て来たようだ)
お、玄関先に出て来たな。
女も 見送りに出て来て――、立ち話してるな。
よぉし、そいじゃ 今のうちに、忍び込ませてもらいますよっと。
旦那、今日も ありがとうございました。
どうぞ 気を付けて お帰りになって下さいましね?
ええ、あたしなら大丈夫ですから。
ちゃんと
(独白)
いや~、外から見ても たいした家だと思ったけど、部屋ん中も
家具も 置き物も 掛け軸も、
それに この
料理が半分近く残ってんじゃねーか。もったいねぇ。
――うまそうだなぁ……。そういや俺、腹減ってたんだった……。
ちょっとだけ、いただいちゃおうかなぁ……。
うん、いただいちゃおう。
(腰を下ろして食べる態勢)
おほ~ッ、うまそ~ッ!
えーと……、よーし、まずは刺身から いただこうかな。
うわぁ、これ、マグロのトロだよ。
ほいじゃ、遠慮なく いただきますよっと。
(食べる)
アムッ、モグモグ……うん!うまい!
アブラが乗ってて たまんねぇなあ!
次は……、
(食べる)
アムッ、モグモグ……うん!これも うめぇ!
えーと次は……
ええ、それじゃ明日もまた。お待ちしてますわ。
ええ、じゃ気を付けて。おやすみなさい。
(旦那、去る)
(独白)
ふう。それじゃ あたしも 片付けして、寝ようかね。
(と、なにやら部屋で物音がする)
――あら?なにか物音がするわね。
さっきの部屋かしら?
で、これは――サトイモの煮っころがしか!
アムッモグモグ。うん!これも うめぇ!
やっぱり この部屋だわ。中から 人の声が聞こえるんだけど――。
あらやだ、誰か入って来てんの……?
ちょっと開けて 覗いてみよ。
で、こっちは――、ほうれん草のおひたしか。モグモグ。うん!うめぇ!
いやー どれもこれも うめえなぁ!
(独白)
やあねぇ、ホントに 知らない男が 入って来てるじゃないの。
しかも
いや~ こんなに腹いっぱい食ったの 久しぶりだなぁ。
(徳利と おちょこが目に入る)
おん!?この
(徳利を手にとる)
ん?まだ中に 酒 残ってるじゃねえか!もったいねぇなぁ。
へっへっへ。じゃあ こいつも いただくとするか。
(自分で 猪口に注いで呑む)
クイッ。プハーッ!んめえ!こりゃ いい酒だぁ!
もう一杯もらっちゃおうかな。
(また猪口に注いで呑む)
クイッ。プハーッ!あーたまんねぇなー!
もう
(ラッパ呑み)ゴクゴク……
ちょっとアンタ!そこで何してんの!
ブッ!ゴホッゴホッゴホッ!
(しばらくむせる)
(だんだんと呼吸が落ち着いてくる)
(深呼吸)
すー……、はー……。
(落ち着いたところで、ひとつ 仕切り直しの咳払い)
(今さら すごんで 女を脅しにかかる)
静かにしろい!
なにが今さら 静かにしろいよ。
何やってんのよ。勝手に
おまえさん いったい何者なのよ。
ああ?見りゃ分かんだろ。
言わずと知れた
てめえが 金持ちジジイに囲われてんのは 調べが付いてんだ。
ジジイから 毎月たんまり "お
その金、出してもらおうじゃねえか。
おとなしく出しゃあ、命ばかりは助けてやるが、
ズブリ!っと お
――プッ、アハハハハ。
下手な役者みたいな
そんな物、どこに
(と、ふところを探る)
……あれ?
えーと……、んーと……
(独白)
やべ、忘れて来た……。
(女に。虚勢を張って)
きょ、今日の所はよぉ、だんびらは勘弁しといてやらぁ。
ははーん、おまえさん、あれだろ?
旦那に雇われた、芸人か何かだろ。
おどかしてやってくれって、旦那に頼まれて ノコノコ入って来たんだろ?
そんで あたしが「キャー」なんて驚いたら、そこで正体 現わして、
「ドッキリ大成功」とか何とか言って、カッポレでも
ホラ、早く
(大きい声で)
俺 は 泥 棒 だ !!
なに そんな大きな声で 自分は泥棒だって名乗ってんのさ。
ここは
近所に聞こえたら 通報されちゃうよ?
(ビビって ささやき声で)
オレハ、ドロボウダ。
――それじゃあ 何?おまえさん、本物の泥棒なの?
まったく、間抜けな泥棒さんも いたもんだねぇ……。
それにしても、あたしん
これも何かの
元は おまえさんと同業なんだよ。
そ、それじゃ
いや どうりで、俺が
しっかし、忍び込んだ先が お仲間の家とはねぇ。
妙な偶然もあったもんだ。
それでさ、さっきも言ったけど、おまえさんが ウチに入って来たのも 何かの縁だ。
ねえ、ちょっと あたしの相談に乗ってくれないかい?
――盗みに入って 相談 受けるなんて初めてだけど……、相談て何だい?
こんな いい暮らし できんのに?
でも あの旦那、まぁ悪い人じゃないんだけど、
人間に面白味が無いって言うかねぇ。
こうやって 女を囲ったりする割りに、商売のほうが好きみたいでさ。
一緒に ごはん食べてても、
それに 結局、真面目って言うか 小心者って言うか……
毎晩 きちんと同じ時間に ご
なんだかねぇ、ずっと あの旦那に囲われてても、
先が無いって言うか、つまんないなぁって思ってね。
それで、いっそ今月あたりで 手切れって事にして、
そろそろ誰かと
どっかに いい人、いないかねぇ?
女房に
あのさぁ、俺が言うのも何だけど――、こういうのって、
もっと ちゃんとした人に頼んだほうが いいと思うんだけど……
おまえさん、色んな所に忍び込んでて、顔が広いだろ?
まぁでも、
なかなかイヤとは言えねえんだよなぁ。
じゃあ まあ、できる限り 当たってみようか。
あ、でも――、
あたしにも、好みと言うかさ、望みの
で、どんな男が
男は 中身が肝心だと思うのよね。
世間の女なんてのは たいてい、役者みてえな 顔のいい男に
それじゃあ、どんな中身の男が いいんだい?
そうねぇ、例えて言えば――、
知らない人の家にも
まるで その家の亭主みたいに
見つかっても オロオロしたりしないで 「静かにしろい」なんて
逆にこっちを
(と言って泥棒の顔を見る)
――あら、ここにいるじゃないの。
あたし――、おまえさんみたいな人を、ずっと待ってたんだわ――。
おまえさんみたいな いい男、もうとっくに おかみさんがいるわよね。
俺 ひとり身だよ。
でも おまえさんほどの人だもん、おかみさんが いなくたって、
カミさんも 恋人もいない!
友達もいない。
それじゃ――、
ねぇ おまえさん――、あたしみたいな女――、イヤかい――?
ちょ、ちょっと待ってくれよ。
ウソだよ、からかっちゃ いけねえよ。
女が恥を忍んで ここまで言ってんだよ?
ウソなわけ ないじゃないか。
ねえ おまえさん、あたしのこと、女房にしてくれないかい――?
そりゃあ、
ホントに、俺なんかで いいのかい――?
女房にしてくれるかい――?
それじゃ さっそく、夫婦の
さ、お
ホントに いいのかい……?
へ、へへ……。そいじゃ、もらおうかな。
(女、注ぐ)
おう、どうも。
(呑む)
クイッ。プハァーっ。
じゃ次は
(猪口に酒を注いで女に渡す)
ほら。
(呑む)
クイッ。ふぅ。
あ、そういや、
名前を
泥棒が
俺はね、"ねずみ
まぁおまえさんらしいけど。
くさそうな名前だねぇ。
えーと、おまえさんの師匠、なんて言ったっけ?
庭から ずーっと穴を掘ってって、
床下から忍び込むってのが、師匠の必殺技なんだよ。
おまえさんは なんで"イタチ
ねぇ おまえさん、おまえさんの師匠の師匠、
ねずみ
この業界で その名を知らねえ奴ぁ いねえだろ。
それこそ伝説の
世間じゃ いまだに "
俺みてえなケチな泥棒からすりゃぁ、尊敬すべき
捕まって死刑になって、
どこにあるか知ってるかい?
――で、その高橋お伝が どうかしたのかい?
じゃ、じゃあ、
あの高橋お伝の孫!
どうりで
で、なんて名前なの?
そんな冗談みてえな名前なの!?
ふふっ、でもハンペンてのは冗談よ。
ホントの名前は、"お
「お菊さん」なんて 他人行儀な呼び方しないで、
「お菊」って 呼び捨てにしておくれよ♥
い――、いいのかい――?
ねぇ――、あたしのこと、呼んでみて――♥
へ――、へへっ――。
じゃあ――、呼ぶぜ?
お――、お菊。
おほっ、いいねえ~。
いやぁ、俺みてえな男が、こんなキレイな人と
人間、マジメに一生懸命やってりゃあ、いつか いい事があるもんだなぁ。
よし、お菊、今晩は 泊まってくよ。
ああ見えて
あたしの用心棒として 2階に飼ってるのよ。
今は ちょうど2人とも
じきに帰って来ちゃうから。
その人たちに見つかったら、おまえさん、
アバラの1本や2本じゃ済まないよ。
そ、そうなの?
冗談じゃねえよ、勘弁してくれよ。
俺、ケンカ 弱そうに見えるだろ?
見た目以上に弱いんだから。
じゃあ、今日は 泊まれねえってこと?
せっかく夫婦になったのに?
旦那と手が切れちゃえば、用心棒の先生たちも いなくなるから。
明日は旦那、午前中に来るの。そしたら あたし、別れ話をするわ。
そうねぇ、お昼ごろには 片が付くと思うの。
この家も出て行かなきゃ ならなくなるけど、
荷物をまとめるのに 夕方まで時間もらえるように 話 つけるから。
だから おまえさん、明日、
旦那は大丈夫なの?
別れ話が付いた後、すぐに旦那は いなくなんの?
俺が入って来た時に まだ旦那がいたら、
それは勘弁 願いてえんだけどなぁ。
あ、それじゃあね、旦那が帰ったら、あたし 部屋で
おまえさん、明日 来たら、いったん外で様子を伺ってて。
中から
もし何も聞こえなかったら、まだ旦那がいるってことだから、入って来ちゃダメよ?
それにしても お菊、おめえ
よし分かった、明日は
じゃ今日は そろそろ帰って。
おまえさん、家はどこなの?
あと おまえさん、今
(懐を探る)
えーと……
(取り出して女に手渡す)
ほら。
(中を見る)
まぁっ!2円も入ってるじゃないの。
これは今晩 あたしが 預かっておくわね。
それ、俺の金だよ?
夫婦の間で、俺の金とか おまえの金とか、
そんな区別 無いでしょ?
あたしのお金も おまえさんのお金も、どっちも ふたりで
大事な資金なんだから。
おまえさんの家、ボロ長屋なんだろ?
いつ
こんな お金 置いといちゃ
俺という泥棒が その長屋から出てんだよ?
現に あたしという
でも その金はダメなんだよ。
それ、長屋の
その2円、そっくりそのまま
あたしたち
そんな長屋なんて出てさ、明日 一緒に、
ふたりで暮らすのに
ああ――、それもそうだなぁ。
じゃ、この2円は あたしが 大事に預かっとくからね。
あ、そろそろ用心棒の先生たちが帰って来ちゃうわ。
おまえさん、もう帰らなきゃ。
寄り道しちゃダメよ?
よその女の所なんて行っちゃイヤだからね?
これから先、俺ぁ おめえ以外、メス猫1匹だって かわいがったりしねえよ。
ウソつきは 泥棒の始まりだからね?
あ、おまえさん もう始まっちゃってるわね。
俺は おめえ
ねえ おまえさん。
俺も――、愛してるよ。
あんな いい女と
いやぁ ありがてぇありがてぇ。俺にも ようやく運が向いて来たってことかぁ。
さーて明日は――、
聞こえなかったら まだ入っちゃいけねえ と。間違えねえように しなきゃな。
いや~ 明日が楽しみだぁ。
もうジジイも帰ってるかな。
(耳をすます)
どれどれ……?
(聞こえない)
――聞こえねえな。
てことは、まだジジイいやがんのか。
なんだよ しつけえ野郎だなぁ。さっさと帰りゃあいいのに。
しょうがねえ。
町内 ひと周りして、また戻って来るか。
再び 元の場所へと戻って来たのですが――、
相変わらず 家の中からは、物音ひとつ聞こえてきません。
ペンともツンとも聞こえて来ねえじゃねえか。
まだ
そんなに話が こじれてんのか――?
(なんとなく周囲を見る)
ん――?なんだか今日は この
それに心なしか、みんな お菊の家のほう ジロジロ見てるような……。
なんだか妙な雰囲気だなぁ。なんか あったのかな……?
ちょいと そこのタバコ屋のババアにでも
(タバコ屋のおばあさんに挨拶)
おう、ごめんよう。
ちょいと
あら、「お菊」って 呼び捨てにするところ見ると、
おまえさん、お菊さんの親類か何かかい?
(照れくさいような誇らしいような)
ああ、まあ?ある意味、いちばん近い親類、みたいな?
それじゃ、ゆうべの話、もう お聞きかい?
あらッ、まだ知らないのかい?
そりゃもう ケッサクな笑い話があったのよォ。
もう おもしろいのなんのって。
今朝から 町内じゅう、その話で 持ちっきりでねェ。
おまえさんにも 今から 話してあげようねェ。
あのね、ゆうべ お菊さんの家に、泥棒が入ったらしくてねぇ。
そうなのよォ。
物騒な話だと思ったんだけど、よくよく聞いてみたら、
この泥棒が またマヌケな奴でねェ。
だって おまえさん、その泥棒、目の前の ごちそう食べるのに夢中で
物を
腹ぁ刺すぞなんて
こんなマヌケな泥棒、聞いたこともないやね。
お菊さんも 初め、芸人と間違えたらしくてねェ。
それでね、ほら お菊さん あのとおり、
うまいこと 泥棒を 丸め込んで、夫婦の誓いをしたんだってさ。
そしたら その泥棒、すっかり舞い上がっちゃって。
でも 考えてもごらんよ。
どこの世界に、泥棒と 夫婦になる女がいるもんかね。ねえェ?
いるワケないじゃないの。
それでね、
その泥棒、その気になって、スケベ
ずうずうしいこと言い出したらしくてねェ。
そんなのイヤだから お菊さん、とっさに
「2階に 用心棒の先生たちを雇ってある」って言ってやったら、
その泥棒、震え上がって おとなしく帰ることにしたって言うのよォ。
バカな泥棒もいたもんだねェ。
だって、2階に用心棒なんて いるワケないのにねェ、あの家
(あらためて家を見る)
あ、ほんとだ、
それでね、その泥棒の帰りがけに、お菊さん、
そいつから2円 まき上げたって言うんだからねェ、度胸のある人だよ。
結局 その泥棒、盗みに入って 反対に 2円 取られて帰ったのよォ。
まったくマヌケな泥棒だねェ、ホッホッホッホ。
それでね、その泥棒が、今日また あの家へノコノコ来るらしくてねェ。
だから この町内のみんな、一目そのマヌケ
朝から
頭はハゲ上がってて、目は
(ふと泥棒の顔を見る)
おまえさんも そんなような顔してるねェ。
ま、気にしなさんな。こんなの よくある顔だから。
それよりね、もうそろそろ そいつが現れる頃だから、
おまえさんも ここで見てるといいよ。
で、そいつが来たら、みんなで
えーと、あの、1つ うかがいますけど――、お菊は どうしたんスか?
それなら大丈夫。お菊さん、今朝いちばんで、荷物まとめて
おいおい そりゃひでぇじゃねえか!
(煙草屋に)
おい、ちょいと
今は どっかの お
昔は
ああ、どうりで
※「義太夫節」は 語る芸。浄瑠璃の一種で、「太夫(たゆう)」と呼ばれる語り手の台詞に、三味線の弾き手が伴奏を付ける。
おわり
参考にした落語口演の演者さん(敬称略)
柳亭市馬
古今亭菊之丞
桃月庵白酒
柳家小三治(10代目)
昔昔亭A太郎
橘屋文左衛門
三遊亭金馬(3代目)
金原亭小駒
三遊亭栄楽
春風亭一之輔
何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp