声劇台本 based on 落語

牛ほめうしほめ — 声劇ver. —


 原 作:古典落語『牛ほめ』
 台本化:くらしあんしん


  上演時間:約30~40分


【注意】

声劇用に大きくアレンジしています。元の落語「牛ほめ」とはかなり違っています。
ですので、本式の落語用のテキストとしては向かないかと思います。ご注意ください。


アドリブ・口調変更・性別転換 等々OKです。



ご利用に際してのお願い等

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 観覧自体が無料であればかまいません。いわゆる「投げ銭システム」に代表されるような、リスナーから
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<登場人物>

与太郎よたろう(セリフ数:106)
 20歳。
 いい歳をして商売もせず日々 遊び歩いているか家でゴロゴロしている。
 怠け者で能天気で天然のバカ。
 普段から 口は開きっぱなし。気の抜けた顔をしている。
 20歳だが、精神年齢は もっと低そう、というか子どもっぽい。
 こづかいがもらえるとなると やる気を出す。ゲンキンなやつ。
 一人称は汎用性と普遍性を考えて「オイラ」にしていますが、何でもかまいません。
 (実際の落語口演では「あたい」や「あたし」になることが多いです)



父親(セリフ数:66)
 ?歳。 兄の佐兵衛より15歳 年下。
 与太郎の父親。 佐兵衛の弟(15歳 下)。
 職人ぽい口調だが、意外とものを知っている。
 わが子のバカさ加減に手を焼いている。



佐兵衛さへえ(セリフ数:40)
 ?歳。 初老~老年。伴侶を「バアさん」と呼ぶ程度の年ごろ。
 与太郎の父親の兄(15歳 上)。 与太郎の伯父。
 与太郎の父親よりは 口調・人当たりが やわらかめ。





<配役>

・与太郎:♂

父親佐兵衛:♂




【ちょっと難しい言葉】※クリックすると開いたり閉じたりします(ブラウザによっては機能しません)
  • 普請(ふしん)
    家を建築したり修理したりすること。

  • 総体(そうたい)
    物事の全体。

  • 薩摩の鶉杢(さつま の うずらもく)
    薩摩杉(屋久杉の異名)で できており、うずらの羽のような模様の木目をもつ木材。

  • 備後の五分縁(びんご の ごぶべり)
    備後(現在の広島県)で作られる畳。「五分縁」とは、畳の縁の布の幅が五分(約1.5センチ)の畳。

  • 砂摺り(すなずり)
    砂を加えて塗った壁。

  • 隠元禅師(いんげん ぜんじ)
    隠元隆琦(いんげん りゅうき 1592-1673)のこと。
    中国 明~清代の禅宗僧。江戸時代に来日し、日本黄檗宗(にほん おうばくしゅう)の祖となった。

  • 賛(さん)
    画賛(がさん)とも。絵の上部や余白に書き加える文や句。

  • 宝井其角(たからい きかく)
    1661~1707。江戸時代の俳諧師。松尾芭蕉の弟子。

  • 木取り(きどり)
    板材や角材などにするために原木を切ること。

  • 秋葉神社(あきば じんじゃ/あきは じんじゃ)
    日本全国にある神社。防火の神様が祀られていることが多い。

  • 火伏せ(ひぶせ)
    火災を防ぐこと。

  • 天角地眼一黒直頭耳小歯違(てんかく ちがん いちこく ろくとう じしょう はちごう)
    菅原道真の愛牛の特徴。
    角は天に向かい、目は地を睨み、身体は黒一色、頭は傾かず真っ直ぐ、耳は小さく、歯は乱杭歯(らんぐいば)。
    『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』の「天拝山(てんぱいざん)の段」に出てくる文言。

  • 乱杭歯(らんぐいば)
    歯が重なって生えており、歯並びが乱れていること。

  • 菅原道真(すがわらの みちざね)
    845~903。平安時代の貴族。学問の神・天神様としてあがめられる。。

  • スナメリ
    ネズミイルカ科スナメリ属に属する小型のイルカ。

  • バブルリング
    イルカなどが水中で吐き出した泡がドーナツ状になったもの。





ここから本編




 父親(息子の与太郎を呼んでいる)
    与太よたろう。 おい、与太よたろう

与太郎:(間の抜けた返事)んあー?

 父親:「んあー?」じゃねえや。
    ガキじゃ あるめえし、呼ばれたら「はい、何でしょう」ぐらいの返事 できねえのか。
    
    ま、いいや。
    ちょっと おめえに話が あるからな、 こっち来て 座れ。

与太郎:んー?
    
    (父の前に座る)
    おいしょ。座ったよ。
    なーに?おっつぁん。

 父親(与太郎の阿呆ヅラにあきれている)
    相変わらず 気の抜けた顔 してやがんなぁ、
    ポカーッと大口おおぐち 開けてよォ……。
    それが 人の話 聞こうってツラか?
    口ぐらい 閉じろよ。
    なんだって おめえ、いつも そうやって 口 開けてんだ。

与太郎:やだなあ、おっつぁん。
    口 閉じたらさぁ、息が できねえじゃねえか。

 父親:な、何 言ってんだ……?
    まさか おめえ、普段 口でしか 息してねえのか……?
    あのなぁ、息ぐらい、鼻で できるじゃねえか。

与太郎:え! 息って、鼻でも できるの?

 父親:当たり前じゃねえか。
    なんで知らねえんだよ。

与太郎:ちょっと待って、やってみる。
    
    (鼻で吸う)スー……。
    (鼻で吐く)スー……。
    (もう一度)スー……スー……。
    
    ホントだ……!

 父親(ため息)なんで こんな事から 教えなきゃならねえんだよ……。
    
    あのなぁ与太よたろう、おめえも もうハタチだろ?

与太郎:当たり前だよ。うちなか下駄げた やつぁ バカだよ。

 父親:バカは おめえだよ。
    ハダシじゃねえよ、ハタチだよ。
    誰が おめえの足の話なんか してんだ。
    おめえのトシの話だよ。

与太郎:何 言ってんだよ おっつぁん。
    オイラのトシは、ハタチじゃなくて、じゅうだよ?

 父親:だから、じゅうの事を「ハタチ」って言うんだよ!

与太郎:え?じゅうをハタチって言うの?
    じゃさんじゅうは イタチ?

 父親:なんでだよ。なんで そうなるんだよ。
    さんじゅうは ミソジだよ。

与太郎:さんじゅうがミソジ?
    じゃじゅうは?

 父親:ヨソジだよ。

与太郎:じゅうは?

 父親:イソジ。

与太郎:うがい薬の?

 父親:イソジンじゃねえよ。イソジ!
    ついでにろくじゅうはムソジ、しちじゅうはナナソジ、はちじゅうはヤソジだ。

与太郎:で、きゅうじゅうは クソジ。

 父親:なんかきたねえなあ。
    きゅうじゅうは ココノソジだよ、覚えとけ。
    って んな事ァ どうでも いいんだよ。
    おめえに付き合ってると 話が進まねえや。
    
    あのな与太よたろう、おめえも もうじっさい、ハタチだ。
    ハタチと言やあ、普通は もう一人前だ。
    なのに おめえと きたら、毎日毎日 ふらふら遊び歩いて、
    そうでなきゃ うちで ボーッとして。
    世辞せじあいは おろか、返事や挨拶あいさつさえ ロクに できねえ。
    おまけに 常識すらえと来てる。

与太郎:そんなにめられると、照れるなぁ。

 父親:誰も めちゃ いねえんだよ。
    んなこったから、近所の連中に バカだバカだって言われるんだ。
    それだけじゃえ。親戚しんせきれんちゅうも バカにしてるよ。
    いや、親戚しんせきれんちゅうも 近頃は、バカにするの通り越して、心配してらぁ。
    「与太よたろうは いつまでも あんなので大丈夫か」ってな。
    おっつぁん 肩身が狭いぜ。

与太郎:でも おでこは広いよね。

 父親:うるせえよ!余計な事 言わなくていいんだよ!
    
    まあ とにかく、おめえの バカさ加減に みんなあきれてるし 心配してるってわけだ。
    こと佐兵衛さへえおじさんは、おめえの事 よく気に掛けてるぜ?

与太郎:え、誰?

 父親:誰じゃねえよ。知ってんだろ?佐兵衛さへえおじさんだよ。
    おっつぁんの いちばん上の兄貴だ。
    ほら、かん伯父おじさんだよ。
    おめえも たまに 遊びに行ってんだろ?

与太郎:ああ、かんの おじさんかあ!
    あの おじさん、オイラが遊びに行くと、
    いっつも お茶と羊羹ようかん 出してくれるんだよ。
    そういやぁ 佐兵衛さへえとかいう名前だったなあ。

 父親:コラコラ。「とかいう」とか 言うんじゃねえよ。
    世話せわん なってる伯父おじさんだろうが。
    
    その佐兵衛さへえおじさん、ちいせえぶんから おめえの事 かわいがってくれてるだろ?
    本心から心配してくれてよ、おっつぁん 会うたびに 言われるんだ。
    与太よたろうは大丈夫か、ちったぁ成長したか ってな。
    そのたびに こっちは気まずい思い してんだよ。
    
    だがな、おめえも この おっつぁんの子だ。
    しんからのバカじゃあ――はずだ、多分。
    やれば できる――はずだ、おそらく。
    やる時はやる男――の はずだ、ひょっとしたら。
    
    で、ここは ひとつ、おめえの そういう所を 佐兵衛さへえおじさんに 見せて、
    安心させてやろうってわけだな。どうだ?

与太郎:いいけど――、どうやるの?

 父親:うむ。実は 佐兵衛さへえおじさん、こないだ しんを なさったんだ。
    だからな、おめえ このあと 佐兵衛さへえおじさんとこ 行ってな、
    そのしんめて来い。

与太郎:え?しんめるの?

 父親:そうだ。

与太郎:そんなのめて――、いいもんなの?

 父親:当たり前じゃねえか。しん められて 嬉しくねえやつは いねえさ。
    ことに かわいがってる甥の おめえが めてみろ。
    伯父おじさん、そりゃあ喜ぶと思うぜ?

与太郎:そうかなあ。
    まあ そこまで言うなら めるかあ。
    
    じゃ めに行って来るね。(行きかける)

 父親(止める)待て待て。
    
    え――? 行くって――
    何も 聞かねえで、おめえ、しん めれんの?

与太郎:まあ それぐらいは?
    普通にめりゃ いいんだろ?

 父親(感心)ほォ……。
    
    能あるタカは なんとやら だな。
    おめえが しんようを 心得てるたぁ 知らなかったぜ。
    
    (とはいえ不安)
    だが……、一応、念のため、
    おっつぁんを 佐兵衛さへえおじさんだと 思ってな、
    どういう具合にめるか、
    ここで やってみて くんねえか?

与太郎:今? おっつぁんを佐兵衛さへえおじさんだと思って?
    
    まあ別に いいけど――
    
    じゃ いくよ。
    
    (実演してみせる)
    ああ 佐兵衛さへえおじさん、いつ見ても たいそう しんだね!すごいね!
    伯父おじさん こないだ またしんな事 したんだってね!すごいね!
    ヨッ、しんしゃ変質者へんしつしゃ犯罪者はんざいしゃ

 父親:馬鹿野郎。
    世話せわん なってる伯父おじさんを しんしゃよばわりするやつがあるか。
    そのしんじゃねえよ。
    うちを建てたり 建て変えたりする事を「しん」て言うんだよ。
    まったく……、少しでも おめえに期待した俺が バカだったよ……。
    
    まあ とにかく、佐兵衛さへえおじさんは このたび そのしんを なさったわけだ。
    というのも、佐兵衛さへえおじさんは おっつぁんよりじゅうばかり上なんだが、
    その佐兵衛さへえおじさんのせがれ宗助そうすけ――おめえとは 5つ6つ離れた 従兄弟いとこそうちゃんだ。
    ガキのぶん、よく遊んでもらったろ?
    その宗助そうすけが、今 品川しながわで 商売やってて、これが順調で よく稼ぐらしくてな、
    月々つきづき 父親ちちおやとこおくりまで してくれるってんだ。で、去年 カミさん もらって、
    この春にゃあ、めでたく子どもが産まれた ってんだな。
    そこで佐兵衛さへえおじさん、息子も 立派な商売人としてひとちしたし、孫もできた。
    おくりもあるから 暮らしも安泰あんたいって事で、
    初孫ういまごめぐまれたのをに、なか楽隠居らくいんきょしようって事に決めた。
    
    で、わけぶんに 働いて 貯めたぜにも あるし、快適な 老後の 住まいを って事で、
    このたび うち改築かいちくなさったと、こういうわけだな。
    
    おっつぁん こないだ行って来たけどよぉ、立派なうちに なってたぜ。
    佐兵衛さへえおじさんも 自慢げ だったよ。
    だからな与太よたろう、おめえは伯父おじさんの うちめて来るんだ。

与太郎:なぁんだ、うちめるのか。

 父親:そうだよ。できるか?

与太郎:簡単だよ。
    立派なうちだねーっ、でっかいうちだねーって 言っときゃ いいんだろ?

 父親:まぁ それでも いっちゃ いんだけどよ……
    んなもん 子どもでも 言えるじゃねえか。
    
    ここは、おめえも 一人前の 大人の社交が できるってとこを 見せてえわけだから、
    もう ちょいと っため方を してやるんだ。
    なあに、うち める時の もんなんざ、昔っから だいたい決まってんだ。
    それ覚えて 言ってやってみろ。伯父おじさん ビックリするぜ?

与太郎:ええ~、なんか大変そうだなぁ。

 父親:心配いらねえよ、そんなに難しいこっちゃ ねえんだ。
    今から おっつぁんが 教えてやるからよ、
    伯父おじさんの前で その通りに めてやるんだ。
    うまく やったら、伯父おじさん 喜ぶぞォ。
    な?やってみろ。

与太郎:しょうがないなあ。
    わかったよ、じゃ やるよ。

 父親:よし。じゃあ 始めるぞ。
    まずは――
    
    あ、そうだ。
    うちめる前にも 大事なことが ある。

与太郎:なに?

 父親伯父おじさんに 着くだろ?
    おめえ いつも、何も言わずに 勝手に上がり込むらしいじゃねえか。
    いくら親戚しんせきうちだからって、そいつは 良くねえ。
    親しき中にも 礼儀ありだ。
    うちの前に立ったら、外から 「ごめんください」と 声を掛ける。
    そしたら伯父おじさんが 戸を開けてくれるから、
    そこで初めて 中へ入るんだ。いいな?

与太郎:うん。

 父親:よし。
    
    で、中へ入れてもらったら、さっそくうちめていく。
    
    まずは、ざっと じょうゆうを見渡しといてから、こう言う。
    
    「ほほお、うち総体そうたいひのきづくりで ございますな」。
    
    さ、言ってみろ。

与太郎:え? えーと――
    
    ほほお、うちは そぉたい、えのきづくりで ございますな……?

 父親:エノキじゃねえよ、ヒノキだよ。
    イヤだろ エノキで できたうちなんて。
    
    いいか?
    「うち総体そうたいひのきづくりで ございますな」だ。

与太郎:ちょっと 何 言ってるか わからない。

 父親:分からねえか?
    
    「総体そうたい」ってのは、まあ「全体が」って意味だ。
    だから「総体そうたい ひのきづくり」ってのは、全部がひのきで できたうちってことだな。
    ひのきは 丈夫で 香りも いいから、高級な木なんだ、
    そりゃあ金が掛かってる。伯父おじさんも 大いに自慢してえ所だ。
    
    さ、まず こうやって全体をめといて、
    そっから うちん中の 諸々もろもろめていく。
    
    次は こうだ。
    「天井てんじょうは、さつうずらもくですな」。

与太郎:て、てんじょぉは、さつまいもと うずらまめですな……?

 父親:食いもんじゃねえんだよ、腹でも減ってんのか。
    天井てんじょうだよ天井てんじょう
    これは てんじょういたさつすぎで できてるって事だな。
    「もく」ってのは、もくようだ。
    さつすぎは そのようが 鳥の うずらの羽に見えるってんで、
    「うずらもく」ってんだ。これもたけえんだぞ?
    
    さて 次は こうだ。
    「たたみびんべりですな」。

与太郎:た、たたみは ビンゴの景品ですな……?

 父親:どんなビンゴ大会だよ。
    たたみなんか当たっても 困るだろ。
    
    たたみびんべりだよ。

与太郎:ご、ごべ、ごぶ、ごぶべぶ……?

 父親:まぁ分かんねえよなぁ……。
    
    これは びんって所で 作ってるたたみだ。
    べりってのは……、まぁウチは いただけど、
    おめえも たたみを見たことえワケじゃ ねえだろ?
    で、たたみってのは、こう、長方形になってて、なげえほうのりょうはしに、
    黒っぽい布が 細くってあんだろ? その布を 「たたみべり」って言うんだが、
    その幅がな、普通のたたみが一寸のところを、
    伯父おじさんとこのたたみは その半分、にしてある。だから「べり」ってんだ。
    これも最高さいこうきゅうひんだな。
    
    んで 次だ。
    「ゆうかべすなりですな」。

与太郎:さ、佐兵衛さへえのカカアは あばずれですな……?

 父親:コラコラ!
    おめえ それ 絶対 言うなよ!ブン殴られるぞ!
    どう聞いたら アバズレになるんだよ。
    すなりだよ!

与太郎:ひきずり?

 父親:それも 「だらしねえ女」って意味じゃねえか!
    おめえ 伯母おばさんに 恨みでも あんのか!
    ていうか 伯母おばさんについての話じゃねえんだよ、壁だよ壁。
    
    すなりの壁ってのは、砂を混ぜて ふういを良くした壁だ。
    
    さ、次は とこめていく。こんな具合だ。
    「おや、とこに なにやら ものが 出ておりますな。
     あれは 隠元いんげんぜんとう茄子なすものでしょう」。

与太郎:と、とこのまに、なにやら ものが でておりますな。
    あれは、インゲンまめとう茄子なすものでしょう。

 父親:やっぱ おめえ 腹 減ってんな?
    ものじゃなくて ものだよ。
    
    ものってのは、じくのことだ。
    隠元いんげんっていう中国の えれえ坊さんが、とう――つまり中国の絵だな、
    中国の絵の手法しゅほうでもって いた茄子なすじくだ。
    まあ ちなみに、インゲンまめは、この隠元いんげんさんが 日本に持って来たんだ。
    だから インゲンまめというんだな。

与太郎:インゲンまめ もってきたの?
    へえ~、そりゃ すごい お坊さんだったんだね。

 父親:坊さんとしての すごさは そこじゃねえと思うけどな。
    ま、いいや。続きだ。
    「上に 誰やらの さんが付いておりますな」。

与太郎:う、うえに、だれやら おっさんが 住みついておりますな。

 父親ええよ 誰だよ!
    だいたい 伯父おじさんひらだろうが。
    天井てんじょううらにでも いんのか そのオッサンは。
    めちゃくちゃ ええじゃねえか。
    
    おっさんじゃなくて「さん」だよ。
    「さん」とも言ってな、絵のはくに書く とかとかうたなんかの事だ。
    
    じゃ 続き いくぞ。
    「『売る人も  まだ 味 知らぬ  初なすび』」。

与太郎:う、うる……うる……

 父親:『売る人も』。

与太郎:うる ひとも。

 父親:『まだ 味 知らぬ』。

与太郎:まだ あじ しらぬ。

 父親:『初なすび』。

与太郎:はつなすび。

 父親:「これは たしか、かくでございましょう」。

与太郎:こ、これは たしか、カキクケコでございましょう。

 父親:カキクケコじゃねえよ、かくだ。
    たからかくって人が んだ はいって事だよ。
    
    さて、うちめ方は ざっと こんなもんだが、
    ここまでは どうだ? 覚えたか?

与太郎:ん~、初めのほうが ちょっと。

 父親:中ほどは?

与太郎:ぼんやりしてる。

 父親しまいのほうは?

与太郎:ちっとも わからない。

 父親:全然ダメじゃねえか!
    しょうがねえなあ。
    じゃあ 一応、こっそり見れるように 紙に書いてやるよ。
    おめえ、字ぐらい読めるよな?

与太郎:字ぐらい 読めらぁ。

 父親:漢字は 分かるか?

与太郎:なにそれ、おいしいの?

 父親(ため息)ひら仮名がなで 書いといてやるよ。
    (書く)サラサラサラ……と。(書けた)ヨシ。
    
    (紙を与太郎に手渡しながら)
    ホラ、書いといてやったぞ。ふところに入れとけ。
    言うこと 忘れたら、それ こっそり見て 言え。
    堂々と見るんじゃねえぞ? いいか?
    伯父おじさんが 見てないすきに、
    ふところからサッと出して こっそり見るんだぞ?

与太郎:わかった。

 父親:これでうちめ方は 大丈夫だろ。
    
    んで、このあとなんだが――

与太郎:まだ なんか あんの!?

 父親(ニヤリと笑って)
    実は ここからがキモなんだよ。
    
    あのな、座敷の正面から 廊下を挟んで 向こうに 台所の 柱が見えるんだ。
    もちろん台所も こだわって作ってて、その柱も たいそう立派なモンなんだが――
    だい木取きどりを間違えたのか、その柱に 大きな節穴ふしあなが 開いちまってんだ。
    柱が立派なだけに 目立つんだなぁ この穴が。
    こないだ行った時 その穴のこと いたら、
    伯父おじさんも ずいぶん 気にんでる様子でな。
    見映みばえが悪くて 困ってるって言ってたんだ。
    で、そん時 おっつぁん、この節穴ふしあなの問題を 解決する
    いい知恵が 浮かんだんだけどよぉ、言わずに 帰って来たんだ。
    こればっかりは、おめえに 言わせてやろうと思ってな。

与太郎:ええ~~、あれだけ うち めたのに、まだ なんか言うの?

 父親:ああ。
    
    柱の穴を どうにかする名案を、おめえの口から 教えてやってみろ。
    伯父おじさん、そりゃあ 喜ぶし、感心して、おめえのこと 一人前だと思ってくれるぜ?
    それだけじゃねえ。きっと、づかいもくれる。

与太郎:え! づかい!?  づかいも くれるの!?

 父親:まあ、づかいぐらい くれるんじゃねえかなあ。

与太郎:いくらぐらい くれるの?

 父親:んなこと分からねえけど……
    まぁ、1円ぐらいは くれるんじゃねえか?
    そのくらいがそうだろ。

与太郎:(1円はなかなか大金)
    1円! (喜ぶ)うはぁ~楽しみだなぁ。
    
    (父に)
    もし1円くれなかったら、おっつぁん 立て替えてくれる?

 父親:なんで俺が 立て替えなきゃならねえんだよ。

与太郎:ねえ早く なんて言うか おしえてよ。

 父親:がっつくんじゃねえよ、今 教えてやるから。
    
    あのな、座敷から 台所の柱の穴を 見つけるだろ?
    で、伯父おじさんに、あの穴が 気になるか いてやる。
    伯父おじさんが 「気になる」って言ったら、こう 言ってやるんだ。
    
    「伯父おじさん、その穴でしたら 気にすることは ありませんよ。
     秋葉様あきばさま火伏ひぶせの おふだを おりなさい。
     穴が隠れて、火の用心に なるでしょう」。
    
    こう言ってやりゃあ、伯父おじさん 喜んで づかい くれるぞ。

与太郎:それ言えば づかいくれるんだね!
    よぉし! えーと――
    (やけにスラスラと)
    伯父おじさん、その穴でしたら 気にすることは ありませんよ。
    秋葉様あきばさま火伏ひぶせの おふだを おりなさい。
    穴が隠れて、火の用心に なるでしょう。

 父親:めちゃくちゃ流暢りゅうちょうに 言えるじゃねえか!
    金が かかったたんそれかよ!
    ゲンキンなやつだなあ……。

与太郎:秋葉様あきばさまって誰? 知り合い?

 父親:知り合いじゃねえよ。人じゃねえよ。
    秋葉様あきばさまってのは、あきじんじゃっていう 神社だ。
    そこにまつられてんのが、火伏ひぶ――つまり ぼうの神様だな。
    台所は もとだろ? だからぼうの おふだってあんのは自然だし、
    穴を隠すには ピッタリってワケだ。

与太郎:なるほどぉ。
    
    ねえ おっつぁん、もっと なんか無いの?
    もっと ちょうだい、そういう、づかい もらえそうな、錬金れんきんワード。

 父親錬金れんきんワードとか言うな。
    
    こいつ、づかもらえると聞いたら 欲が出てきやがったな、まったく……。
    
    じゃあ まぁ――、そうだなぁ……、
    伯父おじさんが 飼ってる 牛を めるか。

与太郎:牛を めりゃいいの?
    そしたら づかい くれるの?

 父親:まあ、自慢の牛だしなぁ。
    くれるんじゃねえかなぁ。

与太郎:やったあ。
    牛 めて づかい もらえるなんて、楽なもんだ。

 父親:なんだよ おめえ、牛なんか めれんのか?

与太郎:めれるよ。
    
    いくよ?
    
    牛は 総体そうたい、ヒノキ造りでございますな!

 父親:そりゃ牛じゃなくて うちめ方じゃねえか。
    なんだよ ひのきで できた牛って。土産みやげものかよ。
    
    牛ってのは こうめるんだ。
    「天角てんかく がん 一黒いちこく 直頭ろくとう しょう ちごう」。

与太郎:なにそれ おまじない!?

 父親まじないじゃねえよ、牛をめてんだ。
    
    天角てんかく がんつのは 天に向かい、目は 地面をにらんでいる。
    一黒いちこく 直頭ろくとう身体からだ黒一くろいっしょくで、頭は まっすぐ 滑らかに。
    しょう ちごう。耳は小さく、歯は 互い違い――つまり乱杭らんぐいに なっている。
    
    これは、すがわらの道真みちざね こうの 飼っていた牛の特徴だ。
    
    ま、おめえには ちょいと難し過ぎたか。

与太郎:でも それ言ったら、伯父おじさん づかい くれるんだよね?

 父親:まあ 牛への 最高の め言葉だからな。
    これ言ってやりゃあ、喜んで づかい くれるだろ。

与太郎:くれるんだね?
    
    よーし、いくよ。
    
    てんかく ちがん、 いちこく ろくとう、 じしょう はちごう!

 父親:言えんのかよ!
    カネのためなら なんでも できんのかよ!
    じゃ普通に 働けよ!
    
    ……まぁ いいや。
    これで 佐兵衛さへえおじさんも 喜ぶだろ。
    じゃ 行って来い。

与太郎:わかった。じゃ 行ってくるね。

 父親:ちゃんと 挨拶あいさつしてから 入るんだぞ。

与太郎:わかってるよ。
    じゃ、行ってきまーす。

 


 

与太郎:(独白)
    あ~、なんだか妙なことに なっちゃったなぁ。
    おっつぁんが 話があるって言うから、づかいでも くれるのかなーって思ったら、
    づかい もらうために 伯父おじさんに 行って、あー言え こう言えって……。
    なんで そんな まわりくどい事 するかなあ。
    それだったら、おっつぁんが それ全部 伯父おじさんに言って づかいもらって、
    その づかいを オイラに くれりゃあ いいのにさ。
    
    (佐兵衛さんの家に着く)
    あ、伯父おじさん 着いた。
    
    えーと、いきなり入っちゃ ダメなんだよな。
    なんか言ってから 入るんだよな。
    えーと、なんて言うんだっけ。えーと……
    
    あ、思い出した。
    
    (家の中へ向けて)
    ごめんなさーい。
    
    ごめんなさーい。
    
    ゆるしてくださーい。
    
    もう しませーん。
    
    ごめんなさーい。

佐兵衛(表戸を開けて)
    どなたですかな、ウチの前で 謝ってらっしゃるのは。
    
    (与太郎だ)
    おや、誰かと 思ったら 与太よたろうじゃないか。

与太郎:あ、佐兵衛さへえおじさん。
    ごめんなさーい。

佐兵衛:ど、どうしたんだ?
    何か あったのか?

与太郎:おっつぁんが、入る前に ちゃんと あいさつ しろって。

佐兵衛挨拶あいさつ
    
    じゃ「ごめんなさい」じゃなくて、
    「ごめんください」じゃないか……?

与太郎:あ、それだ。
    
    ごめんくださーい。

佐兵衛:しきりに謝るから、何か やらかしたのかと思ったよ。
    
    しかしまぁ、あの与太よたろう挨拶あいさつできるように なったか。
    いや 感心感心。さ、上がんなさい。

与太郎:はーい。

佐兵衛:で?今日は なにか用が あって 来たのかな?

与太郎:今日は、うちを ほめに来た!

佐兵衛うちめに!それは 嬉しいねえ。
    たんとめておくれ。

与太郎:えーと まずは……、
    
    じょうゆうを 見わたして――
    
    ほほぉ、うちは そぉたい、ひの――(ど忘れ)
    えー、ひの―― ひの――
    
    火の車で ございますな。

佐兵衛:ちょちょちょちょ。
    いや まぁ、たしかに 安くはないしんをしたから、
    家計に余裕があるわけじゃないけど……。
    でも火の車ってほどじゃないよ。
    
    それを言うなら、「ひのきづくり」じゃないかい……?

与太郎:あ そっか。ひのきづくりで ございますな。
    
    えー、天井てんじょうは、さつまげと うずら卵で ございますな。

佐兵衛:腹が 減ってるのかい?
    それは「さつうずらもく」じゃないかい?

与太郎:あ そっか。さつまの うずらもくで ございますな。
    
    えー、たたみは 貧乏でボロボロですな。

佐兵衛:いやいや 新しいから!キレイだから!
    
    それを言うなら、「びんべり」じゃないかい?

与太郎:あ そっか。ビンゴの ゴブベリで ございますな。
    
    えー、佐兵衛さへえの顔は、スナメリでございますな。

佐兵衛伯父おじさん そんな イルカみたいな顔してるかい!?
    一応 ヒトなんだけど。

与太郎:でも しょっちゅう バブルリング 作ってるじゃない。

佐兵衛:あれは タバコの煙を っかにして 吐いてるだけだよ。
    
    それを言うなら、「ゆうかべすなり」じゃないかい?

与太郎:あ そっか。ゆうかべは、すなずりで ございますな。
    
    えー、とこに、なにやら バケモノが出ておりますな。

佐兵衛:バケモノ!?どこに!?
    
    ……なんにも いないじゃないか。
    
    あれは バケモノじゃなくて 「もの」だよ。

与太郎:あ そっか。かけものが 出ておりますな。
    
    あれは、陰険いんけんジジイと おおガラスの バケモノでしょう。

佐兵衛:だからバケモノじゃないから!
    ていうか 何だい そのバケモノは。陰険いんけんジジイと おおガラスって。
    
    それを言うなら、「隠元いんげんぜんとう茄子なすもの」だよ。

与太郎:上で 誰やらが さんづいておりますな。

佐兵衛:誰!? ウチには さんづく人なんて いないよ!
    ウチは さんじんじゃないよ。
    バアさんとも もう何年も ご無沙汰ぶさただし……。
    ていうか ウチひらだから!
    
    それを言うなら、「上に 誰やらの さんが付いております」だよ。

与太郎:そうそう、それそれ。
    (独白)
    で、えーと、次 なんだっけ。
    あー なんか、ややこしいやつだよな。
    ちょっと紙 見るか……。
    
    (佐兵衛に)
    伯父おじさん、ちょっと むこう 向いてて。

佐兵衛:え? むこう?
    
    (むこうを向く)
    こうかい?

与太郎:そうそう。
    
    あ、オイラが「いい」って言うまで ゼッタイこっち見ちゃダメだよ?
    もし こっち見たら、目の中に 指 つっこんで きまわすからね?

佐兵衛:こわいよ!ペナルティが えぐすぎるよ!
    見ない!見ないから!

与太郎:じゃ いくよ。
    
    (紙を見ながら)
    えーと……、
    (平仮名だらけで読みにくい)
    んん……? えーと……、
    (めちゃくちゃ たどたどしく)
    う……、う……、うる……、うるひ、と……もま……もまだ……もまだあ……、
    じし、じし……、ら、らぬは……、つな……、すび、すびこ……れはた、れはたし……、
    かきか……くのく……でせう。

佐兵衛:おまえさん なんか読んでるのかい?

与太郎:べ、別にぃ。
    (紙をフトコロに しまって)
    もう こっち見ていいよ。

佐兵衛:そうかい?
    (向き直って)
    ふう、目玉 きまわされなくて よかったよ。
    
    いや しかし、なんにしても、よくめてくれたよ。
    ありがと ありがと。

与太郎:(戸の向こうを見て)
    伯父おじさん、ここから見える あの柱、あれ 台所の柱かい?

佐兵衛(あまり触れてほしくないところ)
    ん? ああ、まあ……台所の柱だな。

与太郎:おっきな穴が あいてるねえ!

佐兵衛(ため息)やっぱり 気付いちゃうか……。
    
    そうなんだよ。
    だい木取きどりを間違えてねえ。
    あんな 大きな節穴ふしあなが 開いてるんだよ。
    他の 作りが いいだけに、どうにも目立つもんでねぇ、
    弱っちゃってるんだ。

与太郎:伯父おじさん、あの穴、気になる?

佐兵衛:ああ、気になるねえ。

与太郎:伯父おじさん、その穴でしたら 気にすることは ありませんよ。
    秋葉様あきばさま火伏ひぶせの おふだを おりなさい。
    穴が隠れて、火の用心に なるでしょう。

佐兵衛(名案だ。目からウロコ)
    おお……! おお、そりゃ名案だ……!
    
    台所は もと火伏ひぶせの おふだってあるのは自然だし、
    穴を隠すには もってこいだ! なるほど その手が あったか――
    
    いやぁ与太よたろう、よく 知恵を 貸してくれたねえ!
    おまえさんの おかげで、気になってた穴が キレイに隠せるよ!
    ありがと ありがと!

与太郎:(づかいが出ると思っている)
    
    (づかいが出るまで 少し待ってみる)
    
    (でもづかいが出る気配がない)
    
    あれ……?

佐兵衛:どうした?

与太郎:伯父おじさん、感心した?

佐兵衛:ああ、感心したとも。

与太郎:伯父おじさん、喜んでる?

佐兵衛:ああ、喜んでるとも。

与太郎:……。
    
    じゃあさあ、その気持ちを、
    カタチにしたり、してみたら、
    どうかなあって……。

佐兵衛:カタチに……?

与太郎:だからさぁ……、
    
    (ものをもらう形に手を出して)
    の 言ってないで、
    出すモン 出せ。

佐兵衛:な、なんだよ、ぞくかい おまえさんは。
    出すモン――
    (与太郎の言わんとしていることに気付く)
    ああ――ハッハッハ、なんだ、づかいの催促さいそくか。
    いや こりゃ 伯父おじさん 気付かなかったな。すまん すまん。
    そりゃそうだよな、あんな いい知恵 貸してくれたんだからな。
    よしよし、づかい あげよう。
    (与太郎の手に硬貨を置いて)
    ホラ。

与太郎:(手の上の硬貨を見て)
    これ――なに――

佐兵衛:何って、50せんだよ。

与太郎:50せん? そうは1円だよ。

佐兵衛そう!? なんだい づかいのそうって。
    
    まあ いいや、おまえさんには感謝してるからな、
    (さらに追加で硬貨を渡して)
    ホラ、これで1円だ。

与太郎:おおー! これでそうどおりだ!

佐兵衛:誰が そんなそう 決めてるんだい……。

与太郎:じゃ 牛も めるよ!

佐兵衛:なんだい、牛もめてくれるのかい?

与太郎:うん。そう思って さっきから探してんだけど、
    牛、いないね。

佐兵衛:部屋の中に 牛がいるわけないじゃないか。
    牛は 裏庭に いるよ。

与太郎:あ そうなんだ。
    じゃ 裏庭 いこうよ。

佐兵衛:ああ、じゃ ついておいで。

 


 

佐兵衛:さ、ここが裏庭だ。
    あそこに いるのが 伯父おじさんの牛だ。
    あんまり 近づくと 危ないから、この辺りから 見ておくれ。
    ふーむ、むこうを 向いてしまってるな。
    まぁ 牛なんてのは あいそうなモノでな。
    きゃくじんしりを 向けるような、あいの無い牛だが、
    まあ めてやっておくれ。

与太郎:えーと、あの牛は、
    てんかく ちがん、
    いちこく ろくとう、
    じしょう はちごう ですな!

佐兵衛(驚嘆)おお――
    それは、天神様てんじんさますがわらの道真みちざねこうの牛を たたえる言葉じゃないか――
    すごいな 与太よたろう、よく そんな め言葉を 知ってたもんだ!
    
    ――ただ まぁ、牛は むこう 向いてるから、つのだの目だのは 見えないと思うんだけどねぇ……。

与太郎:(牛の尻に注目している)
    あれ――
    
    ねえ 伯父おじさん、あの牛、
    しっぽの下に、節穴ふしあなが あいてるよ?

佐兵衛:おいおい、何が節穴ふしあなだよ。
    ありゃ ただの しりあなじゃないか。

与太郎:伯父おじさん、あの穴、気になる?

佐兵衛:別に 気にならないよ。

与太郎:伯父おじさん、あの穴でしたら 気にすることは ありませんよ。

佐兵衛:いや だから 気にしちゃ いないんだよ。

与太郎:秋葉様あきばさま火伏ひぶせの おふだを おりなさい。

佐兵衛:牛のしりに そんなものって、どうなるって言うんだい?


与太郎:穴が隠れて、の用心に なるでしょう。
    
   ※「火の用心」と掛けた洒落。
  



おわり

その他の台本                 


参考にした落語口演の演者さん(敬称略)


林家たい平
三遊亭楽生
柳家一琴
柳家さん光
金原亭馬治
春風亭柳好(4代目)
立川談吉
三遊亭栄楽
桂歌蔵


何かありましたら下記まで。
kurobekio@yahoo.co.jp

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